日大ロー令和5年度(1期)入試解答例
2025年11月22日
参考答案
憲法
1.国家公務員法102条1項(以下、本件規定)は、公務員の政治活動の自由を侵害するものとして、憲法21条1項に反し、違憲ではないか。
(1)「表現」(21条1項)とは、思想の外部的表明をいう。政治活動は、自己の政治的な思想をその活動によって外部に表明するものであるから、「表現」に当たる。したがって、政治活動の自由は、同項により保障される。
(2)本件規定は、公務員の「政治的行為」を禁止することで、公務員の政治活動の自由を制約しているといえる。
(3)他方、公務員は、「全体の奉仕者」(15条2項)であるから、公務員の政治活動の自由も、合理的で必要やむをえない限度の制約に服する。
(4)本件規定は、公務員の政治的意見の表明そのものを制約することを狙いとしているものではなく、その表明によってもたらされる公務員の政治的中立性の毀損といった弊害の防止を狙いとして禁止しているのであるから、政治的行為の禁止に伴う限度で間接的・付随的に政治的意見の表明を制約しているにとどまるといえ、合理的関連性の基準により審査すべきとも考えられる。
しかし、政治活動の自由は、国民が言論活動により政治的意思決定に関与するという自己統治の価値との結びつきが強いから、立憲民主政の政治過程にとって不可欠の基本的人権であり、民主主義社会を基礎づける重要な権利である。そうである以上、間接的・付随的な制約であることを重視して合理的関連性の基準まで厳格度を下げるべきではない。
さらに、本件規定は、政治活動という活動内容に着目した規制であるため、国家が自己に都合の悪い表現を抑圧するために濫用される危険が高い。
(5)そこで、本件規定の合憲性は、①立法目的が重要であり、②手段が立法目的との間で実質的関連性を有するかで審査されるべきである。
(6)本件規定の目的は、公務員の職務の遂行の政治的中立性を保持することによって行政の中立的運営を確保し、これに対する国民の信頼を維持することにあるところ、これは、議会制民主主義に基づく統治機構の仕組みを定める憲法の要請にかなう国民全体の重要な利益というべきであり、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる政治的行為を禁止することは、国民全体の上記利益の保護のためであって、その規制の目的は重要なものであるといえる(①)。
(7)公務員の政治活動には、公務員の政治的中立性を阻害するものもあるから、これを禁止することで抑制することは、目的を達成する手段として有効であるといえる。
しかし、政治活動を全面的に禁止しているという点で、手段の必要性を欠くのではないか。
本件規定の文言、趣旨、目的、規制される政治活動の自由の重要性を考慮すれば、本件規定における「政治的行為」は、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが、観念的なものにとどまらず、現実的に起こり得るものとして実質的に認められるものに限定されると解すべきである。そうすると、禁止される「政治的行為」は、立法目的を阻害する現実的なおそれがあるものに限定されるから、手段の必要性を欠くものではない。
(8)したがって、本件規定には、実質的関連性も認められる(②)から、本件規定は21条1項に反せず、合憲である。
2.本件規定自体は合憲であっても、これをAに適用する限りで違憲であるとして、本件規定をAに適用することが21条1項違反として違憲とならないか。Aの行為が本件規定の「政治的活動」に当たらないのであれば、本件規定をAに適用することは違憲となる。
(1)上述の通り、「政治的行為」とは、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが、観念的なものにとどまらず、現実的に起こり得るものとして実質的に認められるものをいうと解する。そして、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるかどうかは、当該公務員の地位、その職務の内容や権限等、当該公務員がした行為の性質、態様、目的、内容等の諸般の事情を総合して判断するのが相当である。
(2)本件でAは、高齢者・障がい者庁において窓口部門の対応や接続を監督する係長であり、一定の指揮監督権限を有する管理職的地位にある。このような地位にある公務員が特定政党の政策を支持する政治的表現行為を行う場合、その言動が部下に影響を与え、行政内部における政治的中立性の確保に支障をもたらす可能性は一般職員よりも高いといえる。他方で、Aの行為は休日に勤務時間外で行われ、公用施設の利用もなく、また氏名や職業を明らかにしていないため、公務員としての立場が外部から直ちに認識される態様ではなかった。また、ビラ配布の態様も平穏であり、組織的行動でもないことから、表面的には中立性への影響は小さいようにも思える。
しかしながら、Aが配布したビラは弱者保護を訴える野党Bの政策への支持を呼びかける明確な政治的内容を含んでおり、しかも参議院議員選挙の投票日を2週間後に控えた時期に配布されている点で、特定政党の支持を求める選挙運動に密接に関連するものである。このような行為は、たとえ匿名であったとしても、管理職的地位にある公務員が選挙期日に近接してそのような活動を行うこと自体が、行政への信頼に対して一定の現実的な危険性を及ぼすものと評価される。
これらの事情を総合すると、Aの行為は、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるといえるから、「政治的行為」に該当する。
(3)したがって、本件規定をAに適用することは合憲である。
民法
(設問1)
Xは、Yに対して乙建物を収去して甲土地の明渡しを求めることができる。
まず、Xの請求の法的根拠は、甲土地の所有権(民法(以下、法令名略)208条)に基づく返還請求権としての建物収去土地明渡請求である。建物収去土地明渡請求は建物の収去を求めるものであるから、その請求の相手方は、土地の現在の占有をなす建物の収去権限を持つ者である土地上建物の現在の所有者となる。
本問において、Xの所有する甲土地には、Xに無断で乙建物が建てられ、存在しているが、同建物の所有者はYである。
以上から、Xは、Yに対して乙建物を収去して甲土地の明渡しを求めることができる。
なお、乙建物は未登記建物であって、Y所有を公示する登記が未だなされていないが、このことをもってYの所有でなくなることはないため、請求の相手方の適格性が失われることはない。
(設問2)
第1 小問1について
Xは、Zに対して乙建物を収去して甲土地の明渡しを求めることはできない。
上記の通り、所有権に基づく返還請求権としての建物収去土地明渡請求の相手方は、当該建物の収去権限を有する者、すなわち建物所有者である。つまり、建物につき収去権限がない者、すなわち建物所有者になったことのない者については、仮に当該建物の所有権の登記名義が移転されていたとしても請求の相手方にはなりえない。
本問において、Zは、たしかに甲土地上に存在する乙建物の登記名義が移転されているが、これはYはZの知らないうちにしたことであって、Zは乙建物につき無権利者であるから請求の相手方にはなりえない。
以上から、Zに対して乙建物を収去して甲土地の明渡しを求めることはできない。
第2 小問2
Xは、Yに対して乙建物を収去して甲土地の明渡しを求めることができる。
上記の通り、所有権に基づく返還請求権としての建物収去土地明渡請求の相手方は、当該建物の収去権限を有する者、すなわち建物所有者である。この点、本問では、Yは乙建物をZに売却している(555条、176条)ことから、建物所有者はZであって、同請求の相手方にはなりえないと思える。
しかし、土地所有者が建物譲渡人に対して所有権に基づき建物収去土地明渡請求をする場合の両者の関係は、土地所有者が地上建物の譲渡による所有権の喪失を否定してその帰属を争う点で、あたかも建物についての物権変動における対抗関係にも似た関係にある。そして、民法177条では、「不動産に関する物権の得喪及び変更は、・・・その登記をしなければ、第三者に対抗することができない。」と定められていることからすれば、建物譲渡人は建物売却後もなお自らの意思に基づき当該建物の登記を保有しているときは、所有権の喪失を土地所有者に対抗することはできないと解するべきである。また、実質的にも土地所有者に対して、土地上建物の現在の所有者を見つけ出す負担を強いるのも適切でない。
本問において、YはZに売却後も引き続き乙建物の登記を自らの意思で自己名義のままにしている。
以上から、Xは、Yに対して乙建物を収去して甲土地の明渡しを求めることができる。
刑法
1.甲がVの頭部を5回殴り、意識を消失させた行為につき甲に傷害致死罪(205条)が成立しないか。
2.まず、甲の上記行為は、人の生理的機能を害する行為であって「傷害」にあたる。
そして、Vは、B港において「死亡」している。
もっとも、Vは死亡前に同港において第三者により頭頂部を角材で数回殴られていたことから、甲による上記傷害行為によって死亡したといえるか、すなわち因果関係の存否が問題となる。
この点、因果関係とは、当該行為が結果を引き起こしたことを理由に、より重い刑法的評価を加えることができるほどの関係を認めることができるかという法的評価の問題である。そこで、因果関係の存否は、当該行為が内包する危険が実現したかという観点から判断するべきである。具体的には、行為者の行為の危険性と、介在事情の結果発生への寄与度を中心に諸事情を総合考慮して判断するべきである。
本問において、介在事情は、第三者による角材による暴行行為であるが、当該行為はVの死亡時期を幾分か早めるものにすぎず、介在事情のみをもって死亡結果をもたらしたといえない程度のものである。他方で、甲の上記傷害行為は、Vの頭部を5回殴り、転倒させ頭頂部をコンクリートの床に打ち付けて意識を失わせるほどの強度のものであって、それ自体に死亡結果を生じさせるほどの危険性があったといえる。つまり、Vの死亡結果の発生には介在事情がそれほど寄与しておらず、もっぱら甲による上記傷害行為の持つ危険性が現実化したものといえる。
したがって、因果関係を認めることができる。
さらに、本問において、甲には少なくとも暴行罪(208条)の故意が認められるところ、傷害致死罪は、同罪の結果的加重犯であるから、このことをもって甲には傷害致死罪の故意を認めることができる。
3.以上から、甲には、Vに対する傷害致死罪が成立する。
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