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平成23年司法試験 憲法 参考答案

2026年8月16日

参考答案

第1 設問1

1 X社は,A大臣よる中止命令(以下「本件中止命令」。)の取消訴訟(行政事件訴訟法3条2項)を提起する。

2 X社は,本件中止命令の根拠となった法8条3項が,憲法21条1項によって保障されるインターネット上で地図検索システムを提供する権利(以下「本件権利」。)を侵害し,違憲であると主張する。

(1) 単なる事実の提供は思想表明に関するものではなく自己統治の価値がないし,その主体が法人 である場合には自己実現を想定できないから,憲法21条1項の保障を受けないとも思える。しかし,単なる事実の提供も国民の知る権利に奉仕するから,事実提供の権利も憲法21条1項の保障を受けると解する。

 Z機能画像は実際に歩いている感覚で見ることのできる地図情報を提供し,現地に行かなくても不動産広告が誇大広告であるか否かを確認して詐欺の未然防止に貢献するという社会的意義を有するから,会社によるZ機能画像の提供はユーザーの知る権利に奉仕する。

 したがって,本件権利は事実提供の権利として憲法21条1項の保障を受ける。そして,上述のような国民の知る権利に奉仕するという社会的意義に照らせば,本件権利は重要な権利である。

(2) 法8条3項の中止命令は,Z機能画像の提供そのものを中止させるものだから,本件権利に対する制約が認められる。また,法は,個人権利利益侵害情報(法2条6号。以下「6号情報」。)に着目して遵守事項を定め(法8条2号,3号),遵守事項違反により被害が生じた場合に,システム提供者に対して改善勧告(同8条2項)及びシステム提供中止命令(同3項)を定めているから,当該規制は表現内容規制である。内容規制は,動機の不法,公論歪曲のおそれが強いため,表現の自由に対する強度な制約である。

(3) 上述の通り,重要な権利に対して強度な制約が加えられていることに鑑みれば,やむにやまれぬ利益のための必要不可欠かつ必要最小限度の手段でなければ,法の規制は違憲であると解すべきである。

(4)ア 法の目的は,「国民生活の安全と平穏の確保」(法1条)にあるが,漠然とした不安感等の主観的利益は,表現の自由を制約するに足る程やむにやまれぬ利益とはいえない。また,Z機能画像の公開により侵害され得るプライバシーの保護に限定したとしても,他の人権と比較して優越的地位にある表現の自由はプライバシーに優先して保護されるべきであって,プライバシー保護はやむにやまれぬ利益とはいえない。仮にプライバシー保護目的自体が正当でも,大人の目線と同じ程度のカメラの高さ制限(法7条1号)を遵守して公道から撮影する場合には,人は容ぼう等の撮影を受忍しているといえ,承諾によるプライバシーの放棄が認められる。したがって,法が保護するプライバシーがやむにやまれぬ利益とはいえない。

イ 仮に目的が是認出来ても,6号情報はプライバシー侵害を引き起こす画像ではなく,これを規制することは必要不可欠とはいえない。また,個人識別情報(法2条4号。以下「4号情報」。)を除去していればプライバシー侵害のおそれはないから,6号情報まで規制対象にするのは過剰規制であり必要最小限度の手段ではない。更に,事前措置として民事上の差止請求訴訟,事後の措置として不法行為に基づく損害賠償請求訴訟の手段により,個人のプライバシーは保護出来るから,中止命令(法8条3項)は必要最小限度の手段ではない。

ウ よって,法8条3項は違憲である。

3 X社は,「生活ぶりがうかがえるような画像」が6号情報に含まれるか否かが明確でないため,法7条3号,2条6号は憲法21条及び同31条によって要請される明確性の原則に反して違憲であり,違憲無効の法令に基づいてなされた本件中止処分も違憲である,と主張する。

(1) 行政の恣意的判断を抑制し,国民に事前に規制内容を公正に告知するために,通常の判断能力を有する一般人の理解において具体的場合に当該行為がその適用を受けるかの判断基準が読み取れない場合には,当該法令は適正手続(憲法31条)の要請からから違憲である(明確性の原則)。そして,表現の自由が問題となる場合には,萎縮効果排除の観点から高度の明確性が要求される。

(2) 本件では,「生活ぶり」の情報がどこまで6号情報の「個人の権利利益」として保護されるのか不明確であるし,それを限定しようとすれば,一般人にはアクセス不能な特殊な前提に頼らざるを得ない。このように通常の判断能力を有する一般人の理解において,「生活ぶりがうかがえるような画像」の提供が法2条6号,7条3号の適用を受けるかの判断基準は読みとれないし,高度の明確性も確保されていない。

(3) よって,法2条6号,7条3号は明確性の原則(憲法21条1項,31条)に反し違憲である。

4 X社は,仮に法令が合憲であるとしても,憲法21条1項の趣旨に照らして6号情報は「人格と密接に関わる情報」と憲法適合解釈されるべきである,単なる室内などの「生活ぶりがうかがえるような画像」は生活環境を推知させるものにすぎず,人格と密接に関わる情報とまではいえないから,6号情報に該当しない,よって中止命令は違憲,違法である,と主張する。

5 X社は,表現の自由の優越的地位に照らすと「特に必要がある」(法8条3項)とは,目的達成のための必要最小限度の手段を用いる必要があると限定されるべきである,X社は法7条2号に沿った措置を講じた遵法意識の高い会社であり,「勧告に係る措置の実施」(法8条3項)がなされればそれに従い目的を達成するのであるから,中止命令は目的達成のための必要最小限度の手段とはいえない,よって中止命令は違憲,違法である,と主張する。

第2 設問2

1 被告の反論

(1) 報道機関以外の者が情報の受け手の知る権利を根拠にして情報発信の自由の保障を受けることはないから,法8条3項はせいぜい営業の自由の制約にすぎない。次に,法はプライバシーを保護法益にしているため,表現の自由とプライバシーを個別的に比較衡量して法の合憲性を判断すべきである。仮に個別的比較衡量が妥当しないとしても,以下の理由により,より緩やかな違憲審査基準が妥当すると考える。すなわち,報道機関の提供する情報と比べると地図情報の民主主義的価値は低く,権利の重要性は低減する。また,法8条3項はインターネットという表現「手段」から生じる害悪の防止を目的とした「表現」に対する間接的・付随的制約に過ぎず,動機の不法,公論歪曲のおそれの低い弱い規制にすぎない。

(2) 「他人に生活ぶりを知られない利益」はプライバシー権として保護されるのであり,「生活ぶりがうかがえる画像」が権利を侵害する画像であることは明白であるから,通常の判断能力を有する一般人の理解において,「生活ぶりがうかがえるような画像」の提供が法2条6号,7条3号の適用を受けるかの判断基準は読みとれる,よって法2条6号,7条3号は明確性の原則に反しない。

(3) 「生活ぶりがうかがえるような画像」には様々な情報があり,人格と密接に関わるものも含まれるため,「人格と密接に関わる情報」として6号情報に該当する。また,X社に改善勧告に従う意思がまったくなく,数件の申立てもあることから,「特に必要がある」との要件も満たす。

2 私見

(1) 法令違憲

ア X社主張の通り,単なる事実の提供も国民の知る権利に奉仕するから,事実提供の権利も憲法21条1項の保障を受けると解する。

被告は,報道機関特権論から上記保障を否定するが,誰でも効果的な情報発信をすることが可能であるインターネットの発達した現代情報社会において,報道機関と言う一部のエリートに事実報道の特権を独占させる理由はない。したがって,報道機関以外の者にも受け手の知る権利に呼応した情報提供権が保障されると考える。

Z機能画像は実際に歩いている感覚で見ることのできる地図情報を提供し,現地に行かなくても不動産広告が誇大広告であるか否かを確認して詐欺の未然防止に貢献するという社会的意義を有するから,会社によるZ機能画像の提供はユーザーの知る権利に奉仕する。

したがって,本件権利は事実提供の権利として憲法21条1項の保障を受ける。もっとも,X社主張のように本件権利が国民の知る権利に奉仕するという社会的意義を有するとしても,被告が指摘する,報道機関の提供する情報と比べると地図情報の民主主義的価値は低い,という点は否定し難く,本件権利の重要性は低減すると考える。

イ 法8条3項の中止命令は,Z機能画像の提供そのものを中止させるものだから,本件権利に対する制約が認められる。本件権利の保障が認められる以上,せいぜい営業の自由の制約に過ぎないとの被告の反論は採用し得ない。

X社主張の通り,法8条3項の中止命令は,6号情報の内容に着目した表現内容規制にあたる。表現内容規制は,動機の不法,公論歪曲のおそれが強いため,表現の自由に対する強度な規制である。

規制態様について,被告は法8条3項が間接的・付随的制約に過ぎない旨反論するが,インターネットが国民を受け手から送り手へ,その地位を回復するための有用な表現媒体であることを考慮すれば,「表現」とその「手段」とを人為的に峻別し,「手段」から生じる害悪を防止するため「表現」を間接的・付随的に規制するにすぎない,という論法を用いて表現の自由の保障を軽視すべきではない。したがって,間接的・付随的規制論は採用し得ないと考える。

ウ  被告は審査手法として個別的比較衡量を採用すべきと反論する。しかし,対立利益であるプライバシー保護の必要性は目的審査の中で判断すべき事柄であり,違憲審査基準を弱める理由にはならない。したがって,本問において個別的比較衡量の手法は採用し得ない。

そこで審査基準について検討すると,上述の通り,本件権利は民主主義的価値が低い点において権利の重要性が低減するものの,これに対する規制が強度であることに鑑みれば,重要な利益のための実質的関連性ある手段であり,かつ,より制限的でない代替手段がない場合に,法の規制は合憲となると解する。

エ 法の目的は,「国民生活の安全と平穏の確保」(法1条)にあるが,X社主張の通り漠然とした不安感等の主観的利益は,表現の自由を制約するに足る程やむにやまれぬ利益とはいえない。他方,Z機能画像の公開により侵害され得るプライバシーの保護に限定して考えた場合,表現の自由及びプライバシー権は同じ人格的自律性に由来する価値であるから,X社主張の表現の自由の優越的地位を考慮しても,プライバシー保護は重要な利益といえる。X社は,承諾によるプライバシーの放棄を主張し,法の保護する具体的なプライバシーが重要でないと主張するが,人は公道から視認されるのは受忍しているといえても,インターネット上で全くの第三者が画像を視認することまでは受忍していないと考えられ,プライバシーを放棄する自発的意思を想起し難い。加えて,インターネットの拡散能力を考慮すれば,インターネット上の個人情報の二次的利用によるプライバシー被害は甚大なものとなりうる。したがって,法の保護する具体的なプライバシーを見ても,本件権利を制約するに足りる重要な利益であるといえる。更に言えば,Z機能画像にはドメスティック・バイオレンスからの保護施設など公開されては困る施設,路上や公園で遊ぶ子どもも映し出されており,暴行・誘拐等の犯罪から人の生命・身体という不可逆的利益を保護するというのも,本件権利を制約するに足る重要な利益であるといえる。

オ X社は6号情報はプライバシー侵害を引き起こす画像ではないと主張するが,親戚,近隣者等の特殊な知識をもつ者は6号情報によって個人識別することが可能な場合がある。また個人識別が不可能であったとしてもドメスティック・バイオレンスからの保護施設等のセンシティブ性の高い情報が不特定多数に公表されることによるプライバシー被害や,上述のような人の生命・身体等に対する被害も想定しうる。法8条3項の中止命令はZ機能画像の提供を禁ずることで上記被害を防止するものであるから目的との実質的関連性は否定できない。

X社は6号情報の規制が過剰規制である旨主張するが,上述の通り,Z機能画像にはプライバシーや人の生命・身体等に対する被害を惹起させる情報も含まれている。そのため,かかる被害を防止するには4号情報の規制だけでは足りず,6号情報の規制は過剰規制ではない。そして,X社はより制限的でない代替手段として民事訴訟を指摘するが,プライバシーの秘匿性,インターネットの拡散能力を考慮すると,個々の事件に対処する民事訴訟では迅速な対処がなしえない。したがって,法8条3項の中止命令について,より制限的でない他の代替手段は存在しない。

カ よって,法8条3項は合憲である。

(2) 明確性の原則

ア 行政の恣意的判断の抑制,規制内容の公正な告知の見地から,通常の判断能力を有する一般人の理解において具体的場合に当該行為がその適用を受けるかの判断基準が読み取れない場合には,当該法令は適正手続(憲法31条)の要請からから違憲である(明確性の原則)。そして,表現の自由が問題となる場合には,萎縮効果排除の観点から高度の明確性が要求される。

イ X社は,「生活ぶりがうかがえるような画像」の提供が法2条6号,7条3号の適用を受けるか不明確である旨主張するが,「権利利益」とは客観的な視点から法的保護に値する資格や利益をいうと解され,「生活ぶり」に関する情報も含めたプライバシー権が法的に保護されることは明白である。そのため,通常の判断能力を有する一般人であれば,「生活ぶりがうかがえる画像」を公開されない権利が法的に保護された権利であり,その侵害が「被害」に該当するとの判断ができる。

ウ したがって,法2条6号,7条3号は明確性の原則(憲法21条1項,31条)に反しないため合憲である。

(3) 適用違憲

ア 憲法21条1項の趣旨及び表現の自由の優越的地位に照らして,6号情報は「人格と密接に関わる情報」, 「特に必要がある」(法8条3項)とは,目的達成のための必要最小限度の手段を用いる必要があると憲法適合解釈されるべきである。

イ X社は,単なる室内などの「生活ぶりがうかがえるような画像」は「人格と密接に関わる情報」とまではいえないと主張する。しかし,被告の反論を更に分析すると,「生活ぶりをうかがえるような画像」としては,室内の生活レベルの分かるような家具,下着,宗教的な偶像が想定でき,これらが高解像度で映し出されていれば人格権侵害の危険がある。この場合,一般人は特定個人の識別をなしえないとしても,親戚や近隣者は特定個人を識別することは可能であるのみならず,年賀状交換のために住所を教えただけの人や個人情報を保有する会社の人事担当なども特定個人を識別可能であるので,特定個人の人格権侵害のおそれがある。仮に個人識別が不可能であったとしても,宗教的偶像など極めてセンシティブ性の高い画像が含まれている場合には,「その家に住んでいる人」とのレベルで認識されるだけでもプライバシー侵害の余地がある。センシティブ性の高い画像が公開されれば,PTSDなどの深刻な精神的損害が生じる場合もありうる。特にインターネットでは画像を容易に複製することができ,複製された画像はツイッターやブログなどで広範囲に拡散してしまう危険があり,インターネットアーカイブやまとめサイトにより恒久的に保存及び公開され続けるなどの二次的被害を引き起こしやすい。このようなインターネットの特性を踏まえると,「生活ぶりがうかがえるような画像」の中にセンシティブ性の高い情報が含まれていれば,「人格と密接に関わる情報」として6号情報に該当する。

X社は遵法意識の高さゆえ「勧告に係る措置の実施」(法8条3項)で足りる旨主張するが,本問では,数件の申立があることから同種のプライバシーを保護する必要性が強い一方で,X社は改善勧告に従う意思がないのであるから同種の被害を迅速に防止するためには改善措置の実施ではなく中止命令を出すことも目的達成するために必要最小限度の手段である。

ウ よって,A大臣による中止命令は合憲,合法である。

  

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