平成23年予備試験 商法 参考答案
2026年6月19日
参考答案
平成23年予備試験 商法 参考答案
第1 設問1
1 本件譲渡等承認請求についてされたY社取締役会決議(以下「本件取締役会決議」という。)では、取締役Bに対する招集通知(368条1項)がされていない。このような手続上の瑕疵がある場合、本件取締役会決議の効力が問題となる。
⑴ 会社法には、取締役会決議の瑕疵に関する一般的な争訟制度は設けられていない。そこで、取締役会決議に重大な手続違反がある場合には、一般原則により無効になると解する。
もっとも、当該瑕疵が決議の結果に実質的な影響を及ぼさない場合には、決議の安定性の要請から、例外的にその効力を維持すべきである。
⑵ 本件では、Bは本件株式譲渡の譲渡人であり、譲渡が承認されることについて個人的利益を有する立場にあった。したがって、Bは会社の利益との間で利益相反関係に立ち、忠実義務(355条)違反を生じさせるおそれのある者として、「特別の利害関係を有する取締役」(369条2項)に該当する。
そして、同項は、特別利害関係取締役による不当な影響力の行使を排除し、取締役会決議の公正を確保する趣旨の規定である。そこで、特別利害関係取締役は、議決への参加が禁止されるだけでなく、審議を通じて他の取締役の判断に影響を及ぼすことも許されないと解すべきである。
そうすると、Bは本件譲渡等承認請求に関する審議に参加することもできなかったのであるから、Bに招集通知をしなかったとしても、本件取締役会決議の内容に影響を与えるものではない。
したがって、本件では、決議の結果に影響を及ぼさない特段の事情が認められる。
⑶ 以上より、本件取締役会決議は368条1項に反さず有効である。
第2 設問2
1 X社は、Y社定時株主総会決議について、株主総会決議取消しの訴え(831条1項1号)を提起することが考えられる。もっとも、同訴えの原告適格は「株主等」(828条1項、831条1項)に限られるため、X社が株主に当たるかを検討する。
⑴ Y社は譲渡制限会社であるから、BからX社への本件株式譲渡については、会社の承認を要する(139条1項)。
本件では、X社はBから譲渡承認請求に関する代理権の授与を受けており、「譲渡等承認委任状」によって譲渡人と譲受人による共同申請(137条2項)の要件を満たしている。
Y社取締役会は本件譲渡を承認しない旨の決議をしたものの、その旨の通知を請求の日から2週間以内にしていない。会社は、不承認決議をした場合にはその旨を通知しなければならず(139条2項)、当該期間内に通知をしなかったときは、譲渡を承認したものとみなされる(145条1号)。
したがって、本件譲渡はY社との関係でも有効である。
⑵ もっとも、株式譲渡の会社に対する対抗要件は株主名簿の名義書換である(130条1項)。本件では、X社は名義書換を了していないため、株主としての地位をY社に主張できないとも思われる。
しかし、名義書換制度は、会社と株主との法律関係を画一的かつ円滑に処理するという会社側の便宜を図る趣旨に基づく制度である。そのため、会社が正当な理由なく名義書換を拒絶した場合にまで、会社に名義書換未了の主張を認めることは、信義則(民法1条2項)に反する。
そこで、会社による名義書換拒絶が不当である場合には、譲受人は、名義書換が未了であっても株主たる地位を会社に対抗できると解する。
本件では、X社はBから名義書換請求についても代理権を授与されているため、共同申請の要件(133条2項)を満たしている。それにもかかわらずY社が名義書換請求を拒絶したことは、不当拒絶に当たる。
したがって、X社は、名義書換未了であっても、Y社に対して株主であることを主張することができる。
⑶ 以上より、X社は「株主等」に該当する。
2 Y社は、株主であるX社に対し、株主総会招集通知(299条1項)を発送すべきであったにもかかわらず、これをしていない。
したがって、本件総会決議には、「招集の手続……が法令……に違反」する事由(831条1項1号)が認められる。
また、招集通知は株主の議決権行使の機会を保障する重要な手続であるから、その違反は重大であり、裁量棄却(831条2項)が認められる余地はない。
3 よって、X社は、本件総会決議の日から3か月以内に、株主総会決議取消しの訴えを提起して、その効力を争うことができる。
第3 設問3
1 X社が本件総会決議の取消しを求めるためには、「株主等」に当たる必要がある。
本件では、BはX社に対する譲渡後、同一株式をAにも譲渡し、Aについては会社による承認及び名義書換がされている。そのため、X社がなお株主としての地位を主張できるかが問題となる。
⑴ 会社による名義書換の不当拒絶があった場合、譲受人は会社に対して株主たる地位を主張できる。しかし、そのことから直ちに第三者に対しても同様の主張を認めると、名義書換制度による第三者保護が害されるおそれがある。
そこで、譲受人と第三者との利益調整の観点から、第三者が会社による不当拒絶の事実を認識していた場合には、譲受人は名義書換を経ていなくても、当該第三者に対して株式取得を対抗できると解する。
⑵ 本件では、AはY社の代表取締役として、X社に対する名義書換拒絶の経緯を認識していたものといえる。
したがって、Aは、不当拒絶の事実について悪意であった。
⑶ 以上より、X社は、名義書換が未了であっても、本件株式の取得をAに対抗することができる。
したがって、X社は本件総会決議の時点において「株主等」に該当する。
2 そうすると、Y社がX社に対して株主総会招集通知を発送しなかったことは、株主総会決議取消事由(831条1項1号)に当たる。
また、招集通知欠缺の違法は重大であり、裁量棄却(831条2項)は認められない。
3 よって、X社は、本件総会決議の日から3か月以内に、株主総会決議取消しの訴えを提起して、その効力を争うことができる。
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