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令和5年司法試験行政法再現答案(500位代合格者)【A評価】

2025年1月25日

司法試験

行政法再現答案 【A評価】

設問1(1)

1、

(1) 「処分」(行政事件訴訟法3条2項、以下、行訴法という。)とは、公権力の主体たる国又は公共団体の行う行為のうち、直接国民の権利義務を形成または確定することが法律上認められている行為をいう。かかる判断に際しては、実効的権利救済の観点も加味して判断する。

(2) 本件解職勧告は、B県知事が56条7項に基づきCに対して行うものであるから、法令に基づく一方的な優越的地位の発動といえ公権力性が認められる。

(3)

ア、まず、B県としては本件勧告は、事実行為であるから、法的効果を有さないものであると主張する。

また、本件勧告に不服従であるとしても、解散命令(56条8項)については、「解散命令することができる」のみであるから、勧告違反が当然に解散命令がされるわけではない。そのため後行処分との連動性がなく、前倒し的に法的効果を認められないと主張する。

イ、しかし、判例は、①先行処分が行われれば、相当程度の確実さを持って、後行処分がされる場合で、②事実上の不利益が重大である場合には、実効的権利救済の観点から法的効果を認める。

ウ、確かに、勧告不服従の場合に運用として解散命令がされるというものではないから、相当程度の確実さを持って後行処分がされる場合ではない。また、本件勧告は行政手続法13条1項1号にあたるものではないこと、勧告不服従について罰則等があるわけでもないから、不利益があるわけではない。そのため、実効的権利救済の観点から、法的効果を認めることはできないとも思える。

しかし、本件は、勧告不服従の場合には「法令、法令に基づいてする処分に」、「違反する場合」であり、「他の方法により監督の目的を達することができないとき」という解散命令の要件を充足することになる(56条8項)。そのため、勧告不服従の場合には、解散命令がされる相当程度の確実性がある。

また、解散命令がされれば、解散事由(46条6号)に該当し、解散することとなる。そして、解散されれば、解散当時の役員は、評議員になることができない(40条5号)し、役員になることもできない(44条)。そうだとすれば、Cは役員にも評議員にもなれないため、その立場で社会福祉法人に携われないという重大な不利益が生じる。

さらに、解散により社会福祉事業ができなくなること、その結果利用者や従業員にも生活の基盤を失わせる重大な不利益も生じる。弁明の機会を与えるとしている以上、一定の不利益を認識している。そのため、後行処分たる解散命令は事実上の重大な不利益がある。

エ、そうだとすれば、先行処分の段階で実効的権利救済の観点から、法的効果を認めることができる。

2、したがって、本件解散命令は「処分」に当たる。

設問1 (2)

1、

(1) 「法律上の利益を有する者」(9条1項)とは、処分により自己の権利もしくは法律上保護された利益を侵害されまたは侵害されるおそれのある者をいう。

(2) 判例は、滞納者の財産が差し押さえられた場合の共有者について原告適格を肯定しているところ、当該判例は、共有者の所有権という自己の権利を、差し押さえにより侵害または侵害されるおそれのある者と言えることから「法律上利益を有する者」として認めた者である。

(3) 本件については、Dは業務執行理事(45条の16第2項第2号)であることからAの業務執行を行う権限を有する者である。しかし、解散命令がされれば上記の通り、解散事由に該当し(46条6号)、今後役員と評議員になることができなくなる(40条5号、44条)。

そうだとすれば、解散命令がされれば、業務執行をする権限ないし役員としての地位を侵害される者または侵害されるおそれのある者に当たる。

したがって、Dは、本件解散命令の取消訴訟について「法律上の利益を有する者」と言える(9条1項)。

2、よって、Dは、原告適格が認められる。

設問2 (1)

1、

(1) 「重大な損害」とは、処分を維持する必要性より損害の重大性が上回る場合をいう。なぜならば、執行においては行政庁の判断に裁量があることから、裁判所が判断する場合は限定されるべきだからである。その判断に際しては、25条3項に掲げる事項を考慮して判断する。

(2)

ア、確かに、B県としては、本件改善勧告や改善命令を経ても、Aから依然として具体的な改善策を示しておらず、貸付金の回収もできていない状況であることから、Aの経営基盤は不安定であり、これを放置すればAの福祉サービス者の待遇が悪化し、Aの利用者にサービスの低下による被害が生じうる。そのため、処分の必要性は高いと主張する。

イ、しかし、「処分の性質、内容」としては、解散させるという内容であり、最も重大な処分の性質を有している。

また、解散となれば、Aは社会福祉事業を継続できないという不利益が生じること、利用者は生活の基盤を損なうことになること、従業員も給与を得る場所がなくなるという「損害の程度」は重大である。

さらに、AはB県の社会福祉事業の中核を担っているのであるから利用者は県外に行かなければならない可能性もあり、そのような損害の回復は金銭で事後的に回復することは困難であるから、「損害の回復は困難」である。そうだとすれば、上記処分の必要性を考慮しても、損害の重大性が上回るといえる。

ウ、したがって、「重大な損害」があるといえる。

(3) そして、判例においても、弁護士が懲戒処分を受けて業務ができなくなれば、依頼者に不利益が生じる上に、弁護士としての社会的信頼も低下するという、「損害の性質及び程度」を考慮して、「重大な損害」を認めており、利用者等の損害についても考慮する趣旨である。

2、以上から、本件申立てにおける「重大な損害」は認められる。

設問2 (2)

1、

(1)

ア、Aは、B県知事が、Cが退任しなければAには適切な法人運営ができないとして、「他の方法により監督の目的を達することができない」と判断したことにつき、裁量の逸脱濫用(行訴法30条)があると主張する。

イ、Aは、B県知事が解散命令を選択したことについて裁量の逸脱濫用があると主張する。

(2) そして、裁量逸脱濫用か否かは、重大な事実誤認、考慮不尽、過大評価等による社会通念上著しく妥当性を欠くか否かにより判断する。

(3)

ア、解散命令の要件については、「他の方法により監督の目的を達することができない」というような抽象的な文言を利用していることや、監督の目的たる福祉サービスの利用者の利益保護や地域における社会福祉の推進(1条参照)を達するか否かについては所轄庁がその事情に応じて判断するべきであるし、その判断は地域ごとに異なるから要件裁量が認められる。

イ、解散命令についても「できる」(56条8項)という文言の通り、裁量がある。

(4) アについて

(ア) B県は、改善勧告(56条4項)、公表(同条5項)、改善命令(同条6項)をしたにもかかわらず不遵守のままであり、Aから改善の具体策がないこと、その結果、経営困難となり、利用者にサービス上の不利益が生じることから、利用者の利益が害される(1条参照)。そして、その役員であるCについても解職勧告を出しても、勧告不遵守であることから、「他の方法により監督の目的を達することができない」という要件に該当すると主張する。

(イ) しかし、本件事案は、Dに起因するものであるし、そのことを認識しながら

上記解職勧告不遵守を重視していることは過大評価にあたる。

また、C自身は、本件調査の指示がされた後、調査協力をDに働きかけたが、

Dが不協力で調査が滞っており、解散命令後に一部のみDから事情聴取ができた。その際に、返金は困難であると言われていることから、そのような説明を行っている。このような事情を考慮せずに勧告不遵守のみで要件該当性を判断することは、考慮不尽であるとして、裁量の逸脱濫用を主張する(30条)。

(5) イについて

(ア) B県は、Dから金銭を回収できていない以上、経営基盤は不安定であり、利用者にサービス上の不利益が生じることから、利用者の利益が害される(1条参照)。また、回収できた場合には、解散命令をしてないところ、本件はDが返金の意思がない以上、回収困難である。そのため、解散命令を選択したことについて裁量逸脱濫用はないと主張する。

(イ) しかし、同事案は、回収できなかったのみならず、調査に不協力であり、破産の危機まであったこともあり解散命令がされている。本件では、調査については、上記の通り当初から協力しており、Bに報告もしている。また、破産の危険が現実化しているわけでもない。

そのため、調査への協力の程度等の事情を考慮せずに解散命令を選択したことは考慮不尽として、裁量の逸脱濫用があると主張する(30条)。

以上

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