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日大ロー令和5年度(3期)入試解答例

2025年11月22日

参考答案

憲法

[設問1]

憲法41条は、国会を国の「唯一」の立法機関と位置付けているが、これは、国会による立法権の独占(国会中心立法の原則)と、他の機関による立法への関与の禁止(国会単独立法の原則)を意味する。

 そうすると、法律案の提出を内閣が行うことは、国会単独立法の原則に反し、違憲ではないか。

 法律案の発案は立法過程の不可欠の要素ではあるものの、「立法」そのものではなく、立法の契機を与えるという立法の準備行為であるため、「立法」作用の一部とみるべきではない。

 また、憲法は、内閣の事務の一つとして、「国務を総理すること」(73条1項)を挙げ、内閣が国政のあり方について全般的な配慮をなすべき立場にあることを明らかにしており、国会と内閣の協働が要請される議院内閣制(67条1項、68条1項、69条等)の下では、そのような配慮の一環として、内閣が立法の提案をなすべきことが要請されているともみることができる。

 これらのことからすれば、72条の「議案」には、法律案も含まれていると解すべきであり、内閣にも法律案の提出権を認めることも、国会単独立法の原則に反せず、合憲であると考えられる。

[設問2]

1.問題の所在

本問法律は、有権者総数の50分の1以上の連署をもって、国民が直接法律案を国会に提出できる制度(以下、国民発案制度)を創設するものである。これは、代表民主制(43条1項)、及び国会単独立法の原則(41条)に反し、違憲ではないか。

2.代表民主制との関係

憲法1条は国民主権を定める。この「主権」を、国の政治のあり方を決定する権力が国民に存するという権力的契機から捉えれば、主権者が直接立法過程に関与することは、むしろ民主主義の要請に適合するとも思える。

 しかし、憲法は、前文及び43条1項において、国民が選んだ代表者を通じて行動する代表民主制を原則としている。したがって、単に国民主権であることのみをもって直ちに本制度を合憲と断ずることはできない。

 そもそも「代表」(43条1項)の概念には、歴史的に複数の意味が織り込まれている。一つは、近代憲法における、議員が個々の有権者や選挙区などの特殊利益から独立し、全国民の代表として、国民全体の意思を形成するものとする「純粋代表」という意味である。しかし、政治の民主化要求を背景に選挙権が拡大されていく中で、議会は実在する民意を忠実に反映・代弁すべきであるという「半代表」という意味を持つようになった。

 現代の政党国家においては、政党間の硬直的な対立や党議拘束により、多様化・複雑化した国民の意思が十分に議会へ反映されない代表の機能不全が生じうる。かかる現状に鑑みれば、国民発案制度は、選挙のみではくみ取れない国民の意思をアジェンダ(議題)として国会に設定させるものであり、上記「半代表」の側面を補完し、代表の実質化を図る制度として、憲法の予定する民主主義に親和的であるといえる。

 国民発案制度に対しては、組織化された少数派の特殊利益が議会に不当な圧力をかけ、純粋代表の観点から全国民の代表としての公正な審議を害するとの批判がありうる。しかし、法案提出には50分の1という一定のハードルが設けられており、制度の濫用は防止されている。加えて、提出された法案は国会の公開の場での審議に付されるため、その過程で特殊利益の偏りは是正されうる。むしろ、既存の政党政治では看過されがちな少数派の意見を公的討議の場に乗せることは、多元的な民意の尊重という観点から正当化されると考えられる。

3.国会単独立法の原則との関係

 国民が法案を提出することは、国会単独立法の原則(41条)に反するとも考えられる。

しかし、本問法律は、あくまで国民に法律案の提出を認めるにとどまり、法律案の発案は立法の準備行為にすぎないから、「立法」作用の一部ではない。また、その法案を審議し、可決するか否かの最終決定権は依然として国会が保持しているから、国会単独立法の原則に反しない。

4.結論

 以上より、本問法律は、代表民主制(43条1項)、及び国会単独立法の原則(41条)に反するものではなく、合憲である。

[設問3]

 憲法は、憲法改正の発案権について、何ら明記していない(96条参照)が、各議院の議員がこれを有することに異論はない。そうだとすれば、法律案と同様、内閣も憲法改正の発案権を有するようにも思える。

 しかし、近代憲法が基礎とする自然権思想の下では、政治権力の究極の根拠、ひいては憲法制定権力は国民にあると解されるから、憲法改正は、法律案に比べ、はるかに強度に国民の意思の発現であるべきであり、国民投票が要求されている(96条1項)のも、その現れである。そうすると、その発案権も「全国民の代表」(43条1項)たる国会議員に限定して留保されていると解すべきであり、72条の「議案」に、憲法改正の発案は含まれないと解すべきである。

 したがって、内閣に憲法改正原案の提出権を認める本問の法律改正は違憲である。

日大ロー 令和5年 第3期 民法

(設問1)

1.結論として、Bによる追認拒絶は信義則に反するため、認められない。

2.本件売買契約は、Bが無権代理人としてなされたものであるが、本来であれば当該契約の本人たるAが追認権及び追認拒絶権を有する(116条本文)。もっとも、本問では、同契約締結後にAが死亡し、BがAを相続している(882条、887条1項、896条)。

そこで、無権代理人自身が本人を相続した場合において、本人たる地位に基づいて追認を拒絶することができるかが問題となる。

 この点、相続という偶然の事情によって相手方を利することになることを防ぐためにも無権代理人と本人の地位は、当然には融合しないと考えるべきである。とはいえ、自ら無権代理行為の追認を拒絶することは、相手方にとって矛盾する行為であるから、原則としてそのような追認拒絶は信義則上(1条2項)許されない。

3.本問において、Bは、自ら無権代理行為を行った無権代理人であって、本人たる地位に基づいて追認拒絶をすることは矛盾挙動として信義則に反する。

 したがって、Bによる追認拒絶は認められない。

(設問2)

第1 設問前段

1.結論として、Bによる追認拒絶は認められる。

2.Bは、Aの後見人に就任している。後見人は「被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する」(859条1項)ことからすれば、後見人であるBは、被後見人であるAの財産に関して処分権限を有しているのであるから、(設問1)と同様の利益状況にあり、追認拒絶は認められないように思える。

 しかし、相続する場合と異なり、財産的不利益を被るのは被後見人であることを考慮するべきである。すなわち、後見人は、被後見人との関係において、善管注意義務(869、644条)を負い、被後見人の諸状況を考慮した上での代理行為が要請されるのであるから、自由な財産処分権限が与えられているわけではない。このことからすれば、無権代理人が、本人の後見人になり財産処分権限を有することになった場合において、無権代理行為の追認を拒絶することは信義則に反することはない。また、後述するように、契約の相手方には無権代理人に対する責任追及(117条1項本文)が可能であるから、保護にかけることはないといえる。

3.したがって、Bによる追認拒絶は認められる。

第2 設問後段

1.結論として、CはBに対して無権代理人の責任追及として、損害賠償請求をすることができる。

2.117条1項では、「他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。」と定められている。本問においてBは、自己の代理権を証明することも、本人の追認を得ることもできていない。また、同条2項各号に定める適用除外に当たる事情もない。したがって、「他人の代理人として契約をした者」であるBは、「相手方」であるCに対して無権代理人としての責任を負うこととなる。

 もっとも、Cは、その責任追及として履行請求をすることはできないものというべきである。なぜなら、この場合においてCに履行請求を認めては設問前段において追認拒絶を認めた意味がなくなってしまうからである。

3.したがって、CはBに対して無権代理人の責任追及として、損害賠償請求をすることができる。

刑法

日大ロー 令和5年 第3期 刑法

1.甲が、Aにクロロホルムを吸引させ、その後に岸壁から転落させ、死亡させた行為につき、Aに対する殺人罪(199条)の成否が問題となる。

 甲は、Aに対してクロロホルムを吸引させるという第1行為を行ったうえで、岸壁から突き落とし死亡させようとする計画であったが、実際には第1行為の時点で呼吸停止及び心停止を原因として死亡させている。つまり、早すぎた構成要件の実現の問題が生じている。ここでは、①クロロホルムを吸引させる行為それ自体には殺人の実行行為性を欠き、殺人の実行の着手(43条本文)があったといえないのではないか、②クロロホルムを吸引させる行為の時点において殺人の故意(38条1項)は認められないのではないか、③因果関係の錯誤がある場合において故意を阻却されないかの3点が問題となる。

2.(1)①について

この点、「実行」の「着手」の有無は、43条の文言から構成要件該当行為への密接性、および未遂犯の実質的処罰根拠から導き出される法益侵害ないし構成要件の実現に至る現実的危険性の二つの基準をもって判断される。そして、かかる密接性・現実的危険性の判断は、行為者の計画も考慮に入れ、①準備行為と構成要件該当行為の不可分性②時間的場所的接着性③準備的行為終了後障害となるような特段の事情の有無等の諸事情を総合的に考慮するべきである。

 本問において、甲の計画をもとにすれば、Aを岸壁から突き落とすにはAの意識を失わせる必要があり、その意味においてクロロホルムを吸引させる行為は不可欠であるといえる。また、第1行為と第2行為は時間的に連続してなされており、1時間以内に済まされている。さらに、クロロホルムを吸引させ、Aの意識を奪えば、あとは自動車で岸壁に向かうのみであるから、障害となる特段の事情も存在しない。このことからすれば、甲は第1行為は第2行為に密接した行為であり、第1行為を開始した時点で既に殺人に至る客観的な危険性が明らかに認められるから、その時点において殺人罪の実行の着手があったものと解することができる。

(2)②について

 クロロホルムを吸引させる第1行為自体では、甲はAの死の結果を発生させる認識認容がないことから、殺人の故意を認められないように思えるが、上記の通り、第1行為と第2行為には一体性が認められることから、第1行為の着手時点で第2行為を含めた一連の実行行為に着手したといえ、このことから第2行為に留保されていた殺人の故意を認めることができる。したがって、殺人の構成要件的故意を認めることができる。

(3)③について

もっとも、甲は、Aを岸壁で突き落として死亡させようとしていたのであるから、予測した因果の流れとは別の経路によって結果が発生しており、因果関係に錯誤がある。

この点について、因果関係に錯誤がある場合でも、行為者が事前に予見した因果経過と実際の因果経過とが構成要件の範囲内で符合している限り、行為者は規範に直面し、反対動機形成が可能であるから、行為者に故意責任を問うことができる。本問では、甲が事前に予見した因果経過も実際の因果経過もどちらも殺人罪の構成要件内で符合している。したがって、故意を阻却することはない。

3.以上から、甲にはAに対する殺人罪が成立する。

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