一橋大学法科大学院の受かり方と入学後の過ごし方とは?
2025年10月19日
法科大学院
第1 一橋大学法科大学院(以下「一橋LS」)入試に向けた対策
1 一次審査(書類)
主に学部GPAと、TOEIC・TOEFLなどの英語のスコアで審査されます。ここ数年、TOEICスコアにして最低700以上が要求されており、英語が苦手と言う人にはかなり厳しい状況になっています。他方、(法科大学院として望ましいかはさておき、)一橋LS受験生の法律面のレベルは相対的に下がるような感じもあり、科目数が少ないこと、試験の時期がやや遅いことにも照らすと、英語が得意な方にはトライする価値があります。
2 二次試験(法律論文)
試験科目は、憲法・民事法(民法・民事訴訟法)・刑事法(刑法・刑事訴訟法)で、行政法と会社法は含まれません。全体の傾向としては、事案のあてはめよりも法律論の適切な理解(規範の暗記ではありません)が求められる傾向がありますが、オーソドックスなLS入試であり、スタンダードな入試対策がまずは重要です。独断と偏見による各科目の特徴を以下にまとめました。
⑴ 憲法は、そのままのモデル事例があるわけではなく、重要判例の趣旨を入れ込むポイントが散りばめられている問題が多いです。各判例の規範や処理をそのまま覚えるというよりは、各判例が結論を導く際に決め手となったポイントを分析しておき、どのような場面・条件下でその規範を使えるか、柔軟に検討できるようにしておきましょう。
⑵ 民法は、設例自体が短く、1つ1つの重要論点に的確に答えるのが重要です(家族法はあまり出題されません)。年によっては類推適用や類似の法理の援用が求められることもありますが、無理に手広く論点を抑えるよりも、重要論点を抑えつつ、重要な条文の趣旨や解釈にかかる判例を理解し、最低限の法律構成を組み立てることが大事です。
⑶ 民事訴訟法も設例自体は短く、重要・典型論点について、規範の趣旨や構造の正確な理解が問われる傾向にあります(市販品の中では、Law Practice民事訴訟法は相性が良いと言われています)。ただ、権威だった山本和彦教授が退官されたため、2026年度入試から傾向が変動する可能性はあります。
⑷ 刑法は、総論と各論から一問ずつ出題する、オーソドックスなスタイルです。出題内容も理解が難しいものではなく頻出論点からが多く、総論では共犯に関する出題がやや多い傾向にあります。設例をよく読み、基本的な論点を落とさずに事実を当てはめることが重要です。
⑸ 刑事訴訟法は、基本論点からの出題がメインですが、時折、「利益原則の趣旨」のような、総論的な問題が出題される場合があります。総論的な問題が出題されても、極端にずれていないことを書ければよく、まずは論点問題の方を最低限答えて点数を確保しましょう。
3 三次試験(面接)
面接では、専ら、詰め役と普通役の計2人の教授が面接官となります。法律知識や変化球ではなく、「法曹を目指したきっかけ」「理想とする法曹像」「一橋LSを志望する理由」など、法曹を目指すに当たっての心持ちが問われます。自分なりに、①どのような法曹になりたいか、②なぜ一橋LSを選ぶのか、③一橋LSで何をどのように学んでいきたいか、などを言語化しておくことが重要です。理路整然と言語化できているかは、第三者に確認してもらうのが一番良いでしょう。
そして、不意打ちで何を聞かれても話せるように、適当なことや嘘偽りではなく、素直な考えを敷衍しておくのがおすすめです。エントリーシートをふまえ、穴があればしっかりと突いてくるので、中途半端な考えで臨むと、年間10名前後いる不合格者に入ってしまいかねません。
第2 入学から司法試験までの過ごし方
一橋LSは、生徒数が少なく、教授から密度の高い指導を受けやすいという特徴があります。また、なにより学友との議論を通じて、自分が知らない知識を吸収できること、法律的な議論によって法的思考力を正しい方向に高められること、受験や就職についての情報収集が容易なこと、なにより仲間がいるというメンタル面の支えがあるということが法科大学院のメリットです。その点、一橋LSは少人数ゆえに学友同士の距離感が近く、これらを享受しやすいかと思います。
1 授業
(上位の法科大学院は大抵そうでしょうが)授業では学説対立にもかなり踏み込むため難易度はやや高く、司法試験や実務との関係で言えば、オーバースペックな部分も多いです。ただ私見ですが、「司法試験に不必要なことやっているな」と適当にこなしてスルーするよりも、出された課題を自分なりに考え、授業を踏まえて咀嚼し直し、本当に役に立ちそうな部分やエッセンスを能動的に判断して吸収することで、授業を有用なものにすることができます。
先生方はとても面倒見が良く、口頭でもメールでも、質問すると懇切丁寧に答えてくれますから、沢山質問し、議論するのが良いと思います。
2 研究棟(マーキュリータワー)での過ごし方
授業時間外に勉強する際は、研究室、自習スペース、資料室、自宅など、人それぞれの過ごし方があります。
自習室はオープンスペースですが、静かで治安は悪くありません。ただ環境で言えば、席数に限りはありますが、資料室の方が静かかつ資料もたくさんあるので、一人で集中したいときはお勧めです。
また、2つのクラスそれぞれに研究室が1つずつ割り当てられます。研究室の住人は次第に固定されてきますが、皆が良心的であれば、各々がリラックスして勉強でき、また相談(ないし雑談)相手がいるので、学習効果も享受でき、精神衛生的にも良いです。
3 自主ゼミ
一橋LSは自主ゼミの活動が活発で、大部分の学生がそれぞれに自主ゼミを組織しています。自主ゼミでは、特に、起案を指摘しあうことで疑問点を解決し、自分の課題点を見つけてもらえますし、過去問演習のペースメーカーにもなります。忌憚のない議論と安定感を維持するため、人間的な相性も重要ですし、「デキる」人と組むと学習効果が高くなります。
4 合格者ゼミ・アドバイザーゼミ
一橋LS公式の企画として、合格者ゼミは、合格者の3年生から1・2年生向けに、12~3月ころに開催されます。科目特化、未修向け、既習ハイレベル向けなど、様々なタイプのゼミがあります。また学習アドバイザーゼミは、比較的若手の弁護士の方が、司法試験の過去問の解説・添削をしてくれます。現地開催の場合、懇親会も開いてくれます。
こうしたゼミを担当してくれる人たちは大抵お節介焼きですので、かなり細かいところまで添削や指導をしてくれることが多いです。合格者の視点が直接ほしい方は、ぜひ受講しましょう。
第3 司法試験終了から卒業まで
一橋LSでの司法試験後の過ごし方は、カリキュラムも踏まえて大体3タイプに分かれます。
1 まず、憲法訴訟、家族法実務、AI法、刑事実務など様々な発展分野を扱う「発展ゼミ」や、自ら志願して、研究者からマンツーマンで指導を受けながらリサーチペーパーを執筆する「法学研究」などを受講する、自分の興味関心に注力するタイプがあります。
2 次に、「ビジネスローコース」という、企業法務を見据えた能力を鍛えるカリキュラムがあり、大手事務所や外資系事務所に入所する人は、これを選択する人が多いです。
3 その他、単位は最低限にして自分の時間を楽しみ、バイトに打ち込む人もいます(当然、前二者であっても両立はできます)。
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