be a lawyer

【2026年ロースクール入試】早稲田大学 刑事訴訟法 参考答案

2025年9月8日

法科大学院, 答案例

第1 本件供述調書の証拠能力について

1.刑事訴訟法319条1項は、「強制、拷問又は脅迫による自白、不当に長く抑留又は拘禁された後の自白その他任意にされたものでない疑のある自白は、これを証拠とすることができない。」と定めている。つまり、本件供述調書が同項の定める「任意にされたものでない疑のある自白」にあたる場合には、本件供述調書は「証拠とすることができない」。

では、これにあたるか。

2.(1)同項の趣旨は、任意性に疑いのある自白について証拠能力を否定することによって裁判所の誤った判断を防止する点に求められる。このことからすれば、「任意にされたものでない疑のある自白」か否かは、虚偽自白を誘発する危険性の高い状況の下で当該自白がなされたかをもって決するべきである。

(2)本問において、甲は、逮捕後にKからの連日の取調べがなされていたにもかかわらず、本件犯行について一貫して黙秘していた。このことから、Kは何らかの策を講じなければ甲から本件犯行に関する情報を得ることはできない状況であったことが分かる。

そのような状況において、Kは、まず甲が「運転手にすぎない」ことを把握していることを伝えている。これは、甲に対して、本件犯行における拳銃を撃った者、すなわち殺人の実行行為者ではないことを伝えることによって、首謀者ないし中心人物ではないことを認め、安心して本件犯行について供述するように促していると評価できる。Kによってこのようなことが行われれば、甲としては、「Kは、私を殺人の実行行為者とは考えていないらしい。そうであるならば、この際本件犯行について自白することによって、刑が軽くなることは間違いない。」と考えるはずである。しかし、仮に甲がそのように考えたとしても、甲としては、本件犯行の共犯者としては刑が科されることを認識している以上、国家機関である警察に対して迎合し、虚偽を述べるような状況下にはないといえる。

(3)次に、Kは、甲に対して「拳銃を撃った奴は誰なんだ。お前が犯行について自白し、銃を隠した場所を言えば、確実に不起訴にしてやる。俺の言葉を信じろ。」と伝えている。これは、甲に対して、不起訴の約束をすることによって、甲には自白による損が存在しないことを認識させ、本件犯行について供述するように促していると評価できる。Kによって、このようなことが行われれば、甲としては、「Kは、私が自白すれば、私を不起訴にしてくれるらしい。そうであるならば、この際本件犯行について自白することによって、不起訴にしてもらおう。」と考えるはずである。このことは、甲において、起訴のリスクが存在しないことから、一見して真実が述べられる可能性が高い状況下のように思える。しかし、このような利益的誘導性の高い行為がなされれば、甲としては、連日の取調べによって、早期の身体解放を望むがあまり、本件犯行に関する虚偽の事実までの供述しかねないものといえる。たしかに、起訴不起訴を判断するのは、検察であって(247条)、警察官Kではないことからすれば、Kのする約束には不起訴に対する直接的な効果はないが、一般人である甲からみて検察と警察官Kの権限の違いを認識し、それによって自白をするかしないかを判断することはほぼ不可能であったといえる。

これらのことからすれば、甲の自白は、類型的に虚偽自白を誘発する危険性の高い状況の下でなされたものといえる。

3.以上から、本件自白調書は、「任意にされたものでない疑のある自白」といえるため、証拠とすることはできない。

第2 本件拳銃の証拠能力について

1.本件拳銃は、前述した本件自白調書が得られたことによって、同自白に基づいて捜索したところ発見され、押収されたものである。そして、前述の通り、本件自白調書は、不任意自白であって証拠能力が認められないものであるから、本件拳銃は不任意自白の派生証拠という位置づけとなる。このことが、本件拳銃の証拠能力を否定することにならないか。

2.(1)前述の通り、319条1項の趣旨が、虚偽排除に求められることからすれば、不任意自白の派生証拠としての本件拳銃が物件である以上、虚偽を介在する可能性はなく、証拠能力を認めるべきであるように思える。

しかし、不任意自白の証拠能力を否定することは、単に誤判を防止するだけではなく、将来における捜査機関による類型的に虚偽の介在するような取調べを抑止することを機能として有している。このことからすれば、派生証拠に虚偽介在の可能性がないとしても直ちに証拠能力を認めることはできず、将来における捜査機関による類型的に虚偽の介在するような取調べを抑止するという観点から排除するのが相当であると解される場合には証拠能力が否定される。他方で、派生証拠の収集手続きについては何らの違法な点がなく、また不任意自白の派生証拠であったとしても証拠物の証拠価値には何らの変化もないのであるから、それに先行する自白の任意性が認められないとして、派生証拠の証拠能力を全て否定するのは妥当でない。そこで、当該犯罪の重大性、不任意自白と派生的証拠との関連性、派生的証拠の重要性、不任意自白獲得の際の捜査官の意図等を総合衡量して、派生証拠の証拠能力を判断するべきである。

(2)ア 犯罪の重大性

本件犯行とは、自動車の助手席に乗った男が、通行人を拳銃で撃って殺害するという事件に関する犯行を指し、その被疑事実は殺人罪である。殺人罪の法定刑は、「死刑又は無期若しくは五年以上の拘禁刑」(刑法199条)であることからしても極めて重大な事件であるといえる。このことからすれば、本件拳銃は、重大事件の重要証拠として、できる限り証拠能力を認めるべきである。

イ 関連性

前述の通り、甲は連日の取調べがなされていたにもかかわらず、本件犯行について黙秘を続けていた。そのような中で、前述したKによる約束によって本件自白調書が得られている。本件自白調書には、本件拳銃の場所が「港」であることが示されており、その後の捜索では本件自白調書に基づいて「港」の捜索が行われ、押収されている以上、本件自白調書と本件拳銃の関連性は認められる。さらに、甲が本件犯行について黙秘していること、及び本件自白調書以外に問題文上何らの証拠ないし供述が得られていない以上、本件自白調書が本件拳銃の捜索令状発付に至る唯一の疎明資料であったといえる。このことからすれば、その関連性の程度は極めて密接である。

ウ 捜査官の意図

Kとしては、前述したとおり、何らかの策を講じなければ、甲から本件犯行に関する情報を得ることができない状況であったことに加えて、Kの発言中における約束を除く部分のみでは本件犯行に関する情報を得ることできないと考えたからこそ、あえて、権限がないにもかかわらず不起訴の約束をしている。そうだとすれば、Kの主観としては、「甲をだましてでも自白を得よう、不任意であったとしても構わない」というものであったと推測することができる。

(3)これらのことからすれば、たしかに、本件拳銃は重大事件における重要証拠である以上、的確な事実認定のために証拠能力を認めるべき要請が強いといえるが、本件自白調書との関連性が密接であるだけでなく、その本件自白調書を獲得したKの主観が、手段を選ばずに自白を得ようとするものであることが推測される以上、将来における捜査機関による類型的に虚偽の介在するような取調べを抑止するという観点から排除するのが相当である。

3.以上から、本件拳銃は、証拠とすることができない。

be a lawyer公式LINEでは受験生向けに有益な情報を発信中!以下より友だち追加してみてください!

     

新着情報一覧に戻る