令和6年司法試験商法 再現答案(評価A・論文50位代)
2025年4月14日
お知らせ第一 設問1小問1
Dが会社法に基づいて本件臨時株主総会1の開催をやめるように求める手段はあるか。
1 今回甲社では筆頭株主の乙社が臨時株主総会を開催しようとしており、甲社監査役のDはこの開催に法令違反があるとして何らかの対応を行うことを考えている。しかし、会社法には監査役の行為として「取締役の行為の差止め」(会社法(以下法文略)385条1項)しかなく、株主の行為に対して差し止めを行うための直接の規定がない。そこで、「取締役の行為の差止め」の条文を類推適用できないかを検討する。
2 そもそも監査役による取締役の行為の差し止めが認められる趣旨は、取締役の行為の適法性を監査することによって、会社ひいては会社の株主や債権者の利益を保護することにある。そして、少数株主が株主総会を招集する場合(297条1項)は株主総会の招集権者となる点で取締役と同様の立場であり、この招集手続きに違法性がある場合は、取締役(会)が招集した場合と同じように監査役による差し止めの必要性があり、差し止めできないとなると事後的な手段しか取れず不都合である。そのため、「取締役の行為の差止め」の条文を類推適用することでDは乙社の株主総会招集の差し止めができる。
3 したがって、上記Dは手段を用いるべきである。
第二 設問1小問2
株主総会決議の取消しの訴えを提起した場合に、Eの立場から考えられる主張として何があるか。
1 まず、乙社が本件臨時株主総会1を開催する際には招集通知が入った封書に本件書面を同封したことについて利益供与(120条1項)があるとして、招集手続きの法令違反(831条1項1号)を主張することが考えられる。本件書面には「乙社提案の各議案のいずれにも賛成した方に後日1000円相当の商品券を贈呈する」旨が書かれており、これが利益供与に当たるかが問題となる。もっとも、利益供与の主体は「株式会社」であり、本件で利益を供与する主体の乙社は甲社の株主であるから、直接適用できない。そこで、利益供与の規定を類推適用できるかが問題となる。
利益供与の趣旨は株式会社の健全な経営を維持することと株主の議決権行使に不当な力が働くことを防止することにある。このうち、主体が株式会社以外の場合には前者の趣旨は妥当しないが、後者の趣旨は妥当する。そこで、「株式会社」以外が議決権の行使について株主に利益を供与する場合にも利益供与の規定を類推適用すべきである。そして、乙社は本件臨時株主総会1の株主の議決権の行使について1000円分の商品券という財産上の利益を供与していると言える。
しかし、形式的に利益供与に該当するすべての行為が株主総会の健全な開催を阻害するわけではなく、総会決議を活発にさせるために一定の利益供与を行うべき需要はあるのだから、すべてを法令違反とするとかえって不都合な場合がある。そこで、①正当な目的があり、②供与され得る利益が社会通念上許容される相当な範囲のものであるときは、許容されると考える。乙社が今回利益供与を行うのは、株主が乙社提案の議案すべてに賛成した場合であり、乙社が自らの意向に沿った決議内容にする目的で行なっていると考えられる。そうすると、利益を受け取るには本件各議題4つのすべてに賛成する必要があり、利益を欲しがって何も考えずに投票する株主が出てくることで不当に総会決議が歪められる可能性が高い。そうすると、本件での利益供与は乙社が決議結果を操作するために過度な条件を付して行なったものといえ、正当な目的があるとは言えない。そのため、許容範囲内ではない。また、このような利益供与は総会決議の結果を不当に歪める重大な違反のため、裁量棄却されない(831条2項)。
したがって、上記主張は認められる。
2 次に、Eとしては総会決議の方法が著しく不公正(831条1項3号)と主張することが考えられる。
本件では前述のような利益供与が行われているところ、出席した株主の議決権の数は例年より30%増加しており、議案に賛成したものの割合も例年より高いものであった。このような結果は乙社の上記利益供与に影響を受けた株主が、商品券を受け取るために参加・賛成したことが原因と考えられ、不当な目的による利益供与によって大きく影響が生じた決議は著しく不公正である。
したがって、上記主張は認められる。
第三 設問2
本件株式併合の効力を争う上で丙社はどのような手段をとれるか。
1 まず、株式併合そのものについて無効の訴えは存しない。しかし、株式併合は既存の株式を併合することで新たな株式割合を作り出すものだから、その点で新株発行と類似するといえ、新株発行無効の訴え(828条1項2号)を類推適用できると解するべきである。そして、無効事由は明文にないところ、無効対象の行為によって生み出されて法律関係を訴求的に無効にする強い効果があることから、その要件は厳格に解するべきである。そこで、行為についての手続き及び内容に重大な瑕疵がある場合に無効となる。
2 この点、本件株式併合は本件決議2によって行われているところ、右決議が特別利害関係を有する株主が議決権を行使したことによる著しく不当な決議であることから、手続きの内容に重大な瑕疵があるといえると考えられる(831条1項3号参照)。そして、特別利害関係を有する者とは、他の株主と共通しない特別な利益を獲得し、または不利益を免れる株主をいうところ、本件株式併合では300株を1株とする内容で、丙社を狙い撃ちして甲社株主から締め出すようなものとなっていた。この理由として、丙社の代表取締役のGが甲社を完全子会社として将来的に丁社と合併させようとしていたことから、甲社取締役のA、B、Cで丙社を追い出そうとしていたことがあった。そのため、本件株式併合によって、Aらは丙社と共通しない特別な利益を獲得する株式と言える。そして、これらによって丙社のみが締め出される結果となっており、これは著しく不当と言える。
したがって、丙社は上記主張をして本件株式併合の無効の訴えを提起すべきである。
以上