
1.確認の訴えについては、その対象が無限定となりかねないし、判決に執行力がないことから紛争解決手段としての実効性が限定的である。このことからすれば、確認の利益の有無については慎重に判断するべきであり、具体的には、①対象選択の適切性、②方法選択の適切性、③即時確定の必要性が認められる場合に、確認の利益が認められると解するべきである。
2.① 確認対象としては、原則として自己の現在の法律関係に関する積極的なものであることを要する。本件訴えの確認対象は、XがYに対して、本件敷金の残額である320万円の返還請求権を有することであるが、敷金返還請求権は、賃貸借契約が終了し、賃貸物の引渡しがされた後に発生することから(民法622条の2第1項各号)、将来の法律関係の確認を求めるものであるとして、確認対象としての適切性を欠くように思える。しかし、敷金返還請求権は、返還の時点においてそれまでに生じた被担保債権の控除後に残額があることを条件としてその残額につき発生するものであるから、自己の現在の条件付きの権利または法律関係の確認を求めるものであって、確認対象としての適切性が認められる。
② 原告の権利や法律上の地位に対する危険や不安を除去するのに確認の訴えよりも適切である法的手段が存在する場合には、方法選択の適切性は認められない。この点、本件敷金は未だ発生していないことから現在給付の訴えをすることはできず、また具体的返還請求権の額が定まっていないことから将来給付の訴えの利益も認められず、Xにとって、本件敷金の存在を確認する他の手段はないため、方法選択の適切性が認められる。
③ 即時確定の必要性は、(ア)原告が保護を求める法的地位が十分に具体化・現実化されているかどうか、(イ)被告の態度や行為の態様が、原告の地位に対して危険又は不安を生じさせているかという観点から判断する。
(ア)本件訴えの確認対象は、前述の通りXがYに対して、本件敷金の残額である320万円の返還請求権を有することであるが、敷金返還請求権は、賃借人による賃料不払いや賃貸物の損傷によって賃貸借契約が継続する限り減額し続ける性質がある。本問では、XY間の賃貸借契約が継続していていることからすれば、いまだ原告であるXの法的地位が具体化・現実化していないといえ、即時確定の必要性が認められないとも考えられる。
しかし、確認の訴えには、権利または法律関係を既判力をもって確定することにより現在の紛争を解決するとともに、将来の紛争を予防する機能をも有することをも考慮して、原告が保護を求める法的地位が十分に具体化しているかを判断しなければならない。本問についていえば、少なくともXの主張では、前賃貸人であるAに対して400万円の敷金を交付したことになっているのであるから、現在の具体的な敷金返還請求権の額及びその存在を確認することで、賃貸借契約終了後の敷金返還請求訴訟においては、その当時に、敷金返還請求権が存在していたのか、あるとして残額がいくら残っていたのかを前提とすることができるため、将来の紛争の複雑化を防止することができる。このことからすれば、未だ具体的返還請求権の額が定まっていない場合であっても、Xの保護されるべき法的地位が具体化しているといえる。
(イ)Xは、本件敷金の存在を前提にその具体的金額について主張している一方で、Yは、本問における賃料増額調停で、本件敷金の存在自体及び返還義務を争っているのであるから、被告の態度や行為の態様が、原告の地位に対して危険又は不安を生じさせているといえる。
これらのことからすれば、本件訴えには、即時確定の必要性が認められる。
3.以上から、本件訴えには、確認の利益が認められる。

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