令和5年司法試験憲法再現答案(500位代合格者)【B評価】
2025年1月25日
司法試験憲法再現答案【B評価】
設問1
1、年齢について
(1) Xは、新遺族年金法案第3条1号、2号(以下、本件法案という)について、被保険者死亡時に妻が40歳以上であるもの及び夫、父母については55歳以上である者と、被保険者の死亡時に妻が40歳以下であるもの及び夫、父母については55歳以下である者との間に本件年金の受給権について年齢による区別があるとして平等権を侵害すると主張する(14条1項)。
(2) 「平等」とは、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づく区別は許容するという相対的平等をいう。そして、合理的根拠によるか否かについては、①事柄の裁量の範囲、②区別事由、③権利負担の程度から判断する。
ア、本件の遺族年金については、社会保障制度にかかる事項であるものの、本件のように遺族年金制度は最低限の生活を遺族に補償しようとする趣旨を有する救貧制度であり、25条1項にかかる事項である。そのため、裁量は一定程度減縮される。
イ、そして、年齢による差別は「社会的身分」という後段列挙事由による差別であるから、重大な差別事由と言える。
ウ、そして、生存権は生活の根本をなすものとして重要な権利である。そのため、権利負担は重大である。
エ、そこで、本件法案の憲法適合性について厳格に判断する。具体的には、①目的が重要であり、②手段について実質的関連性があることを要する。
(3)
ア、本件目的は、遺族が就労により自ら収入を確保することを促進する目的としている。このような目的は女性の社会進出ということを根拠としているものの、給付によりかえって社会進出をすることなく生活ができることとなるから、重要とは言えないと主張する。
イ、仮に目的が重要であるとしても、手段として被保険者の死亡時において一定の年齢に達していない場合には、年金を給付しないことを定めている。その上で、給付されることにより、生活の安定を図ることができることから、社会進出の機会が確保されという点で関連性はある。
しかし、上記のように一律に年齢により制限するのではなく、収入要件を加えることで上記目的は達成することができる。そのため、本件手段と上記目的との間に適合性が認められない。
ウ、したがって、本件手段との実質的関連性がない。
(4) よって、本件法案第3条1号、2号は平等権(14条1項)に反して違憲である。
2、性別について
(1) Xは、本件法案第3条において、妻は被保険者の死亡時40歳以上の場合に給付ができるのに、夫の場合は、被保険者の死亡時55歳以上でなければ給付を受けることができない点について、性別による差別であると主張し平等権に反すると主張する(14条1項)。
(2) 上記考慮要素により合理的根拠に基づく差別であるか否か検討する。
ア、まず、上記同様に本件は社会保障制度であるものの、救貧制度であるから裁量は限定される。そのため裁量は広いとは言えない。
イ、「性別」という後段列挙事由に基づく区別であり、後段列挙事由は特別な意味を持つものであるから、重大な差別事項である。
ウ、また、上記の通り権利負担も重大である。
エ、そこで、本件法案の憲法適合性について上記同様に厳格に判断する。具体的には、①目的は重要であり、②手段が実質的関連性があることを要する。
(3)
ア、本件目的は上記の通りであり、重要でないと言える。
イ、仮に、重要であるとしても性別による区別でなく、就労状況や収入状況を加味する要件によっても目的を達成することができる。
したがって、本件手段の実質的関連性が認められない。
(4) よって、本件法案第3条1号、2号は平等権(14条1項)に反して違憲である。
3、受給資格の喪失について
(1) Xは、本件法案5条、6条は旧法において遺族年金を受給するという権利を侵害するとして生存権侵害を根拠に違憲であると主張する(25条1項)。
(2) 生存権は、抽象的な権利であることから法律において具体化されることを要する。そして、旧法において受給権を有する者は、旧法において遺族年金を受給する権利として具体化されている。
(3) しかし、本件法案5条において「遺族」(3条)に該当しない場合には受給できないこととなるため上記旧法により、遺族年金を受給する権利という既得権を制約する。
(4)
ア、生存権は、生活の根本に関わる権利であるから重要な権利である。その上で、遺族年金は被保険者が死亡した場合に遺族の生活の安定のために給付されるものであるから、最低限の生活を送るために必要なものとして重要な権利である。
イ、その上で、既得権を奪うものであるから制度後退禁止原則に反する。そのため、立法裁量は広くない。
ウ、そのため、本件法案の5条、6条の憲法適合性については厳格に判断する。そこで、①目的が重要であり、②手段が実質的関連性を有するか否かによる。
(5)
ア、本件法案5条、6条の目的は、新旧遺族年金制度の下での公平性を担保するものである。このような目的は重要である。
イ、そして、手段としては、遺族に該当する限り受給権を支給する。遺族に該当しない場合でも5年間は従前の受給がされるものの、3年目以降は支給額が半額となるというものである(5条、6条)。
しかし、公平性の確保という目的から受給を遺族に限定することは旧法の受給者からは公平性に欠けるものであり、関連性にかけるものである。また、手段としても「遺族」という限定することは、年齢制限がかけられることとなる。さらに、経過措置としてもかえって不平等を招くことから、相当性をかく。
(6) したがって、本件法案5条、6条は、憲法25条1項の生存権を侵害し違憲である(25条1項)。
設問2
1、年齢について
(1)
ア、裁量の範囲
法案にかかる事項は、社会保障制度にかかる事項であり、財政状況や経済状況等を判断することを要するものであるから政策的な判断を要する事項である。
したがって、裁量が広い事項であるとの反論がある。この点は私見も同様である。
イ、区別事由
また、年齢は「社会的身分」に該当しないことから、後段列挙事由に当たらず重大な区別事由とは言えない。
しかし、私見は、年齢は、自己の努力では変えることができない事柄であるから、後段列挙事由に当たらないとしても、重大な区別事由である。
ウ、権利負担について
確かに、保育園や学童保育の充実化が進んでいることから、シングルファザーやシングルマザーの就労に関する障壁は取り除かれているため、就労が可能であることから、生存権の侵害が重大と言えない。また、子がいる配偶者については、子供1人あたり月2万円が加算されること、児童手当や児童扶養手当、生活保護等の社会保障制度もあることから、生存権を重大に侵害していないため、権利負担の程度は重大と言えないとの反論がある。
しかし、家計を支えていた配偶者を亡くした夫や妻に子がいる場合には子育ての負担があることから、年齢が比較的若くても十分な収入のある職を得ることは困難であることから、生存権の侵害の恐れという権利負担が生じる。
また、生活保護は利用しうるすべての資産を活用した上でなければ受けることができないし、生活保護受給者は、資産を有しないか常にチェックされるという負担をおうこととなる。その上で、生活保護があるからといって権利負担が軽減されるとすることは生存権の存在意義が薄れてしまう。
そうだとすれば、本件法案は生存権を重大に侵害するものといえ権利負担は重大である。
エ、審査基準について
そこで、憲法適合性については、慎重に検討を要する(国籍法違憲判決)。具体的には、①目的が重要であり、②手段が実質的関連性を有するか否かにより判断する。
オ、
(ア) 本件法案の目的は、就労するまで金銭を得ることができないし、その支援は必要であることから、重要でないとは言えない。
(イ) 手段については、そして、関連性については上記の通り、給付を受けることにより、生活の安定を図ることができることから、社会進出の機会が確保されるという点で関連性はある。しかし、上記主張の通り、一律に年齢により制限するのではなく、収入要件を加えることで上記目的は達成するため、本件手段と上記目的との間に適合性が認められない。
カ、よって、本件法案は憲法14条1項に反し違憲である。
2、性別
(1)
ア、裁量については上記同様の反論を主張する。この点は、私見も同様である。
イ、後段列挙事由であるとしても、例示列挙事由であり、特別な意味を持つものではないことから上記主張は失当であると主張する。
しかし、私見は、後段列挙事由は、特別な意味を有さないとしても、性別については自らの努力で変更できないものであるから、そのような事項に基づく区別は重大である。
ウ、権利負担についても、上記と同様に、就労に関する障壁は取り除かれていること、子供1人あたり月2万円が加算されること、児童手当や児童扶養手当、生活保護等の社会保障制度もあることから、生存権を重大に侵害していないため、権利負担の程度は重大と言えないと反論する。しかし、上記主張のように権利負担は重大である。
エ、そこで、憲法適合性については、慎重に検討を要する(国籍法違憲判決)。
具体的には、①目的が重要であり、②手段が実質的関連性を有するか否かにより判断する。
オ、
(ア) 本件法案の目的は、上記同様に重要でないとは言えない。
(イ) 手段については、一律に性別により制限するのではなく、収入要件を加えることで上記目的は達成するため、本件手段と上記目的との間に適合性が認められない。
カ、よって、本件法案は憲法14条1項に反し違憲である。
3、受給資格喪失について
(1)
ア、本件では、制度禁止後退原則により裁量が減縮されないという反論が考えられる。しかし、私見としては、従来既得権として保障されていたものがなくなることは、自由権的側面の侵害であるから、裁量は減縮される。
イ、そして、生存権は重要な権利である。
ウ、そこで、①目的が重要であり、②手段が実質的関連性を有するか否かにより判断する。
エ、本件目的は重要である。
オ、反論として、5年間従前の年金受給をする経過措置をとっている以上、相当な手段であると主張する。
しかし、5年間ずっと同額の年金を受給できるわけではなく、3年目から半額となることからすれば、相当と言えない。
(2) したがって、本件法案5条、6条は、憲法25条1項の生存権を侵害し違憲である(25条1項)。
以上