令和5年司法試験民事訴訟法再現答案(500位代合格者)【A評価】
2025年1月25日
司法試験民事訴訟法再現答案 【A評価】
設問1
1、(a)について
証拠方法の証拠能力が否定される法的根拠は、信義則(民事訴訟法(以下、法名省略)2条)である。その基準は、民事訴訟の真実発見の要請と法益侵害の程度を比較した上で、証拠能力を認めることが信義則に反する場合には証拠能力が否定される(2条)。具体的には、証拠の重要性や、侵害される法益の重要性、侵害意図、方法等を考慮して判断する。
2、(b)について
(1)
ア、本件事案は、Xの訴えに対してYが主位的に弁済の抗弁、予備的に相殺の抗弁を提出している。そして、本件売買契約の事実を証明することができれば、乙債権が成立する結果、相殺の抗弁が認められることになる。そして、本件文書は本件売買契約の事実を証明する証拠であり、かつ、本件動産売買の証明に役立つ証拠として唯一のものであることから、証拠価値として重要性が高い。
イ、しかし、Yは、自己に有利な証拠を得ようという意図を持って、Xのノートパソコンを開いている。そして、ノートパソコンは、X宅という他人にみだりに見られない期待の強い環境において、USBという永続的に保存できる媒体にXのメールすべてを保存しており、他人にみだりに見られない期待の侵害の程度は大きい。
このような態様を許してしまえば、将来の裁判にかかる信頼が揺らいでしまう。
ウ、以上から、上述のように証拠価値が高いとしても、上記侵害の程度等から証拠能力を認めることは信義則に反する(2条)。
(2) よって、本件文書の証拠能力は認められない。
設問2
1、控訴裁判所は、どのような判決をすべきか。不利益変更禁止原則(304条、264条)に反しないか問題となる。
2、304条の趣旨は、控訴審における処分権主義の現れとして、控訴審の審判対象を当事者の不服の限度のみとして、当事者の不意打ち防止を図る点にある。
そこで、「不服の限度」か否かについては、第一審と控訴審の判決を形式的に判断する。もっとも、形式的に比較すると不利益が生じる場合には、実質的に判断する。
3、検討
(1) (ア)について
本件では、第1審では、甲債権の存在(114条1項)、乙、丙債権の不存在(114条2項)について既判力が生じる。
他方、控訴審において甲債権について不存在を認容しようとしている。
そうだとすれば、第1審は甲債権が存在するのに、控訴審で不存在となるのは、判決を形式的に比較してXに不利益となるから、不利益変更禁止原則に反する(304条)。
したがって、控訴裁判所は、棄却判決をすべきである。
(2) (イ)について
本件では、第1審において、Xが乙債権を自働債権として、丙債権で相殺することからいずれも不存在となっていることから、甲債権の存在(114条1項)、乙、丙債権の不存在(114条2項)について既判力が生じている。
他方、控訴審において、甲、乙債権の存在と丙債権の不存在を認容しようとしている。
そうだとすれば、控訴審において、乙債権の不存在に既判力が生じない点について、不利益といえ、不利益変更禁止原則に反する(304条)。したがって、控訴裁判所は棄却判決をすべきである。
(3) (ウ)について
本件では、第1審において甲債権の存在と、相殺により乙丙債権の不存在について既判力が生じる。
他方、控訴審では甲債権の存在と乙の債権が弁済により不存在であるという心証を抱いている。そうだとすれば、丙債権を供さずに不存在が確定する以上、不利益はないから、不利益変更禁止原則に反さない(304条)。
したがって、控訴裁判所は認容判決をすべきである。
設問3
1、課題1
(1) 既判力とは、前訴判決における通用力及び拘束力を言う。そして、主観的範囲は115条1項により判断する。
本件訴訟は、XとYが当事者であることから、Zは「当事者」(115条1項1号)にあたらず、判決効が及ばない。また、115条2号以下についても該当しない。
したがって、Zについて、既判力による拘束力は作用しない。
(2)
ア、XとZとの間に参加的効力(46条)が生じるか。
イ、46条の趣旨は、敗訴責任の共同負担にある。そこで、「効力」とは、既判力とは異なる参加的効力である。参加的効力は、被参加人が敗訴の場合には判決主文及び判決理由中のうち主文を導くために重要な判断について被参加人と補助参加人の間で生じる効力をいう。
ウ、本件では、補助参加人であるZはYを被参加人として参加していることから、Xとの間では参加的効力は生じない。
(3)
ア、反射効とは、前訴当事者と実体法上の依存関係がある場合に、既判力の拘束力について当該依存関係にある第三者にも効力が生じるものである。
イ、本件では、ZはXY間の甲債権の保証人であるところ、甲債権の有無によりXから保証債務の請求を受けるか否かが異なることから、実体法上の依存関係がある。
そして、Zは、補助参加により免除の事実や弁済の事実等を主張していることから手続き保障もある。
ウ、したがって、ZについてXY間の既判力が反射的に及ぶ。なお、反射効については明文がなく不明確であるから、裁判所において認められないと考えられる。
2、課題2
(1) ZはYに対して求償請求をすることが考えられる。しかし、Yが甲債権の存在を否定することが考えられる。そこで、ZがYに対してXYの前訴判決において甲債権が存在するという参加的効力を援用することが許されるか(46条)。
(2) 46条の趣旨は、敗訴責任の共同負担にある。そのため、被参加人のみならず、補助参加人であっても上記趣旨に反しないから、援用することも許される。
(3) 本件では、上述のように被参加人であるYとZは共同して訴訟を追行し敗訴している以上、敗訴責任の共同負担の観点から、ZがYに対して援用することが許される。
以上