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令和5年司法試験刑事訴訟法再現答案(500位代合格者)【A評価】

2025年1月25日

司法試験

刑事訴訟法再現答案 【A評価】

設問1

捜査①

1、本件捜査①は、領置(法221条)として適法か。

(1) まず、本件ゴミ袋は「遺留した物」又は「任意に提出された物」に当たるか。

ア、無令状での押収として領置が認められた趣旨は、差押えと異なり占有取得に際し強制力を伴わない点にある。そのため、強制的に占有を排除する必要のない物は領置の対象になると解される。

そこで、「遺留した物」は、遺失物又は、所有者等が占有を放棄した物をいう。

 イ、本件では、甲はゴミ袋をゴミ置き場に投棄している。そして、甲の住むアパートでは、居住者に対して、ゴミを同ゴミ置き場に捨てるように指示し、大家がゴミ置き場のゴミの分別することを了承しているのであるから、ゴミ袋をゴミ置き場に投棄した時点で、占有について放棄しているから、「遺留した物」にあたる。

 もっとも、上記のように大家が最終的にゴミを出すのであるから、大家は保管者」にあたる。そして、大家はPに対してゴミ袋を提出していることから、「任意に提出された物」にもあたる。

 ウ、したがって、本件ゴミ袋は、「被疑者」たる甲が「遺留した物」又は、「任意に提出された物」といえる(221条)。

(2) もっとも、本件ゴミ袋について、他人にその内容を見られることはない期待を有する。そこで、捜査比例の見地から、「必要があるとき」として認められるか(198条1項)。

ア、「必要がある」か否かは、捜査の必要性、緊急性に照らして社会的相当であるといえるか否かによる。

イ、本件捜査の目的は、被害者であるVは病院に緊急搬送されていることから、詳細な情報を聞くことができていない。また、足跡以外に犯人の特定の証拠につながる証拠を発見することができていないことから、証拠保全の目的である。

そして、本事件は、2時頃にゴルフクラブにより被害者を殴っているところ、同日の2時07分という時間が近接した時点で、Vが110番で通報した際に告げた犯人の着衣や背格好などに酷似した男性が、逃走方向と同一方向である北西方向にて、長い棒状のものを持って逃走している姿がコンビニのカメラに写っていることから、甲が犯人である嫌疑は高い。また、そのコンビニから1キロメートルという場所の近接性のあるところで、その格好等と酷似した人物が、当該アパートに入っていく姿が目撃されていることから、当該アパートに同事件の証拠がある可能性が高い。さらに、本事件は強盗殺人未遂という重大な犯罪である。そうだとすれば、領置によりゴミ袋を差し押さえる必要性の程度は非常に高い。証拠物をゴミに出して隠滅する可能性は高いし、出されてしまえば、再度発見することは困難となるから緊急性も高い。

ウ、他方、確かに、ゴミ置き場は、アパート内にあることから、他人に内容を見られない期待は高いとも思える。しかし、同アパートは、ゴミの取り扱いを大家に委ねた上で、公道に置かれるという取り扱いとなっており、そのことを了承していることからすれば、投棄した時点で上記期待も放棄しているといえるから、上記期待の程度が高いとは言えない。

エ、以上のような必要性の高さからすれば、捜査①は社会的に相当といえ、「必要がある」といえる(198条1項)。

(3) よって、捜査①は領置として適法である(221条)。

捜査②

1、捜査②は、領置として適法か(221条)。

(1) 本件容器は、「遺留した物」といえるか(221条)。

ア、上記と同様の基準で判断する。

イ、本件では、「被疑者」たる甲が、公道上に空の容器を投棄したものであるから、占有を自ら放棄したものとして「遺留した物」といえる。

(2) そうだとしても、容器についたDNAをみだりに知られない期待を有する。そこで、捜査比例の見地から、「必要があるとき」として認められるか(198条1項)。

ア、「必要があるとき」について上記基準により判断する。

イ、本件捜査の目的は、甲のDNA型がデータベースに登 録されていなかったことから、マスクについた血液が甲の血液であるとして、甲と犯人の同一性を判断するためにDN A型を特定するという証拠収集目的にある。

そして、DNA型の収集の方法として、甲方には複数人が出入りしていることから、ゴミの中から特定する証拠を入手することができない。また、公園内のゴミ箱から入手する方法も考えたが、参加者が多く、選別することは困難であるといえる。そうだとすれば、上記の目的を達成するためには、上記手段を用いる必要性は高い。

その上で、上記のように甲の嫌疑は高いこと、証拠としても犯人の同一性を判断するという重要な証拠であること、強盗殺人未遂という重大な事案である。また、容器を採取せずゴミとして収集されれば、D N Aを採取することは困難となるため、緊急性もある。

そのため、上記手段により証拠収集目的を達成する必要性は高い。

ウ、他方、確かに、DNA型は個人を特定する情報の一つであるので、他人に知られたくない期待は高い。しかし、公道上に放棄することは、ゴミ箱に投棄することに比較して、他人に収集される可能性が高く、上記期待を放棄したものといえる。

そうだとすれば、上記手段による上記期待の侵害の程度は高いとは言えない。

エ、以上の必要性の高さを考慮すれば、上記侵害位の程度は社会通念上相当であるから、「必要があるとき」といえる(198条1項)。

(3) よって、捜査②は適法である。

設問2

1、実況見分調書①全体について

(1) 本件実況見分調書①について、証拠能力が認められるか。

(2)

ア、320条1項の趣旨は、供述証拠は人の知覚記憶表現叙述の過程を経ており誤りが介在しやすいため、誤判の防止の観点から証拠能力を否定するものである。そこで、伝聞証拠とは、公判期日外の供述であり、要証事実との関係で内容の真実性が問題となるものをいう。

イ、本件実況見分調書①の立証趣旨は、「被害状況」である。そして、本事件の争点は、甲の犯人性であるところ、V方に侵入可能であることが推認できれば、犯人性が推認できることから、要証事実は、犯行時に甲がV方施錠された玄関ドアに錠を開けることが可能であった事実である。そうだとすれば、本件実況見分調書①は、Qの公判期日外の供述を録取しおり、Qの供述の信用性が問題となるため、伝聞証拠である(320条1項)。

ウ、しかし、実況見分調書は、捜査機関の一員として、職務として精密詳細に記載する行為の性質上、主観的意図により歪められる恐れがないことから、「検証の結果を記載した書面」との違いは、強制か任意かという違いのみである。そのため、実況見分調書は、「検証の結果を記載した書面」(321条3項)として伝聞例外が認められる。

(3) したがって、実況見分調書①、②全体の証拠能力は認められる(321条3項)。

2、①の供述

(1)

ア、甲が解錠している写真について実況見分調書と一体として、証拠能力が認められないか。

イ、一体か否かは、別途要証事実との関係で内容の真実性が問題となるか否かによる。

ウ、本件における要証事実は、上記のとおりである。そして、甲の供述は写真について詳細に説明しようとする趣旨であるから、現場指示といえ、実況見分調書と一体といえる。

(2) したがって、本件供述は実況見分調書と一体として証拠能力が認められる。

3、①の写真について

写真は、機械的に動作を撮影するものであるから、捜査員の伝聞性は認められず非伝聞となる。したがって、実況見分調書と一体として証拠能力が認められる。

4、実況見分調書②

(1) 実況見分調書②については、Rの公判外の供述が記載されていることから、伝聞証拠となる。しかし、上記と同様に321条3項により伝聞例外として証拠能力が認められる。

5、②の供述について

(1) 本件供述について②と一体として証拠能力が認められるか。

(2) 本件実況見分調書②の要証事実は、再現通りの犯罪事実の存在にある。そうだとすれば、本件供述の内容の真実性が問題となる。

そのため、本件はRの伝聞過程の真実性が問題となり、伝聞証拠となる(320条1項)。

(3) しかし、伝聞例外として321条1項2号として伝聞例外が認められないか。

ア、本件実況見分調書は、検察官Rの「面前における供述を録取した書面」である。

イ、Vは「死亡」していることから、必要性がある。

ウ、そして、「特に信用すべき情況」とは、作成当時の信用の状況的保障がされていることを言うところ、本件では脅迫等を用いているものではない以上、「特に信用すべき情況」が認められる。

(4) したがって、伝聞例外として証拠能力が認められる(321条1項2号)。

6、②の写真について

②の写真については、機械的に動作を撮影するものであるから、捜査員の伝聞性は認められず非伝聞となる。したがって、実況見分調書と一体として証拠能力が認められる。

以上

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