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平成24年司法試験 行政法 参考答案

2026年8月16日

参考答案, 司法試験

第1 設問1                          

1 処分性

 「処分」(行政事件訴訟法3条2項、以下、法名省略)とは、公権力の主体たる国又は公共団体の行う行為のうち、直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。 これは具体的には、①法的効果、②公権力性、③外部性、④成熟性に分析できる。

本件計画決定の主体はQ県であり、都市計画法(以下、法とする)に基づく(法20条1項参照)Q県の一方的な判断により後述の建築制限等の効果が県民に生じることは明らかなので本件では②と③は満たされる。以下、①と④に関して検討する。

2 建築制限に関して

 まず、本件計画決定により、建築制限がかかるから(法53条1項)、①法的効果があるといえる。この制限は、制限のなされる都市計画施設の区域を特定し、それを明らかにしてなされることからすれば(法20条2項、14条1項、同条2項7号)、④成熟性も肯定できるとも思える。

 しかし、この法的効果は、都市計画施設の区域内の権利者一般に対して生じるものであるから、一般的・抽象的なものにすぎず、④成熟性を満たすとはいえない。浜松土地区画整理事業計画決定事件最高裁判決(以下、「浜松判決」という。)も同様に建築制限それ自体で処分性を肯定していない。

3 収用を受けるべき地位に関して

 本件計画決定の後には、都市計画事業認可(法59条1項)が予定されており、認可後の告示により建築制限がかかる(法62条1項、65条1項)。その上、都市計画事業に土地収用法が適用されるようになり(法69条)、都市計画事業認可は土地収用事業認定に代えられ、その告示は土地収用事業認定の告示とみなされる(法70条)。

以上のような法構造からすれば、本件計画決定により、対象者は収用を受けるべき地位に立たされることになり、浜松判決と同様の理由により、①と④が肯定されるとも思える。

しかし、土地区画整理事業の事業計画の決定は、道路に係る都市計画でいえば、事業認可の段階に相当するのであって、都市計画法の事業計画決定がなされただけでは未だ権利侵害の切迫性は弱い。

収用される土地・物件が具体的に判明するのは認可の段階である(法60条3項、都市計画法施行規則47条1号ロ)ことからしても、計画決定段階での権利侵害の切迫性は弱いといえる。

4 実効的権利救済の観点に関して

 浜松判決は実効的権利救済の観点も加味して事業計画の決定につき処分性を肯定した。

 しかし、本件は浜松判決の場合とは異なり、後続の手続である認可の段階では工事等は進ちょくしていないのであるから、そこで争っても事情判決(31条)が出される可能性はない。

また、Pのように建築制限に不服があるのであれば、建築確認を申請し、その不許可処分に対する取消訴訟を提起することや、許可を受けずに建築できる地位の確認を求める実質的当事者訴訟(4条後段)を提起ることにより権利救済は十分可能である。

5 結論

以上のように、権利侵害の切迫性は弱く、実効的権利救済の観点からも問題ないのであるから、仮に収容の前提となる点で①法的効果性を肯定できたとしても、少なくとも④成熟性を欠き、本件計画決定に処分性は認められないと考える。

第2 設問2

1 適法とする法律論

(1)裁量の有無広狭は、根拠規定の文言や処分の性質を総合考慮して決する。本件では、計画変更の要件について「必要が明らかになったとき」(法21条1項)と抽象的に定めている。また、都市計画は高度な専門技術的判断が必要になる。

 したがって、広汎な裁量が認められ、重大な事実誤認または社会通念上著しく妥当を欠く場合のみ違法となる。

(2)ア 本件では、基礎調査によると、c付近は空洞化が進んでおり、道路を整備することによって経済を活性化することが必要である。また、bc間の交通需要はこの20年間で40%増えると推計されている。

 したがって、本件計画を存続させる必要があるとする判断は社会通念上著しく妥当を欠くとはいえない。

イ さらに、Q県は道路密度の最低値を定める基準を設定しているところ、これは法の根拠もなく、国民の権利義務に影響を与えないので、裁量基準である。合理性のある基準に相当な理由なく従わないと、平等原則違反の問題を生じうる。

 道路は住民の生活や事業者の商売において基盤となるものであるから、道路密度の最低値を定める本件基準は合理性がある。そして、本件では、本件区間を整備しないと道路密度が基準を下回ってしまう。道路密度が確保されなければ、住民の生活や事業者の商売に深刻な影響を与えると考えられる。

 以上より、本件計画を存続させることが必要であるから、社会通念上著しく妥当を欠くとはいえない。

2 違法とする法律論

(1)裁量の逸脱濫用を主張する。

(2)ア すなわち、本件計画は1970年に決定されたものであり、現代の交通事情に適合するとは考え難い。特にbc間については40年もの長期にわたって放置されてきたのであって、今さら計画を始動させることに意味はない。また、bc間の交通量はこの20年で20%も減少しており、次の20年間で40%増加するとの推計は明らかに不合理である。上記推計は、むしろc地点の事業者に配慮したものであって、「都市の健全な発展」(法1条)という本件計画の目的とは無関係である。

 したがって、計画存続は社会通念上著しく妥当を欠く。

イ たとえ裁量基準に合理性があったとしても、機械的に適用して結果に妥当性がない場合には個別審査義務違反になりうる。

 本件では、道路密度が基準を下回ると言っても、それは1キロにすぎず、住民の生活等に深刻な影響を与えるとは思えない。また、本件道路は幅32メートルと、空洞化が進行しつつあるbc間にふさわしくない大きさである。さらに、Q県の財政状況は逼迫しており、事業の施行は困難である。

 以上より、本件計画の存続は本件基準を機械的に適用して妥当性のない結果を導いたものといえるため、社会通念上著しく妥当を欠く。

3 私見

(1)確かに、違法とする法律論が指摘するような事情もある。

(2)ア しかし、過去20年間でbc間の交通量が20%減少しているとしても、次の20年間に40%増加させるためにこそ、c地点の空洞化を抑えることが必要だともいえる。また、都市計画は住民や事業者と不可分なものであるから、c地点の事業者の意見を参考にしたとしても、直ちに他事考慮とはならない。Q県はあくまでc地点の空洞化を解消するために本件計画を存続させているのである。ゆえに、計画存続が著しく妥当を欠くとはいえない。

イ そして、道路は住民の生活等に密接に関わるから、基準道路密度を下回る事態は避けるべきである。また、道路の幅に関しては、本件計画によりbc間の交通量が増えた場合のことを考えて広くするという判断は不合理とは言えない。ゆえに、個別審査義務違反とは言えない。

(3)よって、本件計画を変更しないことは適法である。

第3 設問3

1 Pは損失補償を請求する(憲法29条3項)。同条の財産権保障の趣旨を貫徹するために、損失補償規定が個別法にない場合でも、PはQ県に対し、直接同条に基づく請求をなしうる。

2 損失補償の趣旨は、公平負担(憲法14条)及び財産権保障(憲法29条1項)の実質化にあることから、特別な犠牲にあたる場合に限って損失補償の対象になると解する。そして、特別な犠牲にあたるか否かは、侵害行為の対象、侵害行為の強度、目的、侵害の態様等を総合考慮して社会通念上受忍すべき限度内かどうかで決する。

3 確かに、本件計画決定により、Pという個人に建築制限規制がかかっている。また、1970年から40年もの長期にわたって制限を受け続けてきた。さらに、都市計画決定は、「都市の健全な発展」という積極目的のためにされる。

 しかし、建築制限等の利用制限は一般的効果しか有さないと考えることもできる。そして、本件建築制限は、容易に移転除却等の要件を満たせば建物を建築することもできる(法54条1号)ため、あくまで現状の固定を求めるにすぎないといえる。また、都市計画による建築制限は一般的に長期にわたるものなので、40年が長いともいえない。

4 以上より、Pに課せられた制限は社会通念上受忍すべき限度内であり、特別な犠牲にあたるとはいえないから、本件請求は認められない。

  

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