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【2026年ロースクール入試】早稲田大学 憲法 参考答案

2025年9月8日

法科大学院

(設問1)

第1 文面審査

1.本件規定に反した場合には、裁判所法4条および裁判官分限法に基づく処分が予定されているところ、どのような行為が政治活動にあたるのか文言だけでは判断できないことから漠然不明確ゆえに21条及び31条に反し、違憲ではないか。

2.この点について、31条は、国民の「自由を奪」う場合には公権力の恣意を抑制し、国民に対する公正な告知を担保するため法文の明確性を要求している。また、不明確な法文は、政治活動の自由に対する萎縮的効果をもたらす恐れがある。そして、同条で要求される明確性の程度は、通常の判断能力を有する一般人において具体的場合に当該行為がその適用を受けるものであるかどうかの判断を可能ならしめるような基準をその規定から読み取れる程度である。

これを本件についてみるとたしかに「積極的に政治運動をすること」という文言からは通常の判断能力を有する一般人を基準にした場合には、具体的場合に当該行為がその適用を受けるものであるかどうかの判断をすることができないため明確性の原則に反するとも思える。

しかし、本件規定は裁判官の行為について規定しているものであることから裁判官を基準に明確性を判断する。後述の本件規定の趣旨から「積極的に政治運動をすること」は、裁判の公正とそれに対する信頼を揺るがす恐れのある行為を指すと考えられる。本件規定が裁判官であれば本件規定の趣旨も理解していると考えられるところ、通常の判断能力を有する裁判官を基準にした場合、具体的場合に当該行為がその適用を受けるものであるかの判断をすることができたと言える。

3.したがって、本件規定は、明確性の原則に反せず、違憲でない。

第2 実体審査

1.裁判官に対して「積極的に政治運動をすること」を禁止している裁判所法52条1号後

段(以下、「本件規定」という。)が、裁判官の政治活動の自由を制約しているとして違憲とならないか。

2.(1)裁判官が政治活動をすることは憲法上保障されているか。

憲法21条1項は、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」と規定している。ここで保障されている「表現」とは、思想の外部への表明をいうところ、政治活動も思想の外部への表明であるから「表現」に含まれる。

そこで、裁判官が政治活動することは、憲法21条1項により保障される。

次に、本件規定は、「積極的に政治運動をすること」を禁止しており、同規定に違

 反した場合、裁判所法49条および裁判官分限法に基づいて懲戒処分を受けうることから、裁判官の政治活動の自由は制約されている。

(2)もっとも、上記自由も無制限に認められるものではなく、「公共の福祉」(12条後段、13条後段)にかなった目的達成のために必要かつ合理的な制約を受ける。本件規定が「積極的に政治運動をすること」を禁止することは、必要かつ合理的と言えるか。

 ア まず 、権利の性質について、上記自由は、精神的自由権であっていったん制約されれば民主制の過程の中で回復が困難な性質を有する。また、政治活動により、自己の人格を形成、発展することに寄与するため自己実現の価値を有する。さらに、政治活動は、国民の政治的意思形成に影響することを通じて民主制の過程に資することから自己統治の価値を有する。このことからすれば、上記自由は、その性質上特に重要であって厳格な審査が求められるものであるように思える。しかし、裁判官は、「全体の奉仕者」である公務員の一種であるところ、その職務の政治的中立性とそれに対する国民の信頼を保護する必要性(15条2項)があるため、裁判官の上記自由は厳格な審査を要求する性質ではない。

 イ 次に、規制態様について、本件規定は、全ての政治活動を禁止するものではなく、「積極的」なもののみについて禁止しているのであるから、強度な規制とまではいえない。

 そこで、中間審査基準を採用し、①制約の目的が重要で、②その手段が目的との関連で実質的関連性を有している場合に、必要かつ合理的な制約と認められる。

3.(1)

 本件規定の目的について、前述の通り、裁判官の政治的中立性を保護する点にある。裁判官の政治的中立性が損なわれた場合には裁判の公正とそれに対する国民の信頼が崩れるおそれがある。本件規定が保護しようとしている公正な裁判を行うことは、憲法37条1項で要請されている重要なものである。そして、一度裁判の公正とそれに対する信頼が崩れた場合にそれを元の状態に回復することは困難であるためこれを保護する必要性は高い。したがって、本件規定は、裁判官の政治的中立性を確保し、裁判に対する国民の信頼を維持するという本件規定の目的は重要と言える。

(2)次に、本件規定に違反した場合、裁判所法49条等による懲戒処分が行われる可能性があるため裁判官は積極的な政治活動をすることをためらうようになると考えられる。そのような結果になれば、裁判官の政治的中立性を保つという本件規定が目的とするところが達成できる。

 また、他に上記の目的を達成しうるより制限的でない手段も考えられないため必要性も認められる。

そして、本件規定の「積極的に政治運動をすること」という規制対象も本件規定の目的から「組織的、計画的又は継続的な政治上の活動を能動的に行う行為であって、裁判官の独立及び中立・公正を害するおそれがあるもの」に規制対象が裁判官の政治的中立性を保持するために必要な範囲に限定されている。上記目的の重要性から考えれば、その制約の相当性も認められる。

 したがって、本件規定による制約は、目的が重要でその手段が目的との関係で実質的関連性を有すると認められる。

4.よって、本件規定は合憲である。

(設問2)

1.寺西判事補事件においてXは、裁判所法52条1号後段の禁止する積極的な政治活動に該当する行為を行ったとして懲戒処分を受けている。そして、憲法21条1項の保障範囲は前述の通りであるところ、Xがシンポジウムにパネリストとして参加する予定であったにもかかわらず、これを見合わせるように警告された旨の発言をしたことは、Xの思想を外部に表明するものといえ、表現の自由として保障される。

このようなXの発言が、同規定における「積極的に政治運動をすること」に当たらないにもかかわらず、Xを懲戒処分すれば、Xの表現の自由を制約することになるため、このことが憲法21条1項に反し違憲とならないか。

2.ここで、公務員の政治的行為の合憲性が問題となった堀越事件判決は、「政治的行為」について、国家公務員法102条1項の文言、趣旨、目的や規制される政治活動の自由の重要性に加え、同項の規定が刑罰法規の構成要件となることを考慮すると、同項にいう「政治的行為」とは、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが、観念的なものにとどまらず 、現実的に起こりうるものとして実質的に認められるものを指すものであり、こうしたおそれが認められるか否かは、当該公務員の地位、その職務の内容や権限等、当該公務員がした行為の性質、態様、目的、内容等の諸般の事情を考慮して判断するとしている。この点、寺西判事補事件は、同じく公務員である裁判官の政治的行為に対する制約が観念できることからすれば、同基準が同様に妥当するように思える。

しかし、裁判官は、三権分立原理の下、裁判官の職権の独立(憲法 76条3項)が要請され、これを担保するためには裁判官はとりわけ政治的な勢力から距離を置く必要がある。また、司法に対する国民の信頼を確保するためには、外形的にも裁判官が中立・公正な態度をとることが求められる。このことからすれば、Xの発言が、「積極的に政治運動をすること」に当たるか否かの判断にあたっては、堀越事件と同様の基準をそのまま用いるべきではなく、同基準における考慮要素を活用しつつも、より厳格に判断するべきである。そこで、問題文中の最高裁の指すように、組織的、計画的又は継続的な政治活動を能動的に行う行為であって、裁判官の独立及び中立・公正を害するおそれがあるか否かをもって判断するべきである。

3.本件についてみるに、Xは、地方裁判所の判事補であったが、職制上判事と比較して、その権限・役割に大きな差があり、裁判官としての独立及び中立・公正に対する影響力は小さいように思える。また、実際にシンポジウムにパネリストとして参加したり、そのシンポジウムにおいて政治的発言を行ったりするのと比較すれば、参加を警告させられた旨の発言をしたことは裁判官の独立及び中立・公正を害するものといえない。

 しかし、本件の市民集会は、組織的犯罪対策法案に反対する市民集会という政治的色彩の強いものであって、これに参加しなかったとしても、裁判官であるXが、参加する予定であったこと及び裁判所からその参加に対して警告が行われた旨の発言を行うことは、Xが同シンポジウムの意見主張に賛同するものであって、かつ、裁判所がこれに反対する意見主張を有するものと評価されかねない。また、実際にもXは、そのような思想を外部に表明する意図があり、組織的犯罪対策法案の廃止を目的として発言行為を行ったものと推測される。さらに、上記の通り、判事補という地位が判事と比較すれば、裁判官としての独立及び中立・公正に対する影響力は小さいかもしれないが、前述した裁判官の特性からすれば、判事補であってもその影響力は大きいものといえる。

このことからすれば、Xの発言は、組織的、計画的又は継続的な政治上の活動を能動的に行う行為であって、裁判官の独立及び中立・公正を害するおそれがあるものといえる。

したがって、Xの行為は、「積極的に政治運動をすること」にあたると言え、本件規定の要件に該当する。

4.よって、寺西判事補事件においてXを懲戒処分したことは、合憲である。

(設問3)

1.寺西事件の懲戒処分をすることが「裁判」(82条)に当たるのであれば、裁判官の懲戒が非訟事件手続によって行われるのは、裁判の公開原則(82条)に反し、違憲となるが「裁判」にあたるか。すなわち、裁判官分限法に基づく分限裁判や戒告処分などの裁判官の懲戒処分をすることが、憲法82条にいう「裁判」に含まれるかが問題となる。

裁判所法3条1項は、「法律上の争訟」について「裁判」する権限を有すると規定している。そのため、「法律上の争訟」を対象とするものが「裁判」であると考えられる。そして、「法律上の争訟」とは、当事者間の具体的な法律関係ないし権利義務の存否に関する争いであり、かつ、それが法律を適用することにより終局的に解決できるものをいう。

では、裁判官に対する懲戒処分は、「裁判」の対象である「法律上の争訟」にあたるか。

2.(1)

2の資料において、裁判所は、夫婦の同居義務の審判は、夫婦の同居義務という実体的権利義務自体を確定するものではなく、その権利義務を前提とする具体的な同居内容を定めるものであって「法律上の争訟」に当たらないと判断している。これは、前提たる実体的権利義務の存否についての判断が、具体的内容を定める審判の確定後も公開の法廷における対策及び判決によって確定されることで、審判によって確定した具体的内容が変更されうることを意味している。すなわち、具体的同居内容を確定する審判をもって当事者の権利義務関係が確定するものとはいえない。

 これを本件についてみると、裁判所法4条及び裁判官分限法に基づいて懲戒権限があることを前提にその内容である戒告などの具体的処分内容を決定するものである。

したがって、2の資料を根拠に検討した場合、裁判官の懲戒は「法律上の争訟」に当たらず、「裁判」に当たらない。

(2)3の資料において、行政処分は、公開の法廷によって対審及び判決によって行われなければならないものではなく、公開原則の適用はないとしている。

これを本件についてみると、裁判官の懲戒処分は、裁判所内部の秩序維持を目的としてなされるものであって、その性質上行政処分といえる。

 したがって、3の資料を根拠とした場合、裁判官に対して懲戒処分をすることは、「裁判」に当たらない。

3.以上から、裁判官に対して懲戒処分をすることは、「裁判」に当たらず、非訟事件手続に従って行われることは、公開原則に反せず、違憲とならない。

                       

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