be a lawyer

令和7年(2026年度)慶応大ロー入試参考答案集

2026年1月22日

参考答案

1 憲法

第1 検討対象
Xが主張する、本検書籍の出版の差止めは、Yの表現の自由(憲法21条1項)を侵害し、認められないのではないか。
第2 Yの表現の自由について
Yが本件書籍を出版することは、発信するべき情報を自己で取捨選択するため、思想を外部に発信する行為であり、かつ自己実現の価値も有することから、「表現」に当たる。そのため、Yの本件書籍を出版する行為は、表現の自由として保障される。
第3 差止めの制約該当性について
差止めにより、本件書籍を出版することができなくなり、Yは、思想を外部に発信することができなくなる。そのため、差止めは、Yの表現の自由を制約している。
第4 差止めが認められる基準
1 当該差し止めが、検閲(21条2項)に当たるともおもえる。しかし、差止めの主体は、裁判所であり行政権が主体となっていない。したがって、差止めは、検閲にあたらない。
2 人格的価値を侵害されたものは、人格権を根拠として、将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差し止めを求めることができる。そして、差止めが認められるのは、①予想される侵害行為によって受ける被害者側の不利益と侵害行為を差し止めることによって受ける不利益を比較考慮し、①侵害行為が明らかに予測され、その侵害行為によって被害者が重大な損失を受けるおそれが亜あり、かつ②その被害の回復を事後的に測るのが不可能なないし著しく困難となる場合に、差止めが認められる(石に泳ぐ魚事件)。
第5 本件について
1⑴ Xの部落差別を受けない自由は、人格権の一つして認められるか。幸福追求権(憲法13条後段)としてXの同自由が認められるのは、人権のインフレを防止するため、同自由が人格つき生存に不可欠な場合である。
部落差別の解消の推進に関する法律(以下「法」という。)1条より、「すべての国民に基本的人権の享受を保障する日本国憲法の理念に則り、部落差別は許されないものである」と定めている。そのように定める趣旨は、部落差別が、基本的人権を害するため、そのような差別を防止する点にある。そして、基本的人権が害されるならば、人格的生存も困難となる。そのため、部族差別を受けないことは、基本的人権の尊重に繋がり、人格的生存に不可欠であると言える。
 したがって、Xの部落差別を受けない自由は、人格権の一つとして認められる。
2⑴ Yは、部落差別に関する議論のためには、本件地域の場所の特定が必要であり、部落差別の問題を解消するためにも、本件地域の場所を公表すべきであるという考えのもと出版しようとしている。そのため、本件書籍の出版する行為は、自己実現の価値を有し重要な権利であると言える。そして、差止めは、思想市場の参入を防止するため、事前抑制にあたり、制約の程度も強い。
 そのため、Yの不利益は大きいとも思える。しかし、
部落差別の対象であった地域を特定し議論の発展に繋げるのであれば、出版という形ではく、論文などの出版以外の方法で発表すれば十分である。また、Yは、自身でWebサイトも開設していのであるから、そのウェブサイトで、自身の研究結果である部落差別の対象とされた地域を載せることは可能である。そのため、差止めは、思想市場への参入を困難にするものではない。したがって、差止めは、表現の自由に対する制約として強度とはいえず、Yの不利益も大きくはない。
⑵ 他方で、現在でも、インターネット上の部落差別の件数は、増加傾向にある。部族差別は、結婚交際に関するもの、特定の者に対する表現行為、特定の者を対象としない表現行為に大別され、その中でも、特定のものに対する表現行為及び特定のものを対象としない表現行為については、インターネット上で行われるものが増加傾向にある。また、「全国部落調査」は、B5サイズ、全342頁、縦書き、手書きと扱いにくかったが、本件書籍は、A5サイズ、全200頁、横書き、活字、コンパクトと扱いやすい本である。そのような、扱いやすい本を出版することは、多くの者に部落差別について知る機会を与えることになる。そのため、部落差別を促進することにつながる危険がある。実際に、昭和50年に「全国部落地名監」と題する資料が、企業に販売され、200社以上の企業がこれを購入していた。企業は、これら資料を採用の際や従業員の身元調査等に利用していた。その後、法務省が「全国部落地名鑑」を処分していた。これらの事情から、本件書籍の出版により、多くの者が部落差別の存在と差別の対象である地域を知らせることとなり、かつ、本件書籍が利用され、インターネット上の増加傾向にある部落差別をより促進する危険性が高い。そして、部族差別を受ける場合、結婚、交際、表現行為や就職活動、営業活動等の観点で差別される危険性がある。本件書籍の出版を差止めることによって、部落差別を受け、または部落差別が促進されることを防止することができ、本件地域に居住するXの部落差別を受けない自由を保護することができるという大きな利益が生じる。
したがって、差止めによって、Yが受ける不利益よりも、Xが受ける利益の方が大きい。
3 インターネット上で部落差別が促進されると、沈静化するまでに、長期間を要する。また、部族差別により、婚姻、交際、表現活動、就活等という人生の重大な時点で不利益を受ける可能性がある。これらの時点で、損害を受けた場合には、回復することは極めて困難である。なぜなら、婚姻・交際について、一度部落差別を受けた場合に、同一人と交際、婚姻することは困難であるし、就活でも一度不採用を受けた場合にその後採用されることは現実的にあり得ないためである。
4 以上より、①と②の基準を満たす。
第6 結論
よって、Xの主張は、認められる。

2 民法

  1. 問題1
  2. 甲土地について

⑴  Xは、Yに対して、所有権に基づく妨害排除請求権として、所有権移転抹消登記手続請求を主張する。かかる請求は、認められるか。
  同請求の要件は、①Xが甲土地を所有(206条)していること、②Yが所有権移転登記を備えていることである。

⑵ア  Yは、贈与契約(549条)たる本件契約①により、甲土地の所有権を取得しているため、Xは、甲土地の所有権を有しないとも思える。そこで、Xは、本件契約①を錯誤により取り消すことができないか(95条1項)

   イ   Xは、Yが末永く、Xの死後もZの面倒を見てくれることを期待して甲土地を贈与した。しかし、Yは、Xに対して、悪態をつき、暴言を浴びせるようになり、さらに、同時期にXが入院した際に、Yは甲土地に鉄条網を張り巡らせ、弊建物に入れないようにし、Xに対する  罵詈雑言を書き殴った看板を甲土地条に立てるなどした。これらのことから、乙が、Xの息子であるZの面倒を見ることが期待できない。そのため、「表意者が法律行為の基礎とした事情について、その認識が事実に反する錯誤」があると言える(95条1項)。

ウ   Zの面倒を見ることが期待できるかどうかは、「重要」と言えるか。重要と言えるか否かは、一般人及び表意者が錯誤に陥っていなければそのような意思表示をしなかったと言えるか否かにより判断する。
  本件では、甲土地は、不動産であるため高額であったと言える。そのような、物を無償で贈与することの決定的理由は、Zの息子の面倒をYが見ることを期待したためである。一般人及び表意者は、息子との面倒を見ることが期待できなければ、甲土地という高額な不動産を無償で贈与することは考えられない。そのため、かかる事項は、「重要」と言える。

エ かかる動機をXが、Yに表示したと言えるか(95条2項)。表示したと言えるのは、契約内容になっている場合をいう。本件では、何も理由を言わずに、XがYに対して、不動産を贈与することは考えられない。そのため、YがZの面倒を見ることが期待されることを理由とするとの話をしたことが推認できる。そのため、契約内容となっていると言える。
  したがって、表示されていると言える。

オ  以上より、Xの錯誤取り消しの主張が認められ、遡及的に無効となる(121条)となるため、Xは、甲土地の所有権を取得している。

⑵   Yは、甲土地について、所有権移転登記が経由されている。

⑶   よって、Xの主張が認められる。

2  丙建物について

⑴  Xは、使用貸借契約の解除(598条2項)に基づく原状回復請求として、建物明渡請求を主張することができるか。

⑵   本件契約2の法的性質が、賃貸借契約(601条)であるか、使用貸借契約(593条)であるか定かでなく、同契約の法的性質が問題となる。
  賃貸借契約は、貸主が目的物の使用収益をさせる義務を負う一方で、借主が賃料を支払うこと本質とする。他方で、使用貸借契約は、貸主が使用収益させる義務を負う一方で、借主は、賃料を支払う義務を負わない。そこで、実質的に、目的物の使用収益に対して、賃料が支払ウ義務を借主が追っているか否かで判断する。
  本件では、丁建物相場賃料は月月20万円である。しかし、Yは、月3万円しか賃料を支払っていない。また、かかる3万円は、光熱費・固定資産税に相当する金額であり、Yは、丁建物の使用収益に対して賃料を支払っているとは言えない。
  したがって、本件契約2の法的性質は、使用貸借契約と言える。

⑶   XとYは、使用期間、目的を定めていない。そのため、Xの解除が認められるとも思える。もっとも、使用貸借契約も信頼関係を基礎とする継続的契約関係であることから、信頼関係が破壊されていないと言える特段の事由があれば、解除は制限され、認められない。
  本件では、上記「第1」「1」「⑵」「イ」のとおり、Yは、Xに対して、罵詈雑言や嫌がらせを行っており、信頼関係は破壊されている。
  したがって、解除は制限されない。

  1.    よって、Xの解除は、認められ、Xの主張が認められる。

第2  問題2

1  設問1について

  ⑴   Aは、Bに対して、債務不履行に基づく損害賠償請求(415条1項)を主張する。同請求の要件は、①債務不履行又は履行不能(412条の2第1項)の存在、②損害、③①と②との因果関係(416条)である。

⑵ア  本件売買契約(555条)の内容として、Bは、αの引渡しまでの間、Bがαを利用せずに、東京都S区の自宅倉庫で厳重に保管することが合意されていた。
  しかし、αは、Dにαを貸与し、その結果、αは盗まれている。また、返還される可能性もないため、Bは、Aにαを引き渡すことが社会通念上不可能である。したがって、履行不能と言える。

イ   Aは、αの引渡しを受けることができず、Cとの1300万円の転売契約の履行ができず、1300万円を受け取れないという損害を受けている。

ウ   もっとも、本件売買契約により、αは900万円で売却されているため、相当因果関係は、900万円の範囲でしか認められないのではないか。本件は、Bは、クラシックカーの専門家であり、αと同じ車種、年式・メーカーのクラシックカーが注目を浴び始め、市場価値が徐々に高騰し始めていることを認識していた。また、Bは、AがCと本件転売雨契約を締結したことも知っている。そのような中で、αが破損や盗取されれば、Aが1300万円の損害を受けるという特別損害を認識していたと言える。
  他方で、確かに、6月15日時点では、1250万円であったが、AC間の転売契約について内容を知っていることから、1300万円の損害については、予測可能性があった。

エ   また、車が盗まれたことについて、厳重保管をせずにDに貸したBに帰責事由がある。そのため、免責事由も認めえられない。

⑶   よって、上記要件を充足し、免責事由も認められないため、Aの1300万円の損害賠償請求は、認められる。

2  設問2について

⑴   αがBの元に戻ってきた場合に、履行不能と言えるか。

⑵   本件では、Bは、Aにαを引き渡せるため、履行不能といえない。その  ため、Bは、412条の2第1項を理由として、履行の請求を拒めない。したがって、②は、認めえられる。

⑶   他方で、Bは、代金が支払われた、4月25日から1ヶ月以内に引き渡していない。そのため、債務不履行は認められる。しかし、Aは、Cに、αを引き渡すことが可能であるため、損害との因果関係は認められない。
  したがって。①は認められない。

   

3 刑法

第1  問題1

1  Aに対する行為について

  1.    Xが、Aを後ろから押した行為は、不法な有形力のこうしといえ、暴行罪(208条)が成立する。

⑵ア Xが、Aを押した行為に、Aに対する傷害罪(204条)が成立しないか。

イ Xが、Aを押した行為は、不法な有形力の行使にあたり、「暴行」と言える。そして、Xの同行為によって、Aは、腰部に打撲傷という生理的機能に障害をおった。そのため、「傷害」を負ったと言える。
 他方で、Aには、少なくとも暴行の故意(38条1項本文)が認められる。
 したがって、Xの同行為は、傷害罪の構成要件に該当する。

ウ   Xは、Aが、Xの顔面を殴りつけたことに対応して、同行為に及んでいる。そこで、Xの同行為に正当防衛(36条1項)が成立し、違法性が阻却されないか。 AのXに対する殴打は、Xの罵倒と暴行により生じている。そこで、自招行為といえ、正当防衛が成立する前提を欠くのではないか問題となる。
 正当防衛の根拠は、急白不正の緊急状況下において、国家の公的機関による救済が期待できないため、例外的に私人に対抗行為を許容する点にある。そこで、侵害行為が自招行為に触発される一連一体の事態であり、侵害行為の程度が自招行為の程度を大きく超える場合には、反撃行為が正当と言えるため、正当防衛が成立する状況であると言える。
  本件において、自招行為は、XがAを後ろから押した行為である。他方で、侵害行為は、Aが Xの顔面を殴りつけた行為である。同行為は、自招行為の後に直ちに行われている。また、場所も同じ駅である。そのため、時間的場所的に、接着しているといえ、一連一体の事態と言える。しかし、Aは、人の枢腰部たるXの顔面を殴っているが、Xも、Aを後ろから押している。人の死角から押すことは、受け身が取れずに重大な結果を招く危険がある。そのため、Aの行為は、枢要部への殴打と同程度の危険を有する。
 したがって、正当防衛状況といえない。

エ よって、Xの Aに対する行為には、正当防衛が成立せず、同罪が、成立する。

2  Bに対する行為
    ⑴    XのB対する、同行為に、Bに対する傷害罪が成立しないか。

 ⑵ア   Xの同行為は、「暴行」にあたり、Bは、同行為によって、右大腿部に打撲を負っている。そのため、傷害を負ったと言える。

イ   Xには、暴行の故意が認められる。もっとも、 Xは、 Aを押すことを認識認容しており、Bを押すことを認識認容していない。そこで、Xの故意は、阻却されないか。
  故意責任の本質は、反規範的人格態度に対する道義的非難にある。そして、主観面と客観面が同一の構成要件で重なり合う場合には、規範に直面し反対動機が形成されるといえ、故意が阻却されない。
  本件では、客観的には、Xは、Bを押している。他方で、主観的には、Xは、Aを押している。これらは、「人」に対して暴行を行うと言う点で、暴行罪の構成要件の範囲内でかなりあっている。
  そのため、Xの故意は、阻却されない。

ウ   したがって、Xの行為は、傷害罪の構成要件に該当する。

⑶    Bは、Aに対して、何らの侵害行為を行っていいない。そのため、急白不正の侵害が認められず、正当防衛は成立しない。

⑷ 他方で、緊急避難が成立しないか(37条1項)。かかる緊急状況は、Xが自ら招いたものであるため、自招危難といえ、成立しないのではないか。
 緊急避難の本質は、正対正である。そのため、正といえないような状況であれば緊急避難は成立しない。そして、かかる正対正の状況といえるか否かも侵害行為が自招行為に触発される一連一体の事態であり、侵害行為の程度が自招行為の程度を大きく超える場合かにより判断する。
 本件では上記の通り、自招行為と侵害行為は同程度である。そのため、正対正の状況といえず、緊急避難は成立しない。

⑸ア  もっとも、Xは、 Aの侵害を認識し、正当防衛が成立すると考えている。そこで、誤送防衛が成立し、責任故意が阻却されないか。

イ  故意責任の本質は、上記の通りである。そして、主観的に、正当防衛が成立すると認識している場合には、規範に直面することはなく、反対動機が形成できないため、責任故意が否定される。

ウ  本件では、Aが認識していた状況は、正当防衛と緊急避難の前提となる状況ではなかった。そのため、規範に直面したといえる。

エ  したがって、誤送防衛が成立せず、責任故意が阻却されない。

⑸  よって、XのBに対する同行為に、同罪は、成立する。

 3 上記より、Xには、Aに対する暴行罪と傷害罪が成立し、併合罪(45条)となる。また、Bに対する傷害罪とAに対する上記罪は、観念的競合(54条1項前段)となる。

第2   問題2

1   Xが、PCを持ち去った行為に、窃盗罪(235条)が成立しないか。

2⑴  当該PCは、 Bが所有しているものであ理、かつ一定の財産的価値を有するため、「他人の財物」に当たる。

⑵   Xは、当該PCを自分のカバンに入れ、持ち去った行為は、「窃取」に当たるか。「窃取」とは、財物の占有者の意思に反し、自己又は第三者の占有に移すことを言う。そして、占有とは、排他的支配を言うところ、置き忘れていた当該PCに対して、Bの占有が及んでいたと言えるか。
  占有の有無は、客観的事実及び主観的占有により判断する。
  本件では、Bは、当該PCから15m離れた地点にいた。Xが、自動販売機から改札口手前に人がいる様子や改札に人が入って行く様子を観察することができていることから、見通しは良かった。そのため、Bは、カバンを認識し、占有を回復することができる状況であった。また、BがPCを置き忘れてから5分経過した後、思い出しており、BがPCを失念していた時間は短い。そのため、Bは、当該PCの占有を回復することが主観的にも可能であった。
  したがって、Bの占有は、PCに及んでいると言え、 Xは、Bの占有するPCを窃取したと言える。

⑶   そして、Bは、PCを売る意図で当該行為に及んでいるため、不法領得の意思も認められる。
  さらに、故意も認められる。

3 よって、 Xの同行為に、Bに対する窃盗罪が成立する。

4 商法

1   甲社は、Bに対して、任務懈怠責任に基づく損害賠償請求(会社法423条)を主張することが考えられる。かかる請求は、認められるか。

2⑴   前提として、Bが、乙社の代表取締役として、  英語教室を開校し、営業した行為は、競業取引にあたり、競業取引規制の適用を受けるか(会社法365条、356条1項1号)。

 ⑵   競業取引規制の趣旨は、取締役がノウハウ等を利用して会社の利益を犠牲にしてえ自己の利益を図るような取引を防止する点にある。そこで、競業取引とは、会社が実際行っている取引や将来行おうとしている取引において、市場及び商品において、競合する取引を意味する。
    本件では、甲社は、関東地方において、高校生向け英語教室を営業している。他方で、乙社は、近畿地方で海外流が悪用の英語教室を開校している。そのため、市場において、競合しているといえないとも思える。しかし、甲社において、近畿地方で英会話教室を開校することが取締役会で決定されていた。そのため、乙社の英会話教室は、将来において、市場及び目的物において、競合することが予定されていた。そのため、乙社が近畿地方で英会話教室を開校し、営業下ことは、競業取引に当たる。

⑶   上記競業取引規制の趣旨に加え、競業取引により、会社が受けた損害を算定することが困難であることから、取締役又は第三者が得た利益が損害と推定される(423条2項)。そこで、「ために」とは、計算において、すなわち、経済的利益の帰属主体を基準に判断する。
    本件において、当該営業の利益は、乙社が受けている。そのため、利益の帰属主体は、乙社であり、「取締役が…第三者」の「ために」した取引と言える。

⑷   したがって、Bがした行為は、競業取引にあたり、競業取引規制の適用を受ける。

3⑴   それでは、甲社の上記主張は、認められるか。かかる主張の要件は、①「役員等」であること、②「その任務を怠った」こと、③「損害」が生じていること、④②によって、③が生じていること、すなわち、因果関係が認めらること、⑤帰責事由(428条参照)である。また、③は、取締役又は第三者が得た利益の額が、損害の額と推定される。

⑵ 本件では、Bは、甲社の取締役であり、「役員等」に当たる(①充足)。

⑶   任務懈怠とは、法令、定款、株主総会決議の不遵守又は、善管注意義務(330条、民法643条)違反・忠実義務違反(355条)違反を言う。
  Bが甲社を代表して行った、上記近畿地方での英会話教室の開校は、競業取引に当たる。そのため、Bは、競業取引につき、取締役会の承認を受ける必要がある(365条、356条1項本文)。しかし、Bは、甲社の承認を得ていない。そのため、競業取引規制に違反し、任務懈怠が認められる(②充足)。

⑷   そして、乙社は、3000万円の純利益を計上している。そのため、乙社は、3000万円の利益を得ており、甲社の損害額は、3000万円と推定される(③充足)。

⑸    本件では、甲社が近畿地方で英語教室を開校していないことから、甲社に流れるはずであった顧客を乙社が獲得したと言える。そのため、乙社の利益と甲社が得るはずだった利益が得られなかったという損害は因果関係が認められる(④充足)。

⑹   Bは、甲社が、近畿地方にも進出することを知っていた。そのため、Bには、帰責自由が認められる。

4   よって、甲社の同請求が認められる。

5 民事訴訟法

第1   問1

1   本件訴訟において、 XとYが本件事実を主張していない場合に、裁判所は、かかる事実を判決の基礎とすることができるか。弁論主義との関係で問題となる。

2   弁論主義とは、確定判決の基礎となる事実の主張、証拠の収集・提出を当事者の権能及び責任とする建前を言う。そして、当事者が主張していない事実について、裁判所は、判決の基礎とすることはできない(第一テーゼ、主張責任)

3⑴   それでは、弁論主義は、どの事実に適用されるか問題となる。

⑵   弁論主義の趣旨は、私的自治の訴訟法的反映にある。そのため、法的効果の権利の発生、変更、消滅を基礎付ける主要事実について、弁論主義が及ぶ。他方で、間接事実に弁論主義を及ぼすことは審理の硬直化を招き自由心証主義(247条)を害する危険がある。そのため、弁論主義は、間接事実には及ばない。

⑶   本件訴訟の訴訟物はXの甲土地の所有権の存否である。そして、 AとXの売買契約締結という事実は、甲の所有権の存在を基礎付ける具体的事実である。そして、XY間の売買契約の成立は、上記Xの事実と両立し、かつYの甲土地所有権取得を基礎付ける抗弁である。これに対して、Xが、Yと再度売買契約を締結し、所有権を取得したといいう事実は、Yの主張と両立する再抗弁である。そのため、かかる事実は、X所有権取得という法律効果の発生を基礎づける具体的事実にあたり、主要事実といえる。

⑷ したがって、本件事実には、弁論主義が適用される。

4   よって、当事者が、本件事実を主張しなければ、判決の基礎とすることができない。

第2   問2

1   Yが、 後訴では、XY間の売買契約を主張することは、既判力の消極的採用に反し、認められないのではないか。

2   既判力とは、確定判決の判断内容に与えられる通用性ないし拘束力を言う。そして、既判力の趣旨は、紛争の蒸し返しを防止する点にある。また、正当化根拠は、手続き保証の充足による自己責任にある。

3⑴   既判力の客観的範囲は、上記趣旨に加え、審理の弾力性・迅速性確保の観点から、「主文に包含されるもの」、すなわち、訴訟物たる権利法律関係の存否にのみ及ぶ。

⑵   本件では、前訴判決の既判力は、前訴の訴訟物たるXの甲土地に対する所有権の存在に及ぶ。

4⑴   そして、既判力が作用するは、前訴の訴訟物と後訴の訴訟物が同一、先決、矛盾関係がある場合に、作用する。

⑵   前訴の訴訟物は上記の通りである。他方で後訴の訴訟物は、Yの甲土地に対する所有権の存否である。既判力は、口頭弁論の終結時点において及ぶ(民事執行法35条2項参照)。そのため、Xが、前訴の口頭弁論終結時に、甲土地の所有権を有していることに既判力が及んでいる。そして、一物一権主義より、同一の物権は、2人に同時に帰属しない。そうすると、令和7年4月の時点では、 Yが甲土地の所有権を有するとの訴訟物は、XとYの2人に同時に同一の物権が前訴の訴訟物と矛盾する。

⑶   したがって、既判力が作用し、前訴の確定判決における判断と矛盾する主張は排斥され、主張自体失投となる。

5  よって、 Yの主張は、認められない。

6 刑事訴訟法

第1  設問1

   1  Kが、施錠されていないチャックを開けた行為は、所持品検査として適法か。

   2⑴   前提として、Kが行った職務質問(警職法2条1項)は、適法か。

      ⑵   F市では、長身で痩せ型、一方は黒っぽいジャンバーに紺色のジーパン、もう一方はグレーのブルゾンにカーキ色のチノパンをそれぞれ着用している2人組の男が、銀行強盗を行うという事件が発生していた。また、長身の若二人組がF市G町付近を国道沿いに歩いていたという情報がF警察署にもたらされていた。さらに、事件発生の翌日に、E鉄道のG長駅付近で若い2人連れの男から乗車を求められなかったが、載せなかったこと、同人らが白いミニバンに乗ったという情報を受けていた。そのような中で、同日午前0時10分頃、G長駅の方向から白いミニバンが近づいており、XとYが乗っていた。XとYが事件現場から犯人が移動したであろうルートを辿って移動していたこと及び、容姿が犯人と類似していることからも、「すでに行われた犯罪について、…知っていると認められる者」と言える。

⑶   したがって、Kらの職務質問は適法である。

3⑴   それでは、Xらが行った、所持品検査は、適法と言えるか。所持品検査の可否及び認められる基準が問題となる。 

⑵ア   所持品検査は、口頭で行われる職務質問に密接に関連する。また、所持品検査は、職務質問の効果を上げる上で、必要性と有効性が認められる。そのため、所持品検査は、職務質問に付随する行為として、認められる。

イ   そして、所持品検査が、職務質問に付随する行為である以上、原則として、被処分者の承諾が必要である。もっとも、例外として、①捜索に至らない程度のものであり、強制にわたらない限り許容される。②もっとも、受ける者の権利侵害しうる者であるため、警察比例の原則(同法1条2項)が適用される。具体的には、必要性、緊急性を考慮して、具体的状況の下で相当と言える場合には、適法と言える。

⑶ア 本件では、Xは、Kからリュックサックの開封を求められたが、繰り返し明確に拒否している。そのため、Xは、所持品検査を承諾していたとは言えない。

イ   強制処分とは、被処分者の明示または黙示の意思に反し、重要な権利利益を実質的に侵害するような行為である場合をいう。
    本件では、Xは、リュックを開けることを繰り返し明確に拒否している。そのため、リュックを開けることは、Xの明示的な意思に反する。また、確かにリュックサックを開封した際に、リュックサックは施錠されていなかった。しかし、リュックサック自体は、閉じられて外から中身が見える状態ではなかった。すなわち、中身が把握されることが想定されていたとはいえない。そのため、Xのみだりにリュックの中身を把握されない利益の要保護性は高かった。そして、外から触って内容物の形を確かめるにとどまらず、完全に中身の形状等を把握する当該行為は、Xの重要な利益である同利益を実質的に侵害するものであった。そのため、かかる行為は、強制処分と言える。
  同行為は、銀行強盗の証拠品たるナイフ、拳銃、覆面等を発見するために行われており、探索行為である。そのため、かかるXの重要な利益たるみだりにリュックの中身を見られない自由を侵害するような探索行為である当該行為は、捜索といえる。

4   よって、本件行為は、捜索にあたり、違法と言える。

第2   設問2

1  現金、帯封の証拠能力は違法収集排除法則により否定されないか。

2  司法の廉潔性、適正手続、将来の違法捜査の抑止の観点から、①令状主義の精神を没却するほどの重大な違法があり、②当該証拠を採用することにより、将来の違法捜査排除の観点から相当でない場合には、証拠能力が否定される。

3⑴ア 本件では、アタッシュケースの解錠が所持品検査として行われているため、上記の基準で適法性を判断する。

イ   本件では、Xは、アタッシュケースの鍵の提出を拒否している。そのため、アタッシュケースの会場について、Xの承諾を得ていない。

ウ   そして、アタッシュケースは、施錠されていた。そのため、中身を見られることが想定されていない。また、鍵によらずMがドライバーでこじ開けている。そのため、Mの同行為は、Xのみだいりにアタッシュケースの中身を見られない利益という重要な利益を侵害している、
 したがって、同行為は、捜索にわたり、Mの行為は、違法である。

⑵ そして、Mは、令状なくアタッシュケースの捜索を行なっている。そのため、令状主義(憲法35条1項)に反している。また、Mは、令状に基づく必要な処分(222条1項、111条1項)としても、認められないような、アタッシュケースの破壊を伴う解錠をMが行なっている。そのため、違法の程度は、極めて高い。 

⑶    ナイフ等が発見されていないことから、かかる現金と帯付がなければ、Xを逮捕することはできなかった。そのためかかる証拠は、重要な証拠であったと言える。また、ケースの破壊がなければ、現金、帯封は発見されなかった。そのため、かかる違法行為により、直接かかる証拠が取得されている。さらに、職務質問の際に荷物の開封等を拒否することは日常的であることからも、かかるアタッシュケースの破壊を伴う捜索を認めると、日常的にかかる行為が行われるようになる危険もある。加えて、重要な証拠であるため重大な違法行為を認めるとすると、将来の違法捜査を助長する。そのため、かかる証拠を採用する利益よりも、将来の違法捜査を助長する危険の方が高い。したがって、かかる証拠採用することは、将来の違法捜査の抑止の観点から相当ではない。

4   よって、違法収集証拠排除法則が適用され、かかる証拠の証拠能力は、否定されると判断するべきである。

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