平成23年司法試験 商法 参考答案
2026年8月16日
参考答案
第1 設問①
1 本件自己株式取得の効力
⑴ 売主追加請求権が行使できる旨を通知しなかった瑕疵
ア 本件自己株式の取得は、「特定株主」たるBからの自己株式取得であり、適用除外事由(会社法(以下法名省略)161条以下)がない限り、株主に対し、売主追加請求権が行使できる旨を通知しなければならない(156条1項、160条2項、3項)。
甲社株式は市場価格があるものの、本件自己株式の取得は市場価格の25%を上回る価格でなされているので、161条の適用がない。また、甲社は「公開会社」であるため、162条の適用もない(同条1号)。したがって、適用除外事由が存在しない。
よって、甲社はB以外の甲社株主に対し、第1号議案の「取得する相手方」の株主に自己を加えたものを株主総会の議案をすることを請求できる旨を通知する必要があるにもかかわらず、これ怠っているので160条2項違反が認められる。
イ(ア)そもそも、特定の株主からの取得手続が厳格なのは、換金困難な株式の売却機会の平等を図り、また、グリーンメイラーからの高値の取得を阻止するためである。そこで、上記手続に違反した自己株式の取得は無効となるが、取引安全の見地から、違法な自己株式の取得であることにつき相手方が善意の場合には、会社は無効を主張できないと解する。
(イ)自己株式の売主たるBは甲社による本件自己株式取得につき上記通知が必要であったことを認識していたといえるものの、他の株主に上記通知がなされなかったことを認識していたとはいえず、Bは上記違法事由につき善意であったといえる。
したがって、上記瑕疵により本件自己株式取得は無効となるが、甲社はその無効を主張できない。
2 特定株主たるBが自ら株主総会で議決権を行使した瑕疵
ア 特定株主から自己株式を取得する場合、当該特定株主は、株主総会において議決権を行使することができない(156条1項、160条4項)。それにもかかわらず、特定株主たるBは、株主総会において議決権を行使しており、本件自己株式の取得は同項に反する。
イ Bは自らが議決権を行使することができないことを認識していたといえる又は容易に認識しえたにもかかわらず、自ら議決権を行使していたのであるから、違法な自己株式の取得であることにつき善意であったとはいえない。
したがって、上記瑕疵により、本件自己株式取得は無効となる。
⑶ 財源規制違反の瑕疵
ア 正しい貸借対照表(資料③)に基づいて計算すると、分配可能額は5億円であったことが分かる(461条2項)。そのため、Bに25億円を対価とする本件自己株式取得は、分配可能額を超えたものとして、461条1項3号違反となる。
イ では、かかる瑕疵が本件自己株式の取得の効力に影響を及ぼすか。
この点について、463条1項の「効力を生じた日における」という文言は財源規制違反の自己株式取得の有効性を前提としているといえることから、自己株式取得は財源規制違反によっては無効とならないと解する。
ウ したがって、本件自己株式取得は財源規制違反によっては無効とならない。
2 甲社とBとの間の法律関係
⑴ 本件自己株式取得は手続規制に反し無効であるから、Bが25億円を保有するにつき「法律上の原因」がなく、他方、甲社が250万株を保有することにつき「法律上の原因」がないので、甲社およびBは相互に不当利得返還請求権(703条、704条)を有する。
もっとも、後者については、甲社が乙社に株式を譲渡した時点で、乙社が同株式を即時取得(民法192条)することになるため、かかる時点で価格賠償債務へ転化したといえる。そして、取得価格の賠償を認めてしまうと、処分価格との差額分につき、会社から新たな財産の流出を招き、会社債権者を害してしまい妥当でないので、会社は処分価額相当額を返還すれば足りると考える。
したがって、Bは処分価額1株640円を基準とした250万株、つまり16億円の不当利得返還請求権を有することとなる。
⑵ これらに同時履行の抗弁権(民法533条)が付着しているものの、両債権は現実の履行が強制されるものではないから、「債務の性質がこれを許さないとき」(同項ただし書)に当たらず、相殺は可能である。
⑶ よって、甲社は、Bに対し、相殺後の差額分9億円の支払請求をすることができる。
⑷ なお、財源規制違反との関係では、Bは甲社に対して、462条1項に基づき、25億円の支払い義務を負う。そして、Bがかかる義務をすれば、民法422条類推適用により、25万株につき代位することができる。かかる場合、前述のように自己株式はすでに処分されていることから、Bは甲社に対し、処分代金相当額9億円の返還を請求することができる。
第2 設問②
1 本件自己株式処分は、市場価格の80%の金額がなされており、公正な価額とはいえないため、「特に有利な金額」(199条3項)に当たる。したがって、株主総会特別決議による承認(199条2項、201条1項、199条3項、309条2項5号)が必要になる。
⑴ 199条3項の説明義務
「特に有利な金額」による自己株式の処分の承認を求める株主総会においては、当該払込金額によることの理由が説明されなければならない(199条3項)ところ、資料①の第2号議案5項にその理由が記載されており、Cはその記載に即して株主総会において理由を説明しているため、同項の義務は尽くされたといえ、同項の義務の違反はない。
⑵ 314条本文の説明義務違反の有無
同株主総会において、株主たるDがCに対し処分価格の根拠につき説明を求めていたにもかかわらず、Cはこれを拒絶している。そこで、「正当な理由」(同条ただし書、会社法施行規則71条)が認められないか。「正当な理由」がなければ説明義務違反となるため問題となる。
本件で処分価格の算定根拠を明らかにしてしまうと、甲社と乙社の資本関係強化の交渉経緯が明らかにされてしまう。そうすると、Dの質問は企業秘密に当たり、これが公開されると甲社のプライバシー権が侵害されるため、「株式会社……の権利を侵害することとなる場合」(同条2号)といえる。したがって、「正当な理由」が認められるので、説明義務違反は認められない。
⑶ 831条1項3号の取消事由の有無
ア 「特別の利害関係を有する者」とは、当該決議事項につき、株主としての地位を離れて個人的な利害関係を有する者をいう。
乙社は、本件2号議案が可決されれば「特に有利な金額」により甲社株式を引き受けることができるので、当該決議事項について、株主としての資格を離れて何らかの利害関係を有する者といえ、「特別な利害関係を有する者」に当たる。
イ 「著しく不当な決議」とは、決議の成立により、他の株主に著しい不利益が及ぶ場合をいう。
かかる決議により乙社は、直近6か月の平均株価の80%という格段に安い価格により甲社株式を取得することになり、乙社以外の株主に著しい不利益が及ぶ。したがって、「著しく不当な決議」といえる。
ウ 上記決議は出席株主の議決権の3分の2をかろうじて上回ったため可決したのであり、甲社株式を30万株有する乙社が議決権を行使しなければ決議が成立しなかったといえるので、「よって」といえる。
エ よって、上記決議は831条1項3号の取消事由に当たる。
⑶ では、上記取消事由が本件自己株式処分の無効事由(828条1項3号)となるか。
無効事由については、明文がないところ、公開会社では、いったん行われた自己株式処分を無効とすると、株式譲受人等の利害関係人の取引安全を害することになるため、無効事由は重大な瑕疵をいうと解する。
そして、自己株式処分は資金調達という点で、会社の業務執行に準ずるものであり、株主総会特別決議の要件も取締役会の権限行使についての内部的要件すぎず、取締役会の決議に基づき代表取締役が自己株式を処分した以上、取引安全を重視すべきであるから、上記瑕疵は自己株式処分の重大な瑕疵に当たらないと解する。
よって、上記取消事由は本件自己株式処分の無効事由に当たらない。
2 本件自己株式取得が無効であることから、かかる瑕疵が本件自己株式処分の効力に影響を及ぼさないか。
⑴ この点について、自己株式の取得手続規制が第三者の取引の安全を害する結果を導くのは妥当でない。そこで、自己株式取得の無効は原則として第三者に主張できず、第三者が自己株式の無効事由につき悪意であった場合にのみ例外的に無効を主張できるものと解する。
⑵ 乙社が本件自己株式取得の無効原因につき悪意であったとみる事情は窺えない。したがって、本件自己株式処分は無効であるが、甲社はその無効を主張することができない。
第3 設問③
1 462条1項責任
⑴ 甲社は、上述の通り、「前条第1項の規定に違反して」本件自己株式取得をしているところ、Cは甲社の代表取締役であり、「業務執行取締役」に当たるため、Cは原則として上記責任を負う。
⑵ア もっとも、「職務を行うについて注意を怠らなかった」場合には免責される(同条2項)。
イ 甲社の取締役Cは、善管注意義務(330条、民法644条)の一内容として、分配可能額規制違反とならないように従業員の職務を監視する義務を負っている(362条2項2号参照)。
Cは、西日本事業部が架空売上げを計上したことにより粉飾決算された貸借対照表(資料②)に基づき、本件自己株式取得に及んでいる。かかる貸借対照表の下では分配可能額は35億円あり、取得対価である25億円を上回っていた。そうするとCが財源規制に違反して本件自己株式取得をしてしまったのは、専ら上記粉飾決算に起因するものといえる。そして、この粉飾決算は会計の専門家である会計監査人ですら見抜けないような巧妙な手口で行われたものであるから、上記義務を尽くしていたとしても財源規制違反を防ぐことはできなかったといえる。したがって、結果回避可能性が認められないので、上記義務違反は認められない。
また、甲社の内部統制システムが問題なく構築されている以上、信頼することもやむを得ないといえる。したがって、上記義務違反は認められず、善管注意義務違反はない。
よって、善管注意義務違反が認められない以上、過失は認められないので、Cは「職務を行うについて注意を怠らなかった」といえる。
⑶ 以上より、Cは上記責任を負わない。
2 465条1項3号責任
⑴ 甲社には30億円の欠損が生じており、Cは「業務執行者」であるから、Cは原則として上記責任を負う。
⑵もっとも、Cは資料②に基づいて計算すれば欠損は生じていないことになるところ、上述のように甲社に欠損が生じたのは専ら上記粉飾決算に起因するものといえる。そうだとすれば、予見可能性が認められないので、過失は認められず、Cは「職務を行うについて注意を怠らなかった」(同条1項柱書ただし書)といえる。したがって、Cは上記責任を負わない。
3 423条1項責任
⑴ Cは取締役であるので「役員等」にあたる。
⑵「任務を怠った」とは、具体的法令違反または善管注意義務違反をいうところ、本件自己株式取得及び本件自己株式処分を法令に反して行っているので具体的法令違反が認められる。したがって、「任務を怠った」といえる。
⑶ 具体的法令違反が認められる以上、Cに少なくとも過失も認められるので、帰責事由が認められる(428条1項反対解釈)。
⑷ 本件自己株式の取得と本件自己株式の処分は、わずか1か月の短期間のうちに行われていること、そもそも乙社との資本関係強化のため
、Bから取得した自己株式を乙社に売却する旨の交渉がなされていたことから、本件自己株式の取得と処分は一連の行為といえる。したがって、上記一連の行為に「よって」、甲社は取得価額と処分価額との差額9億円の「損害」を被ったといえる。
⑸よって、Cはかかる9億円につき、上記責任を負う。
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