日大ロー令和7年度(第3期)入試解答例
2025年11月21日
参考答案
憲法
1 公立A中学校において、本件内申書を作成し、Bが受験する各高校に提出することが、BのLGBTQ+の擁護というBの自由(本件自由①)を侵害し、違憲か。
(1)「思想及び良心」(19条)の意義について、具体的内容を持った一定の考え方とする見解があるが、思想信条が外部に現れた場合には保障されないことになるため、狭きに失し妥当ではない。そこで、「思想及び良心」とは、人の内面的精神活動一般をさす。
LGBTQ+の擁護は、Bが内面的精神活動そのものなので、「思想及び良心」にあたる。そして、19条の保障の帰結として、内心の告白の強制を受けない自由を有するところ、本件自由①は19条により保障される。
(2)では、本件自由①への制約が認められるか。
麹町中学校内申書事件では、調査書の備考欄及び特記事項欄における記載は、思想、信条そのものを記載したものでないことは明らかであり、右記載に係る外部的行為によっては思想、信条を了知し得るものではないから、内心の告白の強制にあたらない、とした。しかし、同判例については、当該調査書には、ML派の集会に参加したことが記載されているから、同一の思想及び良心を有していることを強く窺わせるものである、という批判がある。
もっとも、本件内申書にはBが配布したビラの内容、つまり、男女問わずズボンとスカートを選択できるようにといった、LGBTQ+擁護という思想を推知させる文言は含まれていない。であれば、同判例のみならず、批判的見解に依拠しても、内心の告白の強制にあたるとはいえない。よって、本件自由①への制約は認められない。
(3)憲法上の権利として保障されないとしても、13条後段が客観法として、およそ国民の自由の制限が法治国家原理に服すべきことを定めているから、立法府を拘束する比例原則に反しない規制であることを要する。具体的には、①規制が必要、かつ、その目的が正当であり(必要性の原則)、②手段が目的との関係で合理的関連性を有する場合(過剰規制禁止の原則)のみ許される。
(4)本件では、校則で他者へのビラ配布が禁じられているのは、学校内の秩序維持及び生徒管理を適切に行うためである。仮に、これらが行われなければ、適切な学校運営に支障をきたし、さらには、生徒を適切に教育するとともに、心身の発達を支援するという学校の存在意義が没却されうる。したがって、係る規制は必要であり、目的は正当である(①)。
そして、ビラ配布を禁じるという手段をとることで、他の生徒たちに不当な影響を与えないことに資するため、目的達成との関係で合理的関連性がある(②)。
(5)以上より、本件自由①を不当に侵害せず合憲である。
2 Bが受験する各高校に提出することは、Bのビラを撒く自由(本件自由②)を不当に侵害し違憲か。
(1)「表現」(21条1項)とは、自らの思想を外部に表明することをいう。
本件ビラ配布は、男女問わず制服としてスカートを着用できるように求めるというBの思想を紙に印刷して配布する点で、思想の外部的表明たる「表現」に含まれる。よって、本件自由②は「その他一切の表現の自由」(同条1項)として、同項で保障される。
(2)ア 本件内申書をB受験の各高校に提出したとしても、Bが本件ビラを配布すること自体は妨げられないため、本件自由②に係る法的な制約はない。
イ もっとも、法的な制約を伴わないとしても、何らかの支障をきたすことがある場合は、精神的自由権としての信教の自由の重要性に思いを致し、合憲性を慎重に吟味しなければならない(オウム真理教解散命令事件)。
本件は信教の自由ではなく、表現の自由に係る問題ではあるが、本件内申書の作成・提出によって、その後のBによるビラ配布が事実上妨げられ、いずれも、精神的自由権に係るものであるため、同判例の射程が本問にも及ぶ。したがって、精神的自由権たる表現の自由の一内容としての本件自由②への事実上の制約が認められ、憲法適合性判断は慎重に吟味しなければならない。
(3)ア 表現の自由を含む精神的自由権への制約は、健全な民主政の維持という観点から違憲性が推定される。加えて、本件自由②は、LGBTQ+の権利擁護のために熱意をもって取り組んでいたBの思想の中核に関わり、自己の人格形成に大きな影響を及ぼすものだから、係る違憲性の推定は強いといえる。
イ 他方、本件配布に対して、生活指導担当の教員らがBを説得するなどしたものの、改善されなかったことから、本件内申書を作成し、Bが受験する各高校に提出するに至っている。その「特記事項」の記載によれば、他の生徒へのビラ配布自体を問題としており、ビラの記載内容に着目していない。表現内容に着目しない、いわゆる表現中立規制は、公権力による権限恣意的な濫用のおそれが小さいため、やや緩やかな司法審査になじむ。また、学校教育においては、適切な生徒管理・学校運営を保障するべく、学校側への裁量が広く認められ、この点でも緩やかに判断すべきである。加えて、本件内申書の提出は、本件ビラ配布の実施後になされた事後的な規制であるところ、表現活動たるビラ配布自体はできているから、規制の態様も強固とはいえない。
ウ 以上より、①制約目的が十分に重要で、②目的達成のための手段として実質的関連性を有する場合に限って合憲となる。
(4)本件では、上記のとおり、学校内の秩序維持及び生徒管理を適切に行うことは、生徒が他者による不当な影響を受けることなく、健全に発育するにあたり必要不可欠な環境整備の一環といえるため、係る目的は十分に重要である(①)。そして、目的達成のためにビラ配布を禁止することで、他の生徒からの不当な影響を実質的に排除することができるため、手段適合性はある。しかし、ビラ配布は生徒による自発的な意見表明の手段として簡便かつ有効な手段であるところ、他の生徒への不当な影響を排除するという観点からは、すべてを禁止する必要はなく、配布できるビラの内容やその時間帯などに制限を設けることによっても、上記目的を達成できるため、手段適合性はなく、目的達成のための手段として実質的関連性を有するとはいえない(②不充足)。
(5)以上より、本件自由②を不当に侵害するものであり、違憲である。
民法
第1 設問1
1 DはCに対し本件土地所有権に基づく返還請求として建物①収去土地明渡請求をする。
(1)ア 同請求の要件は、①原告もと所有、②被告現占有である。
イ Dは本件抵当権の実行により本件土地を競売で買い受け、その所有権を取得した(①)。現在、本件土地はCが本件建物①を建てて占有している(②)。
(2) これに対しCは、本件土地の賃借権を有するとして、占有正権原を主張しうる。
ア CはAとの間で、本件土地につき建物所有を目的とする賃貸借契約を締結しており賃借権は有している。しかし、賃借権は債権であるところ、Dは賃貸人ではないから、係る賃借権をDに直ちには対抗できない。そこで、賃借権をDに対抗できるか。
(ア) 不動産の賃借権は、登記が無ければ第三者に対抗できないのが原則である(605条)。もっとも、建物所有目的の土地賃借権(借地借家法2条1号)は、登記がなくても、土地上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、第三者に対抗できる(同法10条1項)。
(イ) 本件でCは、本件土地上に本件建物①を建築した。そして、令和5年4月25日に、C名義で所有権保存登記を行っている。したがって、「土地の上に借地権者が登記されている建物を所有する」といえ、Cはこれを第三者に対抗しうる。
(3) なお、本件では抵当権も登記を備えている。そうすると、抵当権と借地権の優先関係は対抗要件具備の先後によることになる。本件で、借地権が対抗要件を備えたのは令和5年4月25日であるのに対し、抵当権が対抗要件を備えたのは、同年6月5日であるから、借地権の方が先である。
2 以上より、Cは本件土地に対する借地権をDに対抗でき、Dの請求は認められない。
第2 設問2
1 DはAに対し、所有権に基づく返還請求として、本件建物①収去土地明渡請求をする。
(1) 要件は上述の通りであり、これを満たす。
(2) これに対し、Aは占有権原の抗弁を主張しうる。もっとも、Aは、抵当権の設定後本件建物を買い受け、同一所有者に属している。そうすると、本件土地賃借権は混同(民179条1項)により消滅しないか。
ア 同一物について所有権及び他の物権が同一人に帰属した場合、原則として当該他の物権は消滅する(179条1項本文)。本件でも、Aが本件建物①を購入したことにより、本件土地の賃貸人と賃借人がAになっている。しかし、その物又は当該他の物権が第三者の権利の目的となっている場合、混同の例外として権利は消滅しない(同項但書)。
イ 本件で、本件土地は、Bの抵当権の目的となっているから「第三者の権利の目的」である。また、実質的にみても、Bは建物の負担を考慮して抵当権を設定しているから、自己借地権を認めてもBの権利は害されない一方で、Aには法定地上権(388条)が成立しないから、自己借地権を認めないと、建物の収去の負担を負わされ、不利益である。
2 したがって、本件では自己借地権が混同の例外として存続するため、Aは本件土地の賃借権(占有権原)をDに対抗できる。よって、Dの請求は認められない。
第3 設問3
1 HはGに対し、本件建物②所有権に基づく返還請求として、建物退去明渡請求をする。
(1) Hは本件建物抵当権が実行され、競売により本件建物②を買い受けているため、所有者である。また、請求の段階では、Gが本件建物②を賃借し占有している。
(2) 他方、Gは、本件建物②の賃借権を有するとして占有正権原を主張しうる。
ア 不動産賃借権は登記が無ければ対抗できないのが原則だが、登記がなくても、建物の引渡しがあれば、その後その建物につき、物権を取得した者に対抗できる(借地借家法31条)。
本件でGは、Eと賃貸借契約を締結し、引渡しを受けたから、法31条の要件は満たす。
イ 他方で、Fも本件建物抵当権の設定を受け、登記がなされている。第三者間では対抗要件の具備の先後で優劣が決定されるところ、Fの本件建物抵当権は令和5年3月10日に登記がされている一方、Gが引渡しを受けたのは、7月20日であるから、抵当権に劣後する。
ウ よって、GはHに対して借家権を対抗できない。
(3) Gは転居先がすでに確保できているとは限らないため、退去を猶予してもらうべく、民395条1項に基づき、6カ月の間本件建物②の明渡猶予を請求しうる。
Gの借家権は、抵当権者Fに対抗することができない。そして、係る賃貸借により抵当権の目的である建物の使用する者である(395条1項本文)。そして、Gは本件建物②を競売手続きより前から使用している(同項1号)。よって、Gの請求は要件を満たす。
2 以上より、GはHに対して本件建物②の賃借権を対抗できないものの、民395条1項1号により、6カ月間、明渡猶予を要求できる。
刑法
設問
1 甲の第1暴行に傷害致死罪(205条)が成立するか。
(1)「人の身体を傷害した」(204条)とは、暴行その他の行為により人の生理的機能を傷害したことをいう。
本件では、第1暴行により、Aは転倒し意識を失ったように動かなくなった。これにより意識障害という人の生理的機能障害が起きたから、「人の身体を傷害した」といえる。
また、当該傷害に起因して、頭蓋骨骨折、くも膜下出血を誘発し、その結果「死亡」した。
(2)因果関係には偶然生じた結果を排除して適正な処罰範囲を画する機能があるから、因果関係が認められるには、条件関係に加えて、法的な因果関係も必要である。後者につき、行為の危険性が結果へと現実化したかで判断する。
本件では、甲の第1暴行がなければ、Aは転倒することも、頭蓋骨骨折を招来することもなかったから条件関係はある。そして、64歳の甲が、12歳も年上の76歳であるAに対して、平手で1回、身体の枢要部たる顔面を殴打すれば、体力面の衰えも影響し体勢を崩してコンクリートに頭を打ち付けてしまうことも通常ありうる。ゆえに、第1暴行には、A自身による転倒を招来し、その結果頭蓋骨骨折となる高度の危険性を内包する行為であるといえ、頭蓋骨骨折に伴うくも膜下出血により死亡することは、係る危険性が現実化したものといえる。よって、法的因果関係もある。
(3)故意(38条1項)とは、構成要件該当事実の認識認容をいう。そして、傷害は暴行の結果的加重犯であるところ、暴行には傷害結果を生じさせる高度の危険性が内包されているため、基本犯たる暴行の故意があれば、傷害の故意も満たす。
甲はAの身体に対し、顔面を殴打することについての認識認容はあるから、人の身体に対する不法な有形力の行使たる「暴行」(208条)の故意があり、傷害の故意も満たす。
したがって、傷害致死罪の構成要件を充足する。
(4)しかし、甲は、Aに殴りかかられており、それに対処するために第1暴行をしたに過ぎないから正当防衛(36条1項)が成立し違法性が阻却されないか。
ア 甲は、Aからいきなり殴りかけられるとともに、重さ3キロ、直径19センチという大きなアルミ製灰皿を投げられているから、身体という法益の侵害可能性が現在している。ゆえに、「急迫不正の侵害」がある。また、身体という法益は「自己…の権利」である。
イ 「防衛するため」という文言及び違法性の本質は規範違反行為にあるところ、主観も係る違反の有無に影響するから、「防衛するため」というには、急迫不正の侵害を認識しつつこれを避けようとする単純な心理状態たる防衛の意思も必要である。
本件では、甲はAによる上記行為を認識したうえで、自分の生命身体のへの侵害を阻止すべく、第1暴行を行ったのだから、急迫不正の侵害を認識しつつこれを避けようとする単純な心理状態たる防衛の意思はある。
ウ 正は不正に屈しないという正当防衛の基本思想に照らして、「やむを得ずにした行為」とは、急迫不正の侵害に対する反撃手段として必要最小限度の行為をいう。
コンクリートの床において、相手方の顔面を殴打する行為は手段として必要最小限度とはいえないとも思える。しかし、殴打の回数も1回と少なく、さらに、Aから殴りかけられるのみならず、アルミ製灰皿も投げつけられている状況下においては、たとえ年齢が10歳以上離れ、体力的にも差があるとしても、それをとっさに認識することは極めて困難であった。加えて、Aの行為をやめさせるには、顔面を手拳で1回殴打することは有効かつ適切な手段といえる。したがって、急迫不正の侵害に対する反撃手段として必要最小限度の行為であり、「やむを得ずにした行為」といえる。
(5)よって、正当防衛が成立し、違法性が阻却されるため、第1暴行に傷害致死罪は成立しない。
2 甲の第2暴行に傷害罪(204条)が成立するか。
(1)第2暴行により、Aは肋骨骨折の傷害を負ったので人の生理的機能障害があるとして「人の身体を傷害」したといえる。第2暴行がなければ肋骨を骨折することはないから、条件関係はある。また、腹部を足で踏みつける等の行為は、肋骨に接する部分への傷害であり、肋骨骨折は第2暴行の危険性が現実化したものとして法的因果関係も満たす。また、第2暴行に係る事実の認識認容はあるから、傷害の故意もある。
(2)では、正当防衛が成立し違法性が阻却されるか。
第1暴行の後、Aは仰向けに倒れたまま意識を失ったように動かなくなったから、法益侵害が現在するといえない。加えて、法益侵害が差し迫っているともいえないため、「急迫不正の侵害」がなく、正当防衛は成立しない。
(3)よって、傷害罪が成立する。
3 では、第1暴行と第2暴行を一体とみて1つの過剰防衛(36条2項)が成立しないか。
(1)①時間的・場所的近接性、②侵害の継続性、③防衛の意思の有無等からみて、「急迫不正の侵害」終了後の過剰な反撃行為と正当防衛の成立要件を満たす先行する反撃行為との間に一体性が認められれば、責任減少という過剰防衛の根拠が妥当するから、全体的考察により両者は1つの過剰防衛になる。
(2)甲の第2暴行は、第1暴行と時間的・場所的近接性がある (①)ものの、Aの意識が喪失し、侵害の急迫性が明らかに終了している状況下 (②)で、憤激のあまり「おれを甘く見ているな。」などと言い、専ら攻撃の意思で行われた (③)から、第1暴行との一連一体性が認められず、全体として1つの過剰防衛は成立しない。なお、第1暴行に正当防衛が成立したことは、量刑上有利な事情として考慮すれば足りる。
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