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日本大ロー令和8年度(1期)入試答案例

2026年8月15日

参考答案

【憲法】

1 公職選挙法(以下「法」という。)142条及び同法243条1項3号は、被選挙人の選挙活動の自由を侵害し、憲法21条1項に反しないか。

2(1) 「表現の自由」とは、思想、情報を外部に表明し伝達する自由をいうところ、選挙活動は、自らが考える政策等を国民に訴えるという意味において、政治的思想を外部に表明し伝達するものであるから、「表現の自由」として憲法21条1項の保障の下にある。

(2) 法243条1項3号は、刑罰の威嚇の下に、被選挙人の選挙活動の自由を侵害しているから、制約も認められる。

(3) それでは、かかる制約は、正当化されるか。

表現の自由は、個人が言論活動を通じて人格を発展させる自己実現の価値及び言論活動により政治的意思決定に関与するという自己統治の価値を有するところ、被選挙人は、選挙活動を通じて自らが考える政策等を国民に訴え、人格を発展させるとともに、政治的意思決定に関与するから、自己実現の価値及び自己統治の価値を有する重要な権利である。

もっとも、法142条による制約は、選挙活動の種別毎に選挙運動のため使用する文書図画のうち頒布できるものの種類、形状、数、頒布方法などを一定範囲内のものに止めるものであり、表現内容に関する制約ではないから、表現内容中立規制である。表現内容中立規制の場合、表現内容規制とは異なり、国家が都合の悪い表現を排除しているという推定も働きにくいことから、表現内容規制に比して、制約も緩やかなものとなる。

また、選挙活動は、国家によって選挙による候補者選出のため、特別に作出された表現の場であるから、立法裁量が広く認められるべきである(憲法47条)。

以上より、厳格な審査基準は妥当せず、公共の福祉のため(憲法12条、13条)、憲法上許された必要かつ合理的な制限であれば、合憲であると解する。

3 本件において、法142条及び同法243条1項3号は、文書図画による選挙活動を広く認めることのもたらす弊害、すなわち、選挙用の文書図画の頒布を無制限に認めるときは、選挙活動に激烈な競争を招くとともに、これに要する費用と労力は甚大なものになり、経済力に富みあるいは強大な組織力を有する候補者が、そうでない候補者に比べて選挙運動において著しく優位を占める結果となること、候補者にとって煩に堪えない選挙運動となるとともに、ときには選挙人にとって迷惑と感じさせるものであること、特定の候補者を当選させるために、他の候補者を誹謗、中傷したり、虚偽の内容を含む文書が頒布されたりするおそれが大きいことを防止することを目的としている。

法142条及び同法243条1項3号は、かかる弊害を防止するため、選挙運動期間中に限り、文書図画の種類、形状、数、頒布方法など一定の規制をしたのであって、この程度の規制は、公共の福祉のため、憲法上許された必要かつ合理的な制限と解することができる。

4 以上より、142条及び同法243条1項3号は、被選挙人の選挙活動の自由を侵害せず、憲法21条1項に反しない。

【民法】

第1 設問1

1 小問(1)

(1) AのBに対する請求は、消費貸借契約に基づく貸金返還請求権であるところ、Bは、消滅時効の抗弁を主張している。

(2) 本件貸金債務の消滅時効の起算点は、弁済日である令和2年5月15日であり、Aは、当然に「権利を行使することができることを知っ」ていたはずだから、時効期間は、同日から5年間であり(166条1項1号)、Bは、既に消滅時効期間が経過した上で、時効を援用しているから(145条)、抗弁は認められると思える。

(3) もっとも、Bは、Aに対し、時効完成前である令和7年4月1日に「資金がないので、返済をしばらく待って欲しい」と返済の猶予を申し出ており、これは、「権利の承認」(152条1項)といえるから、時効は更新されており、これがAの再抗弁となる。

(4) 以上より、AのBに対する請求は認められない。

2 小問(2)

(1) AのCに対する請求は、保証契約に基づく保証債務履行請求権であるところ、Cは、166条1項1号に基づく消滅時効の抗弁を主張している。

(2) もっとも、主たる債務者Bに生じた時効の更新は、保証人であるCにもその効力を生じるから(457条1項)、Cの主張は、主張自体失当である。

(3) 以上より、AのCに対する請求は認められる。

第2 設問2

1 小問(1)

(1) 下線部①のCの発言は、令和7年4月1日になされており、保証債務の消滅時効が完成する前であるから、「権利の承認」にあたり、時効が更新される。

(2) もっとも、連帯保証人に生じた時効の更新は、相対効とされているから(458条、441条)、本件貸金債務についての消滅時効の成否を判断する上で意味を有しない。

2 小問(2)

(1) Aの請求に対して、Bは、消滅時効の抗弁を主張している。

(2) それに対し、Bは、消滅時効期間が経過していることに気が付いていないことから、時効の利益の放棄(146条反対解釈)にはあたらない。もっとも、債務者の矛盾的態度は、債権者の信頼を害するから禁止されるべきであり、たとえ消滅時効期間が経過していることを認識していなかったとしても、債務者であるBは、時効完成後の債務の承認によって、信義則(1条2項)を根拠として、時効援用権を失い、これがAの再抗弁となる。

(3) 以上より、AのBに対する請求は認められる。

3 小問(3)

(1) Aの請求に対して、Cは、消滅時効の抗弁を主張している。

(2) 保証人が主たる債務について消滅時効を援用できるかについて、信義則は、主債務者と保証人とで別個に考えるべき事項であるから、主債務者に時効援用権の喪失にあたる事情があったとしても、保証人にそのような事情がなければ、保証人が、主債務の消滅時効を援用することは、信義則違反とならない。判例も、主債務の消滅時効完成後に、主債務者が当該債務を承認し、保証人が、主債務者の債務承認を知って、保証債務を承認したような特段の事情がある場合には、保証人がその後主債務の消滅時効を援用することは信義則に照らして許されないと判示している。

本件では、Cは、主債務の時効完成前である令和7年4月1日に債務を承認したに過ぎず、上記特段の事情はなく、Cの抗弁は認められる。

(3) 以上より、AのCに対する請求は認められない。

【刑法】

1 甲は、Aに睡眠薬を飲ませ、結果的に死亡させた行為について、殺人罪(199条)の罪責を負わないか。

2 実行行為について、甲は、Aに睡眠薬を飲ませて眠らせた上(以下、「第一行為」という。)、自殺に見せ掛け、練炭を使って一酸化炭素を発生させてその中毒によりAを殺害する(以下、「第二行為」という。)という計画であったところ、甲は、第一行為まで実行しておらず、第一行為でAの死亡結果が生じることを想定していなかったはずであるから、第一行為と第二行為を別個の行為と捉えると、殺人の故意(38条1項本文)が認められないことになってしまう。そこで、第一行為と第二行為を一体と捉え、殺人の実行行為性を認めることはできないか。

(1) 「実行に着手し」た(43条本文)とは、未遂犯の処罰根拠である結果発生の現実的危険性及び43条本文の文言上の制約による密接性から判断するべきである。そこで、第一行為と第二行為が密接な関係にあり、かつ、第一行為を開始した時点で結果発生の現実的危険性が認められる場合には、第一行為の開始時点で「実行に着手し」たといえる。具体的には、①第一行為が第二行為を確実に行うために不可欠であること、②両者間に犯行を遂行する上で障害となる事由がないこと、③両者の時間的・場所的近接性を考慮する。

(2) 本件では、第一行為を行うことでAは意識を失い、抵抗されることもなくなるから、第二行為を確実に行うために不可欠であるといえる(①充足)。また、犯行場所はA方であるところ、A以外の第三者が存在するという事情もなく、両者間に犯行を遂行する上で障害となる事由は認められない(②充足)。さらに、第二行為は第一行為の直後に行われるものと思われるし、場所はいずれもA方であるはずであるから、両者の時間的・場所的近接性が認められる(③充足)。

(3) 以上より、第一行為と第二行為を一体と捉えることができ、第一行為の開始時点で殺人の「実行に着手し」といえる。

3 次に、Aは、一般人が認識できず、甲も認識していなかった特殊な心臓疾患が相まって死亡結果が生じているところ、実行行為と結果との間に因果関係が認められるか。

(1) 刑法上の因果関係は、実行行為時に存在した全事情を基礎として実行行為の危険性が結果へと現実化したかによって判断する。

(2) 本件では、甲がワインに混入した睡眠薬は、病院で処方される一般的な医薬品であり、甲が混入した量では、Aの特殊な心臓疾患がなければ、生命に対する危険性は全くないものであったものの、実行行為時にAの特殊な心臓疾患は存在していたことから、同事情は基礎となる。そして、甲が第一行為を行ったこととAの心臓疾患が相まって結果が生じていることから、実行行為の危険性が結果へと現実化したといえる。

(3) 以上より、因果関係も認められる。

4 本件では、甲が想定していた因果関係と異なる因果経過を経て、Aの死亡結果が生じており、因果関係の錯誤があるものの、認識した因果関係と客観的に生じた因果関係が殺人という同一構成要件内で符合しているから、規範に直面しているといえ、故意は阻却されない。

5 以上より、甲は、殺人罪の罪責を負う。

  

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