
第1 設問1
1 捜査①の適法性
(1) 捜査①は、T社を対象場所とする令状に基づき、乙宛の荷物を捜索するものであるから、令状の効力が当該荷物に及んでいるか問題となる。
ア 第三者の携帯物でも、捜索場所にあることが予定されている物と推認できれば、当該場所の管理権が及ぶ。そして、捜索場所にある物のプライバシーは場所のプライバシーに包摂され、裁判官の審査を経ているといえるから、場所を対象とする令状に基づき、携帯物も捜索差押えできる。
イ 甲の携帯電話に「乙宛のは、お前と乙の2人でさばく分だ」という丙のメールが残っている。ここでいう「乙宛の」荷物は、宅配便が届いた時刻(10月5日午後3時16分)と、丙のメールに記載されている荷物の予定の着時刻が合致することから、捜査①の対象物である乙宛の荷物である可能性が高い。そうすると、乙宛の荷物は、乙の他甲の管理権も及んでいるということになる。当該荷物にはT社代表取締役社長甲と同社従業員乙の管理権が及ぶことが予定され、かつ、荷物の宛先の住所はT社事務所であるから、T社従業員としての乙に対し送付された荷物と考えるのが自然である。したがって、乙宛の荷物は、T社において保管、管理されることがもともと予定されていると認められ、T社の管理権が及ぶ。
ウ 一方で、荷物は乙宛のものであって、乙の足元に置かれている以上、乙の管理権が及んでいる側面も否定できず、乙の管理権を独自に保護すべきであって、T社のプライバシーに包摂されないのではないか。
捜索すべき場所が会社であり、同社に従業員がいることは当然予想されるから、裁判官は、従業員による管理物の存在もふまえて令状発付の判断しているはずである。そのため、乙も荷物を管理しているとはいえ、従業員である以上、その管理権は独立に保護すべき利益ではない。
エ したがって、乙宛の荷物のプライバシーはT社のプライバシーに包摂され、T社を対象場所とする令状の効力は及び得る。
(2) 次に、捜査①は、令状に基づく捜索の開始後に届いた荷物を捜索という行為であるから、そのような荷物にも令状の効力が及ぶか問題となる。
ア 219条1項が令状の有効期間の記載を求めているから、裁判官による有効期間中の捜索場所に押収対象物が存在する蓋然性の審査が予定されている。そして、被処分者自身が被処分者宛の荷物を受領したのであれば、捜索場所に付属した物といえるし、新たなプライバシー侵害も生じない。また、捜索開始時点の前後により、捜索の適法性が変わるのは妥当でない。
したがって、捜索中に①被処分者自身が受領した②被処分者宛の宅配物については、発付されている令状に基づき捜索差押えが認められる。
イ 本件では、上記のとおり、荷物にT社の管理権が及ぶ。そして、荷物を受領したのは、同社従業員であるWであるから、①は満たされる。また、上記のとおり、荷物は同社従業員である乙に対して送付されたものであり、実質的にT社宛であるから、②も満たされる。
ウ したがって、乙宛の荷物にも、令状の効力が及ぶ。
(3) 第3に、捜索が認められるには、乙宛の荷物に、平成23年10月2日における、甲の覚せい剤の営利目的所持に関して、「押収すべき物」が存在する蓋然性が認められなければならない(222条1項、102条2項)。
本件では、同日、甲が、T社において、覚せい剤取締法違反の検挙歴を有する者に対し、覚せい剤を販売しようとした旨の情報があり、同様の検挙歴を有する者数名がT社に出入りしている。そのため、甲は、検挙歴を有する者に覚せい剤の販売を行い、何らかの方法で入手した覚せい剤を常習的に営利目的で所持している可能性がある。そして、甲宛の荷物の差出人であるU株式会社の地番・電話番号が実在せず、加えて、甲は荷物の中身を提示することを拒否しているから、荷物の中身は、秘密裏に受け渡ししなければならない物である。これらの事情から、宅配便が甲の覚せい剤の入手経路であり、荷物の中身は覚せい剤である可能性が高い。そして、甲宛の荷物と乙宛の荷物は、差出人、内容物が同じで、伝票の筆跡が酷似し、外箱も同じであり、乙も甲と同様に任意の提示を拒否していることから、乙の荷物の中身も同じ覚せい剤である可能性が高い。
では、この覚せい剤が、上記被疑事実に関する証拠物となるか検討する。
甲と乙は、事前にメールで、同月5日午後3時過ぎに届く「ブツ」について、販売のために分けて所持する旨の合意をしている。「ブツ」が届く予定時刻と、甲及び乙宛の荷物が届いた時刻が合致するため、「ブツ」とは、甲及び乙宛の荷物、すなわち、覚せい剤のことを指している可能性が高い。したがって、甲乙間における、覚せい剤の営利目的所持についての意思疎通が認められ、甲は、乙と共謀して、同日午後3時16分に届いた覚せい剤を営利目的で所持していると推認できる。そして、甲は、常習的な営利目的所持が疑われる以上、同月2日も、その一環として、営利目的で覚せい剤を所持していたと推認できる。
以上から、乙宛の荷物の中身が覚せい剤であって、上記被疑事実に関連する物である可能性は高い。そして、本件に関連する覚せい剤は、差押対象物として、令状に記載されており、乙宛の荷物の中身が「押収すべき物」である蓋然性が認められる。
(4) 捜索によって侵害されるのは、T社や乙の荷物に対するプライバシーのみである一方、証拠物としての価値は高く、証拠隠滅されやすいことから、「必要があるとき」(218条1項)にあたる。
(5) よって、捜査①の捜索は、適法である。
2 捜査②の適法性
(1) 捜索差押許可状に基づく捜索(218条1項)としての適法性
ア 捜査②は、ロッカー内を捜索するものであるから、まず、本件の令状の効力が及ぶかどうか、すなわち、T社管理権が及ぶかどうかを検討する。
ロッカーの鍵は、社長室で保管されており、最終的な管理権は、社長である甲にあるといえる。そのため、T社の管理権がロッカーにも及ぶ。
一方、ロッカーは、乙と表示のあるロッカーで、他人のロッカーと区別されているうえ、施錠されていたことから、乙の管理権が及んでいる側面も否定できず、乙の管理権を独自に保護すべきであって、T社のプライバシーに包摂されないとも考え得る。しかしながら、上記のとおり、令状発付の判断において、従業員の存在は予定されており、乙はT社従業員であるから、その管理権は独立に保護すべき利益ではない。
したがって、乙のロッカーにも令状の効力が及ぶ。
イ 次に、乙のロッカーに、甲の覚せい剤の営利目的所持に関する「押収すべき物」が存在する蓋然性が認められるか検討する。
現に乙宛の荷物から覚せい剤が発見されていることも合わせて考えると、すでに述べた通り、乙は、常習的に覚せい剤を販売している可能性のある甲と共犯関係にある可能性が高く、乙の携帯電話や手帳等に覚せい剤の販売に関する情報が記載されている可能性は十分にある。そのため、乙の携帯電話や手帳等は、本件の証拠物となりうる。そして、本件と関連する携帯電話や手帳は、いずれも差押対象物として令状に記載されており、「押収すべき物」に該当する。
そして、甲が乙の携帯電話や手帳等がロッカーに入っている可能性がある旨を述べている。乙がロッカー内を見せることを拒絶するということは、捜査官に秘匿したい物がロッカー内に存在している可能性が高く、拒絶した状況からすると、覚せい剤の販売に関する情報が記載された乙の携帯電話や手帳であると推認できる。そのため、ロッカー内に「押収すべき物」である乙の携帯電話や手帳等がある蓋然性が認められる。
ウ 捜索によって侵害されるのは、T社や乙の荷物に対するプライバシーのみである一方、証拠物としての価値は高く、証拠隠滅されやすいことから、「必要があるとき」(218条1項)にあたる。
エ 以上から、捜査②は、捜索差押許可状に基づく捜索として適法である。
(2) 現行犯逮捕に伴う捜索(220条1項2号)としての適法性
ア 捜査②の捜索は、乙の現行犯逮捕から25分後という時間的に接着した時点で行われているから、「現行犯人を逮捕する場合」の捜索といえる。
イ では、乙のロッカーは、「逮捕の現場」(220条1項2号)に当たるか。
逮捕の現場には逮捕の被疑事実に関連する証拠が存在する蓋然性が高く、裁判官による事前の令状審査の必要性が低い。そのため、逮捕に伴い無令状で捜索差押えが許容される。かかる趣旨からすれば、「逮捕の現場」とは、捜索差押許可状が発付されれば捜索可能な範囲、すなわち、逮捕場所と同一の管理権が及ぶ範囲のこというと解する。
乙が逮捕場所は、T社の社長室である。乙のロッカーは、社長室に隣接する更衣室に存在するだけでなく、T社の同一の管理権が及ぶ場所である。
したがって、乙のロッカーは、「逮捕の現場」にあたる。
ウ 逮捕に伴う捜索においても、捜索が認められるには、「押収すべき物」(222条1項、102条1項)が存在する蓋然性がなければならない。
被疑事実は、乙の営利目的による覚せい剤所持である。令状に基づく捜索の検討と同様に、甲乙の共犯関係や現に乙宛に覚せい剤が届いていることから、乙の携帯電話や手帳等は、上記被疑事実との関係で証拠物となりうる。そのため、「押収すべき物」に当たる。また、甲の発言や乙の態度から、携帯電話や手帳がロッカー内に存在する蓋然性が認められる。
したがって、「押収すべき物」がロッカー内に存在する蓋然性がある。
エ また、必要性も令状に基づく捜索の検討と同様に認められる。
オ 以上から、捜査②は、現行犯逮捕に伴う捜索として適法である。
第2 設問2
1 判決に至る手続の適否
(1) 本件では、裁判所が検察官の訴因と異なる事実を認定しようとしているため、当事者主義(256条2・3項など参照)の観点から、訴因変更手続(312条1項)が必要である。一方で、訴訟経済の観点から、訴因と認定事実の間に重要な差異が生じた場合のみ、訴因変更手続をすればよい。
具体的には、まず、訴因の機能である審判対象画定機能と、その裏返しである防御告知機能が害されてはならないから、①罪となるべき事実の特定に不可欠な事実に差異が生じる場合には、訴因変更手続が必要である。
次に、上記事実以外の事実に差異がある場合でも、②一般的に被告人の防御に重要な事項であって、訴因に明示されている場合には、争点明確化による不意打ち防止の観点から、訴因変更手続が必要である。もっとも、③具体的審理経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものではなく、かつ、差異が生じることで被告人により不利益であるといえない場合には、例外的に、訴因変更手続は不要である。
(2) 本件の訴因は、単独犯の覚せい剤の営利目的所持に対応するものであるのに対し、裁判所は、新たに共謀を認定し、共同正犯と認定している。
共同正犯になれば、罰条として刑法60条が追加され、単独犯の構成要件が修正される。その結果、単独犯と共同正犯は、共謀、すなわち、犯罪の共同遂行の合意の有無という点で構成要件が異なる。したがって、共謀は、罪となるべき事実の特定に不可欠な事実に当たる。認定事実においては、乙丙間の共謀が、訴因に追加して認定されることになる以上、①の基準から、訴因変更手続が必要である。
(3) したがって、訴因変更手続を経ずに、共謀の事実を認定した裁判所の判決に至る手続きは、不当である。
2 判決内容の適否
(1) 有罪の判決をするには、「罪となるべき事実」を示したうえ(335条1項)、「犯罪の証明があった」といえなければならない(333条1項)。
「犯罪の証明があった」とは、通常人であれば誰でも疑いを差し挟まない程度に真実らしいとの確信、すなわち、合理的な疑いを容れない程度の確信が得られたことをいう。
本件において、裁判所は、訴因と異なり、丙との共謀の事実を新たに認定している。上記のとおり、単独犯と共同正犯は、構成要件が異なり、共謀は「罪となるべき事実」を構成する。一方、本件において、共謀は、証拠によって存否が確定できない。そのため、合理的な疑いを容れない程度の確信が得られたとはいえず、「犯罪の証明があった」場合に当たらない。
したがって、裁判所は、共謀の存在を認定したうえで、有罪判決をすることはできないと考え得る。
(2) もっとも、丙との共謀が認められた方が、甲らの犯情が軽くなるのであるから、「疑わしきは被告人の利益に」の原則(利益原則)により、丙との共謀の存在を認定できるのではないか。
刑事訴訟においては、検察官が立証責任を負い、犯罪の構成要件該当事実について、合理的な疑いを容れない程度の証明がされなければ、利益原則によって、当該犯罪により有罪判決とすることは許されない。一方で、利益原則は、さらに進んで、証明不十分な事実を当該事実が存在しなかったことを認定するよう命じる機能を有するわけではない。まして、被告人に量刑上有利だからという理由により、証明不十分な事実が存在することを認定するよう命じる機能も有していない。また、共謀の存在が、どの事案においても被告人に有利とは限らないため、利益原則を適用するとすれば、事案ごとに適用の有無を判断することになるため、一貫性を欠き妥当でない。さらに、共謀の存在が被告人の犯情に有利だとしても、無理に認定せず、量刑事情として考慮すれば足りる。
以上の理由から、裁判所は、利益原則により、丙との共謀の存在を認定することはできない。
(3) 以上から、裁判所の判決内容は、訴因逸脱認定(378条3号)という絶対的控訴理由に該当し、不適当である。
-1-1024x536.png)
-2.jpg)