be a lawyer

日大ロー令和7年度(第2期)入試解答例

2025年11月21日

参考答案

憲法

設問

1 本件ビデオテープに対する捜査機関の差押処分は、X社のビデオテープを差し押えされない自由(本件自由)を侵害し違憲ではないか。

(1)報道機関の報道は、民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき、重要な判断資料を提供する点で、国民の知る権利(21条1項)に奉仕する。加えて、事実の報道に留まる側面があるとしても、編集等を通じた知的営為を含むから、思想の表現たる側面も有する。ゆえに、報道の自由は同項によって保障される。判例は、取材の自由につき、21条の精神に照らして十分に尊重に値するとしている。しかし、取材は報道をするうえでの不可欠の前提だから、同項により保障される。

X社は時事の事件について報道する民間のテレビ局であり、加えて、本件ビデオテープは衆議院議員に対する収賄被疑事件の証拠であり、国民が国政に関与するにあたって重要な判断資料を提供し、国民の知る権利に奉仕するものなので、本件自由は、報道の自由ないし取材の自由の一内容として21条1項により保障される。

(2)第1回撮影分、第2回撮影分ともにすでに放送されているものの、編集前のビデオテープが差し押さえされると、元データを用いた将来の放送ができなくなるのみならず、今後の取材活動も難しくなるから、本件自由は制約を受けている。もっとも、取材の自由も公正な裁判の実現等の憲法上の要請の下では、必要かつ合理的な制約は許容される。

(3)では、必要かつ合理的な制約として許されるか。

ア 公正な刑事裁判の実現は国家の基本的要請であり、実体的真実発見の要請が特に強く働く刑事事件においては、取材フィルムであっても裁判に用いるべき必要性が高いといえる一方、取材の自由の制約は民主主義社会の根幹にかかわる問題だから、公正な刑事裁判実現の要請と、取材の自由の保障の必要性を調整する必要がある。したがって、21条1項は精神的自由権たる表現の自由等を保障し、これらは民主政の維持保全に不可欠な権利だから、この権利の制約には違憲性の推定が働くところ、違憲性の推定を働かせたうえで、審判の対象とされている犯罪の性質、態様、軽重および取材したものの証拠としての価値、公正な刑事裁判を実現するにあたっての必要性の有無と、取材したものを証拠として提出させられることによって報道機関の取材の自由が妨げられる程度およびこれが報道の自由に及ぼす影響の度合その他諸般の事情を比較衡量して決する。

イ 本件では、衆議院議員たるCに係る被疑収賄事件に係る本件ビデオテープの差押え如何が問題となっているところ、国会議員に関する情報は公益性が高い。また、検察官は本件ビデオテープ以外の証拠によって捜査を進めたが事案の全容を解明できなかった。加えて、収賄事件は密行性が高く、当事者間の面談状況を捉えたビデオテープは、犯罪事実を裏付ける決定的な証拠となる。そして、被疑者Bは現金提供の有無を巡って被疑事実を否認しており、Bによる自白も期待できない。Cも事実関係の記憶が明確でなく、他の証拠と合わせても事実認定上困難が残るため、本件ビデオテープのもつ証拠価値は非常に高い。

 一方、X社はすでに、第1回撮影分を放送しており、第2回撮影分についても報道のための編集が終わっているから被る不利益は小さい。また、取材の事由についても、事後的に本件ビデオテープが差し押さえられたとしても、当初の取材は何ら妨げられることはない。将来の取材活動が制約を受け得ることもありうるが、現役の衆議院議員の収賄に係る事件であり、頻発する事件ではないと思われるという特殊性に鑑み、将来の取材の自由が妨げられる程度は小さい。

 よって、審判の対象とされている犯罪の性質、態様、軽重および取材したものの証拠としての価値、公正な刑事裁判を実現するにあたっての必要性の方が、取材したものを証拠として提出させられることによって報道機関の取材の自由が妨げられる程度およびこれが報道の自由に及ぼす影響に比して優越する。

(4)以上より、必要かつ合理的な制約として、本件自由を侵害せず合憲である。

民法

設問1

1 Xの事実3の請求は、所有権に基づく返還請求としての甲土地明渡請求である。同請求に対して、Yは対抗要件の抗弁(177条)を主張し明渡を拒絶しうる。

(1) 民法177条は、不動産に関する物権の得喪及び変更は、登記をしなければ、第三者に対抗できない旨を定めるところ、自身が正当な第三者であると基礎づけるため、①所有者から取引行為により所有権を取得したことが必要となる。また、第三者の側から登記を備えない者を所有者と認めることは可能であるから、②Xが登記を具備するまで権利者と認めない旨の権利主張が必要となる。

(2) 本件で、YはAから、A所有の本件土地を買い受け、その引渡し設けている(①)。そのため、Yが「Xが登記を具備するまでXを所有者と認めない」との権利主張(法的主張)を行えばかかる抗弁は認められる。

設問2

1 Xの事実7の請求は所有権に基づく返還請求としての本件土地明渡請求である。これに対してYは、対抗要件の抗弁を主張しうる。しかし、対抗要件の抗弁に対しては対抗要件の具備が再抗弁になるところ、Xはすでに所有権移転登記を備えている(主張自体失当)ため、係る反論は認められない。

2 そこで、Yは、Xは背信的悪意者に該当するから、「第三者」(177条)にあたらず、登記欠缺を対抗できないと反論しうる。

(1)「第三者」とは、当事者もしくはその包括承継人以外の者で、不動産に関する物権の特捜及び変更の登記の欠缺を主張する正当の利益を有するものをいう。そして、自由競争を原則とする現代の資本主義社会においては、取引相手がすでにいることを知りつつ、有利な条件を提示して不動産の獲得を目指すことは当然想定されるから、単純悪意者に留まる限り、登記欠缺を主張する正当の利益を有する。しかし、自由競争の範囲を逸脱する背信的悪意者は、信義則(1条2項)上正当の利益を有さず「第三者」にあたらない。

(2) 事実5より、Xは「YがAから本件土地を買い受けたが所有権移転登記を受けていないことを知って」いるから、悪意である。

 そして、Xはかねてより、Yに対して個人的な恨みを抱えていたことから、Yが登記を具備していないことを知りこれを奇貨とし、Yを困らせようと考えた。さらに、あわよくばYから金員を巻き上げようと画策し、Aから本件土地を時価の10分の一という安値で買い受けたのである。そのうえで、Yから金を巻き上げるべく「時価の半分程度の金員を支払えばXからYに所有権移転登記をしても良い」などと申し出ている。これらの各事実に照らすと、Xは自由競争の範囲外にあり、登記欠缺の主張は信義則に反する。

3 よって、Xは登記の欠缺を主張する正当の利益を有する「第三者」に該当せず、Xの請求は認められない。

設問3

1 PのYに対する所有権に基づく返還請求としての本件土地明渡請求は認められるか。

(1) 同請求の要件は、①原告もと所有、②被告現占有である。

本件において、PはXから本件土地を買い受け、所有権を取得した(①)。事実1より、現在本件土地はYが占有している(②)。

(2) これに対して、Yは、Xが背信的悪意者であり「第三者」(177条)に当たらないことから、Xからの転得者たるPも177条の第三者に該当しないと反論しうる。

ア 背信的悪意者が無権利者ならば、無権利者からの転得者も無権利であり「第三者」に当たらない。しかし、背信的悪意者は完全な無権利者ではなく、信義則(1条2項)上登記欠缺を主張できないにとどまる。すると、背信的悪意者からの転得者が存在する場合、転得者自身が背信的悪意者でない限り、「第三者」にあたる。

イ PはXから、「自分が本件土地の正当な所有者であり、所有権移転登記も受けている」、「Yから明渡しを受けて本件土地を引渡す」、「それに半年ほどかかるので、売買代金を時価より2割値引く」などといった説明を受けた。本件土地の登記を確認し、Xの登記名義となっていることからかかる説明を信じ、本件土地を買い受けている。確かに、登記名義はXであるにもかかわらずなぜYが占有しているのか等について確認を取ってはいない。しかし、実際の所有者と登記名義人が異なることや、所有者以外の者が占有していることは通常よくあることであり、疑義を持たなくても不合理ではない。よって、Pは善意かつ、登記欠缺の主張が信義則に反するわけではないから、背信的悪意者ではない。

2 以上より、Pは「第三者」に該当するから、Yは登記なく所有権をPに対抗できず、登記を有するPの請求は認められる。

刑法

1 V方住宅で、財布を見つけ、外に出た甲の行為に窃盗罪(235条)が成立するか。

(1)本件財布は、Vの所有及び占有に属する「他人の財物」である。

(2)「窃取」とは、占有者の意思に反して財物の占有を自己又は第三者に移すことをいう。  本件では、V方住宅内の財布をもったまま、V方住宅を出ているため、Vの意思に反してその占有を甲に移しているといえ「窃取」にあたる。

(3)甲は、行為時において本件財布内の現金その他財産価値のある物を利用する意思があったと思われるため、故意(38条1項)及び不法領得の意思がある。

(4)よって、窃盗罪が成立する。

2 次に、再度V宅に引き返したものの、Vに発見され、逮捕を免れるためにVにナイフの刃先を示し左右に振って近づいた行為につき、事後強盗罪(238条)が成立するか。

(1)「強盗として論じる」こととの均衡上、「暴行」とは、逮捕免脱目的に向けられた、社会通念上、相手方の反抗を抑圧するに足りる程度の不法な有形力の行為をいう。

 本件では、ポケットナイフを取り出し、Vに刃先を示すのみならず、左右に振って近づいているから、社会通念上被害者の反抗は抑圧される程度の不法な有形力の行使といえるから、「暴行」にあたる。

(2)V方住宅での本件財布の持ち出し後、自転車で1キロ離れた公園まで逃れているが、この場合も「窃盗が…暴行をした」といえるか。窃盗の機会といえるかが問題となる。

ア 「強盗として論じる」こととの均衡上、罪質の近似性を担保する必要がある。そこで、窃盗の機会とは、被告人が被害者等から容易に発見されて、財物を取り返されあるいは逮捕されうる状況が窃盗の犯行により生じた緊迫した対立状況として継続していることを指し、時間的場所的近接性、被害者側による追跡の有無を主要な要素として判断する。

イ 本件では、本件財布に係る被害者たるVその他の人物は甲を追跡してはいなかった。そして、甲は本件財布を窃取したのち、自転車で約1キロも離れた場所に移動している。さらに、時間的にも当初の窃盗から30分近くも離れている。よって、当初の反抗と時間的場所的に近接したとはいえない。ゆえに、被告人が被害者等から容易に発見されて、財物を取り返されあるいは逮捕されうる状況が窃盗の犯行により生じた緊迫した対立状況として継続しているとはいえない。以上より、「窃盗が…暴行をした」といえない。

3 だとしても、ナイフを示した行為について、暴行罪(208条)及び脅迫罪(222条)が成立するか。

(1)暴行罪

「暴行」とは、人の身体に対する不法な有形力の行使をいう。

 本件では、上記行為は、甲の身体に対して不法に有形力を行使するものなので、「暴行」といえる。

(2)脅迫罪

ア 「脅迫」とは、相手方の反抗抑圧に足りる程度の、222条所定の法益に対する害悪の告知をいい、社会通念に照らして判断する。

本件では、上記行為は、甲の身体に対して害悪を告知するものであり、ナイフを振って近づいていたことに照らせば、社会通念上相手方の反抗抑圧に足りる程度の害悪の告知たる「脅迫」にあたる。

(3)以上より、暴行罪、脅迫罪が成立する。

4 罪数

 甲には、①本件財物に係る窃盗罪、②Vに対する暴行罪、➂脅迫罪が成立し、②➂は同一の行為によりなされたから、行為者の態様が社会的見解上1個の行為と評価されるため、観念的競合(54条1項前段)が成立し、①とは時間的場所的に近接しておらず、保護法益も異なるため、併合罪(45条前段)となる。

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