be a lawyer

令和5年司法試験商法再現答案(500位代合格者)【A評価】

2025年1月25日

司法試験

会社法再現答案 【A評価】

設問1 (1)

1、Gは、Aに対して、4000万円の損害賠償請求をする(423条1項)。

(1) Aは、甲者の「役員等」である。

(2) 「任務を怠った」とは、善管注意義務違反(330条、民法644条)をいう。

ア、経営判断原則について

(ア) Aは、本件売買契約は、経営判断原則が適用されることから、裁量の範囲内であると主張する。

 取締役の業務執行は会社の利益のために萎縮なくリスクをとる判断がされる必要性があるから広い裁量が認められるべきである。そこで、行為当時の状況において、判断過程、結果に著しい不合理があるか否かにより判断する。

 本件売買契約は、業務執行の一環としておこなったものであるから経営判断であり、売買契約について一定の手続きを経て行われたのであるから著しく不合理とは言えない。

(イ) しかし、Gは、本件売買契約は、会社の利益のために行うのではなく、Eとの関係を断ちたいという理由でおこなったものであるから、経営事項ではない。そのため、上記原則の適用がなく反論は不当である。

イ、善管注意義務違反について

(ア) 役員等は、会社について損害を生じさせないという善管注意義務を負う(330条、民法644条)。

Aは、甲社は売買契約後も経営は順調であり、運転資金が枯渇することなく、本件定期預金を取り崩すことで賄われていることから、会社に損害を生じさせていないとして、善管注意義務違反はないと主張する。

    しかし、本件売買契約は、Eとの関係を断ちたいという理由で締結しており、会社の利益のためではない。また定期預金についても本来崩すものではなかったことからすれば、会社に損害が生じていることから、上記義務違反が認められる。

(イ) したがって、Aは「任務を怠った」と言える。

(3) そして、本件土地は、本来1000万円程度であったところ、定期預金で5000万円を賄っていることからその差額の4000万円の「損害」が生じている。

(4) 本件売買契約がなければ、上記損害はなかったと言えるから因果関係も認められる。

2、よって、GはAに4000万円の損害賠償請求をすることができる(423条1項)。

設問1 (2)

1、乙社は、Aに対して3000万円の損害賠償請求をする(429条1項)。

(1) 429条1項の趣旨は、会社が経済社会において重要な地位を占めること、会社が取締役の業務執行に依存することから、第三者保護のため、取締役等に法定責任を負わせるものである。

(2) 本件ではAは「役員等」にあたる(429条1項)。

(3) そして、「職務」として、Aは会社に損害を与えないという善管注意義務(330条、民法644条)を負っている。

(4) 本件では、確かに、本件債務を負った平成29年時点では、運転資金が枯渇するような状態ではなかったこと、その同年に本件売買契約をおこなっているのであるから、「重大な過失」はないとも思える。

しかし、Aは、本件債務発生当時から、運転資金が足りなくなれば本件定期預金を切り崩すか担保に入れることで対応を予定していた。そうだとすれば、本件売買契約を結べば、本件預金を切り崩して利用することを予見し得たのであるから、会社に対する損害が生じないようにするという注意義務違反について「重大な過失」がある。

(5) そして、乙社は3000万円の回収ができなくなっているから「損害」がある。

(6) また、上記義務違反がなければ債務の回収はできたのであるから、因果関係も認められる。

2、よって、乙社の上記請求は認められる。

設問2 (1)

原告適格について

1、

(1) 本件はでは、株主総会の取り消しの訴えを提起しているところ、原告適格は認められるか。Iが「株主等」と言えるか問題となる(831条1項)。

(2) 株式は、共同相続により当然分割されるのではなく、準共有となる(民法898条、民法264条)。そして、共益権についても行使できる。

(3) したがって、共有している場合でも提訴権は共益権であるから、上記訴えはできるのでできる。Iは「株主等」である。

2、よって、Iは「株主等」として、原告適格が認められる。

訴えの利益について

1、

(1) 原則として、訴訟要件を充足すれば形成訴訟である取消訴訟は訴えの利益が認められる。しかし、役員選任決議の取消の訴え中に期間満了等により退任した場合には、訴えの利益を欠く。

もっとも、退任した役員の地位を遡及的に喪失させる実益がある場合には訴えの利益が認められる。

(2) 本件では、本件決議1で取締役としてB、H、Jが新選任され、Jが代表取締役となっている。そして、Jが本件株主総会2の招集通知を発している。しかし、本件決議1が遡って無効となる場合には、正当な権限を有さない取締役により本件株主総会2が招集されたこととなるから、上記実益がある。

また、HとIは共有株主であるものの、行使について対立しているところ、適法に選任されていないJが同意をして議決権行使を認めている。

そうだとすれば、本件決議について会社の適法な同意はない事になる(106条但書)から、上記実益がある。

2、以上から、訴えの利益が認められる。

請求の当否について

1、本件株主総会1では、HがIに無断で議決権を行使していることから、106条本文に反するため「決議の方法」が「法令」に反するとして取消事由があると主張する(831条1項1号)。

2、

(1) しかし、Bは甲社を代表して「同意」(106条但書)をしていることから適法でないか。106条但書の趣旨と関連して問題となる。

(2) 106条但書の趣旨は、民法の規定にしたがって行使方法を定めた場合に、会社が同意すれば株主権の行使を認めるという趣旨である。

 そこで、会社の同意があるとしても共有持分権の過半数の決定(民法252条)がなければ同意は無効となる。

(3) 本件では、HIはそれぞれ2分の1ずつの割合で準共有している。

しかし、本件行使に際してIは同意していない。そのため、民法上の適法な決定のされていない行使にとなる。

(4) したがって、上記同意は無効であるから、取消事由が認められる(831条1項1号)。なお、議決権行使は重要であるから、「重大でなく」と言えず裁量棄却も認められない(同条2項)。

3、よって、上記請求は認められる。

設問2 (2)

1、訴えの利益については、上記と同様の基準で判断する。

2、本件決議1は再選任の決議であることから、従前に正当な権限を有していた者であるから、正当な権限のない者が招集通知をしたことにならず決議2に瑕疵が連鎖しない。また、HIが共同行使していることから、上記実益がない。

3、したがって、訴えの利益は認められない。

以上

新着情報一覧に戻る