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【2026年ロースクール入試】早稲田大学 民法 参考答案

2025年9月8日

法科大学院, 答案例

(設問1)

第1 小問(1)について

1.AのBに対する請求の法的根拠は、不法行為に基づく損害賠償請求である(709条)。

同条は、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と規定する。このことからすれば、同請求が認められる要件は、①権利または法律上保護される利益の侵害、②故意または過失、③損害の発生、④因果関係が認められることである。

本問において、Bは、自動車の運転によってAの所有し登録する自動車甲を損傷しており、このことについてBには過失が認められるのは問題文の通りである。このことからすれば、①ないし④を充足する。

したがって、Aの上記請求は認められる。

2.これに対して、Bは、「Aにも過失があったことを考慮して損害賠償の額を定めることを主張する」とあるが、その法的根拠は、過失相殺の抗弁(722条2項)である。

同項は、「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。」と規定する。これは、損害の衡平な分担という見地に基づく制度である。すなわち、被害者において損害を拡大化させたり、損害の減少を怠った場合についてまで、加害者に賠償責任を負わせないとの趣旨である。

本件事故の過失割合は、「調査により、A:Bの過失の割合が、Aが3に対しBが7の割合であることが明らかとなっている」ことからすれば、Bとしては、Aの過失が認められる割合についてまで賠償責任を負うことはない。

したがって、Bによる過失相殺の抗弁は認められる。

3.以上から、Aの請求は7割の限度において認められる。

第2 小問(2)について

1.Bの主張の法的根拠は、相殺の抗弁である(505条1項)。同項は、「二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。」と規定する。また、506条1項前段は、「相殺は、当事者の一方から相手方に対する意思表示によってする。」と規定する。このことからすれば、相殺の抗弁の成立要件は、①相対立する二つの債務が存在すること、②各債務が同種債権であること、③各債務が弁済期にあること、④債務の性質上相殺を許さないものではないこと、⑤相殺の意思表示があることが認められることである。

本問において、AがBに対して不法行為に基づく損害賠償請求権を有していることは前述の通りである。また、BがAに対して債権を有していることも問題文の通りである。その上で、これらの各債権はいずれも金銭債権である(①・②充足)。また、Bの供する債権は、本件相殺における自働債権であるところ、かかる債権については期限の利益を放棄することによって弁済期の到来を迎えることができる(136条2項)。さらに、Aの有する不法行為に基づく損害賠償請求権は、損害の発生時から弁済期が到来している(③充足)。

したがって、Bの相殺の抗弁は、④が認められることを前提に、⑤相殺の意思表示をすることによって認められる。

2.これに対するAの「AがBに対し負担する債務が人の身体の侵害による損害賠償の債務であるから相殺に適しないとする」意見主張の法的根拠は、人の身体の侵害による損害賠償の債務を自働債権とする相殺は、債務の性質上相殺を許さないものであって、④を充足しないとのものである。

この点、たしかに、509条では、「次に掲げる債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。」と定めたうえで、同条2号において、「人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務」を定めている。しかし、同条が禁止する相殺は、その文言からもわかるように、人の生命または身体の侵害による損害賠償の債務を受働債権とする場合に限定している。

本問では、前述の通り、人の身体の侵害による損害賠償の債務を自働債権とする場合であるから、同条の禁止する相殺にはあたらない。

したがって、Aによる意見主張は失当である。

(設問2)

1.Cの請求の法的根拠は、不法行為に基づく損害賠償請求(709条)である。同請求の成立要件は前述の通りである。

本問において、Bによる事故によって、Cは自己の身体という「法律上保護される利益」を侵害されており、これにより負傷し、治療費200万円という損害を発生させている。そして、前述の通り、本件事故について、Bには過失が認められる。

したがって、Cの請求は認められる。

2.これに対する、「Aに過失があったことを考慮して損害賠償の額を定める」べきであるとのBの主張についての当否を検討するが、かかる主張の法的根拠は、過失相殺の抗弁である(722条2項)。同項では、「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。」と定められているところ、本問でのCには、少なくとも「過失」が認められない。そこで、「被害者に過失があったとき」ということができるかが問題となる。

この点、同項の趣旨は、損害の衡平な分担に求められるところ、被害者と身分上ないし生活関係上一体をなすと認められる関係にある者の過失を考慮しなければ、加害者は、本来他人が責任を負うべき損害についても賠償しなければならないこととなり、同項の趣旨に反することとなる。したがって、共同生活を営む身分上ないし生活関係上一体をなす関係にある者についても「被害者」に含めて、過失相殺の当否を決せられる。

本問において、A・Cは、婚姻の届出をしていないが、事実上夫婦と同様の関係にあって同居しているのであるから、Cからみて、Aは、共同生活を営む身分上ないし生活関係上一体をなす関係にある者といえる。

したがって、Cの請求である場合であっても、Aの過失をいわば、「被害者」側の過失として判断することができる。

3.以上から、Cの請求額である200万円のうち、Aの過失である3割を考慮した140万円の限度で請求は認められる。

(設問3)

1.AのEに対する請求の法的根拠は、甲の所有権(206条)に基づく返還請求権としての引渡請求である。同請求の要件は、①Aが甲を所有していたこと、②Eが甲を占有していることが認められることである。

本問において、甲についてAが所有していたことは問題文の通りである。また、Eは、Dから甲について現実の引渡し(182条1項)を受けていることから、占有しているといえる。

2.これに対して、Eは、DE間の売買契約(555条)が締結し、これによって所有権を承継取得した(176条)と反論することが考えられるが、売買契約当時Dは、甲につき無権利者であって、同契約はいわゆる他人物売買契約(561条)にすぎないため、物権的権利を取得することはなく、債権的な権利しか取得することはない。したがって、Dが、同契約の存在のみをもって甲の所有権を取得することはできない。

そこで、Eは、DE間の売買契約の締結及びその後の現実の引渡しをもって即時取得(192条)が成立したとして、Aの所有権は喪失したとの反論をすることが考えられる。同条は、「取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。」と規定する。このことから、即時取得の要件は、①有効な取引行為によって動産の占有を始めたこと、②平穏かつ公然、③前主が適法でない権利者であることについて善意かつ過失がないことである。また、前主の動産の占有という権利の外形を信頼することを理由に、当該動産の占有譲り受けた者を取引の安全の観点から保護する即時取得の制度趣旨からすれば、明文無き要件として、④前主の占有の事実も要求される。②及び③のうち「善意」については、186条1項によって推定され、188条によって前主が適法な占有者であることが推定されるため、この者から買い受けた者は無過失であると推定される。そして、本問において、その推定を覆す事情はない。また、前主であるDが占有していたことも問題文の通りである。

そこで、本問では、①が問題となる。すなわち、DE間の売買契約は、他人物売買であるものの、それ自体としては、有効な取引行為ということができるが、その目的物は、Aの登録がされている自動車である甲であって、これを「動産」ということができるかが問題となる。

この点、即時取得制度は、占有という動産に関する権利の外形を信頼し、所有者の支配領域を離れて流通するに至った動産に対して、支配を確立した者を特に保護するものであるところ、不動産における登記と同様、自動車登録がある自動車については、これによって所有者を把握することができるため、即時取得制度の趣旨が及ばない。すなわち、本問では、甲にはAの自動車登録がされている以上、即時取得が可能である「動産」ということができない。

したがって、Eに即時取得は成立しないため、Eの反論は認められない。

3.以上から、Aの請求は認められる。

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