
第1 設問(1)
下線部の本件逮捕は、準現行犯逮捕(刑事訴訟法(以下法令名略)213条・212条2項として行われたものである。
準現行犯逮捕の要件は、①212条2項「各号の一にあたる者」であること、②「罪を行い終ってから間がない」という時間的場所的近接性、③逮捕者からみて犯罪と犯人が明白であること、明文にはないが、④逮捕の必要性(199条2項但書参照)である。
第2 設問(2)
本問において問題となるのは、212条の趣旨、各号該当性、明白性の判断についての解釈である。
第3 設問(3)
1 212条の趣旨
現行犯逮捕が令状主義の例外として認められている趣旨は、犯罪と犯人が逮捕者にとって明白であり、誤認逮捕のおそれは少ないことにある。そこで、「罪を行い終ってから間がないと明か」とは、犯罪と犯人が逮捕者にとって明白であるとこをいうと考え、かかる明白性の判断に当たっては、時間的場所的近接性等の諸事情を考慮する。そして、上記の趣旨からすれば、供述などを明白性の判断にあたり補充的に考慮することは許され、同項各号該当性は明白性を一定程度担保する客観的状況であるところ、これも明白性判断に際して考慮されると考えられる。
2 各号該当性
(1)2号該当性
本件は鉄パイプを用いた乱闘事件であるため、鉄パイプやその攻撃を防ぐ防具などを所持していれば、本件「事件」の「凶器その他の物」を所持しているといえると考えられる。そして、甲は、腕に剣道で使用する籠手という、鉄パイプによる攻撃を防ぐための防具を装着しているのであるから、「明らかに事件の用に供したと思われる凶器その他の物…を所持している。」といえる。
(2)3号該当性
甲の顔面には、新しい傷痕があって血の混じったつばを吐いていた。これらの傷は、鉄パイプを用いた乱闘によって負ったと考えて矛盾はないから、「身体又は被服に犯罪の顕著な証拠があるとき」といえる。
(3)4号該当性
甲は、Cが職務質問のため停止するよう求めたところ、甲は小走りに逃げ出したのであるから、「誰何されて逃走しようとするとき」といえる。
(4)以上より、甲は212条2項2、3、4号に該当する。
3 明白性について
(1)犯罪と犯人の明白性は、誤認逮捕の危険性を除去し、無令状逮捕を正当化するものであるから、その基礎となる事実は、逮捕者自身によって直接認識されていなければならない。
(2)確かに、甲は本件犯行現場から直線距離で約4キロメートル離れた場所に、本件 犯行終了後約1時間後にいることを発見されている。これらの距離と時間は、決して極めて近接しているとはいえないものである。しかし、約1時間で、4キロメートル離れた場所に存在することは十分可能であるし、上述の通り甲が犯罪の証跡を複数有していることからすると、逮捕者であるC及びDにとって甲が本件事件の犯人であることは明白であったといえる。
4 逮捕の必要性について
凶器準備集合罪(刑法208条の2第1項)は「二年以下の拘禁刑」、傷害罪(刑法204条)は「十五年以下の拘禁刑」と重大犯罪であり、被害者がいることから検挙の可能性も高い。一方で、甲の逮捕の必要性を否定する事情はない。そこで、逮捕の必要性は認められる。
5 以上より、本件逮捕は適法である。

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