
第1:〔設問1〕
1.Cは、甲社の「株主」として、本件決議の取消しを求める訴え(会社法(以下、法令名省略831条1項柱書)を提起し、その中で、本件決議には、①議長BがHによる議決権の代理行使を認めなかったこと、②Bが議決権を行使したことの二点を主張することが考えられる。
2.①について
甲社の定款には、株主総会の議決権行使の代理人資格を株主に限定する規定(以下、本件定款規定)があるため、Bは本件定款規定に従い、Hによる議決権の代理行使を認めなかったと考えられる。では、本件定款規定はHに適用されるのか。
まず、本件定款規定は310条1項に反し、無効ではないか。
310条1項は、代理人資格の制限を合理的な理由による相当程度の範囲内で許容する趣旨であり、議決権行使の代理人資格を株主に限定する定款規定は、株主総会が株主以外の第三者によってかく乱されることを防止し、会社の利益を図るという合理的な理由に基づく相当程度の制限であるから、310条1項に反せず、有効である
一方で、株主の議決権行使(308条1項)は、株主が会社経営に参加する手段として最も重要な共益権の一つであるし、とりわけ、取締役会設置会社においては、株主総会における決議事項が限定されている(295条2項、298条3項)ため、その機会は最大限保障されるべきである。そこで、(a)株主総会のかく乱のおそれがない場合や、(b)定款規定の適用が事実上議決権行使の機会を奪うに等しい場合には、当該定款規定の効力が及ばないと考える。
Hは、BとCがもめていることを知ったAが、自身が一方にのみ肩入れすることを避けるために、本件株主総会における自己の議決権の行使その他の一切の事項について委任した者である。また、Hが弁護士であることからしても、Hの意図に反するような行動をすることは考えにくい。
そうすると、Hによる議決権行使を認めたとしても本件株主総会のかく乱のおそれはないといえるから、(a)の場合に該当し、本件定款規定の効力はHに及ばない。
よって、本件決議には、Hによる議決権の代理行使を認めなかった点において「決議の方法」が310条1項たる「法令…に違反する」(831条1項1号)に当たり、取消事由がある。
そして、Hによる議決権の代理行使を認めなかったことは、Aの株主としての権利である議決権行使の機会を奪うものだから、「違反する事実が重大でな」い場合に当たらず、裁量棄却(831条2項)は認められない。
なお、①はC自身の株主としての権利とは関係のない取消事由であるが、決議の公正を図る見地から、Cも①の取消事由を主張できると考える。
3.②について
Bは「特別の利害関係を有する者」に当たるか。
「特別の利害関係」(831条1項3号)とは、ある議案について他の株主とは異なる特殊な利益を得たり、他の株主が受ける利益を免れる者をいう。
たしかに、本件決議におけるBを取締役に選任する議案が成立した場合、Bは甲社取締役となる利益を得ることになるから、候補者として議案に挙げられていない他の株主と異なる利益を得ることになるとはいえる。しかし、株式会社の有する権利の本質は、会社の支配ないし経営に参加することができるという点にもあるから、取締役選任決議において自己が候補者となっている議案について議決権を行使して自己が取締役となる利益は、株主としての権利に基づく正当な権利行使の結果として得る利益であるというべきであって、株主としての資格を離れた個人的な利害関係を得るものではなく、他の株主と異なる「特殊な」利益を得るものとはいえない。よって、Bは「特別の利害関係を有する者」に当たらない。
よって、831条1項3号の取消事由はなく、②の主張は失当である。
4.以上から、①の主張は認められ、本件決議の取消は認められる。
第2:〔設問2〕
1.本件決議により取締役として選任されたB・F・Gが、その任期満了により退任し、再び令和7年6月24日の株主総会決議(以下、決議Ⅱ)により再任されているから、現時点において本件決議により選任された取締役が存在しない。そこで、本件決議の取消しの訴えに訴えの利益が認められるかが問題となる。
2.訴えの利益が認められるのは、特定の請求について本案判決をすることが、特定の紛争の解決にとって必要かつ有効、適切である場合である。
株主総会決議の取消しの訴えが形成の訴えであることからすれば、法がそのような訴えを一定の要件の下で認めているものといえるから、訴えの利益が認められるのが原則である。
しかし、取締役選任決議の取消しの訴えの主たる目的は当該決議により選任された取締役の地位を失わせることにある。そうだとすれば、訴訟係属中に当該決議により選任された取締役全員が現存しなくなった場合には、特段の事情がない限り、当該目的を達成することができず、その取消しの必要性を欠くとして訴えの利益が否定される。そして、その特段の事情としては、取消対象である先行手続の取消しによって先行手続が不存在となることで、先行手続を前提として行われた後行決議が瑕疵を帯びることになるという意味で、瑕疵が連鎖する場合が考えられる。
3.本件決議が株主総会決議取消しの訴えにより取り消された場合、本件決議は遡及的に無効となる(839条反対解釈)から、本件決議によって取締役となったB・F・Gから構成される取締役会は正当なものとはいえず、当該取締役会で選定された代表取締役Bも正当な選定を受けたとはいえない。そうすると、Bは株主総会の正当な招集権限を有さず、そのBによって招集された令和7年6月24日の株主総会における決議Ⅱも、当該決議が全員出席総会においてなされたなどの瑕疵を治癒する特段の事情がない本件では、正当な招集権限を有さない者によって招集されたという瑕疵のある株主総会として法的に不存在となる。
4.よって、取消対象である先行手続の取消しによって先行手続が不存在となることで、先行手続を前提として行われた後行決議が瑕疵を帯びることになるとという意味で瑕疵が連鎖する場合に当たるから、上記特段の事情が認められ、訴えの利益が認められる。
なお、本件においては、後行決議たる決議Ⅱの瑕疵を争う訴えが併合提起されていないが、決議Ⅱの不存在は訴え以外の方法でも主張できることから、決議Ⅱの瑕疵を争う訴えの提起の有無は本件決議を取り消す必要性を左右するものではなく、併合提起が本件の場合でも、本件決議の取消しの訴えの訴えの利益は認められる。

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