
第1 設問1
1 22年総会では、得票数順にD、C、P、Q、R、Bの6名が、選任のための決議要件たる出席株主の議決権の過半数の賛成(会社法(以下法名略)341条)を獲得し、採決順にB、C、D及びPの4名のみが取締役として選任されている。甲社取締役の員数の上限は6名(定款(C))であり、定款上は最大で5名の取締役が選任可能であったところ、①上記4名のみを選任したことは妥当か。また、得票数順ではなく、②採決順に選任したことは妥当か。
⑴ ①について
取締役会設置会社では、「株主総会の目的である事項」(298条1項2号)以外は決議をすることができない(309条5項本文)。そして、会社側から4名の取締役選任議案が提出されていることから、22年総会の議題は「取締役4名選任の件」であったと考えられる。したがって、同総会において、選任され得る取締役の上限は4名である何ら不当ではない。
⑵ ②について
株主意思の反映という点を重視すれば、得票数順に候補者が選任されるべきであり、D、C、P、Qが選任されるべきだったことになる。しかし、このように解することは、出席株主の議決権の過半数の賛成を獲得しても選任されない場合を認めることになり、出席株主の議決権の過半数をもって選任するという341条の規定に適合しない結果となり、妥当でない。
そもそも、選任可能な数を超える候補者がいる場合の採決方法について法は何ら規定していない一方で、議長には議事整理権(315条1項)が認められている。そうすると、採決方法については議長の裁量に任せることが法の規定に合致するのであるから、採決方法の選択は議長の議事整理権に含まれると解する。
したがって、同総会で採決順に取締役を選任したことは妥当である。
2 よって、上記選任は妥当である。
第2 設問2小問⑴
1 本件貸付けをあらかじめ阻止するために、「6箇月…前から引き続き株式を有する株主」Aは360条1項及び3項に基づき、「監査役」たるFは385条1項に基づき、「取締役」たるHに対して、本件貸付けの差止請求をすることが考えられる。なお、甲社監査役会では、本件貸付けを問題視しない方針が提案され、3名中2名の賛成がなされているが、監査役は独任制の機関であるから、監査役会の決議によって、監査役Fの権限行使が妨げられることはない(390条2項ただし書)。
⑴「法令…に違反する行為」
「法令…に違反する行為」とは、具体的法令違反及び善管注意義務違反(330条、民法644条、355条)をいうところ、本件貸し付けがこれに当たるか、以下検討する。
ア(ア)356条1項2号の「ために」とは、3号との区別の観点から、名義においてという意味であると解するところ、甲社の「取締役」であるPは、本件貸付けの相手方である乙社の唯一の株主であり、Pと乙社は同一視することができる。そのため、本件貸付けは、Pが自己の名義で行ったといえるので、「自己…のため」にした取引として、直接取引(356条1項2号)に当たる。そうすると、本件貸付けをするには、取締役会において、当該取引につき重要な事項を開示した上で、承認決議を経なければならない(365条1項、356条1項柱書)。
本件では、監査役たるFは取締役会で説明が不十分であると強く異議を述べているものの、Pを除く甲社の取締役全員が異議を述べることなく賛成していることからすれば、重要な事項が開示され、適法な承認決議を経たとみることができ、具体的法令違反は認められない。
(イ)次に、甲社の資本金は30億円であり、業績が下落の一途をたどる甲社にとって、15億円という多額に及ぶ本件貸付けは「重要な財産の処分」に当たるところ、本件貸付けを行うには取締役会による承認が必要である(362条4項1号)が、甲社では取締役会の承認決議が行われているから、具体的法令違反は認められない。
イ(ア)前述のように、本件貸し付けは、利益相反取引に当たるので、会社と取締役の利益が衝突する場面であるといえる。かかる場合、取締役が自ら利益を優先して、会社の利益を犠牲にするおそれがあるため、取締役に広範な裁量が認めることはできない。そのため、経営判断原則の適用は問題とならない。
(イ)取締役は善管注意義務の一内容として、会社に損害を与えないよう資産を適切に管理運用する義務を負っている。
15億円もの金銭を、事業活動をほとんど行っておらず収益の見込みがない乙社に対して、無担保がなされれば、債権回収が困難となって甲社に多額の損害が生じることは容易に予見できる。そうであるにもかかわらず、取締役たるHは、漫然と本件貸し付けを行っているので、上記義務を懈怠したといえる。したがって、善管注意義務違反が認められる
ウ よって、本件貸付けは「法令…に違反する行為」に当たる。
⑵「回復することができない損害」及び「著しい損害」が生じるおそれ
ア 「回復することができない損害」とは、金銭賠償によっては回復不可能な損害をいう。そして、「回復することができない損害」が認められる場合には、「著しい損害」も当然に認められる。
イ 甲社の資本金の半分に相当する15億円もの金銭を、事業活動をほとんど行っておらず、収益の見込みがない乙社に対して、無担保で貸し付けを行った場合、債権回収が困難となり、甲社に多額の損害が生ずる可能性が高い。そして、甲社は平成20年秋頃から、経営環境が著しく悪化し、経営の立て直しがされていないことから、会社に流動資産があるとは考えられない。そうすると、債権回収が不可能となった場合の損害は、損害賠償請求及び甲社の財産を処分しても填補することができず、甲社は倒産する可能性が高い。したがって、金銭賠償によっては回復不可能な損害が生ずるおそれがあるといえるので、「回復することができない損害」が生じるおそれも「著しい損害」が生じるおそれも認められる。
⑶ したがって、上記請求は認められる。
2 次に、A及びFは、本件貸付けをあらかじめ阻止するために、上記差止請求を本案とする本件貸付けの差止めの仮処分(民事保全法23条2項)を申し立てることが考えられる。
ここで、被保全権利として上記差止請求権が認められる。また、一度貸付けがなされてしまうと期限が到来するまでは債権を回収できず、その間に乙社の財務状態が悪化すれば、回収不可能となってしまうため、保全の必要性も認められる。したがって、上記申立ては認められる。
3 さらに、監査役であるFは、本件貸付けをあらかじめ阻止するために、上記差止請求や仮処分に役立てるべく、調査権限(381条2項)を行使することができる。
第3 設問2小問⑵について
1 「株主」たるAは提訴請求及び株主代表訴訟(847条)により、監査役たるFは提訴権限(386条1項1号)により、本件貸付けによって甲社が返済を受けられなくなったことにより被った損害につき、「役員等」にあたる取締役H、D、Pに対し、423条1項の責任を追及することが考えられる。423条1項の要件は、①任務懈怠(「任務を怠った」)、②損害、③①と②の間の因果関係(「よって」)、④帰責事由(428条1項反対解釈)である。そして、①は、具体的法令違反または善管注意義務違反(330条、民法644条、同一の内容のものとして355条)をいい、④は②についての故意・過失をいう。
⑴ア 前述のように本件貸付けは「356条1項2号…の取引」に当たり、でこれに「よって」甲社は返済を受けられなくなるという「損害」を被っているため、423条3項各号の任務憮怠の推定規定が適用される。そのため、Hは、本件貸付けを「決定した取締役」として同項2号により、Dは、本件貸付けに関する取締役会の「承認の決議に賛成した取締役」として同項3号により、Pは、「第356条第1項……の取締役」として同項1号により、「任務を怠った」と推定される。
イ 前述のようにPには、本件貸し付けについて善管注意義務違反が認めれる。D及びHは本件貸し付けにつき漫然と賛成しているから、善管注意義務の一内容である監視義務(362条2項2号)に違反が認められる。したがって、上記推定は覆らず①を満たす。
⑵ 本件貸し付けを行い乙社が倒産したことによって、甲社は返済を受けられなくなるという損害を被っている。したがって、②③を満たす。
⑶ Pについては本件貸付けが「自己のためにした」取引であるため、Pは無過失責任を負う(428条1項)。H、Dについては、監査役Fが、取締役会において説明が不十分である旨主張しているにもかかわらず、漫然と取締役会で賛成していることから、少なくとも過失が認められる。したがって、④を満たす
⑷ よって、A及びFは、上記責任を追及することができる。
2 さらに、Aは、H、D、Pに対し、429条1項の責任を追及することが考えられる。
もっとも、乙社の倒産により甲社が返済を受けられない結果、会社に損害が生じ、これによって株価の下落という損害が株主に間接的に生じている。かかる場合、423条1項により救済が可能なこと及び取締役が二重責任を負うおそれがある等の問題があることから、株主は「第三者」には当たらないと解すべきであり、429条1項責任は認められない。
第4 設問3について
1 議案①及び議案②の審議に際して、Fの監査役選任に関する意見陳述の機会(345条4項、1項)が奪われていることから、具体的法令違反がある。そこで、「株主」A及び「監査役」Fは「決議の方法が法令…に違反」(831条1項1号)すると主張することが考えられる。
2 議案①
議案①は否決されているところ、そもそも否決の決議が取消訴訟の対象となる「株主総会等の決議」(同項柱書)に当たるかが問題となる。
⑴ 否決の決議が取り消された場合には、株主は3年経過前でも議案の再提出が可能となる(304条参照)点にかんがみれば、否決の決議を取り消す実益があり、取消訴訟の対象となるとも思える。しかし、かかる再提出の可否については、実際に再提出をして、会社がこれを拒否したときに争えば足り、あらかじめ否決の決議を取り消すべき必要性はない。
そもそも、会社法が、決議に瑕疵がある場合に当然に無効とせず、軽微な瑕疵があるにすぎない決議については取消訴訟によってのみ取り消されるべきとしている趣旨は、株主総会決議については利害関係人が多数存在し、当該決議を前提として多くの法律関係が形成されるため、決議が取り消される場合を法定することによって、法律関係の画一的確定と法的安定性を確保する点にある。そうだとすれば、「株主総会等の決議」とは、第三者に対して効力を有するものを指すと解すべきである。
⑵ 否決の決議は第三者に対して効力を有しないため、かかる決議は「株主総会等の決議」に当たらない。したがって、上記決議は取消訴訟の対象とならない。
⑶ よって、A及びFの上記主張は、そもそも上記決議が取消訴訟の対象となることを前提としている点で不当である。
3 議案②について
⑴ Fの主張の当否
ア まず、議案②の決議が取り消されれば、Fは監査役としての権利義
務を有することとなる(346条1項)ため、Fには原告適格が認められ
る(831条1項柱書後段)。
イ 次に、監査役選任に関する意見陳述権を定める345条4項、1項の趣旨は、取締役からの不当な干渉を排除し、その地位の独立性を確保する点にあるところ、かかる趣旨の重要性にかんがみれば、意見陳述の機会が奪われているという瑕疵は、「重大でない」とは言えないため、裁量棄却(831条2項)が認められない。
ウ したがって、Fの上記主張は妥当である。
⑵ Aの主張の当否
ア Aは、Fの意見陳述権が害されたことを取消事由として、上記主張
を行っている。そこで、Aは「株主等」に当たらず、上記取消訴訟につき原告適格を有しないのではないか。監査役の意見陳述権侵害を取消事由として主張する株主も「株主等」に当たるかが問題となる。
(ア)そもそも、株主総会決議の取消訴訟は、決議の公正を確保するためのものである。そして、監査役の意見陳述権は、監査役の独立性を確保し、監査役選任決議の公正を担保するものであるから、株主も意見陳述権侵害を主張する利益を有するといえる。また、831条1項は、「株主等」と規定するのみで何ら制限を設けていない。そこで、監査役の意見陳述権侵害を取消事由として主張する株主も「株主等」に当たると解する。
(イ)したがって、Aも「株主等」に当たり、原告適格が認められる。
イ また、上述のように、上記決議には取消事由が認められ、裁量棄却も認められない。
ウ よって、Aの上記主張は妥当である。
⑶ 以上より、A及びFの上記主張は妥当である。
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