中央大学法科大学院 2025年 憲法 参考答案
第1 主張①
1 Bの主張①は、本件改正案14条が、地方公共団体の条例制定権を「法律の範囲内」に限定する憲法94条に反するというものである。
地方公共団体は、その事務について条例を制定することができるものの(憲法94条)、その内容は国の法令に抵触するものであってはならない。
そこで、本件改正案14条が地方自治法の許容する範囲を超えるものではないかが問題となる。
2 条例が国の法令に違反するか否かについては、単に両者の規定文言や対象事項を比較するのではなく、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾抵触があるかによって判断すべきである。具体的には、国の法令と条例が同一事項を規律している場合であっても、条例が国の法令とは異なる目的による規制を行い、その適用によって国の法令の目的を阻害しない場合や、両者が同一目的であっても国の法令が地域の実情に応じた別段の規制を許容している場合には、条例は国の法令に反しないと解する(徳島市公安条例事件)。
3 地方自治法115条1項との関係
地方自治法115条1項が地方議会の会議を原則として公開することを要求していることとの関係が問題となる。
地方議会は住民によって選出された議員によって構成され(憲法93条2項)、地方自治には住民自治の要請が含まれる。そのため、住民が議会における審議の状況を知り、市政について判断することは重要である。
この点からすれば、「公開」を広く捉え、単に住民が傍聴席で議事を見聞きできるだけでなく、撮影・録音等によって正確に情報を取得することまで保障する趣旨であると解する余地もある。
しかし、地方自治法115条1項は会議の「公開」を要求するにとどまり、その具体的方法として傍聴人による自由な撮影・録音まで保障するとは規定していない。
むしろ、同法104条、120条、129条、130条等が、議長に議場の秩序維持等に関する権限を与えていることからすれば、地方自治法は、議会の秩序を維持し適正な議事運営を確保するため、公開の具体的方法について各議会及び議長に一定の自律的判断を認めていると解される。
したがって、地方自治法115条1項が、傍聴人による撮影等を一律に許容することまで要求しているとはいえない。
4 地方自治法130条との関係
地方自治法130条は、傍聴人が公然と可否を表明したり騒ぎ立てたりするなど、議場の秩序を乱した場合に、議長がこれを制止し、退場させることなどを認めるものであり、直接的には議場における秩序維持を目的としている。
これに対し、本件改正案14条は、傍聴人が撮影した動画等を恣意的に切り取ってSNS等に投稿することによって議員等への誹謗中傷が生じ、議員等の発言が萎縮することや、他の傍聴人の容貌等がSNS等に拡散され、住民が傍聴を差し控えることを防止しようとするものである。
したがって、地方自治法130条と本件改正案14条とはその規制目的が完全に同一とはいえない。
そして、撮影等を禁止したからといって、地方自治法が目的とする議会の秩序維持や円滑な議会運営が害されるわけではない。
さらに、地方議会にはその運営について一定の自律権が認められることを考慮すれば、地方自治法が撮影等に関して全国一律の規律を設け、地方公共団体による別段の規制を排除しているとも解し難い。
以上から、本件改正案14条と地方自治法との間に矛盾抵触があるとはいえず、本件改正案14条は「法律の範囲内」にある。
したがって、憲法94条に反しない。
第2 主張②
1 Bは、本件改正案14条本文が、傍聴人による撮影・録音等を原則として禁止していることが、憲法21条1項によって保障される情報摂取の自由を侵害すると主張する。
2 憲法21条1項が保障する表現の自由は、情報を発信する自由のみならず、その前提となる情報を受領・摂取する自由とも密接に関連する。レペタ事件は、様々な意見、知識、情報に接し、これを摂取する自由は、憲法21条1項の趣旨・目的から尊重されるべきであるとしている(レペタ事件)。
レペタ事件は裁判所における情報摂取が問題となったが、地方議会では住民を代表する議員が市政について審議・議決する場であり、その会議については地方自治法115条1項によって公開が原則とされている。そのため、傍聴人が議員等の発言を見聞きし、その内容を認識することは、住民が市政に関する情報を摂取するという点では裁判と同様の性質が認められ、重要な意義を有する。また、撮影や録音は、後に発言内容を正確に確認したり、記憶を補助したりする点で情報摂取に資するものである。
したがって、レペタ事件の射程が及び、地方議会における傍聴人が会議を撮影・録音する行為についても、情報摂取のための手段として、憲法21条1項により保障される。
3 本件改正案14条本文は、傍聴人による写真・動画の撮影及び録音を原則として禁止しているから、上記自由を制約するものである。
4 (1)権利の重要性
撮影・録音の自由は、情報を摂取するための一手段であって、憲法21条1項によって直接保障される典型的な表現行為そのものとは異なる。
レペタ事件判決も、法廷における筆記について、情報摂取のための補助的行為として尊重されるものの、憲法21条1項によって直接保障されるものではないとしている。
他方で、本件の対象は、地方自治法上公開が原則とされる地方議会である。また、地方議会における議員の発言等は、住民が市政について判断し、地方自治に参加するための基礎となる情報である。そのため、その情報を正確に取得するための撮影・録音には相応の重要性が認められる。
(2)制約の強度性
本件改正案14条は撮影・録音を原則として一律に禁止するものであり、権利制約は強度であるとも思える。
他方で、情報摂取の手段として写真・動画の撮影及び録音が禁じられているに過ぎないことからすれば、その他の手段によっても情報の摂取は可能であるため、権利制約が強度であるとはいえない。
(3)違憲審査基準
そこで、その合憲性については、規制目的が重要であり、規制手段が当該目的との間で実質的関連性を有するかによって判断すべきである。
5 あてはめ
(1)目的の重要性
本件改正案の目的は、傍聴人が撮影した動画等を恣意的に切り取りSNS等に投稿することによって、議員等に対する誹謗中傷が生じ、その発言が萎縮することを防止するとともに、他の傍聴人の容貌等がインターネット上に拡散されることによるプライバシー侵害や傍聴の差控えを防止することにある。
自由で十分な議論が行われる環境を確保することは議会の適正な運営に不可欠である。また、住民が安心して議会を傍聴できる環境を確保することも会議公開の実効性を確保するために重要である。
したがって、規制目的には重要性が認められる。
(2)手段適合性
確かに「公益上特に必要と認める場合」と認められる場合は過度に狭く解釈される可能性があり、規制範囲が不明確となる恐れがあることからすれば、本件規制は行き過ぎたものとも思える。
しかし、傍聴人による撮影そのものを禁止すれば、傍聴人が撮影した動画や写真をSNS等に投稿することを防止できるため、上記弊害を防止することに一定の効果があるため、関連性は認められる。
また、上記の「公益上特に必要と認める場合」は、議会秩序維持の点から解釈することができるため、過度に不明確なものとはいえず、規制範囲は明確である。さらに、議会秩序を議員等に対する萎縮効果は、SNS等への投稿後に削除等を行ったとしても既に生じてしまうため、事後的な対応のみでは十分とはいえないため、一律に議会における撮影・録音を禁止する必要性が認められる。
さらに、本件改正案によって禁止されるのは撮影・録音という情報摂取の一手段にすぎず、傍聴人が議場に入り、自ら見聞きして議会の情報を取得すること自体は禁止されていない。したがって、改正案の規制は相当性が認められる。
6 よって、本件改正案14条本文は目的との実質的関連性が認められるため、憲法21条1項に反せず、Bの主張②は認められない。
中央大学法科大学院 2025年 民法 参考答案
第1 設問1
1 請求の根拠
AはCに対し、所有権に基づく返還請求権として、乙建物を収去して甲土地を明け渡すよう請求している。かかる請求が認められるためには、①Aが甲土地を所有していること、②Cが甲土地を占有していることが必要である。
Cは甲土地上に自己所有の乙建物を所有しているから、甲土地を占有しているといえる(②充足)。
そこで、Aが甲土地の所有権を有し、かつ、CがAに対抗し得る占有権原を有していないかを検討する。
2 Aは、2023年1月10日、Bとの間で甲土地を4000万円で売却する旨の売買契約(民法555条)を締結し、その後、Bに対する所有権移転登記もされている。
もっとも、Bは残代金について3か月分の分割払いを怠った。分割払いが滞った場合には残債務全額について期限の利益を失うとの約定があるから、Bの残代金債務は履行期にある。
そして、Aは、2024年1月16日、Bに対して1か月以内に残債務を弁済するよう催告したにもかかわらず、Bはこれを履行しなかった。そのため、Aは同年2月19日に解除の意思表示をした。
したがって、債務不履行及び相当期間を定めた催告が認められ、541条本文に基づく債務不履行解除は有効である。
そして、解除には遡及効が認められると解するから、AB間では、解除によってBへの所有権移転の効果は遡及的に消滅し、甲土地の所有権はAに復帰する(①充足、直接効果説)。
以上からすれば、AのCに対する請求は認められるとも思える。
3 これに対して、Cは545条1項ただし書の「第三者」に当たるため、AはAB間の売買契約の解除をCに対抗できないと主張する。かかる反論は認められるか。
同項ただし書の趣旨は、解除に遡及効を認めることによって、解除前に解除された契約を基礎として新たな法律関係に入った第三者の権利が害されることを防止し、取引の安全を図る点にある。したがって、「第三者」とは、解除された契約から生じた法律効果を基礎として、解除までに新たな権利を取得した者をいうと解する。
Cは、AB間の売買契約によって甲土地の所有権を取得したBから、同契約の解除前に甲土地を賃借している。そのため、AB間の売買契約から生じた法律効果を基礎として新たな権利を取得した者である。
したがって、Cは545条1項ただし書の「第三者」に当たる。
4 もっとも、545条1項ただし書によって保護されるためには、第三者がその権利について対抗要件を具備している必要があると解する。解除当事者との利益調整において、対抗要件すら備えていない第三者まで保護する必要はないからである。
Cは、建物所有を目的として甲土地を賃借しているから、その賃借権は借地借家法上の借地権に当たる。
そして、借地権については、その登記がなくても、借地権者が土地上に登記された建物を所有するときは、これを第三者に対抗することができる(借地借家法10条1項)。
Cは、2023年6月に甲土地上に乙建物を完成させ、自己名義の所有権保存登記をしている。そのため、Cは、AがAB間の売買契約を解除した2024年2月19日より前に借地権の対抗要件を具備していた。
したがって、CはAに対して甲土地の賃借権を対抗することができる。
以上から、Aは甲土地の所有権を有するが、CはAに対抗することのできる賃借権を有しており、甲土地を占有する正当な権原を有する。
よって、AのCに対する乙建物収去・甲土地明渡請求は認められない。
第2 設問2
1 問題の所在
AはCに対し、2024年4月分の賃料25万円の支払を請求している。
これに対してCは、甲土地の賃貸人はあくまでBであり、Aには賃料債権が帰属しないと主張している。
そこで、AB間の売買契約の解除によって甲土地の所有権がAに復帰したことに伴い、BC間の賃貸借契約における賃貸人たる地位もBからAに移転するかが問題となる。
2 解除と甲土地所有権の帰属
前述のとおり、AB間の売買契約はAによって有効に解除されているから、甲土地の所有権はAに復帰する。
この点、Cは545条1項ただし書の「第三者」として保護されるが、同項ただし書は、解除の遡及効によってCの取得した賃借権が害されることを防止するものにすぎない。
Cが取得した権利は甲土地の所有権ではなく賃借権である以上、Cが同項ただし書によって保護されることは、甲土地の所有権がBからAに復帰することまで妨げるものではない。
したがって、甲土地の所有権はAに帰属する。
3 賃貸人たる地位の移転
では、甲土地の所有権がAに復帰したことに伴い、賃貸人たる地位もBからAに移転するか。
605条の2第1項は、不動産の賃貸借が対抗要件を備えている場合、その不動産が譲渡されたときは、賃貸人たる地位が譲受人に移転すると定めている。
これは、賃貸借の目的物の所有権を有する者と賃貸人が分離すると法律関係が複雑になることから、対抗力ある賃貸借については、目的物の所有権の移転に伴って賃貸人たる地位も当然に新所有者へ移転させる趣旨である。
本件は典型的な売買による「譲渡」ではなく、売買契約の解除によって甲土地の所有権がBからAに復帰した場合である。
しかし、対抗力ある賃貸借の目的不動産について所有権がBからAへ移転する点では通常の譲渡と異ならず、所有者と賃貸人を一致させるという605条の2第1項の趣旨も同様に妥当する。
したがって、同項が適用ないし類推適用され、甲土地の所有権のAへの復帰に伴って、賃貸人たる地位もBからAに移転すると解する。
4 Aは賃貸人たる地位の移転をCに対抗できるか
もっとも、605条の2第3項は、賃貸人たる地位の移転を賃借人に対抗するためには、譲受人が不動産について所有権移転登記をすることを要するとしている。
これは、賃借人にとって誰が賃貸人であるかは賃料の支払先等を決定する上で重要であるため、登記によって賃貸人を明確にする趣旨である。
本件では、2024年3月11日、AからBへの所有権移転登記が抹消され、登記上もAが甲土地の所有者となっている。
解除による所有権復帰の場合には、Bへの所有権移転登記を抹消することが605条の2第3項の要求する登記に相当すると解される。
したがって、Aは、賃貸人たる地位が自己に移転したことをCに対抗することができる。
5 4月分賃料債権の帰属
以上から、遅くとも2024年3月11日の抹消登記によって、AはCに対して賃貸人たる地位の移転を対抗できる。
そして、本件で請求されているのは、その後に発生する2024年4月分の賃料25万円であるから、同賃料債権は新たな賃貸人であるAに帰属する。
したがって、AはCに対して2024年4月分の賃料25万円の支払を請求することができる。
第3 結論
設問1について、Cは解除前に借地借家法10条1項の対抗要件を具備しており、545条1項ただし書によってAに対して甲土地の賃借権を対抗できる。そのため、Aの乙建物収去・甲土地明渡請求は認められない。
設問2について、AB間の売買契約の解除によって甲土地の所有権がAに復帰するとともに、605条の2第1項により賃貸人たる地位もBからAに移転する。そして、Aは2024年3月11日にBへの所有権移転登記を抹消しているため、同条3項により賃貸人たる地位の移転をCに対抗できる。
したがって、AのCに対する2024年4月分の賃料25万円の支払請求は認められる。