
第1 問題1
1 Aに対する行為について
- Xが、Aを後ろから押した行為は、不法な有形力のこうしといえ、暴行罪(208条)が成立する。
⑵ア Xが、Aを押した行為に、Aに対する傷害罪(204条)が成立しないか。
イ Xが、Aを押した行為は、不法な有形力の行使にあたり、「暴行」と言える。そして、Xの同行為によって、Aは、腰部に打撲傷という生理的機能に障害をおった。そのため、「傷害」を負ったと言える。
他方で、Aには、少なくとも暴行の故意(38条1項本文)が認められる。
したがって、Xの同行為は、傷害罪の構成要件に該当する。
ウ Xは、Aが、Xの顔面を殴りつけたことに対応して、同行為に及んでいる。そこで、Xの同行為に正当防衛(36条1項)が成立し、違法性が阻却されないか。 AのXに対する殴打は、Xの罵倒と暴行により生じている。そこで、自招行為といえ、正当防衛が成立する前提を欠くのではないか問題となる。
正当防衛の根拠は、急白不正の緊急状況下において、国家の公的機関による救済が期待できないため、例外的に私人に対抗行為を許容する点にある。そこで、侵害行為が自招行為に触発される一連一体の事態であり、侵害行為の程度が自招行為の程度を大きく超える場合には、反撃行為が正当と言えるため、正当防衛が成立する状況であると言える。
本件において、自招行為は、XがAを後ろから押した行為である。他方で、侵害行為は、Aが Xの顔面を殴りつけた行為である。同行為は、自招行為の後に直ちに行われている。また、場所も同じ駅である。そのため、時間的場所的に、接着しているといえ、一連一体の事態と言える。しかし、Aは、人の枢腰部たるXの顔面を殴っているが、Xも、Aを後ろから押している。人の死角から押すことは、受け身が取れずに重大な結果を招く危険がある。そのため、Aの行為は、枢要部への殴打と同程度の危険を有する。
したがって、正当防衛状況といえない。
エ よって、Xの Aに対する行為には、正当防衛が成立せず、同罪が、成立する。
2 Bに対する行為
⑴ XのB対する、同行為に、Bに対する傷害罪が成立しないか。
⑵ア Xの同行為は、「暴行」にあたり、Bは、同行為によって、右大腿部に打撲を負っている。そのため、傷害を負ったと言える。
イ Xには、暴行の故意が認められる。もっとも、 Xは、 Aを押すことを認識認容しており、Bを押すことを認識認容していない。そこで、Xの故意は、阻却されないか。
故意責任の本質は、反規範的人格態度に対する道義的非難にある。そして、主観面と客観面が同一の構成要件で重なり合う場合には、規範に直面し反対動機が形成されるといえ、故意が阻却されない。
本件では、客観的には、Xは、Bを押している。他方で、主観的には、Xは、Aを押している。これらは、「人」に対して暴行を行うと言う点で、暴行罪の構成要件の範囲内でかなりあっている。
そのため、Xの故意は、阻却されない。
ウ したがって、Xの行為は、傷害罪の構成要件に該当する。
⑶ Bは、Aに対して、何らの侵害行為を行っていいない。そのため、急白不正の侵害が認められず、正当防衛は成立しない。
⑷ 他方で、緊急避難が成立しないか(37条1項)。かかる緊急状況は、Xが自ら招いたものであるため、自招危難といえ、成立しないのではないか。
緊急避難の本質は、正対正である。そのため、正といえないような状況であれば緊急避難は成立しない。そして、かかる正対正の状況といえるか否かも侵害行為が自招行為に触発される一連一体の事態であり、侵害行為の程度が自招行為の程度を大きく超える場合かにより判断する。
本件では上記の通り、自招行為と侵害行為は同程度である。そのため、正対正の状況といえず、緊急避難は成立しない。
⑸ア もっとも、Xは、 Aの侵害を認識し、正当防衛が成立すると考えている。そこで、誤送防衛が成立し、責任故意が阻却されないか。
イ 故意責任の本質は、上記の通りである。そして、主観的に、正当防衛が成立すると認識している場合には、規範に直面することはなく、反対動機が形成できないため、責任故意が否定される。
ウ 本件では、Aが認識していた状況は、正当防衛と緊急避難の前提となる状況ではなかった。そのため、規範に直面したといえる。
エ したがって、誤送防衛が成立せず、責任故意が阻却されない。
⑸ よって、XのBに対する同行為に、同罪は、成立する。
3 上記より、Xには、Aに対する暴行罪と傷害罪が成立し、併合罪(45条)となる。また、Bに対する傷害罪とAに対する上記罪は、観念的競合(54条1項前段)となる。
第2 問題2
1 Xが、PCを持ち去った行為に、窃盗罪(235条)が成立しないか。
2⑴ 当該PCは、 Bが所有しているものであ理、かつ一定の財産的価値を有するため、「他人の財物」に当たる。
⑵ Xは、当該PCを自分のカバンに入れ、持ち去った行為は、「窃取」に当たるか。「窃取」とは、財物の占有者の意思に反し、自己又は第三者の占有に移すことを言う。そして、占有とは、排他的支配を言うところ、置き忘れていた当該PCに対して、Bの占有が及んでいたと言えるか。
占有の有無は、客観的事実及び主観的占有により判断する。
本件では、Bは、当該PCから15m離れた地点にいた。Xが、自動販売機から改札口手前に人がいる様子や改札に人が入って行く様子を観察することができていることから、見通しは良かった。そのため、Bは、カバンを認識し、占有を回復することができる状況であった。また、BがPCを置き忘れてから5分経過した後、思い出しており、BがPCを失念していた時間は短い。そのため、Bは、当該PCの占有を回復することが主観的にも可能であった。
したがって、Bの占有は、PCに及んでいると言え、 Xは、Bの占有するPCを窃取したと言える。
⑶ そして、Bは、PCを売る意図で当該行為に及んでいるため、不法領得の意思も認められる。
さらに、故意も認められる。
3 よって、 Xの同行為に、Bに対する窃盗罪が成立する。

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