「共同正犯」の要件と答案作成のポイントとは?【平成25年予備試験刑法を徹底解説】
2025年6月10日
お知らせ
こんにちは、be a lawyer編集局です。
今回は平成25年予備試験の刑法問題を題材に、「共同正犯」の理解と答案作成のポイントについて解説します。特に、A答案とC答案を比較しながら、共同正犯の成立要件や共謀の射程をどのように論じれば合格答案を書くことができるのかを解説していきます。
本記事を読む前に、平成25年予備試験の刑法問題を実際に解いてみるか、問題文を読んでから読み進めると、より理解が深まるでしょう。
平成25年予備試験を取り上げた理由
本問では、共同正犯の成立要件と共謀の射程という、頻出かつ受験生の理解に差が出やすい論点が同時に問われています。
共同正犯は、令和6年、令和4年、令和3年、平成30年、平成28年、平成27年、平成24年で問われており、共謀の射程は令和4年で問われているため、いずれも出題頻度の高い重要テーマであると言えるでしょう。
受験生は周りに書き負けないよう入念に対策を行うことが重要です。
平成25年予備試験刑法の問題文
以下の事例に基づき,Vに現金50万円を振り込ませた行為及びD銀行E支店ATMコーナーにおいて,現金自動預払機から現金50万円を引き出そうとした行為について,甲,乙及び丙の罪責を論じなさい(特別法違反の点を除く 。)
1 甲は,友人である乙に誘われ,以下のような犯行を繰り返していた。
①乙は,犯行を行うための部屋,携帯電話並びに他人名義の預金口座の預金通帳,キャッシュカード及びその暗証番号情報を準備する。②乙は,犯行当日,甲に,その日の犯行に用いる他人名義の預金口座の口座番号や名義人名を連絡し,乙が雇った預金引出し役に,同口座のキャッシュカードを交付して暗証番号を教える。③甲は,乙の準備した部屋から,乙の準備した携帯電話を用いて電話会社発行の電話帳から抽出した相手に電話をかけ,その息子を装い,交通事故を起こして示談金を要求されているなどと嘘を言い,これを信じた相手に,その日乙が指定した預金口座に現金を振り込ませた後,振り込ませた金額を乙に連絡する。④乙は,振り込ませた金額を預金引出し役に連絡し,預金引出し役は,上記キャッシュカードを使って上記預金口座に振り込まれた現金を引き出し これを乙に手渡す ⑤引き出した現金の7割を乙が ,3割を甲がそれぞれ取得し,預金引出し役は,1万円の日当を乙から受け取る。
2 甲は,分け前が少ないことに不満を抱き,乙に無断で,自分で準備した他人名義の預金口座に上記同様の手段で現金を振り込ませて その全額を自分のものにしようと計画した そこで , 甲は,インターネットを通じて,他人であるAが既に開設していたA名義の預金口座の預金通帳,キャッシュカード及びその暗証番号情報を購入した。
3 某日,甲は,上記1の犯行を繰り返す合間に,上記2の計画に基づき,乙の準備した部屋から,乙の準備した携帯電話を用いて,上記電話帳から新たに抽出したV方に電話をかけ,Vに対し,その息子を装い 「母さん。俺だよ。どうしよう。俺,お酒を飲んで車を運転して,交 通事故を起こしちゃった。相手のAが 『示談金50万円をすぐに払わなければ事故のことを ,警察に言う 』って言うんだよ。警察に言われたら逮捕されてしまう。示談金を払えば逮捕さ れずに済む。母さん,頼む,助けてほしい 」などと嘘を言った。Vは,電話の相手が息子であり,50万円をAに払わなければ,息子が逮捕されてしまうと信じ,50万円をすぐに準備する旨答えた。甲は,Vに対し,上記A名義の預金口座の口座番号を教え,50万円をすぐに振り込んで上記携帯電話に連絡するように言った。Vは,自宅近くのB銀行C支店において,自己の所有する現金50万円を上記A名義の預金口座に振り込み 上記携帯電話に電話をかけ ,甲に振込みを済ませた旨連絡した。
4 上記振込みの1時間後,たまたまVに息子から電話があり,Vは,甲の言ったことが嘘であると気付き,警察に被害を申告した。警察の依頼により,上記振込みの3時間後,上記A名義の預金口座の取引の停止措置が講じられた。その時点で,Vが振り込んだ50万円は,同口座から引き出されていなかった。
5 甲は,上記振込みの2時間後,友人である丙に,上記2及び3の事情を明かした上,上記A名義の預金口座から現金50万円を引き出してくれれば報酬として5万円を払う旨持ちかけ,丙は,金欲しさからこれを引き受けた。甲は,丙に,上記A名義の預金口座のキャッシュカードを交付して暗証番号を教え,丙は,上記振込みの3時間10分後,現金50万円を引き出すため,D銀行E支店(支店長F)のATMコーナーにおいて,現金自動預払機に上記キャッシュカードを挿入して暗証番号を入力したが,既に同口座の取引の停止措置が講じられていたため,現金を引き出すことができなかった。なお,金融機関は,いずれも,預金取引に関する約款等において,預金口座の譲渡を禁止し,これを預金口座の取引停止事由としており,譲渡された預金口座を利用した取引に応じることはなく,甲,乙及び丙も,これを知っていた。
優秀答案とC答案の比較
【優秀(A)答案】
第1 Vに現金50万円を振り込ませた行為について
1 甲の罪責
⑴ 上記行為に詐欺罪が成立するかを検討する。
まず、現金を振り込ませる行為は刑法246条1項の詐欺罪なのか246条2項の詐欺罪なのかが問題となるが、246条1項の詐欺罪を検討する。なぜなら、現金を振り込ませれば、自由に現金を口座から引き出すことができ、自己の支配下に移したといえるからである。
⑵ア では甲がVに対して自己の示談金が必要であると偽って口座に50万円を振り込むよう依頼する行為は欺罔行為(「欺いて」)といえるか。
欺罔行為は錯誤に基づく処分行為に向けられたものであることが必要である。本件では、甲はVに対して息子であると偽りさらに事故の示談金が必要であると偽っている。さらに、示談金を支払わなければ自分が逮捕されてしまうとも告げている。そして、この示談金のために50万円を振り込んでくれるよう依頼している。そかかる事実を告げられればVは電話の相手が息子であり息子が示談金を必要としていると錯誤に陥る。そして、かかる錯誤に基づき甲の言う通り50万円を振り込んでしまう危険は大きい。よって、甲の行為はVの錯誤に基づく処分行為に向けられているといえる。
イ そして実際にVは錯誤に基づいてAの口座に50万円を振り込んでいる。そのため、「交付した」といえる。また、確かに50万円は甲の支配下に入ったことで50万円の交付が財産上の損害となる。
⑶ 以上より、甲の上記行為には詐欺罪が成立する。
2 乙の罪責
⑴ 上記の通り甲は詐欺罪の罪責を負うが、甲の上記行為について乙は共同正犯(60条)として罪責を負うか。
乙自身はVに対する行為について何ら実行行為を行っていないため、共謀共同正犯の肯否が問題となる。
⑵ そもそも共同正犯の処罰根拠は自己の行為及び共同者の行為を介して構成要件的結果を共同して惹起した点にある。そこで、①共犯者間の意思連絡、②正犯意思、③意思連絡に基づく共犯者一人による実行行為が認められれば共謀共同正犯が成立すると考える。
⑶ 本件において乙と甲はいわゆる振込め詐欺を繰り返していた。具体的な方法としては乙が犯行を行うための部屋、他人名義の預金口座の預金通帳、キャッシュカード等を準備し、その情報を甲に伝ええるとともに預金引き出し役にキャッシュカード等を交付する。そして、甲が適当に電話をかけた相手に息子と装い示談金であると嘘をついて現金を振り込ませた後、引出し役が現金を引き出すというものである。かかる犯行を繰り返していた甲と乙の間には振り込め詐欺についての意思連絡があるといえる(①)。また、この計画の発案者は乙であるとともに引出した現金の7割を乙が取得するという点、さらに乙の準備により犯行がスタートするという重大な役割を果たしているから、乙に正犯意思が認められる。
では、本件における甲の行為は甲乙の意思連絡に基づく実行行為といえるか。いわゆる共謀の射程が及ぶかが問題となる。共謀の射程は共謀と実行行為との間に因果関係がある場合に認められる。
確かに、甲のVに対する行為は、適当な相手に電話をかける点、息子であると装い示談金が必要であると偽る点、息子であると装い示談金が必要であると偽る点、他人名義の口座に振り込ませる点、預金の引出し役が存在する点において上記甲乙の意思連絡内容と合致する。しかし、本件において甲乙により繰り返されている限り振り込め詐欺は乙が預金通帳やキャッシュカードを準備しこれらの情報を甲に伝えることでスタートするものであるのに対して本件甲のVに対する行為については乙の知らぬ間に甲が勝手に行ったものである。発案者である乙に無断で行為が行われる場合その行為は発案者乙の意思に基づかないものであり、甲乙の意思連絡に基づくものとは評価しがたい。さらに、甲乙が繰り返してきた振込め詐欺の利益の配分については乙が7割、甲が3割というものであったのに対して、甲のVに対する詐欺については乙に取り分はない。また甲の行為の動機についてもこれまでの甲乙の計画による自らの取り分が少ないという点にあり、したがって、甲は乙と共に犯行に及ぶという意思はないといえる。以上からすると、本件における甲のVに対する行為については上記甲乙間の意思連絡との因果関係が認められない。よって、共謀の射程が否定され、意思連絡に基づく共犯者の一人による実行行為とはいえない(③)。
したがって、本件において乙に共謀共同正犯は成立せず、甲のVに対する詐欺罪について乙は何ら罪責を負わない。
【C答案】
第1 甲の罪責
1 Vに50万円を振り込ませた行為
⑴ 当該行為に、詐欺罪(246条1項)が成立するか。
⑵ まず、「欺」く行為とは、他人に虚偽を申し向けて財産的処分行為を促すような錯誤に陥れる行為をいう。本件で甲は、Vの息子を装い「示談金を支払えば逮捕されずに済む、助けて欲しい」とVに虚偽を申し向け、Vに息子が逮捕されると信じさせて、50万円をA名義の預金口座に振り込ませていることから、「欺」く行為を行ったといえる。
⑶ ア もっとも、50万円を振り込ませた時点をもって、1項詐欺罪の既遂を認められるか。詐欺罪の既遂時期が問題となる。
イ 詐欺罪は領得罪であり、財産の占有移転は、被害者から財産の占有が奪われ、他人又は第三者が自由に処分できる領域においたことをもって完成する。
ウ 本件で甲は、A名義の預金口座の預金通帳、キャッシュカード、及び暗証番号を取得しており、いつでも容易にどう名義の口座から現金を引き落とすことができる状態にあった。そうすると、50万円は甲が自由に処分できる領域に置かれたものといえる。
エ よって、VがA名義の口座に50万円を振り込んだ時点をもって、1項詐欺罪の既遂を認めることができる。
⑷ そして、甲は、Vを欺いて、50万円を詐取しようという故意を有しており、経済的用法に従い、自らの目的に用いるという不法領得の意思も有している。
⑸ 以上から、50万円を振り込ませた行為に詐欺罪(246条1項)が成立する。
(中略)
第2 乙の罪責
1 甲がVに50万円を振り込ませた行為
⑴ 乙に甲と詐欺罪の共同正犯が成立するか(60条、246条1項)。
⑵ア まず、両者の間に共謀が成立しているか。
イ 共謀が成立するためには、①特定の犯罪を遂行することを意思連絡し、かつ、②それを自己の犯罪として行うことを目的とすることを要する(正犯意思)。なぜならば、共同正犯が一部実行全部責任を負う理由は、複数の者が相互利用補充し合って特定犯罪を遂行する点にあるからである。
ウ 本件で乙は、甲が乙に無断でVから50万円を詐取しようとしていたことから、甲の行為に月認識・認容をしていないので、意思連絡がない。また、甲が50万円全額を自分のものとする目的でなされていたため、乙に正犯意思はない。
エ よって、乙と甲の詐欺罪の共同正犯は成立しない。
⑶ア 次に、幇助犯が成立するか(62条、246条1項)。
甲はVに対して乙が準備した携帯電話、犯行部屋を利用して、「欺」く行為を行っていることから、乙は甲を幇助した者といえる。
そして、乙の幇助により、正犯たる甲が実行行為を容易にできた関係がある。
イ 幇助犯の構成要件に該当するとしても、乙に故意犯を問うことができるか。共同正犯の意思で幇助行為を行った場合に、故意を認めることができるかにつき、共犯の錯誤が問題となる。
故意犯の本質は、規範をあえて乗り越えて犯行に及ぶ反規範的な人格的態度に対する非難にある。そして、規範は構成要件により付与されているから、構成要件の範囲が重なり合う限度で、反規範的人格的態度に対する非難を問いうる。よって、その限度で故意責任を問うことができる。
本件では、共同正犯・幇助犯とで犯行関与態様につき錯誤が生じている。しかしながら、両者は基本的構成要件である詐欺について、重なり合いがある。
ウ よって、共同正犯の意思で幇助行為を行った本件も、幇助行為につき故意責任を問える。
⑷ 以上により、乙には、詐欺罪の幇助犯が成立する(62条、246条1項)。
A答案とC答案の比較:共同正犯の理解に差が出た理由
A答案の評価ポイント

C答案の評価ポイント

共同正犯・共謀の射程の考え方とは?
1 共同正犯の処罰根拠とは?
⑴ 共同正犯を規定するのは、刑法60条ですから、60条を解釈して共同正犯の成立要件を考える必要があります。論証を示す際に、60条の文言を引用していない受験生が多いですが、それは要注意です。司法試験・予備試験は、いずれも実務家登用試験です。法律のプロは何より条文を大切にしています。したがって、受験生の皆様も、そのようなプロを志す者として、単に暗記した論証を吐き出すだけの答案ではなく、60条の趣旨から条文の文言を解釈した答案を書くようにしましょう。
⑵ 共同正犯の処罰根拠については、最決平成24年11月6日(以下、平成24年決定といいます)が参考になります。平成24年決定は、「被告人は、共謀加担前に乙らが既に生じさせていた傷害結果については、被告人の共謀及びそれに基づく実行がこれと因果関係を有することはないから、傷害罪の共同正犯としての責任を負うことはなく、共謀加担後の傷害を引き起こすに足りる暴行によってAらの傷害の発生に寄与したことについてのみ、傷害罪の共同正犯としての責任を負うと解するのが相当である。」とした上で、共謀前の犯罪結果については被告人とは因果関係がないことを理由として、共同正犯を否定しました。ご覧のように、平成24年決定は、承継的共同正犯に関する判例ではありますが、共同正犯についても当然同様のことがいえます。したがって、最高裁としては、共同正犯の処罰根拠を犯罪結果との因果性に求めているということがいえることになります。これは、いわゆる因果的共犯論の立場に近く、判例は因果的共犯論に類似した立場に立っていると整理できるでしょう。
したがって、皆様が答案を作成する際には、60条の処罰根拠を犯罪結果に対する因果性にある点を指摘する必要があることになります。
加えて、因果的共犯論は、狭義の共犯を含めた共犯一般に関する学説ですので、共同正犯が教唆犯や幇助犯に比して重く処罰される理由を示しておく必要があります。その理由とは、まさに正犯意思にあると考えられます。正犯意思の有無で、正犯性を問えるか否かが決まるわけですので、正犯意思の有無は実務的にも非常に大きな意味を有しています。法が正犯意思の有無で正犯性を問えるかどうかを区別したのは、他人の犯罪としてではなく自己の犯罪として犯罪を実現したこと、により強い非難を向けることができるからでしょう。
以上を総合しますと、60条、つまり共同正犯の処罰根拠とは、犯罪結果に対する因果性及び正犯意思の2つに求めることができることになります。
2 共同正犯の成立要件
⑴ 共同正犯の成立要件は、①共謀及び②共謀に基づく実行、と整理するのが一般的です(2要件説)。正犯意思を独立の要件とする立場(3要件説)もありますが、この点については皆様のお好きなようにしてもらえれば、構いません。大事なのは、2要件か3要件かという点ではなく、正犯意思を検討できているかどうかという点ですので、(少なくとも受験的な観点で言えば)要件の個数自体に大きな意味はないと考えるべきでしょう。
⑵ ①共謀とは、犯罪の共同遂行の合意をいうと考えられています。ただ、この定義では不十分ですので、少し修正する必要があります。
まず、犯罪の共同遂行の合意をするには、特定の犯罪に対する故意を有していることが不可欠です。したがって、共謀の成立には特定の犯罪に対する故意が不可欠の要件となります。加えて、犯罪の共同遂行の合意を形成するためには、自分たちの犯罪として共同遂行しようとする意思(正犯意思)をもっていることが必要となります。先述の通り、共同正犯の処罰根拠は正犯意思を有していることにありますから、正犯意思を有する者同士が特定の犯罪を共同遂行する旨の合意をしたからこそ、共謀があったと評価できることになります。これによって、教唆犯や幇助犯と区別するわけです。正犯意思を認定する際には、共犯者の関係性、動機、積極性(首謀者かどうか)、役割、客観的寄与、利益性等を考慮して、自己の犯罪として実現する意思があったか否かを認定することになります。
以上からすれば、共謀とは故意及び正犯意思を前提とした特定の犯罪を共同遂行する旨の合意をいうと定義することができます。
⑶ 次に、②共謀に基づく実行といえるためには、関与者の誰かが実行行為を行い、実行行為を分担しない者はそれに代わるものとして結果に対する重大な寄与を果たしたことが必要です。ここにいう、結果に対する重大な寄与とは、結果に対する因果的寄与のうち結果に対して与える影響が大きいものをいいます。
⑷ なお、共謀共同正犯も実行共同正犯もいずれも共同正犯であることに変わりはありませんので、成立要件は当然同じということになります。承継的共同正犯も同様です。受験生の答案を読んでいると、共同正犯の要件を①共同実行の意思と②共同実行の事実としている方を見かけます。
そのような要件で検討していても、要素が抜けていなければ問題ないですが、正犯意思の検討を落としている場合が多いですので、要件を定立する段階で正犯意思が要求されることを指摘しておくのが無難と考えられます。
3 共謀の射程の考え方とは?
⑴ 共謀の射程とは
共謀の射程とは、当初の共謀の内容と後に実行された行為の内容に食い違いがある場合に、両者の間に関連性を認めることができるかという問題をいいます。共謀の射程が肯定された場合には、当該実行行為は共謀に基づく実行と評価されることになります。したがって、共謀の射程という問題は、故意の存否とは別個の問題であり、故意が及ばない結果について客観的に犯罪結果を帰責できるか否か、すなわち、共同正犯の成立要件である②共謀に基づく実行の有無を判断する際に論ずべき客観的帰責の問題ということになります。
なお、共謀の射程は、当初の共謀が事後的に実行された行為に及んでいたかという問題ですので、新たな共謀が成立するわけではないという点に注意が必要です。
⑵ 共謀の射程の判断方法
共同の内容と実行の内容を比較し、因果性を否定するほどの重大な齟齬が認められる否かによって判断し、重大な食い違いがあれば共謀の射程の範囲外と考えるべきです。考慮要素としては、日時・場所、被害者、行為態様、保護法益、故意、動機・目的が挙げられ、これらの要素を総合的に考慮して因果性を否定するほどの重大な齟齬があるかを判断することになります。
そして、共同正犯における因果性判断の中心は心理的因果性ですので、共謀が実行担当者に与えた心理的影響に着目する必要があります。そのためには、実行を担当する者が当初の共謀に基づいて犯行の動機を形成してその動機を継続した状況下で実行行為を行ったといえるかの判断が決定的といえます。
⑶ 共謀の射程と共犯の錯誤との関係性
共謀の射程の範囲内と判断されると、実行担当者が行った行為・結果が共謀関与者全員に客観的に帰責されます。これにより、とりあえず客観的には共同正犯が成立することになります。しかし、主観的にも共同正犯として帰責されるためには、客観的な共同正犯に対応する主観的な故意が必要です。なぜなら、実行担当者が行った行為や結果について共謀関与者は認識していないからです。
したがって、共謀の射程は客観的に共同正犯が成立するかの問題であり、共犯の錯誤は主観的にも共同正犯が成立するかという問題であると整理することができます。
まとめ:共同正犯の本質を理解して答案で差をつけよう
共同正犯や共謀の射程といった刑法総論の基本論点は、ただ暗記しているだけでは通用しません。条文の趣旨、判例のロジック、論点の本質を理解し、自分の言葉で答案に落とし込む力が求められます。
今回取り上げたA答案とC答案の比較を通して、次のような学習ポイントを意識しましょう。
✔︎条文に立ち返って要件を定立すること
✔︎判例(平成24年決定)に基づく処罰根拠を押さえること
✔︎共謀の射程や共犯の錯誤を混同せず、それぞれの論点を適切に整理して論じること
これらを意識することで、共同正犯を問う問題で合格答案を書く力が飛躍的に向上します。