be a lawyer

日大ロー令和6年度(3期)入試解答例

2025年12月4日

参考答案

憲法

1 憲法19条は思想・良心の自由を保障しているところ、日弁連による本件法律案に反対する声明(以下、「本件声明」とする)の発表は、同会会員であるBの思想良心の自由を侵害するものでないかが問題となる。

2 思想良心の自由は、民主主義の根幹をなす極めて重要な権利であって、特に内心においていかなる思想を有するかは絶対無制約に保障されるものである。そして、特定の思想を持つことを強制することが思想良心の自由の侵害にあたるのはもちろんだが、所属する団体において自身の思想と異なる意見が表明されることは、一般人からしてあたかも同団体の構成員たる自身が団体そのものと同じ意見を有しているかのように捉えられる可能性をはらんでおり、思想良心の自由の間接的制約にあたる。もっとも、思想良心の自由の間接的制約があるといっても当該行為が団体の目的の範囲内の行為であれば、団体構成員は当該行為がされることを承諾した上で同団体に所属していると考えられる。そこで、本件声明の発表が、日弁連の目的の範囲内といえるかが問題となる。

3(1) 日弁連は強制加入団体であり(弁護士法8条、9条)、構成員には実質的に脱退の自由が保障されていない。そのため、目的の範囲を会社のように広範なものと捉えることはできない。さらに、弁護士法が日弁連を強制加入団体としている以上、その構成員である会員は、さまざまな思想信条を有していることが元より予定されていると考えられる。そのため、日弁連の活動により会員の思想良心の自由が間接的に制約されるとして、その受忍義務は制限的に解されるべきである。

(2) 本件声明は、本件法律案の国会への提出に反対することを内容としており、会員個々人の思想、信条及び政治的立場の相違により大きく意見が分かれる政治上の問題を含むため、会員の思想良心の自由の間接的制約にあたる側面があることは否定できない。しかし、弁護士は「法律制度の改善に努力しなければならない」(弁護士法1条2項)義務を負っており、日弁連はかかる弁護士の使命に鑑み、弁護士の事務の改善進歩を図るための事務を行うことを目的としている(同法45条2項)。本件声明はまさしく法改正に際して日弁連全体として意見を表明するものであり、このような声明は、弁護士の使命に鑑みれば、法律制度の改善に関しない単なる政治的意見の表明とは異なり、日弁連の目的の中核にあるものといえる。

(3) したがって、本件声明の発表は、日弁連の目的の範囲内だといえる。

4 よって、Bの主張は失当である。

民法

設問1

小問(1)

1 AはCに対し、所有権(206条)に基づく返還請求として、本件土地の明渡しを求める。

 上記請求に対し、CはAに、Aの失踪宣告(30条1項)を原因とする相続(31条、882条)を原因として、Aは本件土地所有権を喪失したとの抗弁を主張することが考えられる。かかる主張は認められるか。

2(1) 失踪宣告の要件は「不在者の生死が七年間明らかでない」こと及び家庭裁判所に対する「利害関係人の請求」である。「不在者」Aは平成20年12月以降13年半が経過した令和4年6月までその生死が明らかでない。Aの妻Bは「利害関係人」にあたる。したがって、Aは平成27年12月をもって死亡したものとみなされる。

 もっとも、本件においては「失踪者」Aが「生存」しており、A「本人」の請求によって失踪の宣告の取消し(32条1項)がなされている。失踪宣告の取消しにより、同宣告ははじめからなかったものとされるが、取引安全確保の見地から、取消しは「失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為」には影響しない。そこで、BC売買が「善意でした行為」にあたるかが問題となる。

 同項における「善意でした行為」だというためには、取引の両当事者が「善意」である必要があると考えられる。なぜなら、失踪宣告は真正権利者である失踪者から権利を奪うという重要な結果に比して、取引の一方当事者のみの善意で足りるとしたのではあまりに均衡を失するからである。

(2) 本件において、BはA生存につき悪意である。

(3) したがって、BC売買は「善意でした行為」とはいえない。

3 よって、Cの反論は認められず、Aの請求は認められる。

小問(2)

1 AはDに対し、所有権(206条)に基づく返還請求として、本件土地の明渡しを求める。

 本問においてもBC売買及びCD売買が「善意でした行為」(32条1項)にあたるかが問題になる。

2(1) まず、BC売買はBCともに善意であり、「善意でした行為」にあたる。そのため、BC売買の効果は失踪宣告の取消しによって影響を受けないものとも思える。しかし、DはA生存につき悪意だから、CD売買は「善意でした行為」とはいえない。そこで、このような善意者からの悪意の転得者がいる場合に所有権の帰属をどのように解するべきかが問題となる。

 この点、一度所有権が善意者に移転したあとは、所有権はかかる善意者に確定的に帰属し、後に登場した転得者の善意悪意にかかわらず、失踪者は所有権を失うと考えるべきである。このように考えなければ、善意の転得者の財産処分可能性がなくなり、取引安全にもとるからである。

(2) 本件において、BC売買により善意のCが本件土地所有権を取得しているから、この時点で本件土地所有権はCに確定的に帰属し、Aはその所有権を喪失している。

3 よって、Aの請求は認められない。

設問2

小問(1)

1 「失踪の宣告によって財産を得た者」は、失踪宣告の「取消し」によってその権利を失う。本件において、BはAから失踪宣告により本件土地を相続しているため、その権利を失う。そして、この場合に「財産を得た者」は現存利益についてのみ返還義務を負うが、いうかなる範囲が「現に利益を受けている限度」に含まれるかが条文上明らかでなく問題となる。

2(1) ここにいう「現に利益を受けている限度」とは、遊興費等に費消した場合にはその部分について返還義務が生じないものの、生活費等失踪宣告がなかったとしても支出された範囲については返還義務が生じるものと考えられる。

(2) 本件において、Bが本件土地の売却代金全額を生活費に費消していた場合には、BはAに対して時価500万円全額について返還義務を負う。他方、遊興費に費消していた場合には、その費消した450万円部分につき返還義務を免れ、時価との差額50万円についてのみ返還義務を負う。

小問(2)

1 AがCから本件土地を取り戻すことができる場合、Aが本件土地所有権を有するから、BC売買は他人物売買にあたる(561条)。では、CはBに対していかなる請求をしうるか。

2(1) まず、CとしてはBC契約の解除(564条、542条1項1号)をすることが考えられる。同条項に基づく無催告解除の要件は、債務の全部の履行が不能であることである。

(2) 本件において、BのCに対する目的物引渡債務は、本件土地の所有権がAにあり、Aが同土地の返還請求をしていることから、全部不能に陥っている。そのため、同条条項の要件を充たす。

(3) したがって、CはBC売買契約を解除することができる。

3 解除の結果、両当事者には原状回復義務(545条1項)が生じるから、CはBに対して売買代金450万円の返還を請求できる。

刑法

1 甲に殺人罪(199条)が成立するか。殺人の実行行為があったといえるか否かが問題となる。

2 「人を殺した」といえるためには、自ら殺害行為を行った場合がこれにあたるのはもちろんのこと、不作為による殺人も同条の実行行為に該当すると考えられる。ではその範囲をいかに限定するべきか、作為義務違反の有無をいかに判断するかが問題となる。

(1) 単なる不保護がすべて作為義務違反とされるとその範囲が広範に過ぎるから、少なくとも作為による場合と構成要件的に同価値といえなければ実行行為該当性を認めるべきではない。そこで、保護の引き受け意思にもとづく排他的支配の設定があり、仮に作為義務を果たしていたならば相当高度の蓋然性をもって救命可能だった場合に限り、不作為による実行行為を認定すべきだと考える。

(2) 本件において、甲は、重篤な状態で入院中であるBを助けてほしいというAの懇願に応じて、「私が滞在しているホテルに連れてくるように」と申し向けていることから、保護の引き受け意思がある。そして、Bは実際に甲方に運び込まれているから、排他的支配の設定がある。さらに、甲の滞在するホテルは都市部にあり、付近には医療機関が複数存在し、Bはホテル到着時に必要な医療措置をとればほぼ確実に救命可能だったのだから、作為義務を果たしていれば相当高度の蓋然性をもって救命可能だったといえる。

(3) したがって、甲には殺人罪の実行行為があるといえる。

3 そして、甲が適切な医療行為を受けさせていれば相当高度の蓋然性をもって救命可能だったため、死亡結果との因果関係も認められる。

4 また、甲はBの容態が重篤でありそのまま医療措置をとらなければ死亡する危険があると認識しつつ、医療措置をとらなかったため、結果発生の危険性の認識認容が認められ、故意があるといえる。

5 よって、甲には殺人罪が成立する。

6 なお、AはBの子であって、殺意はないものの救命義務に反して医師による治療行為を中断させたから、同人には保護責任者遺棄致死罪が成立する。そして、甲は同罪の範囲においてAとの共同正犯となる。

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