平成23年司法試験 刑事訴訟法 参考答案
2026年8月16日
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第1 設問1
1 逮捕①および引き続く身体拘束の適法性
(1) 逮捕①は、Wに対する強盗の被疑事実によりなされたものである。
Wは、甲が間違いなく犯人である旨の供述をしている。Wは、直接の被害者であるうえ、複数の写真の中から甲の写真を選び出しており、的確かつ適切に犯人の記憶を有していると考えられる。そのため、上記供述は信用性が高く、甲が強盗犯人である可能性が高い。したがって、「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」が認められる。
また、甲は否認しているうえ、強盗という重大事件であれば起訴の可能性も高いから、逃亡のおそれが高い。さらに、Wに接触し、脅迫するなどして証拠隠滅を図る可能性もある。そのため、「逮捕の必要」(199条2項但書、刑事訴訟法規則143条の3)も認められる。
したがって、逮捕①は、要件を満たし適法である。
(2)ア 一方で、Pは、甲を、証拠が不足しているVに対する殺人・死体遺棄の被疑事実で勾留し、取り調べることを意図している。そのため、逮捕①に続く勾留は、いわゆる別件勾留となり、令状主義(刑事訴訟法199条1項本文、以下法名略、憲法33条)を反して違法とならないか。
イ 別件による逮捕・勾留といえども、要件を満たしているのであれば、それは適法な逮捕であり、令状主義に反するとはいえない。
一方、起訴前勾留は、終局処分決定に向けて捜査を行うための期間である。そのため、当該期間が主として本件の捜査に利用されている場合には、上記起訴前勾留の趣旨をふまえると、別件による逮捕勾留としての実体を失ったといえ、実質上令状審査を経ていない本件逮捕勾留と認められ、令状主義に反して違法となる。
ウ まず、逮捕①に続く勾留の要件を検討する。
上記のように、W供述の信用性が高いことから、甲が強盗犯人である可能性は高く、甲が「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」(207条1項、60条1項柱書)が認められる。
また、上記の通り、罪証隠滅のおそれ、逃亡のおそれもあるから、207条1項、60条2号、3号に該当する事由も認められる。
罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれに加えて、強盗事件という重大な事案である一方、甲が大きく不利益を被ることはないから、勾留の必要(207条1項、87条1項参照)も認められる。
以上から、勾留の要件を満たし適法である。
エ そこで、逮捕①に続く勾留が、別件による勾留としての実体を失ったかどうか検討する。
もともと、逮捕①に続く身体拘束を行うに至ったのは、PがVに対する殺人・死体遺棄の被疑事実について捜査すべく、他の犯罪を行っていないか調査したためである。そのため、逮捕①および引き続く身体拘束を行うにあたり、Pには、Vに対する殺人・死体遺棄の被疑事実について捜査する意図があったといえる。また、Wに対する強盗とVに対する殺人・死体遺棄との間には何ら関連性がなく、強盗事件を捜査するにあたり、Vに対する殺人・死体遺棄事件を捜査する必要はない。
一方で、Vに対する殺人・死体遺棄事件についての甲の取調べは、5月15・16日と、17日から20日の1日当たり30分しか行われていない。その上、取調べは強盗事件に関する事項が中心で、強盗事件の捜査を圧迫するものではない。また、Vに対する殺人・死体遺棄事件について甲を取り調べていたのは、甲が自発的に死体遺棄の事実を自白したためである。その後も、甲が、殺人・死体遺棄事件について、供述録取書の作成を拒否したため、供述録取書は作成されておらず、甲に殺人・死体遺棄事件についての供述を強制したという事情はない。さらに、強盗事件について、検察官は終局判断するに至っており、十分捜査は行われていたと考えられる。
したがって、別件による逮捕勾留としての実体は失われていない。
オ よって、逮捕①に続く勾留は、令状主義に反しておらず適法である。
2 逮捕②および引き続く身体拘束の適法性
(1)ア 逮捕②は、現行犯逮捕(213条、212条1項)としてなされている。
現行犯逮捕が無令状で許されるのは、誤認逮捕のおそれが低く、令状裁判官による審査の必要性が低いからである。これと、212条1項の文言から、現行犯逮捕の要件は、①犯罪の現行性または逮捕との時間的接着性、及び、②①をふまえて、逮捕者にとって(特定の)犯罪と犯人が明白であることである。また、逮捕である以上、③逮捕の必要性も必要である。
イ 司法警察員Qが、乙の万引きを現認した直後にPが逮捕しており、時間的接着性が認められる(①)。
また、Qは、乙が500円相当の刺身パック1個を、スーパーMにおいて万引きするのを現認している。そのため、Qにとって、乙が窃盗罪(刑法235条)の犯人であることは明白である。一方、現行犯逮捕したのは、Qと行動を共にしていたPである。もっとも、Pは、Qを引き継ぎ、Qに代わって逮捕したに過ぎず、実質的な逮捕者はQといえる。したがって、犯罪と犯人の明白性も認められる(②)。
さらに、乙は、Qに呼び止められて、突然逃げ出そうとしているため、逃亡のおそれがある。加えて、証拠の刺身パックは、簡単に隠滅できるから、証拠隠滅のおそれもある。そのため、逮捕の必要(③)も認められる。
ウ 以上から、逮捕②は要件を満たし適法である。
(2) 続いて、逮捕②に引き続く勾留の要件について検討する。
ア 乙による窃取をQが現認している以上、窃盗罪を「犯したことを疑うに足りる相当な理由」(207条1項、60条1項柱書)が認められる。
また、上記の通り、罪証隠滅のおそれ、逃亡のおそれもあるから、207条1項、60条2号、3号に該当する事由も認められる。
罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれがある一方、乙が大きく不利益を被ることはなく、勾留の必要(207条1項、87条1項参照)も認められる
したがって、勾留の要件を満たし、適法である。
イ 乙は、余罪がない旨を供述しており、その後、QはVの殺人・死体遺棄事件に関する取調べを全く行っていないから、別件による勾留としての実体は失われていない。
ウ よって、逮捕②に続く勾留は、令状主義に反しておらず適法である。
3 逮捕③・④および引き続く身体拘束の適法性
(1) 逮捕①・②は、別件逮捕として適法であり、逮捕③・④について、再逮捕の問題は生じない。
逮捕③・④の被疑事実は、甲及び乙のVに対する殺人、死体遺棄である。BからAに送信されたメールの内容から、甲乙がVを殺害し、死体を遺棄したと疑われる。メールの内容は、Aの供述や死体発見場所と合致するため信頼でき、甲乙が犯人である可能性が高い。さらに、甲は、死体遺棄を認める供述をしているため、より可能性が高い。また、甲乙とBとの間で報酬についてのメールをした記録が残っており、甲乙とBがVの死体遺棄について意思疎通していたことが推認できる。したがって、甲および乙について、共謀してVを殺害、死体を遺棄したという「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」が認められる。
殺人という事案の重大性から起訴の可能性は高く、甲乙の黙秘という態度も考慮すると、逃亡のおそれがあるため、「逮捕の必要」も認められる。
(2) 上記メールの内容のうち、Vの死体を一本杉のすぐ横に埋めたという内容が、実際にVの死体が発見された場所とも合致するため、メール内容が事実である可能性は高い。そのため、甲及び乙について、共謀してVを殺害、死体を遺棄したという「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」(207条、60条1項柱書)がある。
また、逃亡のおそれ(207条1項、60条1項3号)も認められ、一方で、甲乙に大きな不利益はないから、勾留の必要もある。
(3) よって、逮捕③・④および引き続く身体拘束は適法である。
第2 設問2
1 捜査報告書全体
(1) 本件の捜査報告書は、いずれもPの「公判期日における供述に代えて」(320条1項)証拠となる書面であり、原則、証拠能力が否定される。
(2) もっとも、メールの添付という五官の作用によって対象の状態を認識する処分であって、恣意的な内容になるおそれが低く、また、その結果は、書面で報告した方が正確かつ詳細である。
したがって、緩やかな要件の下、伝聞例外を認めている321条3項の趣旨が妥当し、同項により証拠能力が認められうる。
(3) 本件でも、Pが公判期日において、真正に作成されたものであることを供述すれば、実況見分調書全体の証拠能力が認められる。
2 メール①全体
(1) メール①が、320条1項の伝聞証拠となるかを検討する。
320条1項の伝聞証拠は、知覚・記憶・表現・叙述の過程で誤りが入りやすいのに反対尋問等の信用性の確認を経ていない証拠であり、誤った事実認定を導くおそれがある。これを防止するため、証拠能力が否定される。かかる趣旨から、伝聞証拠とは、公判廷外の供述を内容とする証拠であって、要証事実との関係で供述内容の真実性が問題になるものをいう。
(2) 本件における公訴事実は、甲乙Bが共謀してVを殺害し、死体を遺棄したことである。甲乙は黙秘しており、死体を除いて証拠は存在しないから、Vの死亡以外全て争点となる。メール①が存在するというだけでは、公訴事実の存在を推認することはできないため、メール①の内容通りの犯行が実際に行われたといえなければならない。そのため、要証事実はメール①の内容通りの犯行の存在となる。これは立証趣旨に沿ったものである。
したがって、要証事実との関係で、メール①の内容の真実性が問題となり、320条1項により、原則として証拠能力が否定される。
(3) もっとも、「被告人以外の」Bの「供述書」であるから、321条1項3号により、例外的に証拠能力が認められないか。
ア Bは「死亡」しているため、「供述することができ」ない。
イ また、甲乙は一貫して黙秘し、供述を得る見込みはなく、メール①以外に公訴事実の存在を基礎付ける証拠はない。メール①は甲乙の自白を含んでいるため、直接証拠となる重要な供述証拠であり、これを証拠とできなければ、殺人、死体遺棄についての事実認定に著しい差異が生じる。したがって、「犯罪事実の存否の証明に欠くことができない」といえる。
ウ Bのパソコンを他人が使用することはないというAの供述から、メール①はBが作成したもので改ざんのおそれもない。また、BとAは結婚を前提に交際する仲であるため、Bが虚偽の内容を送るとは考えにくい。さらに、メール①の内容が死体発見場所と合致していることから、表現の真摯性を推認できる。したがって、Bが真実を記載する可能性が高い客観的状況があり、「特に信用すべき情況の下」で作成されたといえる。
エ 以上から、321条1項3号によりメール①全体の証拠能力が認められる。
3 甲乙の供述部分
(1)ア 殺人の公訴事実の立証のためには、甲乙の供述内容通りの犯行が実際に行われたといえる必要があるから、要証事実は、甲乙が共謀して供述内容通りの犯行を行ったことである。そのため、内容の真実性が問題となり、320条1項が適用され、原則として証拠能力が否定される。
イ 甲乙の供述部分はメール①という伝聞証拠の中に含まれる再伝聞証拠であるものの、メール①は、321条1項3号により証拠能力が認められ、公判供述と同視できる(320条1項参照)。したがって、甲乙の供述部分が、321条以下の例外要件を満たすのであれば、通常の伝聞証拠の場合と別に扱う必要はなく、証拠能力が認められる(324条準用)。
ウ 甲乙の供述部分を利用するにあたって、被告人が供述者ではない部分を利用する場合、共同被告人も「被告人以外の者」である以上、当該部分が321条1項3号に該当する必要がある(324条2項準用)。甲又は乙供述不能事由はないから、証拠能力は認められない。
エ 一方、被告人が供述者である部分を利用する場合、「被告人」の供述を内容とするから、322条1項前段に該当する必要がある(324条1項準用)。
甲乙の供述は自己の犯罪事実の存在を認めるものであり、「不利益な事実の承認」である。また、甲乙の供述は、Bに協力を依頼する内容で、自発的になされたものと推認され、類型的に虚偽の供述をさせる事情がない以上、「任意にされたものでない疑い」があるとはいえない。
以上より、324条1項、322条1項により、証拠能力が認められる。
(2) 一方で、死体遺棄の公訴事実のうち、Bのメールから、死体遺棄の公訴事実のうち、共謀以外を立証できる。そして、共謀の存在を推認するためには、甲乙の車を貸し出しの依頼、報酬支払の約束、手伝ってほしい旨の発言が存在するだけで足りる。かかる発言が存在するうえ、Bがこの依頼に応じたのはメールから明らかであるため、甲乙とBとの間に死体遺棄についての意思疎通があったといえるからである。
そのため、要証事実は供述の存在自体となり、内容の真実性が問題とならないから、証拠能力は認められる。
4 メール②
メール②は報酬に関する甲B間のやり取りであるため、その存在から甲B間で死体遺棄の報酬の合意があったことを推認できる。そうすると、甲B間に死体遺棄についての事前の意思疎通、すなわち、共謀が存在したといえる。したがって、要証事実は、メール②の存在となり、メール②の内容の真実性は問題とならないから、証拠能力は認められる。
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