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令和5年司法試験刑法再現答案(500位代合格者)【A評価】

2025年1月25日

司法試験

刑法再現答案 【A評価】

設問1 (1)

1

(1) 「欺」く行為とは、交付の判断の基礎となる重要な事項を偽る行為をいう。

そして、詐欺罪は、詐欺罪の法益は財産損害の危険にあり、意思の瑕疵に基づいて財物が交付される交付罪である。そうだとすれば、財物を受領する前提として錯誤に陥る文言を述べることで、意思の瑕疵による交付の危険性が増し、交付による財産上の損害の危険が生じることとなる。

また、受領という構成要件該当行為に密接性も認められることになる。

(2) そのため、詐欺罪は、現金の交付を求める文言を述べることを要さず、交付による財産上の損害の危険が生じた時点で実行の着手が認められる。

(3) そして、実行の着手は、構成要件該当行為に密接な行為であり、既遂に至る現実的危険のある行為であれば認められる(刑法43条本文)。

そして、危険性において適切な判断をするために主観を含めて判断する。

設問1 (2)

1

(1) 本件は、①の段階においては、客観的に財産損害の危険はない。

②の段階においても嘘の内容として警察官であるということを認識させるものであるから、客観的に財産侵害の危険がない。

(2) しかし、③の段階においては、甲が2回目の電話においてXに対して不正利用の疑いがあることを申し向ける行為は、Xが甲のことを警察官であると認識している状況あるから客観的に財産を交付する危険がある。

それに加えて、甲と乙と丙は、Xの現金を騙し取るために、甲がXに対して嘘を言い騙した上で、Xが準備したことを知った上で、乙丙が受領するといった計画をしている。そして、上記のようにXから金銭を受領するためには、③の行為は必要不可欠である。また、③の行為によりXを騙していれば受け取るのみであるから、受領行為の遂行を容易にする。

1時間後に向かうことになっており、時間的近接性もある。

このように、計画上③の行為と受領行為は一体であり、上記の客観的危険性も踏まえて考えれば、③の行為の時点で、危険性及び密接性が認められる。

(3) したがって、③時点で実行の着手が認められる(43条本文)。

設問2

乙、丙の罪責

1、乙、丙が300万円をもってB宅を出た行為

(1) 乙と丙の上記行為は強盗罪の共同正犯(236条1項、60条)が成立しないか。

ア、共謀とは、共同遂行の意思の下、正犯意思をもって犯罪遂行の合意をすることをいう。

本件では、乙は、丙に対して、「ジジイを騙すより、縛ったほうが確実に金を奪える。縛って、金を奪ってしまおうぜ。奪った300万円を3人で分ければ問題ないだろう」と申し向け、丙は、了承しておいる。それぞれ金銭の分前得るという利益性があるから、正犯意思がある。また、共同遂行の意思もある。そして、上記合意は強盗の犯罪合意である。したがって、強盗罪の共謀がある。

イ、実行とは、共謀に基づく実行行為をいう。

(ア) 「暴行」とは、財物奪取に向けられた反抗抑圧至る程度の有形力行使をいう。本件では、乙丙は300万円という財物奪取の目的である。

そして、Bは1人暮らしであること、Bの手足をそれぞれロープで縛り、口を粘着テープで縛り、床の上に倒しており、起き上がることが困難となり、身体の自由を奪うため反抗抑圧に至る程度の有形力行使があった。

したがって、乙丙の上記行為は「暴行」にあたる。

(イ) そして、上記行為により反抗抑圧された状態を利用して、テーブルの上にあった、300万円を見付けてB宅を出ていることから、「強取」があった。

(ウ) そして、故意もある。

(エ) 以上から、共謀に基づく実行もある。

(2) したがって、上記行為には、強盗罪の共同正犯(236条1項、60条)が成立する。

2、Bの頭部打撲の傷害について

(1) 乙丙はBの傷害結果について責任を負うか。

ア、上記の通り、乙丙は「強盗」(240条)にあたる。

イ、そして、Bは、全治2週間の頭部打撲の傷害をおっていることから、「負傷」にあたる。

ウ、しかし、乙丙の上記行為との間に、Bが立ち上がり転ぶという介在事情は結果への寄与度は高い。

もっとも、乙丙が足を縛ることで、足の痺れが残り転倒する危険は大きいことから、介在事情を誘発したといえる。

そうだとすれば、介在事情と相まって上記結果を生じさせたといえるから、因果関係がある。

エ、そして、故意も認められる。

オ、したがって、強盗致傷罪(241条)が成立する。

(2) 結果的加重について

ア、そうだとしても、結果的加重犯について共同正犯が認められるか。

イ、共同正犯の処罰根拠は結果に対する因果性にある。結果的加重犯は、基本犯に加重結果の発生の高度の危険性が内包されている。そうだとすれば、基本犯において共謀があれば、結果に対する因果性を認めることができるから、結果的加重犯も共同正犯が認められる。

ウ、本件は、上記の通り、強盗の共謀があることから、その 加重結果の負傷についても、共同正犯を認めることができる。

(3) よって、乙丙は強盗致傷罪の共同正犯が成立する(241条、60条)。

甲の罪責

1、甲は、乙丙の行為についていかなる共同正犯が成立するか(236条1項)。

(1) 甲は実行行為に関与していなくても、共謀により結果に対する因果性を与えることができる。また、「二人以上共同して(その中の誰かが)犯罪を実行」すると読める。したがって、60条を根拠に共謀共同正犯を認めることができる(60条)。

(2) そして、甲は乙丙に対してBが300万円用意していることを告げて、300万円を騙し取ってくるように指示しており、乙丙は了承しており、詐欺罪の共謀が認められる。

(3) 共謀に基づく実行とは、実行はしていないため、共謀共同正犯の場合、結果に対する重大な寄与を要する。

 乙丙は、上記行為により実行しており、甲は首謀者であり、上記結果に重大な寄与を与えている。

(4)

ア、しかし、乙と丙は上記の通り強盗を現場共謀により行っていることから、甲の共謀の射程が及ぶか問題となる。

イ、共謀の射程は、共謀と実行行為について因果性が遮断されるほどの重大な齟齬があるか否かによる。なぜならば、共同正犯の処罰根拠は、結果に対する因果性にあるからである。

ウ、本件は、確かに、詐欺と強盗は行為態様が異なる。しかし、乙丙は、300万円を奪取するために行なっているし、甲も同様であるから目的が同一である。また、某月5日にB宅にてBの300万円を奪うという日時や場所の同一性が認められる。さらに、有形力の行使をしないというような約束をしているわけではない。そうだとすれば、上記詐欺の共謀の因果性を遮断するほどの重大な錯誤があるとは言えない。

エ、したがって、上記行為に共謀の射程が及ぶ。

(5)

ア、そうだとしても、詐欺罪の故意で、強盗罪が行われていることから、故意が認められるか。

イ、故意とは、反規範的人格態度に対する道義的非難にある。

そして、重い罪については、責任主義の観点から故意がなければ処罰されない(38条2項)。そのため、強盗罪により処罰はされない。

しかし、軽い罪については、客観事実がないところ、構成要件の重なり合いがあれば客観的事実が認められる。

本件では、詐欺罪と強盗罪の保護法益は、財産にあることから、共通している。また、行為態様についても意思の瑕疵により、財産を交付するというものであるから、共通が認められる。そうだとすれば、構成要件の重なり合いが認められる。

ウ、したがって、詐欺罪の客観的事実が認められるから、故意責任が認められる。

2、よって甲は詐欺罪の共同正犯が成立する(246条1項、60条)。

設問3

1、丁の6の事実の行為については、威力業務妨害罪が成立しないか(234条)。

(1) 「業務」に含まれるか否かは、害された業務に自力執行力を有するか否かにより判断する。

なぜならば、自力執行力を有する権力的公務の場合には、威力について排除することができることから、公務執行妨害において保護すれば足りる。

他方、自力執行力を有さない非権力的公務の場合には、排除することができないから、二重の保護をする必要があるからである。

(2) 本件では、丁の6の事実の行為によりがされたのは、逮捕という権力的公務であるから、「業務」に含まれない。そのため、234条の罪は成立しない。

2、丁の7の事実の行為について、偽計業務妨害罪(233条後段)が成立しないか。

(1) 「業務」については、すべての業務が含まれる。なぜならば、偽計については、自力執行力による排除は困難であることから、二重の保護の必要があるからである。

 本件において、丁の7の事実により害されたのは、逮捕という権力的公務であるものの「業務」に含まれる。

(2) そして、丁の7の事実により、Dは錯誤に陥っており、「偽計を用いて」いる。そして、乙を追跡できなくなっていることから、「業務を妨害」している。

3、よって、丁の6の事実では業務妨害罪は成立しないが、7の事実では、業務妨害罪が成立する。

以上

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