令和7年(2026年度) 中央大学ロースクール入試参考答案例
2025年11月20日
参考答案
憲法
第1 規定①について
1 規定①は、男性受刑者の髪型を自由に選択する自由を侵害し、違憲とならないか。
2 男性受刑者が髪型を自由に選択する自由は、憲法13条後段により保障されるか。
(1)まず、刑事施設収容者には人権規定が及ばないとする、特別権力関係論がある。もっとも、基本的人権の尊重の理念や法の支配の原理に反し、かかる論は妥当ではない。よって、個別具体的に人権制限の根拠を検討するべきである。
(2)憲法14条以下の個別的人権の規定は歴史的に重要な権利・自由を列挙したに過ぎず、人権の固有性からしても、これらの規定が全ての人権を網羅的に掲げていると解するべきではない。そこで、憲法13条後段の幸福追求権として、憲法上明文根拠のない新しい人権が保障されると解する。もっとも、人権のインフレ化を防ぐため、幸福追求権として保障されるのは、個人の人格的生存に不可欠な利益に限られると解する。
(3)髪型などの身じまいを通じて自己の個性を実現させ人格を形成する自由は、自己のアイデンティティを表明する一つの方法であるから、そのような性質を有する髪型に関わる自己決定権は、人格的生存に不可欠な利益といえる。したがって、男性受刑者が髪型を自由に選択する自由は、憲法13条後段により保障される。
3 規定①は、男性受刑者の髪型を、「原型刈り」、「前5分刈り」、「中髪刈り」の3種の中から強制的に決定させるものであるから、男性受刑者が髪型を自由に選択する自由を制約するものである。
4 では、かかる制約は正当化されるか。
(1)よど号ハイジャック記事抹消事件判決は、未決拘禁者の閲読の自由の制限について、受刑目的や、掲示収容施設の規律・秩序の維持に支障が生じる相当の蓋然性があると認められる場合であり、かつ、その制限の程度が、当該支障を除去するために必要かつ合理的な範囲に止まる場合に限られると示したと解される。。もっとも、閲読の自由は、憲法21条1項により保障される知る自由の中核をなす重要なものであるのに対し、髪型選択の自由は、数あるアイデンティティ表明方法の一つに過ぎず、閲読の自由ほどの重要性は認められない。そこで、監獄内の喫煙の自由について判断した判例に従い、監獄内の秩序を維持するという目的に照らし、必要かつ合理的な制限であれば合憲であると解すべきである。
(2)以上の基準に従い、本件について検討する。
ア まず、監獄内の衛生を保つこと、及び機械への頭髪の巻き込みなどの危険を防 止したりするという目的は正当である。また、矯正処遇の効果を阻害されないという目的は、受刑制度の目的の核心部分であるからかかる目的も正当である。
イ 頭髪を短くすれば、汗やほこりを落とすことが容易になり、衛生を保つという目的に資する。また、頭髪の巻き込みによる事故を防ぐことができる。さらに、反社会的集団に属する者特有の髪型を選択することは矯正処遇の効果を阻害するから、かかる髪型を許さないことは矯正処遇の効果を阻害されないという目的に資する。
ウ 刑事施設では受刑者が刑務作業として多数の受刑者の長髪を行うのが通例だが、各受刑者が自由に髪型を選択すればかかる業務が滞り、その技量にも限界があるから、簡易な髪型に限定することは合理的な制限であるといえる。
エ 以上のように、規定①の規制は、監獄内の秩序を維持するという目的に照らし、必要かつ合理的な制限であるといえる。
5 よって、規定①は合憲である。
第2 規定②について
1 規定②は、性自認に従った法令上の性別の取り扱いを受ける自由を侵害し、違憲ではないか。
2 まず、性自認に従った法令上の性別の取り扱いを受ける自由は、人格的生存に不可欠なものであるから、かかる自由は憲法13条後段によって保障される。
3 規定②は、調髪を行わないことが処遇上有益であると認められる場合という例外的な場合を除いて男子受刑者と同様に調髪を強制するものである(受刑者処遇法(以下「法」という。)58条1項)一方、女子受刑者は、華美にわたることなく、清楚な髪型とする(同2項)と定められており、性同一障害者等受刑者について原則として短髪を強制するものであるから、上記の自由を制約している。
4 では、かかる制約は正当化されるか。
(1)性自認に従った法令上の性別の取り扱いを受ける自由は、人格的生存の根幹をなす性質の自由であり、アイデンティティの表現の一方法に止まらない重要なものである。そこで、よど号ハイジャック記事抹消事件判決に従い、受刑目的や、刑事収容施設の規律・秩序の維持に支障が生じる相当の蓋然性があると認められる場合であり、かつ、その制限の程度が、当該支障を除去するために必要かつ合理的な範囲に止まる場合に限り正当化されると解する。
(2)以上の基準に従い、本件について検討する。
ア 調髪の制度趣旨について、まず、長髪のままでいることによって刑事施設内の衛生環境が悪化する蓋然性は認められない。また、法57条1号に定められた3種の髪型に限らずとも、機械への頭髪の巻き込みなどの危険を防止することは可能であるから、髪が長いことによる危険発生の蓋然性は認めらない。さらに、反社会的集団に属する者に特有の髪型を個別に禁止すれば足りるのであるから、3種の髪型に限ることは必要かつ合理的な範囲に止まるとはいえない。
イ 以上より、制度趣旨のいずれについても、規定②の制約は正当化されない。
5 よって、規定②は違憲である。
民法
第1 設問1
1 小問(1)について
(1)D及びEは、Fに対し共有持分権(民法(以下法令名略)249条1項に基づく返還請求としての甲土地明渡請求をしている。
ア 甲土地は、Aが元所有(206条)しており、2025年2月1日にAが死亡したことにより、Aの子であるC、D、Eがそれぞれ3分の1の持分に従い甲土地所有権を相続した(882条、887条1項、898条1項2号、900条4号)。したがって、D及びEは甲土地について3分の1ずつの共有持分権を有している。
イ Fは甲土地上に自己の所有する自動車を駐車することにより、甲土地を単独で占有している。
(2)これに対し、Fは、甲土地について、共有持分権を有するCから占有権原を得て占有していると反論することが考えられる。
ア 共有者は、その持分に従い、共有物の全部について使用収益する権限を有する(249条1項)。そして、共有者から占有権原を承継した者も、その持分に従い共有物を使用収益する権原を有する。そこで、少数持分権者に対してであっても、他の共有者は当然にその明渡しを請求することができるものではなく、少数持分権に対して共有物の明渡しを求める正当な理由を主張立証しなければ、共有物の明渡しを求めることはできないものと解するべきである。
イ 本問において、Fは、2025年6月1日、甲土地の共有持分権者であるCから承認を受けて甲土地を占有しているのであり、FはCの共有持分権の限度で占有権原を承継した者である。そうすると、本問では、D及びEはFに対し甲土地明渡しを求める理由を主張立証しなければならないが、これを基礎付ける事情はない。
ウ よって、Fの反論は認められる。
(3)したがって、D及びEの請求は認められない。
2 小問(2)について
(1)D及びEの請求の根拠は上記1(1)と同様である。
(2)これに対し、Fの甲土地占有権原も上記1(2)と同様である。
(3)では、明渡しを求める正当な理由は認められるか。
ア D及びEは、明渡しを求める正当な理由として、D E間において、共有物管理方法について、Dが単独で使用する旨を決定した(252条1項前段)ことを主張すると考えられる。
イ 共有物を単独使用する旨の決定は、「共有物の管理に関する事項」に当たるため、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決することができ(252条1項前段)、これは共有物を使用する共有者があるときも同様である(同項後段)。そして、上述のとおり、C、D、Eは相続により各3分の1ずつ甲土地の共有持分権を取得しており、DとEは合わせて3分の2という過半数の持分権をもって甲土地をDが単独使用することを決定している。
ウ よって、本問では、かかる決定をもって、共有物の管理方法の決定が認められるため、Fに対し甲土地明渡しを求める正当な理由が認められる。
(4)よって、Fの反論は認められず、D及ぶEの請求は認められる。
第2 設問2
1 D及びEは、乙建物の共有持分権に基づく使用対価の償還請求(249条2項)としての、賃貸相当額の支払いを請求していると考えられる。
(1)本問では、乙建物はAが元所有していたところ、A死亡により、Aの子であるC、D、Eがそれぞれ3分の1の相続分をもって甲土地の所有権を相続した(882条、887条1項、898条1項2号、900条4号)。したがって、D及びEは乙建物について共有持分権を有する。
(2)Cは、Aの死亡後、単独で乙建物を使用しており、「自己の持分を超える使用」(249条2項)が認められる。
2 これに対しCは、D及びEを貸主、Cを借主とする、乙建物の使用貸借契約(593条)が推認されるとして、同契約に基づく無償の占有権原を有すると反論することが考えられる。
(1)共有相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情がない限り、被相続人と右同居の相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって、被相続人が死亡した場合は、この時から少なくとも遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、右同居の相続人を借主とするというべきである。
(2)本問では、CはBを介護するため乙建物でA及びBと同居し、B死亡後は、Aを献身的に介護した。Aは、死亡するまで乙建物においてCと家族として共同生活を継続し、Cが乙建物に同居することに反対することはなかった。そうすると、Cは被相続人たるAの許諾を得て遺産である乙建物において同居していたといえる。そして、本問においては、いまだAの遺産について遺産分割は完了していない。
(3)よって、本問においては、D及びEを貸主、Cを借主とする乙建物についての使用貸借契約が推認されるから、Cの反論は認められる。
3 以上よりD及びEの上記請求は認められない。
刑法
第1 丙の罪責について
1 Aの身体を突いた行為(第一行為)と、Aを崖から海中に投棄した行為(第二行為)は、故意の内容が大きく異なるから、各行為を分けて論ずるべきである。
2 第一行為に殺人罪(刑法(以下法令名略)199条)が成立するか。
(1)第一行為後にAは溺死しているから、死亡結果は発生している。
(2)では因果関係は認められるか。本件では、第一行為の後に丙がAを海中に投棄したことによってAの直接の死因を形成しているため問題となる。
ア 確かに本件では、結果発生の直接的な原因が介在事情にあり、かつ、介在事情が実行行為によって直接もたらされたものとは言えない。もっとも、介在事情によって結果が発生する事態が実行行為の危険性に包摂されている場合、具体的には、①行為当時の客観的事情から当該介在事情が発生する危険性が認められる状況において、②当該事情が介在すれば高度の蓋然性を持って結果が発生するような危険な状況を実行行為が設定したものと評価される場合には、なお結果は実行行為に内在する危険性が現実化したものと認められる。
イ 本件のように、殺人を意図する者が、被害者が死亡したと誤信して、海中に被害者を投棄することはありうるから、第二行為が発生する危険性は認められる(①)。また、意識を失っている人を海中に突き落とせば高度の蓋然性を持って死亡結果が発生するのであるから高度の蓋然性を持って結果が発生するような危険な状況を実行行為が設定したものと認められる(②)。
ウ よって、因果関係は認められる。
(3)Aの死亡結果について、丙の認識と実際の因果経過が異なる。もっとも、どちらも殺人罪という同一構成要件内で付合するものであるから、故意は阻却されない。
(4)以上より、第一行為に殺人罪が成立する。
3 第二行為は、殺人罪の客観的構成要件を充足するものの、丙は死体を遺棄する意思を有していたに過ぎず、殺人の故意を有していたものではないから、殺人罪は成立しない。また、客体であるAは死亡していなかったのであるから、「死体」を「遺棄」したとはいえず、死体遺棄罪(190条)は成立しない。よって、第二行為には過失致死罪(210条)が成立するにとどまる。
4 以上より、丙の各行為には、殺人罪及び過失致死罪が成立し、後者は前者に吸収される。丙はかかる罪責を負う。
第2 甲の罪責について
1 甲が丙に殺害を依頼した行為にいかなる罪が成立するか。
2 2項強盗殺人罪の共謀共同正犯(60条、240条、236条2項)について
(1)甲は実行行為を分担していない。もっとも、①共謀②共謀に基づく実行③正犯意思があれば、共謀共同正犯は成立する。
(2)2項強盗の「暴行又は脅迫」の有無については、具体的かつ確実な財産上の利益移転に向けられているか否かで判断する。本件では、Aを殺害すれば甲は推定相続人として相続財産を手にする可能性はある。もっとも、被相続人の殺害が相続欠格事由(民法891条1号)になりうることや、Aが自己の財産を全て慈善団体に寄付する旨の遺言状を作成する相談を顧問弁護士としていたことからすれば、財産上の利益移転の具体性、確実性は認められないから、「暴行又は脅迫」は財産上不法の利益を得るために向けられたものとはいえない。
(3)したがって、2項強盗殺人罪の共謀共同正犯は成立しない。
3 殺人罪の共謀共同正犯(60条、199条)について
(1)共謀共同正犯が成立するか否かは、上述のとおり、①共謀②共謀に基づく実行③正犯意思があるかどうかで判断する。
(2)甲は、具体的な犯行計画を丙に話しているのであるから、共謀は認められる(①)。次に、丙は甲の犯行計画に従いAを殺害したのであるから、共謀に基づく実行も認められる(②)。さらに、甲は自らの意思でAの殺害を決意しているのであるから、正犯意思も認められる(③)。
(3)よって、甲には殺人罪の共謀共同正犯が成立する。
4 以上より、甲の上記行為には丙との殺人罪の共同共謀正犯(60条、199条)が成立し、甲はかかる罪責を負う。
第3 乙の罪責について
1 殺人罪の共謀共同正犯(60条、199条)について
(1)乙と丙は直接の共謀は認められないものの、順次的に共謀が認められれば殺人罪の共謀共同正犯が認められる。そこで、乙に正犯意思が認められるかが問題となる。
ア この点につき、正犯意思の有無は、利害関係の程度や役割の重要性等を考慮して判断する。
イ 本件についてこれをみると、確かに乙は甲に最初にAの殺害を提案しているのであるから、その役割は重要であると言える。しかし、実際にAの財産を甲が相続できるかは確実でなく、その後に甲と乙が生計を一にするか否かも確実でないから、利害関係の程度は小さい。
ウ よって、正犯意思は認められない。
(2)したがって、乙の行為に殺人罪の共謀共同正犯は成立しない。
2 殺人罪の教唆犯(61条1項、199条)について
本件において、甲は乙の提案によってAの殺害を決意しているのであるから、殺人罪の教唆犯(61条、199条)が成立する。
3 以上より、乙の行為に殺人罪の教唆犯(61条、199条)が成立し、乙はかかる罪責を負う。
商法
第1 小問(1)
1 Pは本件決議の効力を争うため、株主総会決議取消の訴え(会社法(以下法令名略)831条)を提起することが考えられる。
2 訴訟要件について
まず、Pは甲社の発行済株式総数の3%を有する「株主」である。そして、令和7年8月15日は、本件決議が行われた令和7年6月20日から数えて「3ヶ月以内」である。よって、訴訟要件は満たされる。
3 本案について
Pからの質問を議長のAが理由を示すことなく一切の回答を拒んだことが、314条に違反し、決議方法の法令違反(831条1項1号)とならないか。
314条は会社法施行規則71条に定める「正当な理由」がある場合には、説明を拒むことができる旨規定する。もっとも、本件では、同条各号に当たる事由はない。よって、Pからの質問に全く回答しなかったAの態度は314条に違反するものである。
4 裁量棄却について
取締役による説明は、適切な議決権行使の前提となるものであり、説明義務違反は「重大」な違反であるから、裁量棄却(831条2項)は認められない。
5 以上より、Pの上記法的手段は認められる。
第2 小問(2)
1 甲社は、本件決議が効力を持たないところ、Dは取締役としての地位を有さず、代表取締役(349条)としての地位を保ち得ないから、Dの行為は無権代理であり、甲社に本件売買契約の効力は帰属しない(民法113条1項)と主張することが考えられる。
2 これに対し乙社は、Dが表見代表取締役(354条)にあたり、本件売買契約の効力が甲社に帰属する旨反論すると考えられる。かかる反論は認められるか。
(1)ここで、本件決議が無効であるならば、Dは「取締役」としての地位を有しない。そうすると、Dは「代表取締役以外の取締役」に当たらないから、354条は適用されないとも思える。もっとも、同条の趣旨は名称に対する第三者の信頼を保護することにあるところ、「社長」等の名称を付された使用人も代表取締役らしい外観を呈することになる。そこで、使用人にも、同条が類推適用されると解する。
(2)甲社はDを代表取締役として選任していることから「名称を付した」と言える。
(3)ここで、代表取締役の氏名は登記事項(911条3項14号)であるから、908条前段により乙社の悪意が推定されるとも思える。もっとも、商取引の大量性・反復性からすれば、取引ごとの調査・確認を要求すべきではないから、当該取締役の代表権の存在を疑うに足りる重大な理由がなければ、登記簿の閲覧や会社への照会などにより調査・確認する義務は負わないと解するべきである。そして、本件では、重大な理由はない。よって、悪意は推定されない。
(4)「善意」(354条)とは、善意無重過失をいうところ、本件では、乙社に重過失は認められないから、「善意」といえる。
(5)よって、乙社の上記反論は認められる。
3 以上より、甲社は乙社の請求を拒むことはできない。
民事訴訟法
第1 設問(1)
1 本件「本訴」は、債務不履行に基づく損害賠償請求(民法415条)である。本問では、通常共同訴訟(民事訴訟法(以下法令名略)38条)と固有必要的共同訴訟(40条)の違いが問題となる。
2 共同訴訟の必要を判断する基準は以下の通りである。すなわち、訴訟で敗訴すると結果的に権利を処分したのと同様な結果になるから、訴訟追行は実体法的な処分の延長線上に位置付けることができる。そうだとすると、訴訟物である実体法上の権利関係にかかる管理処分権を有している者について当事者適格を認め、その者に対して本案判決をすれば、その訴訟物についての紛争は有効、適切に解決できる。この管理処分権が実体法上共同行使されるべきものであれば、関係人全員が揃わないと当事者適格が認められないから、訴訟共同の必要がある。反対に、実体法上管理処分権を共同行使すべき性質がないときは訴訟共同の必要は認められない。
3 本件における「本訴」は民法上の組合(民法667条1項)であるC企業体の財産権に関する訴えである。組合財産は組合員全員の共有に属する(民法668条)ところ、ここにいう共有とは合有状態をいうと解する。そうだとすれば、組合財産の管理処分権は、組合員個人ではなく、組合全員に帰属し、「本訴」の既判力は組合員全員に及ぶ。すると、組合員全員に当事者として当事者適格を認め、訴訟関与の機会を与えるべきであり、合一確定の要請は強い。
4 以上より、「本訴」は固有必要的共同訴訟となる。
第2 設問(2)
1 本訴が適法と言えるためには、Aが選定当事者(30条)に該当することが必要となる。では、Aは選定当事者(30条)に該当するか。
(1)30条1項は、「前条の規定に該当しないもの」と定める。すると、C企業体は29条の「社団」に該当し、30条1項の適用は受けないとも思える。しかし、任意的訴訟担当の許容性が相当程度認められている今日においては、このような制限に合理性は乏しいから、C企業体が、29条の「社団」に該当することのみを理由に30条1項の適用は否定されない。
(2)では、「共同の利益」(30条1項)を有する多数者に当たるか。
ア 「共同の利益」とは、38条の共同訴訟の要件を相互に満たす者であって、主要な攻撃防御の方法を共通にするものであれば足り、必要的共同訴訟の要件や、38条前段の要件を満たす必要はない。
イ 本問では、AがC企業体の他の組合員から選定を受けているところ、Aと他の組合員は上述のとおり共同訴訟の要件を満たし、攻撃防御方法も共通する。
ウ よって、「共同の利益」を有すると言える。
(3)以上より、Aは選定当事者に該当する。
2 よって、本訴は適法である。
第3 設問(3)
1 Aが組合員それぞれの選定を得ることなく、本訴を提起した場合、その訴えが適法といえるためには、Aが明文なき任意的訴訟担当として原告適格を有するといえる必要がある。
(1)そもそも、弁護士代理の原則(54条1項本文)や訴訟信託の禁止(信託法10条)の趣旨は、非弁活動により当事者の利益が害されることを防止し、もって司法制度の健全な運営を図る点にある。そうだとすれば、弁護士代理の原則や訴訟信託禁止の趣旨に反しない場合には、これを認めても不都合はない。そこで、明文なき任意的訴訟担当も、訴訟追行権の授与があることを前提として、①弁護士代理の原則や訴訟信託の禁止の趣旨を回避、潜脱するおそれがなく、かつ②これを認める合理的必要がある場合には、許容されると解する。
(2)本問では、組合規約に訴訟追行権の授権について明示されていない。しかし、C企業体の組合規約では、業務執行組合員に自己の名で組合財産を管理し、対外的業務を執行する権限が与えられているところ、業務執行組合員には強力な権限が付与されているから、訴訟追行権もまた授権されていたと解することができる。そして、Aは弁護士代理の原則や訴訟信託の禁止の趣旨を回避潜脱するおそれはなく、かつ、合理的必要を否定する事実もない。
(3)よって、Aに原告適格は認められる。
2 以上より、「本訴」の提起は適法である。
刑事訴訟法
第1 設問(1)
下線部の本件逮捕は、準現行犯逮捕(刑事訴訟法(以下法令名略)213条・212条2項として行われたものである。
準現行犯逮捕の要件は、①212条2項「各号の一にあたる者」であること、②「罪を行い終ってから間がない」という時間的場所的近接性、③逮捕者からみて犯罪と犯人が明白であること、明文にはないが、④逮捕の必要性(199条2項但書参照)である。
第2 設問(2)
本問において問題となるのは、212条の趣旨、各号該当性、明白性の判断についての解釈である。
第3 設問(3)
1 212条の趣旨
現行犯逮捕が令状主義の例外として認められている趣旨は、犯罪と犯人が逮捕者にとって明白であり、誤認逮捕のおそれは少ないことにある。そこで、「罪を行い終ってから間がないと明か」とは、犯罪と犯人が逮捕者にとって明白であるとこをいうと考え、かかる明白性の判断に当たっては、時間的場所的近接性等の諸事情を考慮する。そして、上記の趣旨からすれば、供述などを明白性の判断にあたり補充的に考慮することは許され、同項各号該当性は明白性を一定程度担保する客観的状況であるところ、これも明白性判断に際して考慮されると考えられる。
2 各号該当性
(1)2号該当性
本件は鉄パイプを用いた乱闘事件であるため、鉄パイプやその攻撃を防ぐ防具などを所持していれば、本件「事件」の「凶器その他の物」を所持しているといえると考えられる。そして、甲は、腕に剣道で使用する籠手という、鉄パイプによる攻撃を防ぐための防具を装着しているのであるから、「明らかに事件の用に供したと思われる凶器その他の物…を所持している。」といえる。
(2)3号該当性
甲の顔面には、新しい傷痕があって血の混じったつばを吐いていた。これらの傷は、鉄パイプを用いた乱闘によって負ったと考えて矛盾はないから、「身体又は被服に犯罪の顕著な証拠があるとき」といえる。
(3)4号該当性
甲は、Cが職務質問のため停止するよう求めたところ、甲は小走りに逃げ出したのであるから、「誰何されて逃走しようとするとき」といえる。
(4)以上より、甲は212条2項2、3、4号に該当する。
3 明白性について
(1)犯罪と犯人の明白性は、誤認逮捕の危険性を除去し、無令状逮捕を正当化するものであるから、その基礎となる事実は、逮捕者自身によって直接認識されていなければならない。
(2)確かに、甲は本件犯行現場から直線距離で約4キロメートル離れた場所に、本件 犯行終了後約1時間後にいることを発見されている。これらの距離と時間は、決して極めて近接しているとはいえないものである。しかし、約1時間で、4キロメートル離れた場所に存在することは十分可能であるし、上述の通り甲が犯罪の証跡を複数有していることからすると、逮捕者であるC及びDにとって甲が本件事件の犯人であることは明白であったといえる。
4 逮捕の必要性について
凶器準備集合罪(刑法208条の2第1項)は「二年以下の拘禁刑」、傷害罪(刑法204条)は「十五年以下の拘禁刑」と重大犯罪であり、被害者がいることから検挙の可能性も高い。一方で、甲の逮捕の必要性を否定する事情はない。そこで、逮捕の必要性は認められる。
5 以上より、本件逮捕は適法である。
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