詐欺罪「欺く行為」の当てはめを徹底解説!優秀答案と不合格答案の決定的な違いとは?
2025年6月8日
勉強法
司法試験・予備試験の刑法では詐欺罪が頻出です。詐欺罪の検討においては特に「欺く行為(欺罔行為)」の当てはめができるかどうかが、合否を大きく左右します。
今回は、令和2年度予備試験刑法の過去問を題材に、実際の合格答案と不合格答案を比較しながら、詐欺罪の当てはめをどのように行えば良いのかを詳しく解説します。
この記事を読めば、以下のことがわかります。

ぜひ参考にして、答案作成の力を高めてください。
詐欺罪の「欺く行為」とは?
詐欺罪の実行行為である「欺く行為」とは、財産的処分行為の判断の基礎となる重要な事実を偽る行為をいいます。
ここで重要になるのが、「重要事項性」=財産的損害に結び付くかどうかの評価です。欺く行為の当てはめでは、単に事実を並べるのではなく、事実に対して評価を加え、財産的損害の危険性を丁寧に検討できているかどうかが高評価のポイントになります。
令和2年度予備試験刑法の事例
令和2年度予備試験刑法では、次のような事実が出題されました。
・賃貸借契約書には暴力団排除条項があった(本件条項)。
・暴力団排除条項を設けることが当該県では推奨されていた。
・暴力団員に不動産を賃貸すれば資産価値が下がる恐れがある。
・甲は暴力団組員であることを秘して賃貸借契約を申し込んだ。
このような事実をどのように評価するかで、答案の評価が大きく分かれました。
A答案の当てはめ
まずは、実際に高評価を得たA答案の記載内容を紹介します。
★A答案の評価ポイント
・「不動産価値が下がる」という財産的損害の具体的危険性を認定できている。
・重要事項性の核心部分まで丁寧に踏み込めており、詐欺罪の実行行為性を的確に認定している。
まさに模範的な当てはめができています。
不合格答案の当てはめ
次に、不合格評価となったC答案を紹介します。

★C答案の評価ポイント
・事実の拾い上げは細かくできている。
・他方で、「財産的損害」についての具体的評価が全くなされていない。
・不動産価値低下の危険性という事実を見落としてしまっており、重要事項性の当てはめが不十分。
まさに、「事実評価の不足」が決定的な減点理由となった答案です。
詐欺罪の欺く行為の当てはめは3要素で整理!
欺く行為とは、財産的処分行為を行う上で判断の基礎となる重要な事実を偽ることをいいます。この要件は、①偽る行為であること、②財産的処分行為を行う上で判断の基礎となる事項であること、③重要な事実であること、の3つに分解することができます。そして、本記事で見てきたように、上記③にいう重要な事実とは、詐欺罪が財産犯であることに鑑み、財産的損害を発生させるような事実であると考えられています。今後の答案作成に役立つよう、整理しておきます。
★詐欺罪の欺く行為の三要素
① 偽る行為があること
② 判断の基礎となる事実であること
③ 重要事項性(=財産的損害が生じる危険性があること)
の3要素を意識して当てはめる必要があります。
★ポイントとなる問題文中の事実
・甲は暴力団員であることを秘して賃貸契約を申し込んだ。
・Bは暴力団員であれば契約を締結しなかった。
・暴力団関係者に賃貸すると資産価値が低下する恐れがある。
以上を整理して当てはめることが、合格答案への近道です。
本問における欺く行為の当てはめ方
これまでご説明したとおり、詐欺罪にいう欺く行為とは、財産的処分行為を行う上で判断の基礎となる重要な事実を偽ることをいいます。この要件は、①偽る行為であること、②財産的処分行為を行う上で判断の基礎となる事項であること、③重要な事実であること、の3要素に分解することができます。そして、今回レクチャーしたように、上記③にいう重要な事実とは、詐欺罪が財産犯であることに鑑み、財産的損害を発生させるような事実であると考えられています。
令和2年度予備試験刑法の問題文を見てみると、賃貸借契約書には「賃借人は暴力団員又はその関係者ではなく、本物件を暴力団と関係する活動に使いません。賃借人が以上に反した場合、何らの催告も要せずして本契約を解除することに同意します」との本件条項が設けられていたこと、「前記マンションが所在する某県では、暴力団排除の観点から、不動産賃貸借契約には本件条項を設けることが推奨されていた」こと、及び「実際にも、同県の不動産賃貸借契約においては、暴力団員又はその関係者が不動産を賃借して居住することによりその資産価値が低下するのを避けたいとの賃貸人側の意向も踏まえ、本件条項が設けられるのが一般的であった」ことがわかります。このような事情からは、本問は、判例②に類似した事案であると評価することができますよね。
以上からすれば、甲が本件賃貸借契約書に署名・押印することは、甲は本件条項に同意することを示すものであって、甲が暴力団組員でないとの黙示的な表示であると言えます。したがって、挙動によって、相手方Bを偽っていると言えます(①)。なお、補足ですが、本件では作為義務が観念できない以上、甲の行為はあくまで作為によるものであって、不作為による欺罔ではないので、注意してください。
そして、本件条項の規定からすると、Bは甲が暴力団員であるという真実を知っていれば、賃貸借契約に応じなかったと考えられるため、甲が暴力団員であるかどうかという事実は、Bが賃貸借契約を締結するかどうかについて判断の基礎となっていたと評価することができます(②)。
さらに、賃貸借契約は、「甲がマンションに住むことができる法的地位」を与えるものであり、賃貸借契約の締結自体によって、甲はマンションを適法に利用できる地位を得ることできます。他方で、Bは本来使用させたくない暴力団員甲にマンションを利用されることによって甲にマンションを利用されてしまうという損害や本件マンションの不動産価値が低下する等の財産的損害を生じることになりますので、甲が偽った事実は、財産上の損害に直結する事実であるといえ、重要な事実であると評価できます(③)。重要事項性とはまさに、上記したようなマンションを利用されてしまうという損害だったり、不動産価値が低下したりという財産的損害に直結するような事実を指しますので、この部分は絶対に答案に示すようにしてください。
以上からすれば、甲の行為は2項詐欺罪の実行行為たる欺く行為に当たると評価できます。
まとめ:詐欺罪の当てはめは「事実の評価力」で差がつく!
✔︎欺く行為とは財産的処分行為を行う上で判断の基礎となる重要な事実を偽ることをいい、当てはめの際には①偽る行為であること、②財産的処分行為を行う上で判断の基礎となる事項であること、③偽った事実が重要な事実であること、を意識して当てはめる必要がある。
✔︎単に事実を拾うだけではなく、適切な評価を加えることが高得点に繋がる。
✔︎出題趣旨では「重要事項性」の検討を求められており、問題文中の事実から財産的損害の危険性まで踏み込んで検討する必要がある。
答案練習では、優秀答案と不合格答案を比較し、どこに決定的な評価の違いがあったのかを徹底的に分析する習慣をつけましょう。
今回の令和2年度予備試験の事例は、まさにその訓練に最適な教材です。ぜひ繰り返し読み込み、自己の答案作成に活かしてください!