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【2026年ロースクール入試】慶應大学 憲法 参考答案

第1   検討対象

Xが主張する、本検書籍の出版の差止めは、Yの表現の自由(憲法21条1項)を侵害し、認められないのではないか。

第2    Yの表現の自由について

Yが本件書籍を出版することは、発信するべき情報を自己で取捨選択するため、思想を外部に発信する行為であり、かつ自己実現の価値も有することから、「表現」に当たる。そのため、Yの本件書籍を出版する行為は、表現の自由として保障される。

第3   差止めの制約該当性について

差止めにより、本件書籍を出版することができなくなり、Yは、思想を外部に発信することができなくなる。そのため、差止めは、Yの表現の自由を制約している。

第4  差止めが認められる基準

1 当該差し止めが、検閲(21条2項)に当たるともおもえる。しかし、差止めの主体は、裁判所であり行政権が主体となっていない。したがって、差止めは、検閲にあたらない。

2 人格的価値を侵害されたものは、人格権を根拠として、将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差し止めを求めることができる。そして、差止めが認められるのは、①予想される侵害行為によって受ける被害者側の不利益と侵害行為を差し止めることによって受ける不利益を比較考慮し、①侵害行為が明らかに予測され、その侵害行為によって被害者が重大な損失を受けるおそれが亜あり、かつ②その被害の回復を事後的に測るのが不可能なないし著しく困難となる場合に、差止めが認められる(石に泳ぐ魚事件)。

第5 本件について

1⑴   Xの部落差別を受けない自由は、人格権の一つして認められるか。幸福追求権(憲法13条後段)としてXの同自由が認められるのは、人権のインフレを防止するため、同自由が人格つき生存に不可欠な場合である。
   部落差別の解消の推進に関する法律(以下「法」という。)1条より、「すべての国民に基本的人権の享受を保障する日本国憲法の理念に則り、部落差別は許されないものである」と定めている。そのように定める趣旨は、部落差別が、基本的人権を害するため、そのような差別を防止する点にある。そして、基本的人権が害されるならば、人格的生存も困難となる。そのため、部族差別を受けないことは、基本的人権の尊重に繋がり、人格的生存に不可欠であると言える。
 したがって、Xの部落差別を受けない自由は、人格権の一つとして認められる。

2⑴ Yは、部落差別に関する議論のためには、本件地域の場所の特定が必要であり、部落差別の問題を解消するためにも、本件地域の場所を公表すべきであるという考えのもと出版しようとしている。そのため、本件書籍の出版する行為は、自己実現の価値を有し重要な権利であると言える。そして、差止めは、思想市場の参入を防止するため、事前抑制にあたり、制約の程度も強い。
 そのため、Yの不利益は大きいとも思える。しかし、
 部落差別の対象であった地域を特定し議論の発展に繋げるのであれば、出版という形ではく、論文などの出版以外の方法で発表すれば十分である。また、Yは、自身でWebサイトも開設していのであるから、そのウェブサイトで、自身の研究結果である部落差別の対象とされた地域を載せることは可能である。そのため、差止めは、思想市場への参入を困難にするものではない。したがって、差止めは、表現の自由に対する制約として強度とはいえず、Yの不利益も大きくはない。

⑵ 他方で、現在でも、インターネット上の部落差別の件数は、増加傾向にある。部族差別は、結婚交際に関するもの、特定の者に対する表現行為、特定の者を対象としない表現行為に大別され、その中でも、特定のものに対する表現行為及び特定のものを対象としない表現行為については、インターネット上で行われるものが増加傾向にある。また、「全国部落調査」は、B5サイズ、全342頁、縦書き、手書きと扱いにくかったが、本件書籍は、A5サイズ、全200頁、横書き、活字、コンパクトと扱いやすい本である。そのような、扱いやすい本を出版することは、多くの者に部落差別について知る機会を与えることになる。そのため、部落差別を促進することにつながる危険がある。実際に、昭和50年に「全国部落地名監」と題する資料が、企業に販売され、200社以上の企業がこれを購入していた。企業は、これら資料を採用の際や従業員の身元調査等に利用していた。その後、法務省が「全国部落地名鑑」を処分していた。これらの事情から、本件書籍の出版により、多くの者が部落差別の存在と差別の対象である地域を知らせることとなり、かつ、本件書籍が利用され、インターネット上の増加傾向にある部落差別をより促進する危険性が高い。そして、部族差別を受ける場合、結婚、交際、表現行為や就職活動、営業活動等の観点で差別される危険性がある。本件書籍の出版を差止めることによって、部落差別を受け、または部落差別が促進されることを防止することができ、本件地域に居住するXの部落差別を受けない自由を保護することができるという大きな利益が生じる。
   したがって、差止めによって、Yが受ける不利益よりも、Xが受ける利益の方が大きい。

3   インターネット上で部落差別が促進されると、沈静化するまでに、長期間を要する。また、部族差別により、婚姻、交際、表現活動、就活等という人生の重大な時点で不利益を受ける可能性がある。これらの時点で、損害を受けた場合には、回復することは極めて困難である。なぜなら、婚姻・交際について、一度部落差別を受けた場合に、同一人と交際、婚姻することは困難であるし、就活でも一度不採用を受けた場合にその後採用されることは現実的にあり得ないためである。

4   以上より、①と②の基準を満たす。

第6  結論

よって、Xの主張は、認められる。

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