日大ロー令和6年度(1期)入試解答例
2025年12月2日
参考答案
憲法
憲法
第1 本件請求〔1〕について
1 本件請求〔1〕は司法審査の対象となるか。県連がD党の議員に対して行った除名処分が裁判所による司法審査の対象になるかが問題となる。
(1)司法審査の及ぶ具体的争訟とは、「法律上の争訟」(裁判所法3条1項)と同義であり、①当事者間の具体的法律関係の存否に関する紛争で、②法令の適用により終局的に解決することができるものをいう。
(2)ここで、共産党袴田事件は、政党内の内部的自律権を尊重し、政党が組織内の自律的運営として党員に対してした処分の当否については、原則として自律的な解決に委ねるのが相当であるから、政党のした内部自律権に属する処分が党員の一般市民としての権利利益を侵害する場合でも、その当否は、政党の自律的に定めた規範が公序良俗に反する等の特段の事情のない限りその規範に照らし、規範を有しないときは条理に照らし、適正な手続に則ってされたか否かによって判断されると示した。
本件においては、D党の党員であるAが新型コロナウイルス感染症の非常事態措置区域であるB県とE県との間で不要不急の外出・移動をし、E県F市内の宴会場において、新型コロナワクチン接種に反対し、マスク着用拒否を薦める者らの主催する多人数の参加者らが密集する集会において、会の趣旨に賛同する講演を行い、懇親会において、参加者らとカラオケに興じ、よって、党の規律を乱し、党員たる品位を汚したとして党規違反行為の審査を行った。新型コロナウイルスの感染拡大状況や、社会的影響を鑑みれば、Aの上記行為は党の規律を乱し、党員たる品位を汚したと判断せざるを得ないものであるといえるため、かかるD党の判断は、公序良俗に反するものとは言えない。また、D党は質問事項に対する弁明の機会を付与し、県連党紀委員会を開催した上でAの除名処分を決定しているため、適正な手続に則ってなされたといえる。
したがって、共産党袴田事件に照らせば、本件請求〔1〕は司法審査の対象とは ならないとも思える。
(3)しかしながら、政党は、国民がその政治的意思を国政に反映させるための最も有効な媒体であり、議会制民主主義を支える極めて重要な存在であり、政党は、高度の公共性を有するから、組織や運営について民主化が求められるもので、他の結社に比べてさまざまな法的優遇措置が認められているから一定の統制を加える必要がある。
そして、Aが除名されれば、D党の構成員たる身分を喪失し、D党の構成員として活動を行い得なくなるから、一般市民法秩序と直接の関係を有するものと言いうる。
(4)そうだとすれば、本件においてD党がAに対してした除名処分は司法審査の対象たる「法律上の争訟」であるというべきである。
2 よって、本件請求〔1〕は司法審査の対象となる。
第2 本件請求〔2〕
1 本件請求〔2〕は司法審査の対象となるか。議会が行なった本件退去命令の当否が司法審査の対象となるかが問題となる。
(1)司法審査の及ぶ具体的争訟とは、「法律上の争訟」(裁判所法3条1項)と同義であり、①当事者間の具体的法律関係の存否に関する紛争で、②法令の適用により終局的に解決することができるものをいう。
(2)議員に対する懲罰は、会議体としての議会内の秩序を保持し、もってその運用を円滑にすることを目的として課されるものである。議会の運営に関する事項については、議事機関としての自主的かつ円滑な運営を確保すべく、その性質上、議会の自律的な権能が尊重されるべきである。
確かに、議員に対する退去命令は議員の権利行使の一時的制限にすぎない。しかし、地方議員は、住民の投票により選挙され(93条2項)、議案を亭主流する権能を有する。そうだとすれば、地方議員は、憲法上の住民自治の原則を具現化するため、住民の代表としてその意思を反映させるべく活動をする責務を負っているといえる。そして、退去命令は、当該期日に行われる会議への出席が停止され、議事に参与し議決に加わるなどの議員としての中核的な活動をできなくなる。そうなれば、住民の負託を受けた議員としての責務を十分に果たせない。
(3)そうだとすれば、退去命令は一般市民法秩序と直接の関係を有するものといえ、司法審査の対象となるというべきである。
2 よって、本件請求〔2〕は司法審査の対象となる。
民法
第1 設問1
1 Yが虚偽の事実を述べたことを問題とする場合
(1)Xは、Yに対して、本件土地の売買契約の締結の意思表示について、詐欺取消し(96条1項)を主張し、原状回復請求権(121条の2第1項)に基づく本件土地の返還請求及び、所有権移転登記抹消登記手続請求をすることが考えられる。
(2)「詐欺…による意思表示」(96条1項)といえるためには、相手方の欺罔行為があり、かかる欺罔行為により錯誤に陥って意思表示をしたことが必要となる。
Yは、本当は代金を支払う意思がないのに、代金は引渡しと登記移転の翌日に全額 支払うと虚偽の事実を述べており、欺罔行為が存する。そして、Xはその旨を誤信し、本件土地を代金1億円で譲り渡す契約を締結し、その契約に基づいて本件土地を引き渡し、XからYへの所有権移転登記をしているから、XはYの欺罔行為により錯誤に陥って意思表示をしたといえる。
したがって、Xの本件意思表示は「詐欺…による意思表示」といえ、Xは本件契約を取り消すことができる。
(3)よって、XはYに対し、原状回復請求権(121条の2第1項)に基づき、本件土地明渡し及び所有権移転登記抹消登記手続を請求するとよい。
2 Yが売買代金を支払わないことを問題とする場合
(1)Xは、Yに対して、本件土地の売買契約の解除(541条本文)を主張し、原状回復請求権(545条1項本文)に基づき、本件土地の返還請求及び所有権移転登記抹消登記手続請求をすることが考えられる。
(2)催告による解除(541条)が認められるためには、「当事者の一方がその債務を履行しない場合」で相当期間を定めて催告をし、その期間内に履行がないことが必要となる。
本件では、YはXに対して、本件売買契約に基づく1億円の代金債務を履行していないため、Xが相当期間を定めてYに催告をし、Yがその期間内に債務を履行しなければ、Xは解除をすることができる。
(3)以上より、XはYに対し、1億円の支払いを、相当期間を定めて催告した上、期間経過後に本件売買契約を解除し、原状回復請求権(545条1項本文)に基づき本件土地明渡請求及び所有権移転登記抹消登記手続請求をするのがよい。
第2 設問2
1 設問1(1)の場合
(1)Xは所有権(206条)に基づき、抵当権設定登記の抹消登記手続を請求することが考えらえる。Xが本件土地をもと所有しており、Sが本件土地に抵当権設定登記を有するから、請求原因を満たす。
(2)これに対しSは、X Y間の売買契約により、Xが本件土地の所有権を喪失したと反論することが考えられる。
(3)これに対しXは、本件売買契約は詐欺取消し(96条1項)されており、抵当権設 定当時に遡及してXが本件土地の所有権を有していた(121条)と再反論することが考えられる。
(4)これに対しSは、自身が96条3項の「第三者」にあたり、再反論は認められないと再々反論すると考えられる。
96条3項の趣旨は、取消の遡及効を制限することにより第三者を保護する点にある。したがって「第三者」とは、当事者及び包括承継人以外の者で、取り消された法律行為を前提に取消前に新たに独立の法律上の利害関係を有するに至った者をいうと解するべきである。
本件では、XがYに対して詐欺取消しを主張するよりも先に、Sは本件土地について抵当権設定登記をしている。したがって、Sは、本件契約の当事者及び包括承継人以外の者で、本件契約の存在を前提に取消前に新たに独立の法律上の利害関係を有するに至った者といえ、「第三者」(96条3項)にあたる。
また、Sは詐欺につき悪意又は有過失の事情はなく、「善意でかつ過失がない」といえる。
よって、Sの再々反論は認められる。
(5)したがって、XのSに対する請求は認められない。
2 設問1(2)の場合
(1)Xは所有権(206条)に基づき、抵当権設定登記の抹消登記手続を請求することが考えらえる。Xが本件土地をもと所有しており、Sが本件土地に抵当権設定登記を有するから、請求原因を満たす。
(2)これに対しSは、X Y間の売買契約により、Xが本件土地の所有権を喪失したと反論することが考えられる。
(3)これに対しXは、売買契約の解除(541条本文)を主張し、遡及してXが本件土地を所有していたと再反論することが考えられる。
(4)これに対しSは、自身が545条1項但書の「第三者」にあたり、再反論は認められないと再々反論することが考えられる。
545条1項但書の趣旨は、解除の遡及効を制限し第三者を保護する点にある。したがって、「第三者」(545条1項但書)とは、当事者及び包括承継人以外の者で、解除された法律行為を前提に、解除前に新たに独立の法的利害関係を有するに至った者をいうと解するべきである。ここで、解除権者に何ら帰責性がない以上、権利保護要件として登記を要すると考える。
本件では、XがYに対して、売買契約の解除を主張するよりもSは本件土地に抵当権設定登記をしている。したがって、Sは、本件契約の当事者及び包括承継人以外の者で、本件契約の存在を前提に、解除前に本件土地について新たに独立の法的利害関係を有するに至った者である。また、Sは登記を有している。
したがって、Sは「第三者」に当たるからSの再々反論は認められる。
(5)よってXのSに対する請求は認められない。
第3 設問3
1 設問1(1)の場合
(1)XはZに対し、本件土地の所有権を主張できるか。Xは本件土地をもと所有しており、Zは本件土地の所有権移転登記を有しているから、請求原因を満たしている。
(2)これに対しZは、本件売買契約によってXは本件土地の所有権を喪失していると反論することが考えられる。
(3)これに対しXは、本件売買契約が詐欺取消し(96条1項)されたとして、自身が本件土地を所有していたと再反論することが考えられる。
(4)これに対しZは、①Zが96条3項の「第三者」に当たる、または②Zが177条 の「第三者」にあたり、Xは本件土地の所有権をZに対抗できないため、Xの請求は認められないと再々反論することが考えられる。
ア ①について
上述の通り96条3項の「第三者」は取消の前に法的利害関係を有するに至った者に限定される。Zは、本件売買契約取消後に本件土地について利害関係を有するに至っているから、「第三者」に当たらず、①の再々反論は認められない。
イ ②について
177条の趣旨は、物権変動の公示により、不動産取引の動的安全を保護する点にある。したがって、「第三者」とは、当事者及びその包括承継人以外の者で登記の欠缺を主張する正当な理由がある者であると解する。そして、取消の効果は遡及効であるところ、実質的には取消権者への復帰的物権変動と見ることができるから、取消の相手方を起点とする二重譲渡類似の関係にある。したがって、取消権者と取消後の第三者は対抗関係にあり、取消後の第三者は「第三者」(177条)にあたる。
Zは、売買契約の取消後に本件土地の所有権移転登記を得た者であるから、当事者及び包括承継人以外の者で、登記の欠缺を主張する正当な理由を有する者といえ、「第三者」にあたる。
したがって、②の再々反論は認められる。
(5)よって、Xの主張は認められない。
2 設問1(2)の場合
(1)XはZに対し、本件土地の所有権を主張できるか。Xは本件土地をもと所有しており、Zは本件土地の所有権移転登記を有しているから、請求原因を満たしている。
(2)これに対しZは、本件売買契約によってXは本件土地の所有権を喪失していると反論することが考えられる。
(3)これに対しXは、上記売買契約について解除(541条本文)を主張し、遡及してXが本件土地を所有していたと再反論することが考えられる。
(4)これに対しZは、①Zが545条1項但書の「第三者」にあたる、または、②Zが177条の「第三者」にあたり、Xは本件土地の所有権をZに対抗できないため、Xの請求は認められないと再々反論することが考えられる。
ア ①について
第三者」(545条1項但書)とは、上述のとおり解除前に利害関係を有する に至った者に限定される。Zは、売買契約の解除後に本件土地について利害関係を有するに至っているから「第三者」にあたらず①の再々反論は認められない。
イ ②について
上記の通り、解除の効果は遡及効であるから、実質的には解除権者への復帰的物権変動を観念することができ、解除の相手方を起点とする二重譲渡類似の関係にある。したがって、解除権者と解除後の第三者は対抗関係に立ち、解除後の第三者は「第三者」(177条)にあたる。
Zは、売買契約の解除後に本件土地について利害関係を有するに至っているから、当事者及びその包括承継人以外の者でXの本件土地の登記の欠缺を主張する正当な理由を有する者といえ、「第三者」にあたる。
したがって、②の再々反論は認められる。
(5)よって、Xの主張は認められない。
刑法
第1 Vに対する行為
1 甲が手製拳銃で弾丸を一発発射し、その弾丸をVに貫通させて右側胸部貫通銃創の傷害を負わせ、拳銃を奪って逃走した行為に、強盗殺人未遂罪(236条1項、240条後段、243条)が成立しないか。
(1)「暴行」とは、相手方の反抗を抑圧するに足りる程度の有形力の行使をいうところ、甲は、手製拳銃の弾丸をVに命中させ、右側胸部貫通銃創という重大な傷害結果を生じさせているため、相手方の反抗を抑圧するに足りる程度の有形力の行使が認められる。よって、甲のVに対する行為は「暴行」にあたる。
(2)甲は、倒れているVから拳銃を奪っており、「他人の財物」を「強取」した
といえる。したがって、甲は「強盗」(236条1項)にあたる。
(3)ここで、240条の法定刑が重く規定されているのは、同条の第1次的な保護法益が人の生命・身体の安全にあるためである。そこで、同罪の既遂・未遂の判断は、死亡結果の発生の有無によって判断すべきである。
本件では、Vは一命を取り留めており、死亡結果は発生していないから、甲には強盗殺人未遂罪が成立しうるにとどまる。
(4)甲は上記構成要件について認識・認容があり故意(38条1項本文)が認められる。
2 以上より、甲の上記行為に①Vに対する強盗殺人未遂罪が成立する。
第2 Wに対する行為
1 甲が、手製拳銃で弾丸を一発発射し、Wに腹部貫通銃創の傷害を負わせた行為について、強盗殺人未遂罪が成立しないか。
(1)甲の行為は上述のとおり、強盗殺人未遂罪の客観的構成要件を満たす。
(2)もっとも、甲は周囲に人影が見えない状態になったとみるやVに対する上記行為を行っており、Wの存在を認識していなかったと思われる。そこで、甲にWに対する強盗殺人未遂罪の故意(38条1項本文)が認められず、強盗殺人未遂罪の成立が否定されないか。
ア 故意責任の本質は、犯罪事実の認識・認容によって、規範に直面し、反対動機が形成できるのに、あえて犯罪に及んだことに対する道義的非難に求められる。そして、規範は構成要件の形で提示される以上、行為者の認識した犯罪事実と現実に発生した犯罪事実とが同一の構成要件内で符合していれば、行為者は規範に直面し、反対動機の形成が可能である。
そのため、行為者の認識した犯罪事実と現実に発生した犯罪事実とが同一の構成要件の範囲内で符合していれば、故意が認められると考えられる。
そして、故意の対象を構成要件内で抽象化する以上、故意の個数は問題にならないと解する。
イ 甲は、Vを殺害した上で拳銃を奪おうとする認識がある以上、その認識と現実に発生した犯罪事実がおよそ強盗殺人罪という同一の構成要件の範囲内で符合している。そのため、甲にはWに対する強盗殺人罪の故意が認められる。
(3)よって、上記行為について、②Wに対する強盗殺人未遂罪が成立する。
第3 罪数
上述のとおり、甲の行為に①、②の犯罪が成立し、これらは社会通念上一個の行為であるため、観念的競合(54条1項前段)となる。
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