be a lawyer

日大ロー令和6年度(2期)入試解答例

2025年12月2日

参考答案

憲法

1 A大学当局が教室の使用不許可決定をしたことは、学生の学問の自由を侵害し、憲法23条に違反する疑いがある。

2(1) まず、平和問題研究会を構成する学生側に学問の自由が保障されているのか問題となる。

この点について、東大ポポロ事件判決によると、一般国民よりも厚く学問の自由の保障を受け、自治の教授主体となるのは、教授等であるところ、学生に認められる学問の自由と大学に施設の利用は、大学の教授その他の研究者の有する特別な学問の自由と自治の効果としてであるから、学生の集会が真に学問的な研究またはその結果の発表のためのものでなく、実社会の政治的社会活動に当たる行為をする場合には、大学の有する特別の学問の自由と自治は享受しないとしている。もっとも、上記判決は、学生運動が盛んであった時代であり、大学内の秩序維持の観点から、学生と大学の地位を対等とするべきではないと配慮があった上、現代社会においては、真に学問的な研究と実社会の政治的社会活動の区別は必ずしも明確ではないから、同判例の射程は及ばないと解するべきである。したがって、現代社会においては、学生側にも学問の自由が憲法上、広く保障されると解する。

したがって、学生にも学問の自由が保障されているといえる。

 (2) 次に、教室の使用不許可決定により、平和問題研究会は、Bによる講演会を開催できなくなっていることから、学問の自由が制約されているといえる。

 (3) 次に違憲審査基準について、大学側は、大学の自治に基づき、学内の事項について広い裁量権を有することから、緩やかな審査基準で違憲性を審査するべきであるという見解がありうる。もっとも、大学の自治は、大学における学問の自由を保障するための制度的保障である。したがって、制度的保障である大学の自治と大学における学問の自由が衝突する場面において、制度的保障をもって、大学における学問の自由を弱めることは背理であるから、緩やかな審査基準ではなく、より厳格に審査するべきである。

したがって、大学における学問の自由を認めることで、大学の自治を侵害することが具体的に予見される場合に限って、制約を正当化できると解する。

 3 本件では、A大学当局は、Bが、C国から武力攻撃を受け抵抗を続けているD国に対し、これ以上の犠牲者を生まないためにも即時停戦が必要であると呼びかける主張を各方面で精力的に行っていたことから、Bによる講演を認めると、D国の徹底抗戦を支持している人々の心情を害することになりかねないと危惧し、Bによる講演に教室の使用不許可決定をしている。もっとも、A大学当局の危惧は、客観的根拠に基づかない観念的なものに過ぎず、大学の自治が侵害されることについて具体的に予見される場合であるとはいえない。

4 以上より、A大学当局が教室の使用不許可決定をしたことは、学生の学問の自由を侵害し、憲法23条に違反する。

民法

第1 設問1

 1 本件請求は、所有権に基づく返還請求権としての動産引渡請求権であり、その要件は、Xが本件パソコンの所有権を有すること及びYが本件パソコンを占有していることである。Xは、令和3年6月1日、Aから本件パソコンを購入していることから、その所有権を有しており、Yが本件パソコンを占有している。そして、Xは、Aから占有改定(183条)による引渡しも受けており、対抗要件も備えている(178条)。したがって、Yは、無権利者となっていたAから、本件パソコンを譲り受けたに過ぎず、本件請求は認められると思える。

 2(1) 次に、Yとしては、本件パソコンを即時取得したとして(192条)、所有権喪失の抗弁を主張することが考えられる。

(2) 本件では、AY間で、同月20日に、本件パソコンを目的物とする売買契約(555条)が締結されており、「取引行為によって」の要件を満たす。

また、同年7月1日に、本件パソコンの現実の引渡しを受けており(182条1項)、「動産の占有を始めた」といえる。

さらに、「平穏」、「公然」、「善意」は186条1項に、「過失がない」ことは188条に推定される。そして、AY間の契約時点において、Yは、本件パソコンがAの所有だと思っており、「善意」であったところ、その後、現実の引渡しを受けた時点において、悪意に転じたといった事情もなく、上記推定は覆らない。

(3) 以上より、Yは、本件パソコンを即時取得しており、Yの抗弁は認められる。

3 以上より、本件請求は認められない。

第2 設問2

1 設問1と同様、原則として、本件パソコンの所有権はXに帰属すると思われるところ、無権利者となったAから本件パソコンを譲り受けたYが本件パソコンを即時取得しているか、特に占有改定による引渡しであっても、「動産の占有を始めた」といえるか、問題となる。なお、その他の要件については、設問1と同様、問題なく認められる。

2 「動産の占有を始めた」の要件は、真の権利者と動産取引における外観を信頼した者の保護との調整を図るための規定であることから、一般外観上従来の占有状態に変更を生じるような形態で動産の占有を開始する必要がある。そして、占有改定の場合、当該動産について物理的な移動はなく、一般外観上来の占有状態に変更を生じるような形態とはいえず、「動産の占有を始めた」に含まれないと解する。

3 本件において、Yは、Aから本件パソコンを実際にYに引き渡すまでの間、これをAが使用することに合意するという占有改定により本件パソコンの引渡しを受けているが、上述のとおり、占有改定は、「動産の占有を始めた」に含まれず、Yは、本件パソコンを即時取得していない。

4 以上より、本件パソコンの所有権は、原則どおり、Xに帰属する。

第3 設問3

1 Zは、所有権に基づく返還請求権としての動産引渡請求権として、Xに対し、本件パソコンの引渡しを求めることが考えられる。

(1) それに対し、Xは、本件パソコンを即時取得したことによる所有権喪失の抗弁を主張する。

(2) 本件において、Xは、Aとの売買契約という「取引行為によって」、本件パソコンの現実の引渡しを受けていることから、「動産の占有を始めた」といえる。

また、「平穏」、「公然」、「善意」は186条1項に、「過失がない」ことは188条に推定され、それらを覆す事情もない。

 (3) 以上より、Xは本件パソコンを即時取得しており、Yの請求は認められない。

2 次に、Zは、Xが本件パソコンを即時取得していることを前提に、193条に基づく盗品の回復請求をすることが考えられる。

 (1) 本件において、Xが本件パソコンを即時取得していることから、「前条の場合」といえ、本件パソコンは「盗品」である。そして、Zは、「被害者」であり、令和3年1月に本件パソコンが何者かによって盗まれ、現在は、令和4年2月であるから「盗難」「の時から二年間」の要件も満たす。

以上より、Zの請求は認められると思える。

(2) これに対し、194条に基づく代価弁償がない限り、請求には応じられない旨を主張する。

本件では、「占有者」Xは、中古パソコンの販売業者Aという「その物と同種の物を販売する商人から」、「善意で買い受け」ている。

(3) 以上より、Zは、Xに「支払った代価を弁償」する限りにおいて、請求が認められることとなる。

刑法

第1 有印私文書偽造罪(159条1項)の成否について

1 Xが虚偽の情報を記載した履歴書を作成した行為について、有印私文書偽造罪が成立しないか。

2(1) まず、「事実証明に関する文書」とは、実社会生活において交渉を要する事実を証明する文書をいう。

本件において、履歴書はこれまでの自己の経歴を第三者に対して証明するための文書であることから、実社会生活において交渉を要する事実を証明する文書といえ、「事実証明に関する文書」といえる。

(2) 次に、Xは、架空名義を用いているものの、履歴書に自己の顔写真を用いており、履歴書から生ずる責任を免れる意図はないところ、「偽造し」たといえるか。

 文書偽造罪の保護法益は、文書に対する公共の信頼を保護することにあるから、「偽造」とは、文書の名義人以外の者が権限なく、その名義を用いて文書を作成すること、すなわち、文書の名義人と作成者の人格的同一性を偽ることをいう。そして、名義人とは、文書から読み取れる意思・観念の主体をいい、作成者とは、文書に意思・観念を表示させたものをいう。

本件において、履歴書の名義人は、平成6年10月2日を生年月日とし、B県C市に現住所を有する甲野太郎である。一方、作成者は、平成5年2月17日を生年月日とし、殺人事件に関与した嫌疑で指名手配を受け、A県内に潜伏しているXである。したがって、たとえ、履歴書に自己の顔写真を用いており、履歴書から生ずる責任を免れる意図はないとしても、「偽造し」たといえる。

(3) 次に、Xは「甲野」と名義人の苗字を刻した印鑑を押捺していることから、「他人の印章…を使用して」といえる。

(4) 次に、Xは、虚偽の情報を記載した履歴書を用いて就職しようとしていたことから、「行使の目的」を有していたといえる。

3 以上より、上記Xの行為について、有印私文書偽造罪が成立する。

第2 偽造私文書等行使罪(161条1項)の成否について

Xは、乙ホテルにおいて、上記履歴書を乙ホテル支配人丙に手渡した上で面接を受けていることから、偽造文書の内容を相手方に認識させ、または認識可能な状態に置いているから、「行使した」といえる。

以上より、上記Xの行為について、偽造私文書等行使罪が成立する。

第3 罪数

Xは、有印私文書偽造罪と同行使罪の罪責を負い、両罪は牽連犯となる(54条1項後段)。

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