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令和5年(2024年度)慶応大ロー入試参考答案集

2026年7月6日

参考答案

1 憲法

第1 本決定は、C自治会の目的の範囲外の行為であるとして無効であるため、Xは特別会費の納入義務を負わないと応答する(地方自治法(以下、「法」という。)260条の2第1項)。

1 そもそも団体の意思決定とその構成員との間に対立が生じたとき、団体に権利能力が認められる目的の範囲は、当該団体の性格、協力義務の内容、性質等を総合的に考慮したうえで、決定される(南九州税理士会事件判決参照)。それでは、本決定はC自治会の目的の範囲に含まれるか。

(1)ア まず、当該団体が強制加入団体である場合、当該団体の構成員には脱退の自由が保障されていないため、様々な主義、主張、信条を掲げる者が団体に加入することは当然に予定されている。したがって、当該団体の目的の範囲は限定的に解釈されなければならない。

イ 本件において、確かにC自治会は、B地区の約95%の世帯が所属する団体であるものの、約5%の世帯は現に所属していないことからすれば、形式的には強制加入団体ではないと考えられる。もっとも、C自治会に所属していないと、住民は、A市等の公共機関からの配布物、災害時の協力等を受けられないという不利益を被ることになる。そしてかかる不利益は、住民が日常生活を送るうえで必要不可欠な情報、便益を得られないだけでなく、災害時には周囲の協力を得られないことで生命に危険が生じるという意味で重大なものと評価できる。このような不利益の重大さに鑑みれば、C自治会は、住民にとって欠かせない団体であると言え、事実上の強制加入団体であると考えられる。したがって、前述した通り、C自治会の目的の範囲は厳格に解されなければならない。

(2) また、C自治会は、原則として住民の入会を拒むことができない性質の開かれた団体であり(法260条の2第7項、C自治会規約3条3項)、公益性の高い団体である(同法同条第9項)。そのような団体においては、構成員に対し十分配慮することが求められるから、団体の目的の範囲もそれに伴って、限定的なものとなる。

(3) ところで、本決定は、特別会費という態様で金銭を徴収しているところ、これは一般会費から徴収する場合と比較して、住民に対し新たに金銭的負担を課す点で、協力義務の程度が強いと言える。確かに、金銭の価額は1世帯あたり100円であるから、その負担は小さいものとも思えるが、金銭的負担の程度は各世帯によって違いがあることや、本決定の内容から特別会費とその支出の目的が密接に関連しているため特別会費の負担それ自体が寄付行為と同視できることを踏まえると、金銭的負担の多寡のみによって本件協力義務の程度が強度でないと評価することは妥当でない。

 したがって、本決定で課せられる協力義務は、強度であると考えるべきである。

(4)ア 次に、本決定により制限されることとなる権利の性質について検討する。

そもそも、個人の世界観ないし歴史観は、思想良心の自由のもとに保障される(憲法19条)ところ、個人の世界観ないし歴史観に由来する行為とは反する行為を強制される場合、思想良心の自由に対する間接的な制約となる側面がある(君が代起立斉唱事件判決参照)。

 イ 本決定の内容は、20XX年の台風による豪雨の影響で災害を被った、A市内の別の地区の自治会に対して、C自治会が寄付行為を行うことである。そして寄付をするか否かは各人の判断に委ねられるべき性質のものであることからすれば、C自治会が、Xを含む構成員に対して寄付行為を義務付けることは、当該構成員が信奉する世界観、歴史観に由来する行為に反する行為を強制することを意味する。したがって、C自治会による本決定は、その構成員の思想良心の自由に対して間接的な制約を課していると評価し得る。

 このような観点からも、本決定がXに課す協力義務は強度なものと言える。

(5) さらに、C自治会は、C自治会自身の便益のために設立された団体であり、他の団体との結束を主たる目的としていないことから、他の団体に対する見舞金の寄付は、C自治会の本来的な目的でない。したがって、本決定は、団体の存続に直接関わる内容であるとは言えない。

第2 以上から、限定的な範囲においてのみ権利能力を認められるはずのC自治会が、団体の存続に関わらない周辺的な目的のために、構成員に対して、強度な負担を課すことはできない。したがって、本決定は、C自治会の目的の範囲を逸脱するもので無効であり、Xは特別会費の納入義務を負わない。

以上

2 民法

第1 設問1

1 DのBに対する請求

⑴ア Dは、Bに対して、所有権(206条)に基づく返還請求権として、甲5及び甲4について、建物明渡請求を主張する。

イ かかる請求は、①Dが甲を所有していること及び②Bが甲を占有している場合に認められる。本件では、Dは、2023年2月1日、Aから売買契約(555条)に基づき甲の所有権を取得しているため、甲の所有権を取得している。また、Bは、甲4でスポーツショップを経営しており、甲5はCに賃貸している。そのため、Bは、甲5を間接占有しており、甲4を直接占有している。

ウ したがって、上記要件は充足される。

⑵ア Dのかかる主張に対して、Bは、Aとの間で、甲5及び甲4を目的として賃貸借契約(601条)を締結したことから、占有権限を有すると反論がかかる反論は認められるか。

イ Aは、2021年5月20日、Bとの間で、期間を同年6月1日から2026年6月1日とする賃貸借契約を締結している。
 そして、Bは、同年6月1日に、甲4及び甲5の引き渡しを受けている。そのため、Bは借地借家法10条に基づくAとの賃貸借契約の対抗要件を具備したといえ、賃貸人たる地位は、EからAに移転している(605条の2第1項)。

ウ したがって、Bは、賃借人たる地位に基づく正当な占有権限を有することを主張する。

⑶ア Dは、甲の所有権移転登記を備えているため、賃貸人たる地位を賃借人たるBに対抗できる(605条の2第3項)ところBのかかる反論に対して、Bが、Aに無断で、甲5をCに対して転貸したこと(613条1項)を理由に、EB間の賃貸借契約を解除することを主張する(612条2項)。

 Bは、Aに承諾を得ずに、甲5をCに対して、スポーツ・バーという、Bの賃貸借の目的と異なる目的で転貸した(601条)。そのため、Eは、Aに無断で、「第三者」たるCに「賃借物の使用又は収益をさせた」として、賃貸借契約の解除を主張する。
 しかし、無断転貸借を理由に直ちに賃貸借契約を解除できるとすると賃借人への不利益が大きい。そこで、612条2項に基づく解除を制限することができないか問題となる。
 賃貸借契約は、信頼関係を基礎とする継続的契約である。そこで、信頼関係が破壊されたといえる場合には、契約を解除できる。具体的には、背信行為と認めるに足りない特段の事情がある場合には、信頼関係は破壊されていないといえる。
 確かに、本件では、CはDの弟であるため、見ず知らずの第三者に転貸したわけではなく、転貸によるAへの不利益が生じる危険性が低い。また、BのCに対する賃料は100万円であり、AB間の賃料が甲5及び甲4で月200万円の賃料であったことからすると、甲5分の賃料として適正価格であり、営利目的の転貸でもないといえ、転貸によりAの利益を奪う意図ではなかったといえる。しかし、Bは、Aからスポーツ・ショップの営業を目的として甲を賃借しているが、Aに無断でスポーツ・バーの経営を目的とするCに転貸している。スポーツ・ショップとスポーツ・バーとでは、食料を扱うため害虫や臭気対策などの点で大きく異なる。さらに、スポーツ・バーにする過程で、Bは甲5を改装している。改装を行う場合、改装を行わない場合よりも原状回復が困難となるし、原状回復のための期間も伸び、次の賃借人に貸すまでにより多くの期間を要することとなる。そのため、飲食店の経営を目的しているCに対して転貸することは、そのような弊害が生じないことを予測してBと契約したAの信頼関係を破壊する背信行為といえる。
 したがって、特段の事情は存在せず、Dの解除は制限されない。

イ また、Dは、Bが、スポーツ・バーの経営を目的とするCに対して、転貸したことは、甲5をスポーツ・ショップとしてのみ使用するという、用法順守義務(622条、594条)違反に基づく、債務不履行解除(541条本文)を主張する。もっとも、かかる債務不履行は「軽微である」(541条但し書き)といえ、解除が認められないか問題となるも、上記「第1」「2」「⑶」「ア」と同様に判断し、信頼関係の破壊は認められる。

ウ したがって、Dは、Bとの賃貸借契約は解除(620条)し、Bの反論は認められないと主張する。

⑷ Bは、Dが、Bの転貸を知っており、Cのスポーツ・バーを任用していたにも関わらずより高額な賃料の獲得でBとの賃貸借契約を解除するのは権利濫用(1条3項)であると主張する。612条に基づく解除の趣旨は、賃貸借が信頼関係を基礎としていることに着目し信頼関係が形成されていない者に所有物を勝手に利用される状態を解消することにあり、賃貸人の利益のために賃借人を追い出すための制度ではない。そこで、賃貸人が信頼関係が破壊されたこと以外を理由に、解除を主張する場合には、権利濫用といえ解除権を行使できない。また、用法順守義務違反について、賃貸人が任用していた場合にも、信頼関係破壊という債務不履行以外の理由で解除権を行使することは権利濫用といえる。
 本件では、Dは、Cが、甲5をスポーツ・バーとして利用していることを黙認していた。そうであるにもかかわらず、Dは、Bの賃料の2倍である400万円で甲を賃借する者が現れて以降、Bに対してどう請求をしている。かかる事実から、Dは、2倍の賃料を取得する目的で、かかる請求を主張している。そのため、信頼関係が破壊されたことを理由といておらず、Dの解除の主張は、権利濫用といえる。

⑸ よって、B占有権限の反論が認められ、DのBに対する請求は、認められない。

2 DのCに対する請求

⑴ Dは、Cに対して、所有権に基づく返還請求権として、甲5について、建物明渡請求を主張する。要件は上記の通りであり、Dは、甲を所有し、Cは甲5でスポーツ・バーを経営することにより占有している。

⑵ Cは、Dに対して、2022年5月16日、Bとの間で賃貸借契約を締結したこと、及びDのBに対する解除(612条2項)は認められないことを主張し、かかる主張は認められる。

⑶ よって、Cの占有権限が認められ、Dの請求は認められない。

第2 設問2

1 前段について

⑴ Cは、Bに対して、必要費償還請求権(608条1項)に基づき200万円の支払請求を主張する。

⑵ Cは、Bとの間で賃貸借契約を締結している。また、2023年6月1日の大地震により甲の屋上部分に亀裂が生じ、甲5が雨漏りしている。かかる雨漏りは、不可抗力たる地震により生じているため、Cに帰責事由はなく賃貸人たるBは修繕義務を負っている(606条1項)。かかる雨漏りが生じている状態は、「賃借物の修繕が必要」といえる(607条の2柱書)。CはBに対して、かかる雨漏りの修繕の請求をしたが、Bが応じていないため、「賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し…相当期間内に必要な修繕をしないとき」(607条1号)に該当する。

⑶ したがって、かかる200万円は、Bの負担に属する必要費といえ、償還請求が認められる。

2 後段について

⑴ア Cは、BのDに対する費用償還請求権に債権者代位し(423条1項)、Aに200万円を直接支払うよう請求する(423条の3)する。

イ Cは、上記「第2」「1」の通り、Bに対して、200万円の償還請求権を有しているため、被保全債権は存在する。また、同債権は、2023年6月1日に、修繕を請求していることから、弁済期が到来している(423条2項)。
 また、Bは、上記「第2」「1」「⑵」の事情より、Aに対して、200万円の必要費償還請求権を有しているため、代位債権も存在する。
 「保全に必要があるとき」という文言及び債権者代位権が責任財産の保全のための制度であることから、保全の必要性、すなわち無資力であることをようするところ、Bは事実上倒産し、無資力である。
 423条3項及び1項但し書きに該当する事情もない。

ウ したがって、Cの債権者代位は認められ、BのDに対する債権は、「金銭の支払い」を求めるものであるため、Cは、Dに対して自身への支払いを直接請求できる。

⑵ア Cは、Aに対して、不当利得返還請求(703条)に基づく、200万円の支払い請求を主張する。

イ Cは、200万円を支払っているため「損失」を受けている。他方で、Dが所有する甲が修繕されていることから、「利得」を得ている。
 Cの損失とAの利得との間には社会通念上の関連性が認められるため、因果関係が認められる。
 Aの利得に「法律上の原因」が認められるのは、不当利得返還請求の制度趣旨が正義と公平にあることから、財産移転を正当化できる実質的理由が存在する場合である。そして、修繕費用を所有者が出捐していない場合でも、対価関係がある場合には実質的理由が存在し、法律上の原因が認められる。
 本件では、Dは、Bとの間で賃料200万円として賃貸しているが、特段賃料を減額している事情はない。そのため、Dは、対価関係なく修繕の利益を取得しているといえる。
 法律上の原因が認められない。

ウ よって、CのDに対する、不当利得返還請求が認められる。

3 刑法

第1 設問1

1 甲の罪責

⑴ 甲がAに対して、Aの身体を緊縛し、現金300万円を持ち去った行為に、強盗罪の共同正犯(60条1項、236条1項)が成立しないか検討する。

⑵ 「暴行又は脅迫」とは、犯行を抑圧するに足りる程度の不法な有形力の行使または害悪の告知を言う。本件では、Aに対し,「死にたくなかったら言うことを聞け」と申し向ける脅迫およびA宅にあった粘着テープでAの身体を緊縛する暴行を加えて,Aの反抗を抑圧している。したがって、反抗を抑圧するに足りる程度の暴行または脅迫であったといえる。

⑶ 「強取」とは、暴行または脅迫によって、相手方の意思を抑圧し占有者の意思に反して犯行を財物の占有を自己または第三者に移転させることを言う。本件の場合、甲は、同暴行及び脅迫によって、Aの反抗を抑圧し、現金300万円という財物を「強取」している。

⑷ 甲には、故意(38条1項本文)及び不法領得の意思が認められる。

⑸ したがって、甲には、強盗罪が成立し、後述する通り、乙と丙との間で窃盗罪の範囲で共同正犯となる。

2 丙の罪責

⑴ 甲の上記行為について、丙には、強盗罪の共同正犯が成立しないか。

⑵ア 丙は、強盗の実行行為たる暴行・脅迫を行っていないため、共謀共同正犯の要件が問題となる。共謀共同正犯の処罰根拠は、結果に対して因果性を与えたことにある。そこで、共謀共同正犯の①共謀、②共謀に基づく実行である。

イ 本件では、甲は、丙に対して、ある家で盗みをやることを伝えており、丙はこれを了承している。したがって、甲と丙との間で、盗みを行うという行為について意思の連絡が認められる。
 丙は、甲が実行行為を開始する前に「見張りの話も聞いてないですよ。このへん人通りもそれになあるじゃないですか。俺も捕まるリスクありますよ。怖いからもう帰りますよ」と述べており、積極的に甲の強盗に関与していない。そのため、自己の犯罪として行う意思、すなわち、正犯意思を有していないとも思える。しかし、丙は、当該発言後、甲が丙に対して30万円やるからと述べたことに対して、「わかりました」と了承している。すなわち、丙は、30万円の利益を受けている。また、丙がになった見張りの役目は、犯行現場が人通りが多いことから、甲に人が近づいたら丙が知らせてくれることによって捕まるリスクが低下するという心理的安心感を与えている。そのため、甲が窃盗を行う上で需要な役割であったといえる。すなわち、丙は、30万円の取得という自己の利益を得るために、見張り役という重要な役割を果たしているため、正犯性が認められる。

 したがって、丙には、共謀が認められる(①充足)。

ウ 甲と丙は、盗むという意思を連絡していたところ、実際には、甲は、Aに暴行脅迫を加えて「強取」している。そこで、共謀に基づく実行といえるか、共謀の射程が問題となる。
 意思の連絡の内容と事行が乖離しない場合に基づく実行といえる。

本件では、丙は、見張り役を担うことによって財物の占有を安心して移転させるという心理的因果性を与えている。そして、窃盗の際には、占有者ともみ合うなどして強盗に発展する可能性が十分あった。そのため、意思の連絡の内容と乖離する行為とは言えない。

したがって、甲の当該行為は、共謀に基づく実行といえる。

⑶ 丙は、盗むことを認識認容しているが客観的には甲の行為は、強盗である。そこで、窃盗の認識認容が認められず、故意が否定されないか。
 故意責任の本質は半規範的人格態度に対する道義的非難である。そして、主観面と客観面が構成要件の範囲内で実質的に重なり合っていれば、反対動機を形成でき、道義的非難が可能であるため、故意が認められる。

 本件では、甲は、暴行脅迫を用いて財物を奪取している。強盗の保護法益は、生命・身体及び所有権である。他方で、丙の主観では、盗む行為を認識認容していた。窃盗罪の保護法益は、所有権である。そこで、窃盗罪の範囲で実質的に重なり合っているといえる。
 したがって、故意も認められる。

⑷ よって、甲行為について、丙には、窃盗罪の範囲で共謀共同正犯が成立する。

3 乙の罪責

⑴ 甲の上記の行為について、乙に、Aに対する強盗罪の共同正犯が成立しないか。

⑵ ア 乙は、甲とともに強盗の実行行為を行っていない。そこで、実行行為を行っていない者に共同正犯が成立するか、共謀共同正犯の成否と要件が問題となるところ、上記と同様に解する。

イ 本件では、乙は、甲に対して、Aの経営する居酒屋から現金を持ち出すことを提案している。甲は、乙の現金の窃盗の提案を了承している。そのため、甲と乙との間でAから現金を持ち去るという意思の連絡が認められる。
 他方で、乙は、A宅の見取り図の用意しかしていないため正犯性が認められず教唆が成立するにとどまるとも思える。しかし、乙は、甲に対して、Aが「一人暮らしの一軒家」に住んでおり、「書斎や寝室に何百万円かの現金を保管している」という、窃盗を行いやすい環境であること、財物の場所という窃盗を迅速に遂行するために必要な重要な証拠を提供している。また、財物の保管場所と合わせて見取り図も交付していれば、窃盗の迅速な遂行に大きく貢献しているといえる。そのため、乙は、積極的に重要な役割を果たしているといえる。また、乙は、「盗んだ金の3分の1」の提供受けている。すなわち、乙は、利益を得ている。そのため、乙は、単に甲の犯罪を教唆したにとどまらず、自己の犯罪を達成する目的を有していたといえる。

以上より、乙と甲との間で共謀が認められる。

ウ 甲は、乙との意思の連絡に基づいて、上記の行為を行っているものの、甲は窃盗ではなく強盗を行っている。そのため、共謀の射程が問題となるものの、Aを狙い現金を持ち去っていること、乙が用意した情報に基づいてA宅に侵入していることから、乙の心理的、物理的因果性は及んでいるといえる。
 したがって、甲の当該行為は、共謀に基づく実行といえる。

⑶ 丙と同様に乙は、窃盗の故意しかなかったものの、上記の通り、強盗の構成要件と重なり合う範囲たる窃盗の故意が認められる。したがって、窃盗の故意が認められる。

⑷ よって、乙には、甲の行為について、Aに対する、甲との間の窃盗の共謀共同正犯が成立する。

第2 設問2

1 甲が果物ナイフをBに向け指示に従わないと指す旨を申し向け、Aが全治10日の傷害を負ったことについて、甲に、Aに対して、強盗致傷罪(240条)が成立しないか。

2⑴ア 甲には、事後強盗罪(238条)が成立し、240条における「強盗」にあたらないか。未遂罪(42条)における「実行に着手」は、処罰根拠が結果発生の現実的危険性の惹起にあるため、現実的危険性が生じた場合に、認められる。甲は、和室にある箪笥を発見し、物色するためには近づいている。甲は、事前の情報としてAがかなりの現金を保有していることを得ていた。そして、現金を隠す場所として、外から中身が見えず洋服などの間に現金を挟みやすいことから、箪笥などに現金が隠されている可能性は高い。そのため、現金が隠されている可能性の高い箪笥を物色するために近づいた時点でAの現金に対する占有を侵害する危険性が惹起されたといえる。したがって、甲には、窃盗罪の実行の着手が認められ、238条における「窃盗」といえる。

イ そして、甲は、Bに対して、果物ナイフを向けて「どけ!どかないなと刺すぞ!」と申し向けている。40歳である甲は、65歳のAよりも体力や力で勝っていることかが考えられる。そのような殺傷能力の高い果物ナイフを刺し向け、前述の発言を行うことは、Bに甲の指示に従わないと生命を侵害されると思わせ、反抗を抑圧しうるといえる。したがって、Bの前述の行為及び発言を申し向けたことは、Bの反抗を抑圧するに足りる害悪の告知といえる。したがって、238条における「脅迫」に該当する。

ウ 甲は、捕まってなるものかと思い当該行為に及んでいるため、「逮捕を…免れる」意思を有していた。また、甲は、物色したこと、ナイフを刺し向けて上記発言をしていることを認識人よしているため、事後強盗罪の故意が認められる。

エ 事後強盗罪の成立には、強盗罪が暴行または脅迫を強取の手段としていることとの均衡から窃盗の機会に「暴行又は脅迫」が行われたことが求められる。本件では、甲の物色から上記発言まで、1時間経過しているところ、甲は物色した家の屋根裏という近距離におり、追求可能性は認められる。そのため、窃盗の機会に甲の上記行為が行われたことが認められる。

オ 以上より、甲には、事後強盗未遂罪が成立し、「強盗」といえる。

⑵ Aは、果物ナイフが大腿部に刺さり、全治10日間の「傷害」を負っている。

   

⑶ア Aの傷害は、甲がBに奪われたナイフをBから取り返すためにとびかからなければAは障害を負わなかったと言える。そして、Aの傷害において、Bに投げられた果物ナイフをAが受け取り損ねたという介在事情が存在する。そこで、因果関係が問題となるも、甲がBに組みかかった行為には、Bの持つナイフが誤ってAにあたる危険性が内在していたといえる。そして、当該Aの傷害という形で現実化しているといえるため、法的因果関係が認められる。したがって、因果関係も認められる。

イ かかる傷害は、強盗の機会といえる問題となるも、ナイフを奪い合うという「脅迫」に密接に関連する行為によって生じていることから強盗の機会といえる。

3 よって、甲に、Aに対する、強盗致傷罪が成立する。

4 商法

第1 設問1

1 Eの株式譲渡の有効性について

⑴ 甲社は、定款において株式の取得について、取締役会の承認を要することを定めている(107条1条1号)。そのため、甲社の株式は、譲渡制限株式である。Eは、本件株式を20株保有しているため「譲渡制限株式の株主」にあたる。そして、Eは、甲社に対して、Fが本件株式を取得することを承認すること、承認しない場合には甲社が本件株式を買い取るか又は買取人を指定することを請求している(136条1項)。かかる請求に対して甲社は、Fによる株式の取得を承認するかを決定していない。そこで、甲社の取締役会の承認を得ずとも、Fの本件株式の取得は有効か。譲渡制限株式を取締役会の承認を得ずに取得した場合の効力が問題となる。

⑵ 譲渡制限の趣旨は、会社にとって好ましくない者の会社への参入を防止することにある。かかる趣旨を実現するためには、承認決定を経ていない譲渡制限株式の取得の効力を会社との関係で無効とすれば足りる。他方で、当事者間の譲渡は有効と解しても上記趣旨に反しない。したがって、当該株式の取得は、会社との関係で無効といえる。

⑶ 本件でも、甲社の取締役会の承認の有無にかかわらず、EのFに対する、本件株式の譲渡は、有効である。

2 本件件名義書換請求に応じる義務について

⑴ E及びFは、甲社に対して、本件株式の取得について、名義書換(133条1項、2項)を請求している。本件株式は、定款により取得につき取締役会の承認を要すると定められている(107条1項1号)ことから、「譲渡制限株式」にあたるため、本件名義書換請求を行うためには、甲社の取締役会から取得につき承認を受けることを要する(134条1号)。そして、上記の通り、Fは甲社から本件株式の取得の承認を得ていないため、名義書換請求ができないとも思える。

⑵ しかし、Fは、上記の通り、136条1項に基づく譲渡承認請求を行っている。甲社は、当該請求の書面を受け取ってから、1箇月経過しても承認するか否かを決定していない。そのため、当該請求から「2週間」経過しても決定に関する通知(139条2項)をしなかったといえる。したがって、甲社は、Fの取得を承認したものとみなされる。

⑶ よって、本件名義書換請求は認められ、甲社はかかる請求に応じなければならない。

第2 設問2

1 本件選任決議について

⑴ 本件選任決議について、甲社が、Fに対して、招集通知を発していないことが取消事由とならないか。株主総会決議から3か月は経過しておらず、甲社は被告適格を有する(834条17号)。

⑵ア 前提として、甲社は、Fを株主として扱うべきか。Fが株主としての地位を甲社に対抗するためには、名義書換を行う必要があるところ(130条)、甲社は、当該株主名簿の書換を行っていない。そこで、名義書換を請求したにもかかわらず会社が株式の譲受人を株主として扱わないことは認められるか問題となる。
 株主名簿制度の趣旨は、会社側の事務の便宜を図るための制度である。そこで、会社側が不当に株主名簿の書換を行わない場合には、信義則に反するため会社の便宜を図る必要はなく、会社に対して株主であることを対抗できる。

イ 本件では、上記の通り、Fの本件株式取得は、承認されているとみなされている。そして、また、甲社が、株主名簿の名義書換を行わない理由はない。したがって、Fの請求に対して名義書換がなされないことは、不当拒絶であるといえる。

ウ したがって、甲社は、Fを株主として扱う必要がある。

⑶ア そして、本件選任決議を行うにあたり、取締役たるA、B、Cは、Fに対して「株主総会の2週間前まで」に「株主」たるFに対してその通知を発しなければならない(299条)。しかし、本件では、Fは、株主招集通知を受けていない。
 したがって、「株主総会…の招集の手続き…が法令に違反」するといえる(831条1項1号)。

イ そして、招集通知が要求される趣旨は、株主に対してあらかじめ株主総会の議題及び議案について検討し、出席する機会を与える点にある。そのため、株主に招集通知が発せられていない場合、株主に株主総会決議について検討し、出席する機会を害することにつながる。また、非公開会社の場合、株主の株主総会決議の経営的利益も公開会社に比べて保護されており、株主総会においても大きな利害関係を有している。そのため、非公開会社において、株主総会の招集通知を発しないことは特に会社法に保護されている株主の経営的利益も侵害することにつながる。したがって、非公開会社において、招集通知を発しないことは、重大な違法といえる(831条2項)。

本件において、甲社は、種類株式発行会社(108条)ではなく、上記の通り、譲渡制限株式であることから非公開会社である。そして、A,B、CがFに対して、招集通知を発しなかったことは、Fの株主総会の議題についての検討の機会を害し、出席の機会を害するものとなる。

⑷ よって、本件選任決議には、取消事由があり、取消される場合には遡及的に無効となる(849条反対解釈)。

2 本件剰余金配当の効力について

上記の通り、本件株主総会決は、取消された場合、遡及的に無効となる。剰余金を配当するためには、株主総会の決議を要する(454条、453条)。そのため、株主総会決義が無効であるため、本件剰余金配当も無効といえる。

5 民事訴訟法

第1 設問1

1 小問⑴

⑴ 前提として既判力とは、判決の判断内容に与えられる通用性ないし拘束力を言う。同制度の趣旨は、紛争の蒸し返し防止である。同制度の正当化根拠は、手続保障が及ぶことによる自己責任にある。

⑵ 既判力は、いかなる範囲に及ぶか。既判力が及ぶ範囲によって、後訴に遮断効が及ぶため問題となる。既判力は、「主文に包含されるもの」(114条1項)、すなわち、訴訟物たる権利法律関係の存否に対して及ぶ。その理由は、上記趣旨より紛争の蒸返しを防止するには上記範囲に既判力が及べば足り、また、審理の迅速性・弾力性を確保する必要があるためである。
 訴訟物は、基準の明確性の観点から実体法上の請求権に対応する。本件では、前訴の訴訟物は、所有権(民法206条)に基づく返還請求権としての建物明渡請求権が訴訟物となる。他方で、後訴の訴訟物は、賃貸借契約の終了に基づく原状回復請求権としての建物明渡請求権である。そして、前訴の既判力は、所有権に基づく返還請求権としての建物明渡請求権の不存在に既判力が及んでいる。

⑶ それでは、いかなる場合に既判力は作用するか。訴訟物が、同一、先決、矛盾関係にある場合に作用すれば紛争の蒸返し防止ともなり、手続保障が及んでいるといえる。本件では、前訴の訴訟物と後訴の訴訟物とは、上記の関係になりといえる。

⑷ したがって、既判力は作用せずXの後訴の提起及び主張は遮断されない。

2 小問⑵

⑴ Yの賃貸借契約ではなく使用貸借契約である旨の主張は、前訴の既判力に遮断され認められないのではないか。

⑵ 既判力が及ぶ範囲は上記のとおりである。そして、既判力は、事実審の口頭弁論終結時の訴訟物の存否に対して及ぶ(民事執行法35条2項参照)その理由は、同時点まで、訴訟資料を提出することができ、裁判所も同時点までの訴訟資料を考慮することができ、手続保障が同時点まで及んでいるといえるためである。そして、かかる基準時における訴訟物の存否と異なる基準時後の事由における主張は、許されない(消極的作用)。
 本件において、賃貸借契約ではなく使用貸借契約であるという事情は、前訴の口頭弁論終結時以前の事情である。そして、上記の通り、本件前訴の既判力は、所有権に基づく返還請求権としての建物明渡請求権の不存在に及んでいる。賃貸借契約の存在は、判決理由中の判断であり、既判力は及ばない。また、使用貸借契約の存在は、賃貸借契約と同じく占有権限の抗弁を基礎づける事情であり、上記請求権の不存在と矛盾ものではない。したがって、遮断効は及ばないといえる。

⑶ もっとも、判決理由中の判断においても、紛争の蒸返しとなる場合には、信義則(2条)に基づく拘束力を及ばせるべきである。具体的には、①紛争の蒸返し防止となり、②前訴で主張することができる事由であり、③主張することで相手方の地位を不安定にさせる危険性がある場合には、信義則により判決理由中の判断にも拘束力が及ぶ。

 本件では、賃貸借契約の存否は、占有権限を基礎づける主張である。そして、使用貸借についても占有権限を基礎付ける事情である。そのため、占有権限の存否を争うことは紛争の蒸返しといえる(①充足)。また、前訴において主張できなかったという事情もない。そのため、主張することができる事由であったといえる(②充足)。さらに賃貸借契約と使用貸借契約は、同じく占有権限を基礎付ける事情であるため相手方たるYの地位を不安定にさせるものではないとも思える。しかし、賃貸借契約と使用貸借契約とでは、終了原因や成立要件で異なる。そのため、相手方からの主張も異なりうるものであり、前訴において主張しなかった使用貸借契約を後訴で主張することは、相手方の地位を不安定にするといえる(③充足)

⑷ したがって、信義則上により拘束力が認められYの主張は遮断される。

第2 設問2

1 賃料相当損害金の履行期は、本件訴訟の口頭弁論終結時に到来しない。そのため、かかる訴えは、将来給付の訴えとなる(135条)。それでは、かかる訴えに「あらかじめその請求をする必要がある」といえるか。

2 「あらかじめその請求をする必要がある」と認められるのは、①請求権の基礎となるべき事実関係及び法律関係が既に存在し、その継続が予測されるとともに、②右請求権の成否及びその内容につき債務者に有利な影響を生ずるような将来における事情の変動としては、債務者による占有の廃止、新たな占有権原の取得等のあらかじめ明確に予測しうる事由に限られ、③しかもこれについては請求異議の訴えによりその発生を証明してのみ執行を阻止しうるという負担を債務者に課しても格別不当とはいえない点において前記の期限付債権等と同視しうるような場合には、これにつき将来の給付の訴えを許しても格別支障があるとはいえない。

3 本件について、Yは、甲地を現在占有している。そして、Xの所有権に基づく返還請求権としての明渡請求権が認められた場合、Yが占有している状況が現在存在し、かつ強制執行まで明け渡さないという状態が予測される(①充足)。
 そして、Yが、賃料相当損害金の請求を逃れるためには、Xに甲地を引き渡すことが想定される(②充足)。
 さらに、Yが、Xに甲土地を引き渡しか否かの立証は、容易である。そのため、かかる事由が生じたことをYが立証し請求意義の訴えでしか請求の履行を妨害することができないとしても格別支障が有るとは言えない。

4 よって、Xの将来給付の訴えの利益は、認められる。

6 刑事訴訟法

第1 設問1

1 小問⑴

当事者主義より審判対象は、検察官が設定する具体的な犯罪事実たる訴因である。そのため、かかる事実に変更があるばあには、訴因変更が必要となる。しかし、そして、訴因の機能は、裁判所に審判対象示す審判対象画定機能及び被告人に防御範囲を告知する防御権告知機能である。訴因の機能が審判対象を画定するとともに被告人の防御範囲を限定する点にあること、訴訟手続においては争点明確化による不意打ち防止が要請されることから、①審判対象の画定に必要となる罪となるべき事実に変更が生じている場合、②①に該当せずとも、被告人の防御にとって重要な事実に食い違いがある場合にも訴因変更が原則として必要となる。ただし、具体的審理状況等に照らし、被告人に不意打ちを与えるものでないと認められる場合には、例外的に訴因変更が不要となると解する。

2 小問⑵

⑴ 公訴事実では、Xは、長男V1から食卓を受けて、同人の警部をロープで強く締め付けて緊縛し、窒息死させたとしている。すなわち、当該公訴事実では、同意殺人罪を構成しる事実が記載されている。他方で、裁判所の心証として、同意がなかったと認定している。かかる同意は、同罪の「人を・・・その嘱託を受けて」という要件に該当する事実について、変更している。そのため、同時実は犯罪となるべき事実に変更が生じているといえる。

⑵ したがって、本件の場合には、訴因変更が必要である。

第2 設問2

1⑴ 本件公訴事実において、YがAと共謀して住居侵入及び窃盗を行ったと主張している。他方で、裁判所の心証として、Aは、幇助であると認定している。そこで、公訴事実が共同正犯である場合に、幇助犯と認定するために訴因変更は必要か。

⑵ 訴因変更の要否は、上記の通り判断する。共同正犯と幇助犯は、罪となる事実が異なるため訴因変更が必要とも思える。

2⑴ もっとも、共同正犯は、幇助犯を包含する関係にあるところ、包含関係にある場合にも訴因変更が必要か、縮小認定における訴因変更の要否が問題となる。

⑵ 包含関係にある場合、検察官は、黙示的に包含関係にある事実を主張しているものといえる。そのため、縮小認定の場合には、訴因変更は不要である。

3 よって、本件でも、共同正犯という公訴事実に対して幇助犯であるとの認定は、正犯意思がない場合には幇助犯となる関係であることから包含関係にあるといえるため、縮小認定にあたり、訴因変更は不要である。

第3 設問3

1 受託収賄の罪と贈賄の罪の訴因との間に公訴事実は認められるか。訴因変更に公訴事実の同一性が求められる趣旨は、刑罰権が発動する範囲で訴因変更を認めることにより二重処罰を防止する点にある。そこで、刑罰権が発動されうる場合には、公訴事実の同一性が認められる。本件では、①基本的事実の同一性及び②補助的に非両立性により判断する。

2 本件では、被告人がZであること、犯行日時が令和2年7月1日と共通している。また、被害者も共通しているところ、Bが現金30万円の供与を受け、もってその職務に関し請託を受けて贈賄を収受したという点と、CがBに現金30万円供与したという点で共通点が認められる。加えて、収賄と贈賄は、両立しないため非両立性も認められる。

3 よって、公訴事実の同一性が認められる。

  

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