【2026年ロースクール入試】中央大学 刑法 参考答案
2025年9月1日
お知らせ
2026年中央大学ロースクール入試 刑法 参考答案
第1 丙の罪責について
1 Aの身体を突いた行為(第一行為)と、Aを崖から海中に投棄した行為(第二行為)は、故意の内容が大きく異なるから、各行為を分けて論ずるべきである。
2 第一行為に殺人罪(刑法(以下法令名略)199条)が成立するか。
(1)第一行為後にAは溺死しているから、死亡結果は発生している。
(2)では因果関係は認められるか。本件では、第一行為の後に丙がAを海中に投棄したことによってAの直接の死因を形成しているため問題となる。
ア 確かに本件では、結果発生の直接的な原因が介在事情にあり、かつ、介在事情が実行行為によって直接もたらされたものとは言えない。もっとも、介在事情によって結果が発生する事態が実行行為の危険性に包摂されている場合、具体的には、①行為当時の客観的事情から当該介在事情が発生する危険性が認められる状況において、②当該事情が介在すれば高度の蓋然性を持って結果が発生するような危険な状況を実行行為が設定したものと評価される場合には、なお結果は実行行為に内在する危険性が現実化したものと認められる。
イ 本件のように、殺人を意図する者が、被害者が死亡したと誤信して、海中に被害者を投棄することはありうるから、第二行為が発生する危険性は認められる(①)。また、意識を失っている人を海中に突き落とせば高度の蓋然性を持って死亡結果が発生するのであるから高度の蓋然性を持って結果が発生するような危険な状況を実行行為が設定したものと認められる(②)。
ウ よって、因果関係は認められる。
(3)Aの死亡結果について、丙の認識と実際の因果経過が異なる。もっとも、どちらも殺人罪という同一構成要件内で付合するものであるから、故意は阻却されない。
(4)以上より、第一行為に殺人罪が成立する。
3 第二行為は、殺人罪の客観的構成要件を充足するものの、丙は死体を遺棄する意思を有していたに過ぎず、殺人の故意を有していたものではないから、殺人罪は成立しない。また、客体であるAは死亡していなかったのであるから、「死体」を「遺棄」したとはいえず、死体遺棄罪(190条)は成立しない。よって、第二行為には過失致死罪(210条)が成立するにとどまる。
4 以上より、丙の各行為には、殺人罪及び過失致死罪が成立し、後者は前者に吸収される。丙はかかる罪責を負う。
第2 甲の罪責について
1 甲が丙に殺害を依頼した行為にいかなる罪が成立するか。
2 2項強盗殺人罪の共謀共同正犯(60条、240条、236条2項)について
(1)甲は実行行為を分担していない。もっとも、①共謀②共謀に基づく実行③正犯意思があれば、共謀共同正犯は成立する。
(2)2項強盗の「暴行又は脅迫」の有無については、具体的かつ確実な財産上の利益移転に向けられているか否かで判断する。本件では、Aを殺害すれば甲は推定相続人として相続財産を手にする可能性はある。もっとも、被相続人の殺害が相続欠格事由(民法891条1号)になりうることや、Aが自己の財産を全て慈善団体に寄付する旨の遺言状を作成する相談を顧問弁護士としていたことからすれば、財産上の利益移転の具体性、確実性は認められないから、「暴行又は脅迫」は財産上不法の利益を得るために向けられたものとはいえない。
(3)したがって、2項強盗殺人罪の共謀共同正犯は成立しない。
3 殺人罪の共謀共同正犯(60条、199条)について
(1)共謀共同正犯が成立するか否かは、上述のとおり、①共謀②共謀に基づく実行③正犯意思があるかどうかで判断する。
(2)甲は、具体的な犯行計画を丙に話しているのであるから、共謀は認められる(①)。次に、丙は甲の犯行計画に従いAを殺害したのであるから、共謀に基づく実行も認められる(②)。さらに、甲は自らの意思でAの殺害を決意しているのであるから、正犯意思も認められる(③)。
(3)よって、甲には殺人罪の共謀共同正犯が成立する。
4 以上より、甲の上記行為には丙との殺人罪の共同共謀正犯(60条、199条)が成立し、甲はかかる罪責を負う。
第3 乙の罪責について
1 殺人罪の共謀共同正犯(60条、199条)について
(1)乙と丙は直接の共謀は認められないものの、順次的に共謀が認められれば殺人罪の共謀共同正犯が認められる。そこで、乙に正犯意思が認められるかが問題となる。
ア この点につき、正犯意思の有無は、利害関係の程度や役割の重要性等を考慮して判断する。
イ 本件についてこれをみると、確かに乙は甲に最初にAの殺害を提案しているのであるから、その役割は重要であると言える。しかし、実際にAの財産を甲が相続できるかは確実でなく、その後に甲と乙が生計を一にするか否かも確実でないから、利害関係の程度は小さい。
ウ よって、正犯意思は認められない。
(2)したがって、乙の行為に殺人罪の共謀共同正犯は成立しない。
2 殺人罪の教唆犯(61条1項、199条)について
本件において、甲は乙の提案によってAの殺害を決意しているのであるから、殺人 罪の教唆犯(61条、199条)が成立する。
3 以上より、乙の行為に殺人罪の教唆犯(61条、199条)が成立し、乙はかかる罪責を負う。

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