
第1 設問1
1 デモ行進に係る不許可処分(以下,「処分①」)
Aは,B県住民投票に関する条例(以下,「投票条例」。)14条1項2号,3号に該当するとして,B県集団運動に関する条例(以下,「運動条例」)3条1項4号に基づき出された処分①は,Aのデモ行進の自由(憲法21条1項)を侵害し違憲である,と主張する。
(1)ア 一般市民は様々なデモ行進に帰属・参加することを通じて自己のアイデンティティを確立しながら対外的に意見表明を行う。また,マスメディアに対する有効なアクセス権をもたない一般市民にとって,デモ行進が安価で効果的に政治参加を行う重要な手段である。そのためデモ行進の自由は動く「集会」として憲法21条1項による保障を受けると解されるのであり,Aのデモ行進の自由も憲法21条1項により保障される。
イ 上述のデモ行進の意義に照らすと,デモ行進の自由は重要な権利である。また,Aらが計画したデモ行進が「格差の是正」を訴える政治的デモであったことを考慮すると,なおのこと当該表現は民主主義的価値の高いものといえ重要である。
(2)ア 処分①は,Aのデモ行進を禁ずるものであり,Aのデモ行進の自由の制約は認められる。
イ 処分①は,許可制を定めた運動条例3条1項4号に基づく不許可処分であり,かような事前規制は,公の批判の機会を減少させることに加え,予測に基づくことから濫用のおそれがあり,表現の萎縮効果が大きいから,強度な制約である。
(3) 上述のAのデモ行進の自由の重要性に鑑みれば,これに対する事前規制という強度な制約はなるべく回避すべく,処分要件は厳格に解すべきである。したがって,運動条例3条1項4号の「明らか」とは,客観的な事実により具体的に予見されること,投票条例14条1項2号の「平穏な生活環境を害する行為」とは生命身体財産に積極的な害悪を及ぼす行為,投票条例14条1項3号の「商業活動に支障を来す行為」とは積極的損害を及ぼす行為か又は誹謗中傷行為を意味すると解すべきである。
(4) 本件処分に先立つAの第2回目デモ行進により,シュプレヒコールによる騒音,住宅街に迂回する車による交通事故の不安,飲食店の売り上げ減少という事態が引き起こされた。しかし,Aらは拡声器等を使用していないこと,ルートは繁華街の片側2車線道路であることから,デモ行進に伴う騒音は通常の音に比して過大とはいえず,「平穏な生活環境を害する行為」にあたらない。また,交通事故も実際に発生していないことから,不安感にすぎず,「明らかである」とはいえない上,交通整理等の他の手段もあり得る。さらに,売り上げの減少もデモ行進に当然包含されていることから,「商業活動に支障を来す行為」にも該当しない。
(5) よって,処分①はAのデモ行進の自由(憲法21条1項)を侵害し違憲である。
2 教室使用に係る不許可処分(以下,「処分②」。)
Aは,B大学が,学術的意義を有する「格差問題」に関する講演会を開催する点で同様の法学部のCゼミと経済学部のゼミについて,教室使用不許可と許可という別異取扱いをしたのは,平等原則(憲法14条1項)に反し違憲である,と主張する。
(1)ア 個人には何かしらの違いがある以上,それを無視して機械的に平等な取扱いをすることはかえって不合理な差別を招き,ひいては憲法14条1項の保障根拠である個人の尊厳を害する。したがって,「平等」とは,等しい者は等しく,等しくない者は等しくなく,という相対的平等を保障していると解すべきであり,合理的理由のない区別は違憲と解すべきである。
イ B大学は,Aのデモ行進,ニュースにおける発言を考慮し,経済学部のゼミと区別しているところ,Aのデモ行進,ニュースにおける発言は,Aの県政に関する内心を示すものとして,政治上の主義にあたるから,「信条」(憲法14条1項後段)にあたる。憲法14条1後段列挙事由は,歴史的に見て不合理な差別がなされやすい典型を定めたものだから,その合理的理由は厳格に判断すべきである。
ウ また,B大学は,Aのデモ行進,ニュースの発言等を不利益にしんしゃくし,講演会が県政批判という政治的目的を有するものである,と判断してCゼミと経済学部との区別を図っている。表現の自由という重要な権利に対する萎縮効果を考慮すれば,表現行為を不利益にしんしゃくすることの持つ意義は重大であり,合理的理由の有無は厳格に判断すべきである。
エ したがって,①目的が正当であり,かつ,②目的との合理的関連性がある,といえなければ,本問における別異取扱いは,合理的理由のない区別として違憲と解すべきであり,その判断は慎重になされるべきである。
(2)ア 本件区別は,県の重要な政策問題に関する意見の表明を封じ込めようとする目的でなされたものであり,許されない見解差別として正当な目的とはいえない。仮に,B県立大学教室使用規則にあるような,大学施設としての用途に沿った教室の使用をさせる目的でなされたものであるならば,憲法により保障される大学の自治(憲法23条)の内容たる施設管理権の発動として,正当な目的といえる。
イ 仮に目的が大学施設としての用途に沿った教室の使用をさせる目的だとしても,本件講演会は,政治主張を行うことを目的とするものではなく,憲法学の見地から,知事の施策方針に賛成・反対する議員の意見を分析し,C教授の研究成果の発表を聞くことを目的としている。したがって,本件講演会の開催は,政治目的の集会ではなく,本来の大学施設の用途に沿った使用であり,本件区別は目的達成に役立たないから,目的との合理的関連性も認められない。
(3) よって,処分②は平等原則(憲法14条1項)に反し違憲である。
第2 設問2,B県側の反論
1 処分①に係る反論
泉佐野事件で問題となった市民福祉会館のような閉鎖的空間とは異なり、本件で問題となる道路は第三者の利用が想定される場所であるから,「公の施設」(地方自治法244条)に当たらず、当該場所における集会は憲法上の自由として保障されない。
仮に上記自由が保障されるとしても,デモ行進には,その参加者が一瞬にして暴徒と化し,実力によって法と秩序を蹂躙する危険が内包されるから,デモ行進の自由の保護の程度は高いものではない。また,運動条例3条1項では許可が義務づけられており,不許可の場合が「当該申請に係る集団運動が次の各号のいずれかに該当する場合」に厳格に制限されているから,規定の文面上は許可制でも,実質においては届出制であるといえ,これに基づく処分①も事前規制にあたらない。更に,投票条例14条1項2号及び3号は,表現行為と異なる「平穏な生活環境を害する行為」,「商業活動に支障を来す行為」から生じる弊害を防止した結果,偶然に「住民投票運動」という表現に規制が及んだという付随的規制に過ぎない。それゆえ,規制の程度は弱い。以上に照らせば,A主張のように合憲限定解釈する必要はなく,住民投票が迫ってきていることを考えるとこれまで平和的なデモもややもすれば,盛り上がりすぎて危険なデモと化す可能性が高いこと,売り上げ減少も保護に値すること,等を考慮すれば,要件該当性は明らかである。
2 処分②に係る反論
憲法14条1項後段列挙事由は,単なる例示列挙に過ぎず,特別な意味をもつものではないから,かかる事由に基づく区別について厳格に審査する必要はない。そして,法学部のCゼミと経済学部のゼミ講演会の違いは講演者が評論家か,政治家か,という点にあり,政治家の講演は政治目的であることは明らかであるから,両者の別異取扱いは,目的との合理的関連性がある。
第3 設問2,あなた自身の見解
1 処分①に係る私見
(1)ア 一般市民は様々なデモ行進に帰属・参加することを通じて自己のアイデンティティを確立しながら対外的に意見表明を行う。また,マスメディアに対する有効なアクセス権をもたない一般市民にとって,デモ行進が安価で効果的に政治参加を行う重要な手段である。そのためデモ行進の自由は動く「集会」として憲法21条1項による保障を受けると解されるのであり,Aのデモ行進の自由も憲法21条1項により保障される。
B県側は,道路におけるデモ活動は「公の施設」に該当しないことを理由に憲法21条1項の「集会」に当たらない旨反論するが,かかる反論は以下の通り是認できない。表現に適した公共の場での表現活動の自由はできるだけ保障されるべきであり,その場所が伝統パブリック・フォーラム(道路,歩道,公園のような本来的に市民(国民)の表現の場として開かれた場)にあたれば,その場所における表現活動は原則として自由であると解する。道路はまさに伝統的パブリック・フォーラムの性質を有するため,道路におけるデモ行進は原則として自由である。
イ 上述のデモ行進の意義に照らすと,デモ行進の自由は重要な権利である。また,Aらが計画したデモ行進が「格差の是正」を訴える政治的デモであったことを考慮すると,なおのこと当該表現は民主主義的価値の高いものといえる。B県側は,集団暴徒化論を援用し保障の重要性を批判するが,集団暴徒化論は,あまりにも集団行動の自由が民主主義社会において持つ意義,果たす役割について無理解であるといわざるを得ず,これを採用することはできない。
(2)ア 処分①は,Aのデモ行進を禁ずるものであり,Aのデモ行進の自由の制約は認められる。
イ B県側は,実質的な届出制を定めた運動条例3条1項4号に基づく処分①が事前規制に当たらない旨反論するので,許可制と実質的な届出制の区別につき以下検討する。許可制とは,本来誰でも享受できる個人の自由を,公共の福祉の観点からあらかじめ一般的に禁止しておき,個別の申請に基づいて禁止を解除する行政行為をいうから,その本質は原則禁止・例外自由の仕組みにある。したがって,許可制と実質的な届出制の区別は,原則禁止・例外自由の仕組みを採用しているかにより判断すべきと解する。運動条例を見る限り,一定時期までに許可又は不許可の処分がなされなかったときは許可の処分があったものとする旨の規定がなく、運動条例3条1項4号は原則禁止・例外自由の仕組みを採用していると解されるから,実質的な届出制ではなく,文面通り事前規制たる許可制を採用したものであるといえる。したがって,運動条例3条1項4号に基づく処分①も事前規制にあたり,公の批判の機会を減少させるし,予測に基づくことから濫用のおそれがあり,表現の萎縮効果が大きいから,強度な制約である。
更にB県側は,処分①が付随的規制である旨反論している。確かに,投票条例14条1項2号,3号は,各号の行為から生じる害悪を防止するため規制をしており,B県側の言う通り付随的規制の要素は否定できない。他方で,投票条例14条1項柱書は,「住民投票運動」という内容要素にも着目しているから,直ちに付随的規制とも断言できない。ここで,内容規制が厳格に審査されるべきは,動機の不法,公論歪曲のおそれが強く「思想の自由市場」を歪めるからである。したがって,内容規制とは,表現内容に着目する規制であって,動機の不法,公論歪曲のおそれが強く「思想の自由市場」を歪めるおそれがある規制をいうと解すべきである。仮に,騒音や商業被害という付随的要素で規制をしたいなら,端的に,それだけを要件にすれば足り,それに内容要素を加えた場合には,騒音や商業被害を口実にした表現内容での差別が疑われる。すなわち,投票条例14条1項が主眼に置いているのは,「住民投票運動」という表現内容であり,表現内容での差別という観点から,動機の不法,公論歪曲のおそれが強く「思想の自由市場」を歪める規制であるといえる。したがって,投票条例14条1項は内容規制であり,かつ,Aのデモ行進の中で,住民投票を前にし,知事と県議会の対立点に関する,「社会福祉関係費の削減」反対の意見が飛び交っていたことから「住民投票運動」にあたると判断されたと思しき処分①は内容規制にあたり,上記の理由で,強度な制約といえる。
(3) 上述のAのデモ行進の自由の重要性に鑑みれば,これに対する事前規制及び内容規制という強度な制約はなるべく回避すべく,処分要件は厳格に解すべきである。したがって,運動条例3条1項4号の「明らか」とは,客観的な事実により具体的に予見されること,投票条例14条1項2号の「平穏な生活環境を害する行為」とは生命身体財産に積極的な害悪を及ぼす行為,投票条例14条1項3号の「商業活動に支障を来す行為」とは積極的損害を及ぼす行為か又は誹謗中傷行為を意味すると解すべきである。そのため,合憲限定解釈を不要とするB県側の反論は是認できない。そして,このような解釈であれば,通常の判断能力を有する一般人の理解で法適用の具体的基準が読みとれるから,合憲限定解釈の限界も超えない。
(4) Aらは拡声器等を使用していないこと,ルートは繁華街の片側2車線道路であることから,デモ行進に伴う騒音は通常の音に比して過大とはいえず,生命身体財産に積極的な害悪を及ぼす行為,すなわち「平穏な生活環境を害する行為」にあたらない。また,交通事故も実際に発生していないことから,不安感にすぎず,更にB県側の指摘するデモ集団の暴徒化も観念上の想定に過ぎず,客観的な事実により具体的に予見されることが「明らか」でない上,交通整理等の他の手段もあり得る。さらに,B県側は売上減少も保護に値する旨指摘するが,売り上げの減少もデモ行進に当然包含されていることから,積極的損害を及ぼす行為又は誹謗中傷行為,すなわち「商業活動に支障を来す行為」に該当しない。
(5) したがって,処分①はAのデモ行進の自由(憲法21条1項)を侵害し,違憲である。
2 処分②に係る私見
(1)ア 個人には何かしらの違いがある以上,それを無視して機械的に平等な取扱いをすることはかえって不合理な差別を招き,ひいては憲法14条1項の保障根拠である個人の尊厳を害する。したがって,「平等」とは,等しい者は等しく,等しくない者は等しくなく,という相対的平等を保障していると解すべきであり,合理的理由のない区別は違憲と解すべきである。
イ B大学は,Aのデモ行進,ニュースにおける発言を考慮し,経済学部のゼミと区別しているところ,Aのデモ行進,ニュースにおける発言は,Aの県政に関する内心を示すものとして,政治上の主義にあたるから,「信条」(憲法14条1項後段)にあたる。憲法14条1後段列挙事由は,歴史的に見て不合理な差別がなされやすい典型を定めたものだから,その合理的理由は厳格に判断すべきである。B県側は「信条」は単なる例示列挙に過ぎないとして審査の厳格化するが,この反論は是認できない。憲法14条1項後段列挙事由に基づく区別は,区別を受ける者に対しスティグマを押し付けるものであるから,その合理性は慎重に判断されなければならず,審査基準を厳格化すべきと考えるからである。
ウ また,B大学は,Aのデモ行進,ニュースの発言等を不利益にしんしゃくし,講演会が県政批判という政治的目的を有するものである,と判断してCゼミと経済学部との区別を図っている。表現の自由という重要な権利に対する萎縮効果を考慮すれば,表現行為を不利益にしんしゃくすることの持つ意義は重大であり,合理的理由の有無は厳格に判断すべきである。
エ したがって,①目的が正当であり,かつ,②目的との合理的関連性がある,といえなければ,本問における別異取扱いは,合理的理由のない区別として違憲と解すべきであり,その判断は慎重になされるべきである。
(2)ア 処分②は「政治的目的での使用は認めず,教育・研究目的での使用に限り,これを許可する」というB県立大学教室使用規則を,「ゼミ活動目的での申請であり,かつ,当該ゼミの他党教授が承認していれば教室の使用を許可する」というB大学の運用に従い実施した結果出されたものであり,別異取扱いの目的は大学施設としての用途に沿った教室の使用をさせるところにあると考えられる。かかる目的は,憲法により保障される大学の自治(憲法23条)の内容たる施設管理権の発動として,正当な目的といえる。以上より,原告の主張する県の重要な政策問題に関する意見の表明を封じ込めようとする目的は認められない。
イ Cゼミと経済学部のゼミは,それぞれの学問分野から格差問題を検討する点で共通するから,B県側は,講演者が評論家か政治家かを重視する。しかし,評論家は経済学者ではないため,政治家と比べ学問的価値が高いとはいえない。また,評論家の中には特定の政治勢力を支援する言説を展開する者も多く,政治色が薄いともいえない。他方,本件講演会では,知事の施策方針に賛成・反対双方の立場からの講演が予定されており,一方的な政治的見解の押し付けではない。また,政治家の発言は政治状況を分析する法学や政治学における一次資料と位置付けられるし,憲法学専攻のC教授による分析も予定されており,学術的価値が低いとはいえない。結局,二つの講演会は,いずれも担当教授によって,その学問分野における学術的価値を持つものと認定されている以上,本件講演会は,少なくとも,経済学部のゼミに比べ,学問的意義が乏しい,又は政治色が濃いとはいえない。したがって,大学施設の本来の用途に沿った利用を認めるという目的達成に本件区別は役立たないから,目的との合理的関連性も認められない。
(3) よって,処分②は平等原則(憲法14条1項)に反し違憲である。
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