be a lawyer

日本大ロー令和7年度(第1期)入試解答例

2025年11月21日

参考答案

憲法

1 本件規定は、Xのあん摩師養成施設を開設する自由(本件自由)を不当に制約し違憲か。

(1)22条1項は職業の「選択」に関する自由を定めたに過ぎない。しかし、職業は自己の生計を維持するための継続的活動であることに加え、分業社会における社会的機能分担を担うことで個性を全うする場として、人格的価値と不可分な関連を有する (薬事法判決)。係る職業の意義に照らすと、職業選択にのみならず、職業遂行の自由も同項で保障される。

イ Xは学校法人として医療専門学校を運営している。あん摩師の免許を受けるには、文部科学大臣の認定した学校又は厚生労働大臣の認定した養成施設で教育を受ける必要がある(法2条1項)から、同施設を開設する自由は職業遂行の自由として、同項で保障される。

(2)あん摩師の免許を受けるためには、認定された学校や養成施設において教育を受けなければならない(同法2条1項)ところ、認可がされなければ実質的に養成施設の開設が不可能になるから、本件自由の制約はある。

(3)では、必要かつ合理的な制約といえるか。

ア 職業遂行の自由を含む経済的自由は、民主制の維持保全に不可欠な権利ではないから、この制約には合憲性の推定が働く。そのうえ、職業は性質上、秩序ある市場制度の形成が必要な点で、社会的相互関連性が大きいから、公権力による規制の要請が強い。もっとも、職業の種類、性質、内容、社会的意義及び影響が多種多様であり、規制を要求する社会的理由ないし目的も、千差万別で、重要性も区々にわたるため、憲法適合性は、具体的な規制措置について、規制の目的、必要性、内容、これにより制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討し、これらを比較考量した上で慎重に決定する。

第一次的には立法府の権限と責務であり、裁判所は、規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上、係る規制措置の具体的内容及び必要性と合理性は、立法府の判断がその合理的裁量の範囲にとどまる限り、立法政策上の問題として尊重すべきものであるところ、合理的裁量の範囲については事の性質上おのずから広狭があり得る。

イ 許可制は職業選択それ自体に対する強力な制約である (薬事法判決)ところ、認可が得られなくても、同施設を運営できないにとどまり、医療専門学校自体は経営できるから、職業遂行の自由の制約に留まるとも思える。しかし、許可を受けることで初めて養成施設の設置が可能であり、認可が得られなければ養成施設の運営そのものが困難となることに照らすと、事実上狭義の職業選択の自由への制約に至っている。

ウ 加えて、視覚障害がある者にその障害にも適する職業に就く機会を保障することは、その自立及び社会経済活動への参加を促進するという積極的意義を有するという福祉考慮の必要性や手段選択は政治過程を経た利害調整によって定まり、立法府の政策技術裁量に委ねるほかない。そこで、福祉考慮に基づく保護を目的とする職業の許可制について、必要かつ合理的な措置か否かについては、やや緩やかな基準になじむ。

エ 本件規制の趣旨は、視覚障害者たる、あん摩師の生計の維持を図るべくあん摩師の数を制限する点にあるところ、各業者の努力のみでは、すでに市場において従事しているあん摩師の数を増減し得ないのだから、自己努力脱却性がない客観的条件による制限であって、その規制態様は極めて強固といえる。

オ そこで、①規制の目的が十分に正当で、②手段が目的達成との関係で実質的関連性を有する場合に限り、規制の必要性が不利益に優越し必要かつ合理的な制約といえ合憲となる。

カ 本件規定の趣旨は、あん摩業が古来から視覚障害のある者にとって最も適当な職業とされてきたところ、近時、視覚障害者以外のあん摩師増加等のため、職域を圧迫される傾向が著しい状況にあるから、これを防止し、視覚障害がある者を優先する点にある。視覚障害を持つ者は、健常者と異なり就くことのできる職種が限られ、職を得ることが比較的困難なので、視覚障害者を優先する目的は十分に重要である(①)。

本件規定は、大臣が、視覚障害者であるあん摩師の生計の維持が著しく困難とならないようにするため必要があると認めた場合に2条1項の認定をしないことができるとするものである。視覚障害者の総数は、昭和35年に約20万人であったのに対し、平成18年では31万人と、おおよそ10万人も増加している。にもかかわらず、視覚障害者の有職者数・就業率は昭和35年で約7万2千人(35.7%)であったのが、平成18年には約6万6千人(21.4%)と、減少している。これらの立法事実を見ると、視覚障害者が職を得るのは年々困難になっている。そして、あん摩師等の視覚障害者の有職者数に占める割合は、昭和35年で約38%、平成18年で約29%あり、あん摩師等が大きな雇用を生み出している。さらに、有職者のうち、障害等級が1級・2級の者は全体の8割を占めているところ、あん摩師は、視覚障害者が活躍できる大切な職業であり、視覚障害者のあん摩師を増やすべく、本件規制を設けることは、手段適合性がある。

 あん摩師の総数に占める視覚障害者以外の者の割合は、昭和37年で40.1%であったのに対し、平成26年では77%と、視覚障害者以外のあん摩師が増えている。あん摩師等の平均年収は、視覚障害者が290万円に対し、それ以外の者が636万円であり、視覚障害者以外の者が多くの顧客を抱え高い収入を得る傾向にある。視覚障害者の収入を増やすためには、視覚障害者以外のあん摩師に流れるニーズの調整の必要がある。そして、養成施設等の定員が年々減少傾向にあるのに対し、受験者の割合が昼間・夜間ともに100%を超えていることに照らすと、養成の段階で視覚障害者以外の者の割合を調整することが最も必要かつ有効な手段といえる。したがって、手段必要性も認められ、実質的関連性がある(②)。

(4)以上より、本件規定は本件自由を不当に侵害するものではなく、合憲である。

民法

第1 設問1

1 AはDに対して、所有権に基づく妨害排除請求として、甲土地の所有権移転登記の抹消登記手続を請求する。

(1)同請求の要件は、①原告もと所有、②被告名義の登記の存在である。

 甲土地は、Aが数年前に相続し所有している(①)。Dは甲土地につき、D名義の所有権移転登記を了している(②)。

 (2)もっとも、Dからは、委任状に加えて実印と印鑑登録証明書を持参し代理人として振る舞うCと契約したのだから、表見代理が成立しAに効果が帰属するから、登記保持権原を有するとの反論しうる。

ア Dは、Aの代理人と称するCとの間で本件契約を締結してはいる。しかし、これは甲土地の売却に係る代理権を与えられていないCが、売却権限があるかのように装い、委任事項欄を無断で補充し行ったものである。そのため、無権代理(113条1項)に該当し、本人Aの追認がない限り、Aに効果帰属しないから、Dは登記につき無権原とも思える。

イ しかし、109条又は110条の表見代理が成立しないか。本件では109条、110条のいずれの表見代理が成立するかが問題となる。

 代理人が権限外の行為をした場合に、第三者が代理人の権限の存在を信ずべき正当な理由があれば、110条の表見代理が成立するところ、本件では、Cは甲土地に抵当権を設定する代理権をAから付与されており、係る権限を逸脱してDと売買契約を締結している。そこで、110条の表見代理を検討する。

ウ 登記申請する代理権という公法上の行為をなす代理権も同条の基本代理権足りうるか。

(ア)公法上の行為の代理権は私法上の代理権ではなく、取引安全は問題とならないから、原則、110条の基本代理権とはならない。しかし、公法上の行為が私法上の契約による義務履行のためになされるときは、取引安全も問題となるため基本代理権となる。

(イ)本件でCは、本件借入金債務の担保のために、甲土地に抵当権を設定した。かかる抵当権の登記をなすための代理権であるから、私法上の契約による義務の履行のためになされたといえる。したがって、同条の基本代理権は認められる。

エ Cは登記申請を踰越した売買契約を締結しており、「権限外の行為」にあたる。

オ では、第三者が代理人の権限があると信ずべき「正当な理由」があるか。

(ア)「正当な理由」とは、代理権の範囲内であると信じたことにつき、善意無過失であることをいい、わが国の日常取引において実印が行為者の意思確認手段として重要な機能を果たしていることからすれば、代理人による本人の実印の所持・使用がある場合には、代理権の存在が推認され、特段の事情のない限り、「正当な理由」が認められる。

(イ)本件では、Cの持参した委任状にはAの実印で押印されていることから、原則として「正当な理由」がある。また、Cは委任状の印影と印鑑登録証明書の印影とが一致していることを確認し、CにはAの甲土地売却に関する代理権があると信じているところ、実印は通常信頼のおける者にしか渡さないこと、DはCの単なる友人であり、金融機関等の専門的な知見が要求されるものとは異なることに鑑みると、委任状の印影を信頼したことには過失はなく、特段の事情は認められない。ゆえに、「正当な理由」があるため、Dには110条の表見代理が成立する。

2 以上より、Dの反論が認められるから、Aの妨害排除請求は認められない。

第2 設問2

1 AはEに対して、所有権に基づく妨害排除請求として、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を請求する。

(1) 係る請求の要件は上述の通りである。そして、Aは甲の売却を許可した事実はない以上、要件を満たすとも思える。

(2) これに対し、Eは表見代理(110条)が成立し所有権を取得することの反射的効果として、Aは甲土地所有権を喪失するため、Aの請求は認められないと反論しうる。

ア Eは甲土地を取得したDから甲を転得しているところ、転得者も「第三者」(110条)に該当するか。

イ 110条が第三者を保護した趣旨は、代理権の存在に対する信頼を保護する点にあるところ、第三取得者(転得者)の信頼の対象は、基本的には代理人が代理権を有するかではなく、自己の取引相手が正当な権利者であるという外観にある。すると、第三取得者の信頼については、192条や94条2項などの権利外観法理による保護で足りる。そこで、「第三者」は、無権代理人と取引した直接の相手方に限られ、第三取得者は代理人における代理権の存在を信じるにつき正当な理由があっても、110条の表見代理は成立しない。

本件で、Eは無権代理人と取引した直接の相手方ではないから、Eは「第三者」にあたらず、110条の表見代理は成立しない。

(3) では、Eは94条2項類推適用によって所有権を取得し、その反射的効果として、Aは所有権を喪失したとのEによる反論が認められないか。

ア 94条2項の趣旨は、虚偽の外観作出につき帰責性のある権利者の犠牲のもと、かかる外観を信頼した第三者を保護するという権利外観法理にある。すると、①虚偽の外観、②権利者の帰責性、③第三者の信頼という要件を満たせば、94条2項を類推適用できる。

イ(ア)本件では、D名義の虚偽の本登記が存在する(①)。また、AはCからの「伯おじさんには迷惑はかけない」との言動を信頼し、また不動産取引に不案内であったこともあいまって、Cにいわれるがまま甲土地の登記識別情報、Aの実印、印鑑登録証明書をCに渡し、また、白紙委任状まで交付した。すると、外形作出につき、積極的な意思的関与があるとまではいえないが、これと同視しうるほど重い過失はあり、帰責性は肯定できる(②)。

(イ) では、第三者Eの信頼は認められるか。

94条2項は第三者の信頼として善意のみ規定する趣旨は、通謀し虚偽の外観を作出した真正権利者の帰責性が極めて重いことに照らし、第三者の信頼としては善意で足りる点にある。しかし、本件では、真正権利者に帰責性は認められるが、積極的関与や意思的承認した場合と比して真正権利者の帰責性は小さいから、真正権利者と第三者の利害調整においては、善意のみならず無過失まで要求すべきである。そこで、94条2項に加え110条を重畳類推適用し、正当な信頼としては善意無過失まで必要である。

 本件事実Ⅱの8より、Eは善意無過失であるから、正当な信頼が認められる。

2 よって、94条2項及び110条の重畳類推適用により、Eが甲所有権を取得する反射的効果としてAが所有権を喪失し、Aの請求は認められない。

刑法

1 甲がVの頸部をナイフで突き刺した行為(本件行為)につき、殺人未遂罪(203条、199条)が成立するか。

(1)ア 包丁という殺傷能力の高い刃物を頸部という人体の枢要部かつ生命維持に必要不可欠な部位に突き刺す行為は、死亡結果を発生させる現実的危険性を有する行為といえ、実行行為性が認められる。

実際にVの頸部に命中したものの、Vは一命をとりとめ、死亡結果が発生していないため、「未遂」にとどまる。

イ 甲はVの頸部めがけてナイフを突き刺しており、Vの死亡結果についての認識認容があるため、故意(38条1項)も認められる。

(2) 本件では、違法性阻却事由も責任阻却事由もないから、殺人未遂罪が成立する。

2 もっとも、甲はVが口から大量の血を吐き出し、呼吸のたびにVの口から血が噴き出るのを見て、驚愕するとともに、大変なことをしたと考え、救護措置を講じている。そこで、中止犯(43条但書)として刑が必要的に減免されないか。

ア 「犯罪を中止した」とは、中止意思に基づき中止行為を行った場合に認められる。

(ア) 中止行為としていかなる行為が要求されるか。

中止犯の必要的減免の根拠は、中止行為により行為者の責任が減少する点にある。そこで、中止行為といえるには、責任減少を認めるに足りるだけの結果回避に向けた真摯な努力が必要である。そして、結果発生の防止は一人で行う必要はないが、無責任な人任せの行為では責任の減少を認めるに値しないため、少なくとも犯人自身が防止に当たったと同視しうるだけの努力が必要となる。

甲は、直ちにタオルをVの頸部にあてて止血を施し、Vに「動くな、じっとしとけ。」と声をかけたりなどした上、消防署に電話し救助を要請している。また、救急車が到着するまでの間、Vを励まし続けたうえ、到着したのちも消防署員と共にVの救助も行っている。係る甲の行為は、Vの死亡を防止するための真摯な努力であり、中止行為が認められる。

(イ) これらの中止行為を、甲は自らの意思で遂行しており、中止意思も認められる。

イ 「自己の意思により」中止したこと(任意性)が必要となる。

中止犯の必要的減免の根拠は、中止行為により行為者の責任が減少する点にあるから、行為者の主観においてやろうと思えばやれたのに、敢えて中止したと言えれば責任の減少が認められるから「自己の意思により」中止したといえる。

甲がVの頸部にナイフを突き刺したことにより、Vは大量の血を口から吐き出し、呼吸のたびに口から血が流れる状況となった。この状況ではもはや助けを呼ぶことも困難であり、とどめを刺すことは容易であったと言える。しかし、甲は、自分が大変なことをしてしまったと考え、上記中止行為を最後まで完遂したのであるから、やろうと思えばやれたのに、敢えて中止したといえる。したがって、「自己の意思により」中止した。

3 以上より、甲には殺人未遂罪が成立するが、中止犯として、刑が必要的に減免される。

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