令和5年司法試験民法再現答案(500位代合格者)【B評価】
2025年1月25日
司法試験民法再現答案 【B評価】
設問1 (1)
1、請求1について
(1) アの反論は、配偶者短期居住権(民法1037条1項)に基づくと考えられる。
ア、本件では、Dは、Aたる「被相続人」の「配偶者」である。
Aは、令和5年4月1日に「死亡」しているため、相続が開始している(882条)。そして、その当時Dは「無償で居住して」いた。その上で、その他にBCの相続人がおり遺産分割は未了であることから、「遺産の分割をすべき場合」といえる。
その上で、現在同年8月31日であるから、「相続開始の時から6箇月を経過する日」の中にある。
イ、したがって、配偶者短期居住権が認められる。
(2) しかし、Bは、上記権利について、1038条1項に違反したとして、配偶者短期居住権が消滅するとして反論する (同条3項)。
ア、本件甲建物は、居住用建物であることから、Dは「従前の用法に従い」使用するという義務を負う。
イ、しかし、本件では、Dは甲建物を同意なく改築し1階部分で惣菜店を始めており、従前の用法とは異なるため、上記義務に反する。
ウ、そして、Bは、「配偶者」Dに対して「あなたに住む権利はない」という意思表示をしている。
エ、そのため、上記居住権は消滅する(1038条3項)。
(3) 請求1について、アの反論により拒むことができない。
2、請求2について
(1) 請求2は、不当利得返還請求として5万円を請求することが考えられる。
(2)
ア、しかし、アの主張により短期居住権を根拠として「法律上の原因」があると反論する。
イ、もっとも、上記のとおり短期居住権は消滅していることから、「法律上の原因」がない。
(3) そして、居住する「利益」を、甲建物という他人の「財産」により受けている。
(4) 他方、Bは、甲建物を利用することができないという「損失」を及ぼしている。
(5) したがって、アの反論により請求2を拒むことができない。
設問1 (2)
1、請求1
(1) イの反論は共有持分権(898条)に基づくものと考えられる。
ア、まず「被相続人」であるAの「死亡」により、相続人であるB、C、Dが相続している(882条、890条、898条、249条)。したがって、共有持分権を有している。
イ、共有者間では、それぞれに持分に応じて使用できる。そのため、原則として明渡請求をすることはできない。しかし、正当な理由がある場合には明渡請求することができる。
ウ、本件では、Dは今後建物を利用するというような事情は見当たらないことから正当な理由は認められない。
エ、したがって、イの反論により請求2を拒める。
2、請求2
(1) Dは、自己の2分の1の持分を超えて本件土地全体を使用している。持分を超える使用については、「法律上の原因」がない。そして、それ以外の不当利得の要件を充足する。
(2) したがって、イを根拠に請求2を拒むことはできない。
設問2 (1)
1、主張の根拠
(1) アの主張は、Fに対して催告による解除をした主張をする(541条)。
ア、本件では、契約①において10月1日を履行日として定めていることから、Fは、本件コイを10月1日に引き取る「債務」がある。しかし、10月1日にFは来訪することなかったのであるから、上記債務を「履行しない」場合である。
イ、そして、10月16日にEはFに対して「催告」しており、本件コイを引き取るには客観的に「相当な期間」があるといえる。
ウ、しかし、その期間を定めてもFは本件コイを引き取りに行ってないことから、「その期間内に履行がないとき」となる。
エ、したがって、上記解除権がある。
2、当否
(1)
ア、しかし、Fは、本件不履行は「軽微」であるとして解除権はないと反論する(541条但書)。
イ、「軽微」か否かは、解除される不利益と契約に拘束される不利益を比較して、社会通念に照らして、解除される不利益が過大と言えるか否かによる。
ウ、本件契約①について、確かに、本件ではEは、養鯉業を行っている者であることから、他の者に売却するか、11月からの釣り堀の営業に利用すれば良いから、不利益は軽微とも思える。
しかし、本件コイは100匹、100万円という比較的大きい契約であること、釣り堀を準備するためには空にする必要があることからすれば、Eの不利益は重大であるから、「軽微」とは言えない。
(2) したがって、Eに解除権がある。
3、よって、Eの主張は正当である。
設問2 (2)
1、EはFに対して、債務不履行に基づく損害賠償請求として売却代金である100万円と釣り堀を営業することで得られた10万円の計110万円請求する(415条1項)。
(1) 本件では、Fは上記のとおり10月1日に本件コイを受け取るという「債務」をおう。しかし、上述の通り債務を「履行していない」。
(2) そして、上記「損害」が生じている。
(3)
ア、そうだとしても、それぞれに因果関係が認められるか問題となる(416条1項)。
イ、416条は、損害の範囲を確定する規定である。1項は、通常損害に関する規定であり、2項は特別の事情での損害の範囲を確定する規定である。
そして、「予見すべきであった」か否かは、債務不履行時を基準に判断する。
ウ、本件では、Fは、受領しなければ売却代金をEが受け取ることができず、損害が生じることは通常損害として100万円について、因果関係が認められる。
また、Eは、10月16日に、Fに対して、11月上旬には釣り堀営業をすることを告げていることから、遅くても債務不履行時である10月30日時点で、営業利益の損害が生じることは「予見すべきであった」。そのため、10万円についても因果関係が認められる。
2、よって、EはFに対して、上記110万円の損害賠償請求ができる。
設問3
1、Hは、LがKに対して有する転貸料債権について物上代位(372条、304条)ができるか。
(1)
ア、物上代位の行使ができるか否かは、①抵当権設定契約があり、②登記があり、③物上代位対象債権(372条、304条)であることを要する。
イ、本件では、令和4年2月1日にHGとの間で抵当権設定契約を締結し、登記をしている。
(2)
ア、そこで、転貸料債権が物上代位の対象債権となるか。「債務者が受けるべき金銭」となるか問題となる。
イ、「債務者」とは、被担保債権の履行について抵当不動産をもって物的担保を負う者をいう。そのため、転貸人は該当しないのが原則である。
しかし、抵当不動産の転貸人を抵当権設定者と同視できるような場合には、転貸人も「債務者」となる。
ウ、本件では、契約④は、LがGとKに働きかけた結果、契約②を合意により解除した上で、GがLに対して賃貸をするという契約③が行われ、契約④がされている。そして、契約③については、賃料3万円と低廉な賃料である上、賃料をLからGに対して支払わないこととしていることからすれば、実質的な利益帰属はLにあるから、LとGは実質的に同視することができる。そうだとすれば、Lは「債務者」と同視できる。
そうだとすれば、契約④に基づく転貸料債権は、「債務者」たるLが「受けるべき金銭」(372条、304条)であるから、物上代位の対象債権にあたる。
(3) したがって、HはLの転貸料債権について物上代位を行使することができる。
2、物上代位の範囲について
(1) 5月分について
本件では、債務不履行となるのは、令和5年5月31日以降であることから、5月分の転貸料債権は抵当権の効力が及ばず、転貸債権は物上代位の範囲に含まれない。
(2) 6月分について
6月分以降の本件賃料債権については、令和5年5月31日以降に生じた債権であるから、抵当権の効力が及ぶ(371条)。
以上