
憲法
設問①1 本件申請に対して、本件条例5条3項5号を根拠とする不許可処分をすることはXの本件活動を不当に制約し集会の自由(21条1項)に反し違憲か。
(1)「集会」とは人が一定の共通目的をもって一時的に結合することをいう。本件申請は、住宅費高騰を原因とする社会問題への抗議という目的のために本件公園等で一夜を過ごすなどして抗議する本件活動を行う目的のために、人が7月1日午後8時から2日午前6時まで、一時的に結合するものであるから、本件活動は「集会」にあたる。
(2)本件申請は、本件活動のために本件公園の独占使用許可を求めるものであるところ、21条1項は不作為請求権たる自由権のみを保障したにすぎず、本件公園を利用する自由までは保障されないとも思える。しかし、本件公園はA市が設置した市立公園であり、「公の施設」(地自法244条)にあたる。市立公園は、夜間の在留外国人との共生を進める国際交流団体の活動紹介行事などを許可してきたという利用態様からみても、表現活動を含む多目的な利用が予定されている屋外空間であるため、指定の有無にかかわらず伝統的パブリックフォーラムにあたる。そして、一般大衆が自由に出入りできる場所は、表現活動のための場所でなくても、表現活動に供される場合は、表現の自由に配慮しなければならない(吉祥寺駅ビラ配布事件伊藤補足意見)。ゆえに、本件活動に際して、本件公園は原則として利用することができ、不許可処分は本件活動を制約する。
(3)集会の自由も必要かつ合理的な制約は受けるところ、必要かつ合理的か否かは、利用が競合する場合のほかは、集会の自由の重要性と他の基本的人権侵害の衡量により決する。
本件申請日時において、夜間の独占使用を申請しているのはXのみであり、利用の競合はない。本件公園が伝統的パブリックフォーラムであるから、その制約については代替的表現手段が確保されていない限り原則違憲といえる程度に違憲性の疑いが強い。また、集会の自由に対する事前抑制は、集会という形態で表現が公に出る前に、取り締まるものであるから、思想の自由市場における真理到達機能を害するうえ、事前抑制が、予測に基づくことから、政府に都合の悪い集会という表現を自由市場から恣意的に排除し、公の批判の機会を減少させるおそれがあるから原則として許されない(北方ジャーナル事件参照)。 他方、集会は単なる意見表明と異なり、物理力が潜在し、一瞬にして暴徒と化す危険があるため、許可処分については、事態を適切に把握できる判断者の合理的な裁量に委ねられる(集団暴徒化論・東京都公安条例事件)とも思える。しかし、集団暴徒化論は、安保闘争に直面した当時の裁判官の経験則を一面的に反映したにすぎず、現代社会では、我が国においてはデモ行進が暴徒化することは通常想定されない。ゆえに、現在では、集団暴徒化論は妥当しない。また、本件活動は、本件公園において寝袋や段ボールで一夜を過ごすという態様のものであり、なんら物理力を行使するものではないから、物理力は潜在せず、同理論の適用前提に欠ける。そこで、「市立公園の管理に支障があると認められる場合」(本件条例5条3項5号)を明白かつ現在の危険が客観的事実に照らして具体的に予見される場合と限定解釈できる場合にのみ、集会の自由の重要性が優越する必要かつ合理的な制限として合憲となる。
(4)Xの幹部であるBは、過去に政治的対立団体との暴力事件を起こしており、 逮捕歴もあるうえ、Bは本件活動につきSNSで発信していることから、周知されているといえる。加えて、本件活動は夜間の長時間の抗議活動なので警察官の適正配備も難しい。そうであれば、Xの本件活動のための本件公園の独占使用を認めると、対立団体との関係で暴力沙汰が起き、警察力をもってしても妨害者の排除が不可能であるから、明白かつ現在の危険が客観的事実に照らして具体的に予見される場合として「市立公園の管理に支障があると認められる場合」にあたるとも思える(上尾市福祉会館事件判決・敵対的聴衆の法理)。しかし、上記法理は平穏な集会を暴力で妨害するものの存在を理由に集会の会場の不許可が許されると、会場管理者が集会妨害者に加担したに等しくなるため、21条1項の趣旨に反するということを根拠とする。そうであれば、主催者が平穏に集会を開催する正当な権利の行使者でない場合は、主催者の集会の自由は警察力の行使を発動しうる程度の表現活動とは評価できず、上記法理の適用前提に欠ける(泉佐野市民会館事件)。本件活動は、寝袋や段ボールで一夜を過ごすという態様のものであり、暴力行為など不当な態様のものではないから主催者は平穏に集会を行おうとしている正当な権利の行使者である。したがって、上記法理は適用され、警察力の行使をもってしても対応できない特別の事情がある場合にのみ明白かつ現在の危険が認められる。
本件では、Xの運営方針を決める幹部会の構成員は、B以外は大学教授、弁護士、牧師等合計6人であり、代表者は大学教授が務めているところ、BがXの意思決定に関与する程度は一定程度希釈されている。また、たしかに、Bは3月1日のデモにおいて小競り合いを起こし暴力行為に出るなどし、逮捕されているが、幹部会のその他の者については従前暴力行為を起こしたという事情もない。そもそもBも逮捕こそされているものの、不起訴となっているところ、無罪推定の原則(憲法31条、刑訴法336条)に照らして有罪判決が確定していない事実を過度に重視すべきではない。であれば、本件活動が他団体に妨害される危険は抽象的なものにとどまる。加えて、本件公園は周りを高さ1.5mの鉄製の柵で囲っており夜間、出入口も施錠されているから侵入経路は限定されている。そして、一般人以外は数名の報道関係者を入場させるにとどまるものだから、警察官による入場規制の強化や周囲の警戒監視の強化などによって他団体による暴力行為を伴う介入は阻止できる。よって、警察力の行使をもってしても対応できない特別の事情はなく、明白かつ現在の危険が客観的に予測されるとはいえず「市立公園の管理に支障がある」といえない。
2 以上より、上記不許可処分は集会の自由を不当に制約し21条1項に反する。
設問②1 本件申請に対して、「特別な理由」(本件条例8条2項)がないとして不許可処分をすることはXの本件活動を不当に制約し集会の自由(21条1項)に反し違憲か。
(1)本件活動をする自由は1同様、21条1項の「集会」として保障され、不許可処分はかかる自由を制約する。
(2) 現代民主主義社会において、集会は国民が様々な意見や情報等に接することにより、自己の思想や人格を形成・発展させ、また、相互に意見や情報等を伝達・交流する場であり、対外的意見表明の有効な手段だから、重要な基本的人権の一つとして特に尊重されなければならない(成田新法事件)。本件条例8条1項が原則としての夜間の独占使用禁止を定めたのは、昼間の独占使用は許可制により許容されている(本件条例5条1項)以上、本件公園が伝統的パブリックフォーラムであることを考慮してもなお、あえて夜間の独占しようを認める必要性が乏しく、特定団体に対する夜間の独占使用許可は政治的中立性を害する蓋然性が高い点にある。そうであれば、本件条例8条2項の解釈についても、集会の自由の重要性や当該集会を認めることの必要性、政治的中立性を図るべき要請等を考慮して集会の自由の保障の趣旨に適うように解釈されなければならない。したがって、原則使用禁止の例外としての「特別な理由」とは、昼間ではなく夜間に独占使用を認める高度の必要性がある場合又は政治的中立性を害する高度の蓋然性が認められる場合をいう。
(3)夜間に独占使用を認める高度の必要性の有無
本件では、星座鑑賞会は夜空を見上げて星を見るというイベントの性質上、昼間に行ったのでは目的を達成できず、空を見上げることができる野外において、夜間に行うべき高度の必要性が認められる。盆踊りは先祖の霊を迎え、再び送り返すという性質を有することから、死者の世界と考えられてきた夜間に行うべき高度の必要性が認められる。それに対して、本件活動は、住宅費高騰問題に対する抗議活動であるから必ずしも昼間に行う必要性がある行事ではなく、また、仮に夜に行うとしても、星座鑑賞会等と異なり屋内での実施になじむものであるから、市立公民館でも容易に行うことが可能であり、あえて夜間に独占使用を認める高度の必要性がある場合といえず、「特別な理由」は認められないとも思える。
しかし、本件活動は世界的な住宅費高騰から低廉物件の減少を招いた政治の失敗に対して抗議するために、都市中心部の公園等において、寝袋や段ボールを用いて一夜を過ごすという方法が採用されている。そうであれば、昼間の実施では本件活動の目的が達成できない。また、市立公民館など屋内の場所で実施されたとしても、一般人に対する訴求効果は薄く、対外的な意見表明の場としての集会の意義を十分に発揮することができない。加えて、A市内に本件公園と同規模の市立公園はほかに5つあるが、いずれも郊外にあり本件公園でないと一般人への周知という本件活動の意義を達成できない。これらの事情に照らすと、夜間の間、本件公園において、本件プロジェクトへの連帯を訴えるパネル等を設置してライトで照らす等の方法を用いることではじめて一般人に十分な訴求がすることができ、集会の自由の保障趣旨に適う。したがって、本件活動には、夜間に独占使用を認める高度の必要性があるといえ、「特別な理由」がある。
(4) 政治的中立性を害する高度の蓋然性の有無
以前、新幹線延長を求める市民の会から本件公園での無料ビアガーデンの開催のための本件公園の夜間の独占使用許可について、政治的中立性の観点から問題ではないかという質問が市議会議員からなされたことがある。この質問は、市長の主義主張に沿う立場の者のみが優遇されることに対する問題意識に基づいたものと考えられる。しかし、A市における本件活動は、県立女子短大の跡地利用をめぐる意見対立に端を発し、再開発の結果としての住宅費の高騰を招来したというものである。本件活動は、このような経緯を踏まえて、かかる市政への批判としてなされるものであるから、市長の主義主張に沿う者の優遇にはつながりえず、無料ビアガーデンの事案とは性質を異にする。加えて、無料ビアガーデンは帰宅途中の市民が対象であるから、一般人を不当に利する可能性もあるものの、本件活動は一部の報道関係者を除いて入場を制限するものであるから、一般人に対して不当な利益を与え、政治的支持につなげるという可能性もほとんどなく、この点でも両事案は異なる。したがって、本件活動については、政治的中立性を害する高度の蓋然性が認められないから、政治的中立性を理由に「特別な理由」がないと判断することは許されない。
2 以上より、「特別な理由」(本件条例8条2項)がないとして不許可処分をすることは、21条1項に反し許されない。
行政法
設問1
1 行審法3条にいう「行政庁の不作為」とは、法令に基づく申請に対して何らの処分をもしないことをいうとされている。
申請とは、行手法2条3号により、法令に基づき、行政庁の許認可等を求める行為であって、当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいうとされている。
本件においてAは本件要綱に基づき一時保護を申請しているところ、C市福祉事務所長による応答がないことから、これが「行政庁の不作為」にあたるかが問題となる。
2 前記一時保護は、老人福祉法11条に基づく入所措置とされ、これが処分にあたることは明らかである。そこで、一時保護の申請が、法令に基づく申請に該当するかを以下検討する。
一時保護の申請の根拠は、本件要綱8条柱書に基づくものであるところ、本件要綱自体は、法の委任を受けて制定されたものではない。そのため、行政規則に分類される。
一時保護の申請につき、老人福祉法11条1項は、「市町村は、必要に応じて、次の措置を採らねばならない。」と規定するのみで、いかなる場合に当該措置をとるべきかについては法定していない。
そうなると、同法に基づく措置は、本件要綱と一体となってなされることとなる。
したがって、一時保護の申請は、本件要綱に基づくものだとしても、法令に基づく申請にあたるというべきである。
そして、本件要綱8条により申請者が保護の申請をした場合には、市長は審査したうえで通知するものとされていることから(9条)、一時保護の申請は、法令に基づき、行政庁に対し入所措置という許認可等を求める行為で、行政庁が当該行為に対して諾否の応答をすべきものとされていることから、行手法2条3号にいう「申請」に該当することとなる。
よって、一時保護の申請は、法令に基づく申請にあたるといえる。
設問2
1 原告適格は、行訴法9条1項より、「法律上の利益を有する者」に対して認められる。
法律上の利益を有する者とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいい、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たる。
処分の名宛人以外の者については、行訴法9条2項に従って検討することとされている。
そこで、BのAに対する養護権が、「法律上の利益」にあたるかを検討する。
2 以下の理由により、本件ではBに原告適格は認められないというべきである。
まず、本件入所措置の根拠規定は、老人福祉法11条1項であるところ、当該措置の目的は、「老人に対し、その心身の健康の保持及び生活の安定のために必要な措置を講じ、もつて老人の福祉を図る」ことにある(同法1条)。
同法には、28条について養護者からの料金徴収を定めた規定はあるものの、それ以外に養護者を念頭においた規定は見当たらない。
また、同じく高齢者の利益保護を共通の趣旨とする高齢者虐待防止法においては、14条に養護者の支援について規定しているが、これは高齢者の支援を通じて高齢者の保護を図るという趣旨であり、養護者の利益は念頭に置かれていない。
この点、児童虐待の防止を目的とする児童福祉法27条1項3号・28条1項は、親権を行う保護者の同意や、家庭裁判所の承認について規定しているところ、その趣旨は、親権を行う保護者には子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有するものとされ(民法820条)、親の子に対する権利として個別的に認められている点にある。すなわち、行政が一方的に措置を講ずることはかかる利益の侵害にあたるため、同意や家庭裁判所という司法の介入を介在させている。
これに対し、養護者は扶養義務があるのみであり(民法877条1項)、権利とはされていない。
以上から、養護権は高齢者の権利の反射的利益として一般的公益として吸収解消されるにとどまることとなり、「法律上の利益」にあたらない。
3 よって、BのAに対する養護権は「法律上の利益」ではないことから、Bに原告適格は認められない。
設問3
1 時点②において本件入所措置の要件が充足されていたか
本件では、「居宅においてこれを受けることが困難なもの」という要件(以下、単に「困難性要件」とする。)のほか、「やむを得ない事由により介護保険法に規定する地域密着型介護老人福祉施設又は介護老人福祉施設に入所することが著しく困難であると認めるとき」という要件(以下、単に「補充性要件」とする。)の該当性が問題となる。
両要件は、いずれも文言が抽象的概括的であり、いかなる場合に当該要件に該当するかについて、措置を義務付けられている市町村の専門的判断に委ねるのが妥当な性質を有するといえる。すなわち、C市長に要件裁量が認められるべきこととなる。
そこで、本件入所措置が違法となるかについては、裁量権の逸脱濫用が認められるかという問題となる(行訴法30条)。
本件において、各要件の該当性について、重大な事実誤認又は裁量権者の判断過程について社会観念上著しく妥当性を欠きそれにより裁量権の逸脱濫用が認められるかについて以下検討する。
- 困難性要件
かかる要件について、Bは、養護者として10年以上にわたってAを介護していたこと、②時点においてもBは令和8年1月5日にAを往診医に往診させていること、その翌日もD病院に連れて行っていることからAを虐待しておらず、また、居宅サービスも利用し続けていることから、困難性要件の認定は重大な事実誤認であるとする。
これに対してC市は、令和7年11月20日にAが意識障害の症状が出たため、D病院に緊急搬送されたところ低ナトリウム血症が認められたこと、その原因が自宅の食事にあると考えられていること、その食事はBが与えているもので、同年12月10日、BがAの健康のために塩分控えめのものを十分食べさせていると発言したこと、D病院の担当医は、A及びBに対して、Aには尿に塩分が出やすい症状があるものの、普通の食事を摂取していれば問題はなく、Aの低ナトリウム血症は自宅での食事が原因と思われる旨説明したこと、それにもかかわらず、同年12月25日、Aは入院前と変わらず塩分が少ない食事で時々めまいがすると話していたことから、Bは医師の指導に従っておらず、Aの健康状態が改善していないどころか悪化しているとして、困難性要件の認定に重大な事実誤認はないとする。
そして、本件入所措置は通報によりなされたものであり、その判断過程に社会観念上著しく不合理な点はないとして、裁量権の逸脱濫用は認められないと反論する。
私見は、Bの食事によりAの低ナトリウム血症の発症という因果関係が認められることや、通報という第三者による介入がされ、それを受けてC市は措置を講じており、独断で行われたものではない点から、困難性要件の認定につきC市の判断過程に著しく不合理な点はなく、裁量権の逸脱濫用は認められないと考える。
- 補充性要件
Bとしては、Aは判断能力に問題はなく、自ら介護老人福祉施設等と入所契約を締結することが困難であるとはいえないとして、かかる要件の該当性判断には社会観念上著しく不合理な点があるとする。
これに対してC市は、Aは両腕の機能に障害があり、要介護状態区分につき要介護3の認定を受け、Bの手助けの下で介護サービス契約を締結し、介護保険法に基づく居宅サービスを利用していたことから、自ら介護老人福祉施設等と入所契約を締結することが困難であるとして、要件該当性判断の過程に社会観念上著しく不合理な点はないとする。
私見も、Aは他の手助けなく介護老人福祉施設等と入所契約を締結することは困難といえ、このことから、C市の判断過程に著しく不合理な点はなく、裁量権の逸脱濫用は認められないと考える。
2 時点③において本件入所措置の解除の要件が充足されているか
老人福祉法12条1項は、「市町村長は、・・措置を解除しようとするときは」と規定するのみで、解除について要件を定めていない。そこで、どのような場合に、解除できるかが問題となる。
本件入所措置は、老人福祉法11条1項2号に基づき適法にされた受益的行政処分である。そして、その後の事情変更を理由として将来に向かってその効力を失わせることは、いわゆる職権撤回に当たる。一般に、受益的行政処分の職権撤回は、相手方に処分の存続に対する信頼利益が認められることから、当該信頼利益を考慮してもなお撤回又は処分維持の可否を決すべき公益上の必要性を比較衡量して判断すべきである。
もっとも、本件では、市長が撤回をしなかったことの違法性が問題となるから、事情変更により本件入所措置を維持すべき公益上の必要性が失われていたにもかかわらず、これを漫然と維持した場合には、裁量権の逸脱・濫用として違法となると解する。
3 Bは、令和8年6月15日、①管理栄養士から食事指導を受けること、②月1回血液検査を受けること、③異常があれば直ちに入院又は施設入所させること、④Aが施設入所を希望した場合にはこれに全面的に協力することを誓約している。
また、その後の面談においてAは「家に帰りたい」と述べており、在宅生活を希望している。
さらに、上記誓約により低ナトリウム血症の再発防止措置も具体化されているから、もはや居宅における介護は困難ではなく、「やむを得ない事由」により契約入所が著しく困難な状態も解消されたというべきである。
そうすると、本件入所措置を維持すべき公益上の必要性は失われており、市長は本件措置を撤回すべきであったにもかかわらずこれを怠ったのであるから、裁量権を逸脱・濫用したものとして違法である。
4 これに対し、C市は、本件措置を維持すべき公益上の必要性はなお存在していたと反論することが考えられる。
すなわち、Bは令和7年11月の退院時に担当医から塩分不足による低ナトリウム血症の危険性について具体的な説明を受けながら、従前と同様の食事を継続し、その結果、令和8年1月には再び血中ナトリウム値が正常値を下回る事態を招いている。
したがって、Bが提出した誓約書のみから直ちに再発防止が期待できるとはいえず、その実効性にはなお疑問が残る。
また、Aについては低ナトリウム血症以降認知機能の低下が認められ、面談時の受け答けも一貫していないことから、「家に帰りたい」との意思表示が十分な判断能力に基づくものとは直ちに評価できない。
さらに、契約入所についても、契約手続を補助できる者は依然としてBのみであるところ、そのBによる適切な養護にはなお不安が残る以上、「やむを得ない事由」が解消したとはいえない。
以上によれば、Aの生命・身体を保護する必要性は依然として高く、本件入所措置を維持すべき公益上の必要性はなお認められる。
そうすると、市長が本件措置を解除しなかった判断には合理的根拠があり、裁量権の逸脱・濫用は認められない。
5 したがって、本件入所措置を解除しなかったことは違法とはいえず、Bの主張は認められない。
民法
第1 設問1
1 小問⑴
⑴ Aは、D及びCに対して、甲土地の所有権(206条)に基づく妨害排除請求権としての抵当権抹消登記請求を主張している。かかる主張の要件は、①所有及び②抵当権の設定である。
⑵ア Aは、令和2年1月10日から占有を開始し、令和12年1月10日の時点でも甲土地を占有している。そのため、Aが、甲土地を「十年間」、継続して占有していたことが推定される(186条2項)。
「所有の意思」、「平穏に、かつ、公然」及び「善意」は推定される(188条1項)。Aは、甲土地を自己の所有地であると信じてその占有を継続している。そのため、「所有の意思」、「平穏に、かつ、公然」及び「善意」を反証する事情もない。
ウ したがって、令和12年1月10日の時点において、取得時効を援用することによって、Aは、甲土地の所有権を原始取得し、抵当権が消滅すると主張する。
⑶ 本件登記①について
ア Cは、令和22年4月20日、甲土地に抵当権を設定し、登記を具備している。そこで、Aは、取得時効によって抵当権が付されていない所有権の取得を時効完成後の第三者たるCに対抗できるか。
イ 時効完成後においては、登記を具備することができるため、時効完成後に登記を備えなかった占有者を保護する必要はない。また、時効完成後の第三者と占有者との関係は、二重譲渡類似の関係といえる。時効取得を対抗できなければ抵当権の実行によって所有権を失う関係になるため、抵当権者との関係においてもかかる理由は妥当する。したがって、時効完成後の第三者に時効取得に所有権取得を対抗するためには、対抗要件を先に具備する必要がある。
ウ 本件において、Cは、Aの取得時効完成後である令和22年4月20日に抵当権設定登記を具備している。そのため、Aは、Cに対して、抵当権がついていない所有権は主張できない。
⑷ 本件登記②
ア Aは、本件登記①から10年間占有を継続している。そのため、上記時効取得の要件は、同様に充足する。もっとも、抵当権者に対して、再度の時効取得を対抗することはできるか。
イ 占有者と抵当権との関係は、実行によって所有権の取得を対抗することができなくという所有権を時効取得する場合の所有者と占有者と同様であるためである。そこで、占有者が、抵当権を認容していたなどの抵当権の消滅を妨げる特段の事情がある場合を除き、再度の時効完成により抵当権の負担のない所有権を時効取得することができる。
ウ 本件において、Aは令和32年4月20日の時点で甲土地を占有している。もっとも、本件登記②は、令和33年2月15日になされており、抵当権者たるDとAとの関係は、時効完成後の第三者という関係である。そのため、Aは、所有権取得を対抗するためには本件登記②よりも先に所有権移転登記を具備する必要がある。しかし、かかる登記はなされていない。したがって、Aは、抵当権の負担のない所有権取得をDに対抗することができない。
⑸ 以上より、Aは、C及びDに対しては、かかる請求は認められない。
2 小問⑵
⑴ Gは、遺言執行者に指名されている(1006条1項)。そして、令和7年6月2日、Eが死亡したのち、令和8年2月1日に、Gは、H及びJに対して、遺言執行者への就職を承認する旨の意思表示をしている(1007条1項、2項)。そのため、Gの遺言執行者としての任務は開始しており、「遺言の執行を妨げるべき行為をすることはでき」ず(1013条1項)、かかる行為は、原則として無効である(1013条2項)。そのため、原則として、HのKに対する本件売買契約は、本件遺言の対象であるある丙土地を対象とするものであるため、原則といて無効である。
もっとも、Kは、「善意の第三者」(1013条2項)に該当し、本件登記③の抹消登記手続請求は、認められないのではないか。
⑵ 1013条2項の趣旨は、取引安全を図る点にある。そして、遺言執行者が遺言執行の任務を開始する前に、遺言執行の対象である財産を取得した者を保護する点にある。そこで、「善意の第三者」とは、遺言執行開始前の者も含むといえる。また、名分上求められていないため無過失は不要であるといえる。
⑶ 本件では、Gが遺言執行の任務を開始する前にKが丙土地の2分の1の持ち分を本件売買契約によって本件登記③を具備している。加えて、Kは、遺言執行の存在も知らず、Hに対してEが遺言の存在を知らなかった。Kは、遺言を残していたか尋ねることから過失も認定し得るが、無過失は第三者のとして保護される要件ではない。
したがって、Kは、「善意の第三者」にあたるため、Kとの関係で本件売買契約が無効であることは対抗できない。そして、KとFは二重譲渡類似の関係に立つことから対抗関係に立ち(177条)、Fよりも先に登記を備えたKは、丙土地の所有権を取得しているといえる。
⑷ よって、Kは、所有権をFに対抗できずに、所有権に基づく妨害排除請求を主張することができないため、㋑の請求は認められない。
第2 設問2
1 小問⑴
⑴ア 本件契約①により、AとBとの関係では、本件出来形部分はAに帰属する。もっとも、契約は相対効が原則であることから、Aは、Cに対して、当該特約を主張し本件出来形部分の所有権の帰属を主張することができるか。Cは、Aとの関係では下請業者であるため、元請業者と注文者との合意が下請業者も拘束するか問題となる。
イ 下請業者の請負契約は、元請業者の請負契約が元となっている。そのため、下請業者は元請業者の履行補助者的性格を有することから、元請業者と注文者との特約も下請業者に及ぶ。
ウ 本件では、AとBは、本件契約が解除された場合に出来形部分の所有権をAに帰属させることが合意されていた。そして、令和8年10月1日、Aは、Bに対し、本件契約①を解除する旨の意思表示をしている。そのため、かかる合意の効力は、Cに及び、本件出来形部分の所有権はAに帰属する。
⑵ア かかるAの主張に対して、Cは、本件出来形部分の所有権の帰属について、Cが自らの材料を調達し、工事を進め本件出来形部分を建築しているため、所有権は自己に帰属すると主張する。
イ 建物は、材料が組み上げられることにより建築される。そのため、材料の所有権が組みあがるといえ、建物においても物権の原則により、材料の所有者に所有権が帰属する。そこで、材料を注文者が用意したなどの特段の事情がに限りは、所有権は、材料の所有者に帰属する。
ウ 特段の事情の有無を検討する。本件契約②において、令和8年3月3日、Cは、Bから200万円の支払いを受けた。AとBとの本件契約において、報酬の金額は400万円である。200万円は、かかる金額の2分の1であり、AB間の契約の報酬の5分の1である。AB間の請負契約の報酬の半額にも達しない金額では、A及びBが材料費を負担したとは評価できない。そのため、かかる材料は、Cの負担により調達された物といえ、特段の事情は認められない。
エ したがって、Cは、本件出来形部分の所有権は、自己に帰属すると主張する。
⑶ア それでは、元請業者と注文者との所有権帰属の合意と材料の提供者では、どちらに所有権が帰属するか。
イ 物権原則において、合意によって原則と異なる者に所有権を帰属させることができる。強行規定により、材料の提供者と異なる者に所有権を帰属させることは禁止されていない。そして、元請業者と注文者との間の所有権帰属の合意が下請業者にも及ぶのであれば、所有権の帰属においても原則と異なる取り扱いをすることが合意されているのと同様に扱うことができる。したがって、元請業者との特約が優先される。
⑷ よって、Aは、Bとの合意により本件出来形部分の所有権を取得する。
2 小問⑵
⑴ Aは、Bに対して、債務不履行に基づく損害賠償請求を請求することができるか(415条1項)。
⑵ Aは、Bとの間で、1000万円で本件工事①を内容として、請負契約を締結している(632条)。しかし、Bは、Cに対して200万円を支払わず、Cが工事を中止したことによって、本件工事を完了することができず、建物を引き渡すことができていない。そのため、Bは、「債務の本旨に従った履行」をしていないといえる。
そして、Aは、本件出来形部分を完成させるためにDに対して本件工事②を依頼し、650万円を支払っている。すなわち、650万円の「損害」が認められる。
本件工事①は、Aの自宅用の建物を建築するために依頼されているため、本件工事①が完成しない場合、Aが代わりの工事を依頼し報酬支払債務が生じることは「通常生べき損害」といえ、相当因果関係が認められる(416条1項)。
したがって、Aは、Bに対して、650万円の損害賠償請求権を有する。
⑶ア これに対して、Bは、本件出来形部分における法主支払い請求権との相殺(505条1項)を主張する。かかる主張は、認められるか。
イ Bは、本件出来形部分について、Aが受ける利益の割合に応じた報酬支払請求(634条2号)を主張することが想定される。
Aは、本件工事①を解除している。すなわち、「請負が仕事の完成前に解除されたとき」(634条2号)といえる。
Aは、本件出来形部分を引き受けることによって、本件工事①が完成したとすればAが受けたであろう利益の6割を得ている。そのため、Aは、「請負人がすでにした仕事の結果のうち可分な部分の急によって注文者が利益を受けるとき」に該当し、Bは、Aに対して、「注文者が受ける利益の割合に応じて報酬の支払を請求することができる」。すなわち、Bは、Aに対して、本件工事①の報酬1000万円の6割たる600万円の報酬支払権を有している。そして、Bは、令和8年3月3日の時点で、400万円の支払いを受けているため、Aに対しては、残額の200万円の報酬支払請求権を有している。
Aに対して、本件出来形部分を引き渡しているため、当該報酬支払請求権の弁済期は到来している。
ウ AとBは、相互に金銭債権を有しているため、「同種の目的を有する債務」を負っているといえる。
そして、債務不履行に基づく損害賠償請求権は、債務不履行時から弁済期であることから、令和8年12月2日の時点で相互に債務は弁済期が到来している。
したがって、AのBに対する650万円の損害賠償請求権とBのAに対する200万円の報酬支払請求権と対当額で消滅し、Aは、Bに対して、450万円の損害賠償支払い請求権を有している。
商法
第1 設問1
⑴ Cは、本件制度における本件書面④の合意(以下「本件買戻し合意」という。)に基づく本件取得は、株式譲渡自由の原則(会社法(以下法令名省略)127条)に違反し、公序良俗として無効(民法90条)を主張することが考えられる。
⑵ 確かに、譲受人を合意によって指定することは、株式の自由な譲渡を制限する。しかし、株式譲渡自由の原則においても、譲渡制限株式という例外が認められている(107条1項1号)。そして、買戻し合意は、非公開会社の閉鎖性の維持につながる。そのため、買戻し合意は、譲渡制限株式の趣旨たる好ましくない株主の会社への参加の防止を実現するための制度であるといえ、譲渡制限と同様に株式譲渡自由の原則に反しないといえる。したがって、回請け人が行使期間を不当に延長したなどの特段の事情がない限り公序良俗により無効とならない。
⑶ 本件では、甲社は、公開会社でなく、種類株式発行会社でもない(107条1項1号)ことから非公開会社(2条5号反対解釈)といえ、閉鎖性を維持する必要性があった。
特段の事情の有無を検討する。令和2年8月3日、Bは、甲社に対して、株式譲渡承認請求及び買取人指定の請求を行った。甲社は、Bに対して、譲渡を承認しない旨の通知をしたが、買取人指定について何ら通知をしなかった。そして、かかる請求から2か月経過後の令和8年10月5日に、Aが、甲社に対して、当該株式を買取ることを承認するように甲社に請求したうえで、A及びBに対してAの買取を承諾する通知がなされている。
本件合意④の内容に、買取人指定の行使期間は定められておらず、実際に甲社は、2か月もの間、Bの株式の買取人を指定しなかった。これは、会社が、株主の譲渡の時期をも制限しているといえることから、特段の事情が認められる。
⑷ よって、本件合意④に基づく本件取得は、株主の株式譲渡自由の原則を過度に制限する行為であるといえ、無効であるといえる。
2 小問⑵
⑴ Cは、本件取得よりも前の時点で、Bは本件請求を行っており、甲社がCの名義書換請求(133条2項)を拒むことは不当拒絶に該当するため、Cは、甲社に株主としての地位を対抗できると主張する。
⑵ア 前提として、甲社の株式には譲渡制限が付されているため、Cは、甲社の取締役会からの譲渡の承認を受けなければ名義書換請求をすることができないのではないか(134条1号)。
イ 令和8年8月3日、Bは、甲社に対して、本件譲渡を承認すること及び甲社(138条2号ハ)又は甲社が指定する買取人(138条1号ハ、140条4項)が買取ることを請求した。しかし、甲社は、Bに対して、後者の請求に対して、通知したのは令和2年10月6日である。これは、甲社が、BのCに対する株式譲渡を承認しない通知(139条2項)の日たる令和8年8月10日から「四十日」以上経過している。
ウ したがって、Bは、甲社からCへの株式譲渡を承認されたとみなされるため、134条1号に該当し、Cは、甲社に名義書換請求することができる。
⑵ア そして、甲社は、株主をAとして、株主名義書換を行っていることを理由に名義書換請求に応じることはできないと主張している。しかし、みなし承認により甲社には、Cを株主として名義書換請求に応じる義務があったことからかかる甲の主張は、名義書換の不当拒絶に該当する。それでは、名義書換の不当拒絶の場合に、会社は譲受人をどのように扱うべきか問題となる。
イ 株主名簿制度の趣旨は、会社の事務処理の便宜を図る点にある。そこで、会社が不当に名義書換を拒絶する場合にまで、会社の便宜を図る必要はない。そこで、会社は、かかる場合に、譲受人を株主として扱わなければならない。
ウ したがって、本件でも、甲社は、Cを株主として扱わなければならない。なお、Cは、甲社に対して、株主としての地位を対抗することができれば、足りる。また、Aは、Cの名義書換請求について知っているため悪意の第三者といえ、Cは、Aに対して名義書換を対抗できる。
⑶ よって、甲社は、Cを株主として扱わなければならず、株主であることの確認を求める訴えは認められる。
第2 設問2
1 小問⑴
⑴ 提訴するべき訴えは、新株発行無効確認の訴え(828条1項2号)である。
甲社は、非公開会社であるため、提訴期間は1年である(828条1項2号かっこ書き)ところ、令和6年10月15日に新株は発行され、訴訟提起が令和7年7月1日であるため、1年以内といえる。
Eは、株主であり原告適格(828条2項2号)を有する。また、甲社は、被告適格を有する(834条2号)。
⑵ア 無効事由が条文上明確でないため問題となるも、法的安定性確保の観点から、重大な法令または定款違反に限定されると解される。
イ 甲社が、丁社に本件融資①を行い、丁社が丙社に対して本件融資②を行い、丙社が本件融資②で得た5000万円を甲社に払い込むことによって、丙社は本件募集株式を取得している。そこで、かかる丙社の払い込みは、仮装払込(213条の2第1項1号)に該当しないか。仮装払込に該当する場合、新株発行の効力が否定され得るため問題となる。
ウ 仮装払込は、各取引関係は適法であるものの、全体として実質的に資金移転が認められない仕組みとなっている。そこで、仮装払込か否かは、取引全体によって判断する。具体的には、①弁済までの期間の長短、②運用の事実の有無、③会社の資産関係に与える影響を考慮して判断する。
エ 本件では、5000万円は、甲社から丁社、丁社から丙社、丙社から甲社へと移転している。そうすると、丙社は、甲社の支出した5000万円によって本件払込を行っており、実質的には、5000万円は、直ちに返済されたものと同視することができる。令和6年10月1日、甲社は、丁社に対して、本件融資①を行い、丙社の甲社に対する払い込みは、令和6年10月15日である。そのため、甲社は、15日間で弁済を受けたものと同視できる。5000万円という高額な金額を15日間で弁済することは、きわめて短い期間での弁済といえる。
また、甲社の5000万円は、本件融資①及び本件融資②で支払われており、各会社が運用した事実はない。
さらに、甲社の資産金は、5000万円以下であることから、5000万円の本件融資①は、資産以上の金額の貸し付けにあたり、会社の財産に大きな影響を与えるといえる。
オ したがって、本件融資①、本件融資②及び丙社による払い込みは、仮装払込といえる。
⑶ それでは、仮装払込が新株発行の無効事由に該当するか。仮装払込であったとしても引受人の支払い義務は発生(213条の2第2項)する。また、仮装払込の場合でも権利行使が制限される(209条2項)。さらに、仮装払込により発行された株式について、これを取得した善意無過失の者も保護される(209条3項)。これらの規定から、仮装払込の場合であったとしても、新株発行自体は有効であることを前提にしているといえる。
⑷ したがって、無効事由は存在せずに、新株発行無効確認の訴えは、認められない。
2 小問⑵
⑴ Eは、丁社が本件定時株主総会に出席し、議決権を行使したことが「決議の方法が法令…に違反する」(831条1項1号)といえると主張する。
⑵ 本件では、丁社は、丙社から代物弁済(民法482条)により本件株式を取得しており「株式を譲り受けたもの」(209条3項本文)に該当する。しかし、丁社は、本件融資②を通じて、仮装払込の当事者であり、仮装払込については知っていたといえるため「悪意」(209条3項但し書き)が認められる。そのため、丁社は、議決権を行使できない。
そうであるにもかかわらず、丁社は、本件定時株主総会において議決権を行使しているため、「決議の方法が法令…に違反する」といえる。
⑶ また、裁量棄却においても、議決権を行使できないものを算定の基礎とすることは、仮装払込の場合でも、株式の権限を十分に行使できるとすると、仮装払込を助長することになる。そのため、重大な違反といえ、裁量棄却は認められない。
⑷ よって、Eの株主総会取消訴訟は認められる。
第3 設問3
1 Fは、取締役としての報酬支払請求権として、500万円の支払いを主張する。それでは、本件臨時株主総会①及び②は有効か。解任が有効である場合、解任以後の報酬は請求できないため問題となる(839条)。
2 本件臨時株主総会①について
⑴ 本件臨時株主総会①は、招集通知が発せられていないことから株主総会決議取消の訴えを提起することが考えられる。しかし、提訴期間である3か月(831条1項柱書)が経過している。そこで、株主総会不存在確認の訴え(830条1項)を提起することが考えられる。
⑵ 不存在事由は、物理的不存在に加えて、物理的不存在と同視できるほどの重大な法令違反をいう。
⑶ 本件において、甲社は、本件臨時株主総会①において、甲社取締役が招集通知を発送する義務を負っていた(296条3項)。しかし、一通も発していない。招集通知の趣旨は、株主に株主総会の出席の機会を与え、かつ、議題について検討する機会を確保する点にある。本件では、総株主48%しか出席していない。その理由は、株主総会の開催を知ることができなかったためである。
確かに、全体の52%に該当するA及びGらは出席することができたが、半数近くの株主が出席の機会すら与えられていないというのは、重大な瑕疵といえる。
したがって、通知が発送されていないことは重大な法的瑕疵にあたり、不存在確認が認めれられる。
2 本件臨時株主総会②について
本件臨時株主総会②については、適法に招集されており法的瑕疵は認められない。確かに、本件臨時株主総会①は、不存在であるため、解任決議を追認することはできない。しかし、本件臨時株主総会において、新たにFを解任するという趣旨の決議がなされたものと同視できる。
したがって、本件臨時株主総会②によって、Fは、解任されたといえ、令和7年4月30日の時点から解任されたといえる。
3 報酬支払請求権の範囲
⑴ 取締役の報酬支払い請求権は、株主総会決議によって発生し、会社と取締役は委任関係に準ずる(330条)ため、契約的拘束によって、既に生じている報酬支払い請求権は減額することができない。
⑵ ここで、339条2項における「正当な理由」が存在すれば、既に生じている報酬支払請求権であったとしても減額できるとの立場もある。しかし、正当な理由があるのであれば、その時点で解任すれば足りる。また、手続き上の瑕疵により解任できなかったとしても、解任される者に帰責性がない事由によって解任される取締役の任期への期待を害するべきではないといえる。したがって、339条2項の「正当な理由」が存在していた場合でも、報酬支払請求権の減額は認められない。
⑶ よって、Fは、令和7年2月から4月までの報酬である、300万円は請求することができる。
民事訴訟法
設問1
第1 課題1について
1 通常共同訴訟は個別訴訟の集合体にすぎないことから、基本的には、各共同訴訟人に独立した訴訟追行が保障される(共同訴訟人独立の原則、民訴法、以下略、39条)。
主張共通の原則の原則は、前記の例外として、共同訴訟人の一人がした主張は、他の共同訴訟人がこれと抵触する主張を積極的にしない場合には、その主張が他の共同訴訟人の利益となるものであるかぎり、その者にも効力を生じるものとする。
以上から、肯定説を前提とすると、主張共通が認められるのは他の共同訴訟人のする主張と積極的に抵触せず、その主張が他の共同訴訟人の利益となる場合に適用されることとなる。
2 アについて
アは、本件訴訟における、Y1のXの請求原因に対する事実に対して、裁判上の自白(179条)が成立するものである。
自白が成立すれば、審判排除効・不要証効力・不可撤回効が生じ、これが他の共同訴訟人にも及ぶとなれば、反論する機会を奪う点で、利益とならないことになる。
よって、主張共通原則は適用されない。
3 イについて
イは、アに自白が成立することを前提に、相殺の抗弁を提出するものである。
被告による相殺の抗弁が提出され、これが認容されれば、保証人の主たる債務者に対する連帯保証債務の額もそれに応じて減ることとなるから(民法458条・439条1項)、原告の請求に対する攻撃防御となりえる。もっとも、本来保証人は、主たる債権者に対して相殺の援用をすることはできず、その範囲での履行を拒むことができるにすぎない(民法439条2項・458条)。そうなると、相殺の抗弁においては、連帯保証人たる被告は原告に対し独自の抗弁を出すことはできない以上、他の共同訴訟人にとって利益となる。
よって、主張共通の原則が適用できることとなる。
第2 課題2について
1 否定説の根拠と肯定説の問題点
主張共通の原則について、否定説は、通常共同訴訟は前述のとおり個別訴訟の集合体にすぎないことから各訴訟人に独立した訴訟追行を保障する趣旨であるとし、40条のような規定がないにも関わらず同様の帰結を導くことは困難であること、および、相手方の不意打ちになる可能性があることを根拠として挙げている。
そして、肯定説の問題点について、本件訴訟においてY2は欠席しており何らの訴訟行為をしていないにもかかわらず、主張共通の原則を認めると、Y1の訴訟行為の成果にフリーライドすることができることとなり、妥当とはいえないと考えることができる。
設問2
第1 課題1について
1 平成18年判例と平成20年判例の判断基準の説明
両判決は、いずれも、職業の秘密が公開されることの不利益について、「技術又は職業の秘密」に該当し、197条1項3号に該当するかについて判示している。
そして、平成18年判例はある秘密が職業の秘密に該当する場合であっても,そのことから直ちに証言拒絶が認められるものではなく,報道の内容,性質,社会的な意義,価値,取材源の秘密が開示された場合の不利益の内容,程度等と,本案事件の内容,性質,その持つ社会的な意義,価値,証拠使用の必要性,代替証拠の有無等の諸事情を比較衡量して,保護に値する秘密といえるときだけ証言拒絶が可能であると判示した。
一方で、平成20年判例について、一般に,金融機関が顧客の財務状況等について分析,評価した情報は,これが開示されれば当該顧客が重大な不利益を被り,当該顧客の金融機関に対する信頼が損なわれるなど金融機関の業務に深刻な影響を与え,以後その遂行が困難になるものといえるから,金融機関の職業の秘密に当たると解されるとした。
両者は、比較衡量の基準のもと、公開されることによって生じる実際の不利益を検討したものと考えられる。
本件図画等についてみると、本件図画等には、甲の原型物の金型に関する設計図面や作業工程表等が記載されており、Zが担当する甲の製造工程は、部外秘とされているZの他の主力製品の製造工程と共通する部分が多くあるため、甲の製造工程の前半部分と同じく部外秘とされていた。つまり、Zにとって本件図画等には自社特有のノウハウが記載されている部外秘とされるべき情報であるといえる。
また、XとZは、上記各製造工程をそれぞれ別々の工場で行っており、金型や機械設備等を共有していなかったとされている。このことから、本件訴訟に本件図画が開示されれば、前記ノウハウがXに流出することで、Xがそれを流用するリスクが考えられる。
すなわち、秘密が公開されることで、Zの当該職業に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるものといえる。
以上より、本件図画等にはZにとって保護に値する秘密が記載されているといえ、「技術の秘密」に該当することから、197条1項3号・220条4号ハにより、Zは提出を拒むことができるといえる。
第2 課題2について
3号に該当する職業に就いている者は、職務上人の秘密を扱うことから、197条1項2号・3号の趣旨は、職業の秘密が公開されることで、その遂行が困難となることを防止する点が共通している。そして、真実の発見と秘密の公開に伴う不利益が緊張関係になることも両者は共通している。2号と3号の差異は、前者について特別に黙秘権が課せられている点で異なるものの、秘密の公開によって生じる不利益についてはいずれも枠組みの中で個別具体的に検討することとなり、比較衡量を検討することは同一といえる。
よって、判断基準も同一と解すべきである。
設問3
第1 課題1について
既判力(114条)とは、訴訟物の存否・範囲について生じる通有性ないし拘束力をいい、これにより、当事者は前訴の確定判決について矛盾する攻撃防御をすることはできないとされている(既判力の消極的作用)。
当事者は前訴の口頭弁論終結時までに任意で攻撃防御を提出できることから(民事執行法35条2項)、かかる時点までに提出できなかった攻撃防御方法については後訴で提出することは許されないと解されている(遮断効)。
既判力による遮断が必要とされる根拠は、後訴において攻撃防御が認められるとなると、実質的に紛争を蒸し返すことができ、一回的解決を困難とさせるからである。そして、前訴において当事者には攻撃防御方法を提出する手続き保障がされていた以上、後訴において提出できないとするのはその自己責任といえる点で正当化できる。
既判力は、当事者間でしか効力が生じない(115条1項1号)。
すなわち、主債務者間の訴訟において生じる判決の効力は、当事者でない保証人には及ばないこととなる。また、仮に反射効を一般的に認めても、保証人の債務者に対する債務は主たる債務者とは別個に負担すべき性質を有するものであるから、実体法上の効果として保証人は主債務者間勝訴の確定判決を援用できないと考えられる。
第2 課題2について
昭和40年判例と本件後訴は、どちらも相殺の抗弁を請求異議事由とした点で共通するものの、前者は主たる債務者、本件後訴は保証人が主張している点で異なる。
昭和51年判例と本件後訴は、前者は主たる債務が無権代理によってそもそも発生していないとされた点で、本件後訴はY2訴訟の判決確定後にY1訴訟の請求が相殺の抗弁が認められ消滅したとして棄却された点で、保証債務に関する判決が確定した後に主たる債務の請求が棄却されたという点は共通するものの、棄却理由が異なる。
本件後訴においては、Y2はY1に「本件訴えについては当方で対処するからY2は何もしなくてよい。」と言われたことから、本件訴訟を欠席したとしている。
そうなると、その正当性によってY2の主張(2)は影響しそうにも思える。
もっとも、相殺は簡易決済機能・担保的機能を有し、援用権者の裁量に委ねられている。すなわち、債権に内在する瑕疵ではないから、Y2訴訟での自らの応訴の態様とその理由は主張(2)の当否に影響するとはいえない。
また、損害賠償債権の要件の主張立証責任は本来Y1にあり、Y1は弁護士L2を訴訟代理人としていたこと、アについて主張共通原則がY2には適用されないこと、Y2は主たる債務者でない以上相殺の援用をすることができないことから、本件訴訟においてY2が損害賠償債権の要件を主張立証することが実際上期待できたとはいえない。
そして、通常共同訴訟は本来別個の訴訟であり、弁論が分離されたことが主張(2)の当否に影響することはないというべきである。
以上から、主張(2)は、既判力の遮断効が及ばないことから、正当といえる。
刑法
第1 設問1
1 ①行為及び②行為について、甲及び乙は、殺人罪の共同正犯の罪責を負わないか。
2(1) まず、甲は①行為時点では、完全責任能力を有するものの、②行為時点では、心神耗弱状態に至っている。これは、一体と見れば、完全な責任を問うことができる一方、別個とみれば、②行為時点において責任能力を欠くこととなり、後述の行為と責任の同時存在の原則の処理に関わることから、両行為を一体と見るべきか、別個と見るべきかを検討する。
(2) 刑法上の行為は、客観面と主観面の統合体であるから、2つの行為が客観的に見ても主観的に見ても関連性が強い場合は、一体の行為と解するべきである。
(3) 本件において、①行為は甲方の洋室において、②行為は甲方の台所においてなされており、場所的近接性は認められるものの、①行為の終了から②行為の開始まで約1時間のタイムラグがあるうえ、Aがトイレに逃げ込んだ後、午後10時30分頃から甲及び乙はいずれも洋室で居眠りを始めており、攻撃が一度中断していることから、①行為と②行為との間には、断絶があるといえ、客観的関連性は強くない。また、甲及び乙の認識としても、一度攻撃が中断しているはずであるから、主観的関連性は強くない。
(4) 以上より、①行為と②行為は客観的に見ても主観的に見ても関連性は強くないから、以下、別個の行為として検討する。
3 ①行為について
(1) ①行為について、甲及び乙は、殺人未遂罪の共同正犯(60条、203条、199条)の罪責を負わないか。
(2) 実行共同正犯においては、①共謀、②共謀に基づく実行が要件となる。
(3) 甲及び乙は、Aに殺意を覚え、場合によってはAが死んでしまっても構わないと考え、お互いに暗黙のうちに意思を通じており、殺人罪に関する黙示の共謀が成立している(①充足)。
(4) 次に、共謀に基づく実行が認められるか、殺人未遂罪の構成要件を充足するか、以下検討する。
ア 甲及び乙は、断続的に、それぞれ腹立ち紛れに手拳でAの頭部を殴打し、背部を足蹴りする暴行を加えているところ、複数人で断続的に暴行を加えることは、殺害結果を生じさせる現実的危険性を有することから、殺人罪の「実行に着手し」たといえる(43条本文)。
イ もっとも、Aは、①行為により、頭部及び背部打撲による皮下出血の傷害を負ったが、これらの傷害は致命傷になり得ないものであったから、殺害結果は生じておらず、未遂にとどまる。
ウ また、未必の殺意があるから、構成要件的故意(38条1項本文)も問題なく認められる。
エ 以上より、共謀に基づく実行があったといえる(②充足)。
(5) 以上より、①行為について、甲及び乙は、殺人未遂罪の共同正犯の罪責を負う。
4 ②行為について
(1) ②行為について、甲及び乙は、殺人罪の共同正犯の罪責を負わないか。
(2) まず、甲は、乙に対し、「Aがトイレから出て来たら、Aを取り押さえてくれ。俺がボコボコに殴り付けて、二度となめた口がきけないようにしてやる。場合によっては死んでも構わねえ。」と申し向け、それを聞いた乙は、甲に対し、「分かった。任せておけ。あんなやつ、死んでしまっても構わない。」と了承しており、意思連絡があるから、殺人罪に関する共謀が成立している(①充足)。
(3) 次に、共謀に基づく実行が認められるか、殺人罪の構成要件を充足するか、以下検討する。
ア 甲は、Aの頭部や背部を思い切り足で踏み付け、台所にあった重さ約1キログラムの鉄製フライパンでAの頭部を10数回にわたり激しく殴打する暴行を加えたうえ、乙もAを取り押さえて、甲の攻撃を補助しているところ、複数人で硬い道具を用いて、断続的に暴行を加えることは、殺害結果を生じさせる現実的危険性を有することから、殺人罪の実行行為にあたる。
イ また、結果的に、Aは死亡している。
ウ もっとも、死亡結果が生じた③行為の時点では、甲及び乙は、既にAが死亡していると誤信しているから、②行為と③行為は、故意が連続しておらず、一連一体の行為と解することはできず、②行為と死亡結果との間に③行為という別個の行為が介在していることになるところ、因果関係は認められるか。
因果関係の有無は、客観的に存在する全ての事情を判断の基礎とし、行為の中に含まれている危険が結果の中に現実化したといえるかによって判断する。
本件では、Aが②行為により負った脳挫傷は、そのまま放置すれば死に至る程度のものであったのだから、幾分死期が早まったに過ぎない。また、殺人犯が殺害後、死体をスーツケースに入れて、運ぶことは不自然、不相当ではないから、③行為により、Aが窒息死したことは、②行為によって誘発された一連一体の事態といえる。
以上より、Aの死亡結果は、②行為の危険が現実化したといえるから、因果関係が認められる。
エ 確定的な殺意が認められるうえ、甲及び乙が想定したものとは、異なる因果経過でAは死亡しているものの、行為者の認識した因果経過と現実の因果経過が異なる場合であっても、そのいずれも法的因果関係の範囲内であれば、故意は阻却されないから、構成要件的故意も認められる。
オ 以上より、共謀に基づく実行があったといえる(②充足)。
(4) もっとも、甲は、①行為時には完全責任能力を有している一方、②行為の開始時点で飲酒の影響により心神耗弱に至っていることから、必要的に減軽されないか(39条2項)。かかる結論は不当であるところ、規範に直面したにもかかわらず、あえて犯罪行為に出たことに対する非難可能性を根拠とする、実行行為時に行為者が構成要件に該当する違法な行為を行ったことについての非難可能性が必要であると解する行為と責任の同時存在の原則の観点から問題となる。なお、乙は、一貫して完全責任能力を有していることから、同論点は問題とならない。
ア たしかに、行為と責任の同時存在の原則を維持して原因行為を実行行為とし、責任無能力状態の自己を道具として利用する点で間接正犯類似であると解する立場もある。もっとも、同立場は、実行の着手時期が早くなりすぎるうえ、心神耗弱状態では心神喪失とは異なり、道具とはいえないから、理論的に無理がある。そこで、上記原則を維持せず、実行行為は結果行為とし、責任能力ある原因行為時の意思決定が結果行為時まで貫かれていれば、結果行為について完全責任能力を問えると解する立場が妥当である。この立場であっても、非難可能性は、完全責任能力ある時点における意思決定に向けられるものであるから、上記原則を修正しても問題ない。
イ 本件では、甲は、飲み始めの時点においては、暴れるほど酩酊することはないだろうと思いながら焼酎を飲み続けていたものの、焼酎を3合以上飲むと他人を死亡させかねない程度の暴力を振るうことが度々あり、甲自身、そのことを認識していたところ、甲の飲酒量は、①行為の開始時点で3合に達しており、甲自身もそのことを認識していたのだから、同時点を原因行為と解すべきである。そして、①行為の開始時点で甲は未必の殺意を有しており、②行為の開始時点では確定的な殺意を有していることから、原因行為時の意思決定が結果行為時まで貫かれているといえる。
ウ 以上より、実行行為開始時点である②行為時点において、完全責任能力を有していた①行為時点の意思決定が貫かれているから、甲は、心神耗弱を理由に減刑されない。
(5) 以上より、甲及び乙は、②行為について、殺人罪の罪責を負う。
5 罪数
①行為の殺人未遂罪は、②行為の殺人罪に吸収され、全体として殺人罪一罪が成立する。
第2 設問2
1 A車は、建造物ではなくAが所有していた動産であるから「前二条に規定する物以外の物」にあたるところ、本件火災を生じさせたことについて、甲及び乙は、建造物等以外放火罪の共同正犯の罪責を負わないか(60条、110条1項)。
2(1) 実行共同正犯における上記①及び②の要件で判断する。
(2) 乙は、甲に対し、「A、死んじまったな。A車でAの死体を港まで運んで、そこでAが焼身自殺したことに見せかけて、A車ごとAの死体を燃やしてしまおう。」と申し向け、甲は「分かった。そうしよう。」と了承していることから、甲乙間で、建造物等以外放火罪の意思連絡があるから、同罪に関する共謀が成立している(①充足)。
(3) 次に、共謀に基づく実行が認められるか、建造物等以外放火罪の構成要件を充足するか、以下検討する。
ア まず、乙が、A車のトランク内からポリタンクを取り出し、同ポリタンク内の灯油約2リットルをA車の運転席及び助手席に撒いた後、甲は、持っていたハンカチにライターで点火し、火の点いた同ハンカチを、灯油が撒かれたA車運転席に向けて放り投げているところ、目的物の焼損を惹起させる行為といえるから、「放火し」たといえる。
イ 次に、上記ハンカチの火は、A車運転席シートに燃え移った後、更に助手席シートや後部座席シートにも燃え移っているところ、火が媒介物を離れて目的物が独立に燃焼を継続しうる状態になっているから、「焼損し」たといえる。
ウ 次に「公共の危険」とは、108条、109条1項所定の物件に延焼する危険と解する限定説も存在する。もっとも、不特定または多数人の生命・身体・財産に対する危険は、建造物への延焼を介さずに、直接、発生する場合があるから、上記物件に関する危険に限らず、不特定または多数人の生命・身体・財産に対する危険をいうと解する非限定説が妥当である。
本件では、燃えているA車の近くには、A車から西側へ約3メートルの位置にC車が駐車されていたほか、A車から東側へ約2メートルの位置にはゴミ集積場が設けられており、その当時、同ゴミ集積場には可燃性のゴミ約300キログラムが、高さ約1メートル、幅約4メートル、奥行約2メートルにわたって置かれていた。A車から最寄りの建造物までは、約25メートルの距離があり、また、A車及びC車以外には、港の駐車場に車両は駐車されていなかったが、同駐車場は同港の漁業関係者が深夜帯でも出入りする可能性があった。そして、本件火災により、周囲の建造物に延焼する危険は生じなかったが、A車は全焼し、さらに、C車と上記ゴミ集積場への延焼の危険が及んでいることから、「よって公共の危険を生じさせた」といえる。
エ 次に、甲が放火行為に及んだ当時、甲及び乙には、いずれも上記港の駐車場に漁業関係者が出入りする可能性があることの認識はなかったものの、甲は、場合によっては本件火災による火がC車や上記ゴミ集積場にあるゴミに燃え移るかもしれないと思っており、「公共の危険」を認識している一方、乙は、その火がそれらに燃え移るとは思っておらず、それについて認識していないところ、「公共の危険」の認識は必要か。
たしかに、責任主義の見地から、「公共の危険」の認識が必要であるという見解も存在する。もっとも、110条1項は「よって」という文言を用いており、同罪を結果的加重犯と解していることから、「公共の危険」の認識は不要である。
以上より、乙が「公共の危険」について認識していなかったことは、建造物等以外放火罪の構成要件的故意の認定を妨げない。
オ 以上より、共謀に基づく実行があったといえる(②充足)。
3 以上より、甲及び乙は、本件火災を生じさせたことについて、建造物等以外放火罪の罪責を負う。
刑事訴訟法
第1 設問1.1
1 令状の種類
体内に存在する尿を犯罪の証拠物として強制的に採取する行為は捜索・差押の性質を有するとみるべきであり捜索差押許可状が必要である。ただし、検証の方法としての身体検査と共通の性質を有しているので身体検査令状に関する刑訴法(以下略)218条6項が準用されるべきであり、令状の記載要件として、医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせなければならない旨の条件の記載が不可欠である。
2 ①令状の発付要件
(1) 強制力を用いてその身体から尿を採取することは身体に対する侵入行為であるとともに屈辱感等の精神的打撃を与える行為である。もっとも検証の方法としての身体検査でも同程度の精神的打撃を与えうるため、絶対的に許されないとすべきではない。そこで、被疑事件の重大性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、犯罪の捜査上真にやむをえないと認められる場合には、最終的手段として、令状を発付することが許される。
(2) 覚醒剤取締法違反(譲渡し)は、10年以下の拘禁刑に処される(同法41条の2)ため重大である。Xは同法違反(所持)で逮捕され、自身が持っていた覚醒剤が甲から購入したものの残りである旨供述した。この供述の信用性を疑うべき事情はなく甲の嫌疑は高い。Pが甲の前科を照会したところ、甲には、覚醒剤取締法違反(所持)の前科1犯があった。さらに左肘内側に真新しい注射痕様のものがあったこと、頬がこけ目を見開き手足が小刻みに震えているなど覚醒剤常用者特有の様子が見られた。覚醒剤取締法違反の嫌疑は高い。被疑事実は、覚醒罪取締法違反のうち譲渡であるため、採尿を行い尿から覚醒剤が検出されても直接的に覚醒剤取締法の譲渡を証明できるわけではない。もっとも、甲の尿から覚醒剤が検出されれば、覚醒剤を使用していたことが推認できるうえ、他の証拠と併せて譲渡についての証明が容易になる。重要性は高い。尿はその性質上、一定期間が経過すると体内から排出される。体内から排出された場合、再び証拠収集を行うことは極めて困難である。収集の必要性は極めて高い。Pは同日午前8時頃甲に対し尿の任意提出を求めたところ、甲は、「今は出ない。待ってくれ。」と答えた。Pはその後も同日午後0時頃までに5回にわたり甲に尿の任意提出を求めたが、甲は、「まだ出ない。」など答え尿の任意提出に応じなかった。甲は尿の任意提出に応じない態度を崩していない。Pは甲に水を飲むよう勧めたが、甲はこれに応じず、提供された昼食を食べた際も水を飲まなかった。Pは、午後2時頃甲に水を飲むよう勧めたが、甲はこれに応じなかった。このように、甲は、6時間以上にわたって尿の任意提出を拒んでいるうえ、水をあえて飲まずに尿が出ないようにし、尿の検査が行われないように振る舞っている。そのため、尿の任意提出という適当な代替手段を利用することはできない。以上から、犯罪の捜査上真にやむをえないと認められる場合にあたる。そのため、最終的手段として令状を発布することが許される。よって、発付要件を満たす。
3 下線部②の行為が適法か
Pは同日午後5時以降、I病院において約30分間にわたり、繰り返し、甲に対し尿を自ら提出するよう求めたが、甲は、「出したくても出ない。」などと答えた。同日午後5時30分頃、Pが「では強制採尿するしかないな。」と言っても、甲は、尿を自ら提出することはなかった。このように、甲が尿の任意提出を拒む状況が10時間以上継続している。そのため、適当な代替手段が不存在である場合にあたる。下線部①の際に検討した他の要件についても事情変動はなく満たしている。強制採尿を適法に実施しうる場合である。
(1) 強制採尿の実施にあたっては、被疑者の身体の安全とその人格の保護のため十分な配慮が施されるべきであり、医師をして医学的に相当と認められる方法で行わなければならない。
(2) Y医師は、10年間の泌尿器科勤務経験を有する泌尿器科専門医であり、令和2年以降I警察署からの依頼により毎年5件程度の強制採尿の実施経験を有していたことから、甲の身体の安全とその人格の保護のため十分な配慮は施されている。また、医師をして医学的に相当と認められる方法で行われている。
(3) もっともPら警察官8名は、甲の両手両足を押さえている。
判例は、被告人が激しく抵抗したことから、数人の警察官が被告人の身体を押さえつけたという事案につき、右有形力の行使は採尿を安全に実施するにつき必要最小限度のものであったことを認め、適法と判断している。
本件では、甲はY医師の指示に従ってベッドに横たわり、抵抗することはなかった。被疑者が抵抗していない場合であるからこのような行為は適法ではないとも思える。しかし、カテーテルの痛みによって抵抗することは十分にありえる。痛みで暴れた際には甲の尿道が傷つく可能性もあった。むしろ痛みで暴れないようにすることで、甲の身体への配慮の一面も有している。警察官が8名いたとしても、人間が暴れないようにするためには必要であり過剰とはいえない。以上から必要最小限度の有形力行使といえる。そのため、②の行為は適法である。
第2 設問1 2
CT検査は、体内をX線により断層撮影するもので、体内を詳細に把握することができる。たしかに、身体への物理的な侵襲は存在しない。しかし、CT検査によって体内の様子が把握できることから、実質的には身体内部への侵襲が存在していると考えるべきである。さらに、CT検査を行った上で、医師等の専門的な知見が必須である。
そのため、身体内部への侵襲を伴い、かつ専門的な知識が必要なものであるから、鑑定の性質を有し、鑑定処分許可状(225条)が必要である。しかし225条4項が準用する168条6項は139条を準用しておらず225条4項は139条を準用する172条を準用していない。そのため鑑定処分許可状のみでは直接強制が不可能である。
以上から、身体検査令状(218条6項)を併用すべきである。そして、同項から、医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせなければならない旨の記載が必要である。
第3 設問2 1
1(1) 供述証拠は知覚・記憶・表現・叙述という供述過程を経るところ、その各過程に誤りが介在するおそれがあるため反対尋問等により供述の真実性を確認する必要があるが伝聞証拠はそれをなし得ないことから、原則として証拠能力が排除される。(320条)そこで、伝聞証拠とは公判廷外の供述を内容とするもので、要証事実との関係で供述の内容の真実性が問題となるものをいう。
(2) 本件DVD
(ア) 本件DVDは、公判定外の供述を内容とするものである。乙は罪状認否にて「覚醒剤を持っていたことは間違いない。譲渡しの事実については黙秘する。」旨述べているため、乙が譲渡したかどうか、ひいては甲乙間の覚醒剤譲渡罪の共謀があるかが争点である。
甲は、取調べにおいて、乙と一緒に覚醒剤の密売をしていたこと、甲は、客から注文を受けて客に覚醒剤を渡す役割、乙は、客に売る覚醒剤と客にサービスで渡す注射器を用意する役割だったこと、甲は、客から覚醒剤の注文が入ると乙に伝え、客に渡す日の昼頃に乙とI市内のJ公園で会い、乙から覚醒剤等を受け取り、その後客と会って覚醒剤等を渡していたこと等供述している。 しかし、甲の取調べの供述内容は公判廷外供述かつ真実性が問題となるため、乙が1月20日頃にJ公園で甲と会ったことが立証できても、甲の取調べ供述内容通りの事実を直接認定することはできない。
もっとも、甲は「令和8年1月20日に、I市内の路上で、覚醒剤0.3グラムをXに3万円で譲り渡した。」と述べ、譲渡の事実を認めている。そして、Xは逮捕された2月3日、「私が持っていたこの覚醒剤は、令和8年1月20日夕方、I市内の路上で、甲から0.3グラムを3万円で購入したものの残りだ。」と供述している。これらの供述はいずれも真実性が問題となるため、直接的に同内容を認定することはできない。
しかし、甲とXが打ち合わせをしている等の作為的事情もないため、その合致する供述内容の事柄はお互いに体験を共にしたが故に、それに関する供述が合致するのであると見て差し支えない。そのため、甲とXの供述する内容が合致するという事実から、甲とXの供述通りの内容を認定することが可能である。ここから甲は覚醒剤の売人で1月20日にXに覚醒剤を譲渡したことを認定できる。そして、乙の体内から排出されたSDカードを解析したところ、「顧客リスト2026」と題するファイルが存在し、顧客というのは覚醒剤の顧客と考えても矛盾がない事実と、乙が甲X間の覚醒剤の譲受けが行われた1月20日にJ公園で甲と会ったことを併せれば、甲と乙が共謀して覚醒剤を譲渡したことが一定程度推認されることになる。
よって、立証趣旨は、甲乙間の共謀を示すうえで意味をなす。
本件DVDの要証事実はDVD内に存在する乙とWの会話内容ということになり、真実性が問題になる。本件DVDは伝聞証拠である。
(イ) 本件DVDは、「その者の供述を録取した書面」と同視されるものの、機械的に録取されていることから「供述者の署名若しくは押印」は不要である。以下321条1項3号該当性を検討する。
Wは「死亡」している。また、乙は証言を拒絶しているから、「公判期日において供述することができ」ない。
SDカード内には「顧客リスト2026」と題するファイルが存在した。しかし同ファイルを開くためにはパスワードの入力が必要であり、Pが乙にパスワードを尋ねても乙は何も答えず、データの解析を試みるもその内容を確認することはできなかった。乙はI警察署に引致された後黙秘する旨述べ、H地方検察庁検察官に送致された際検察官に対しても黙秘し、勾留された日以降も黙秘を続けた。
このように、他に甲と乙の共謀を立証する証拠もないため「その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないものである」。そして、これらのDVDは、恋人関係にあるWと乙が誕生日を祝った際に撮影されたものであり、W乙間でのみ共有されることを予定しているものであるから「その供述が特に信用すべき情況の下にされた」ものである。以上から、本件DVDは321条1項3号の要件を満たす。
(3) 乙の発言
本件DVDは321条1項3号の要件を満たしたことで「被告人以外の者の…公判期日における供述」(324条1項)に準ずるものとなり同項が準用される。「被告人」たる乙の「供述」をその内容とするものであるから、322条1項の規定が準用される。本件DVDは「被告人の供述を録取した書面」と同視される。被告人の「署名若しくは押印」要件は、再伝聞の場合は観念できず不要である。そして、乙が令和8年1月20日昼頃にJ公園で甲と会ったことから、甲乙の共謀を認定できるため、「その供述が被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであるとき」にあたる。乙の発言は、恋人関係にあるWに対してなしたものであるから、「任意にされたものでない疑」はない。いずれも証拠能力が認められる。
第4 設問2 2
1 捜査報告書は公判廷外供述で内容の真実性が問題となるため伝聞証拠であるものの、検証としての性質を有することから、321条3項が準用される。同項の要件を満たせば証拠能力が肯定されうる。
2 「覚醒剤の密売人が客に交付することの多い未使用の注射器12本を乙が所持していたこと」を立証しても、注射器はその他の使用方法も存分に存在することから、覚醒剤取締法違反を直ちに認定することはできない。
もっとも、前述の通り、甲とXの供述する内容が合致するという事実から、甲とXの供述通りの内容を認定することが可能である。
よって、この立証趣旨と、乙の体内から排出されたSDカードに「顧客リスト2026」と題するファイルが存在し、顧客というのは覚醒剤の顧客と考えても矛盾がないこと、甲は覚醒剤の売人としての役割を果たしており1月20日にXに覚醒剤を譲渡したことおよび乙が1月20日にJ公園で甲と会ったことを組み合わせることで、甲と乙がともに共謀して覚醒剤の譲渡を行っていたことや乙が客に注射器を交付していたことを推認できる。
そのため、捜査報告書は乙の覚醒剤取締法(譲渡し)を認定するための証拠能力を有する。
労働法(選択科目)
第1 設問1
1 X3に対するA社への出向命令は、適法か。①X3に向を命じる可否、②X3に対する出向命令が権利濫用(労契法14条)となるかという点について検討する。
2⑴ ①について、出向は、労働者に対してもつ労務給付請求権を出向先に譲渡することを意味する。そのため、「労働者の承諾」が必要である(民法625条)。かかる承諾は、労働者の不利益を防止する措置等が講じられ配転と同視できる場合には、包括的な同意で足りる。
⑵ 本件では、出向後であっても出向先の給与及び賞与がY社の規定による支給額に満たないときは、差額をY社が支給することが定められている(規程8条)。また、勤務地に応じた手当(規程7条)や単身赴任の手当(同規程6条)も定められているため、当該出向において労働者の不利益を防止する措z置が講じられているといえる。
⑶ そして、就業規則13条に「業務の必要により出向させること」があることが定められている。当該就業規則は、「周知」されいる。また、出向によって労働者の賃金の減少などはなく、出向に関する手当も上記の通り設定されているため、合理性は否定されない。したがって、かかるY社就業規則第13条は、X3との間の労働契約の内容となる。そして、労働契約の内容となる場合には、包括的に出向の同意があるといえ、Y社は、X3に対して出向を命じる権限を有する。
2⑴ ②について、出向命令が権限濫用となるのは、①経営判断の合理性、②人選基準の合理性と具体的人選の相当性、③労働者の生活、不利益の程度、④手続きの相当性を総合的に考慮する。必要性は①、選定にかかる事情は②、その他の事情は③、④により判断する。
⑵ア Y社において、A、B、C社との取引が8割を占めていることから、3社と関係を強化し維持することは、Y社の存続に不可欠である。そのため、出向は、関係維持につながり経営判断は合理的といえる。他方で、Y社には、従業員が300名おり、X3をA社に出向させずとも、代わりの者を出向させることは可能である。そのため、X3をA社に出向させる必要性は、低い。
イ Y社は、X3がX1からX3の中で最も経験年数が長いという理由でA社への出向を命じている。すなわち、X3が総合技術管理部技術士を取得するためにC社で就業する必要があることを考慮していない。かかる資格はY社の業務にも関連する。また、X3がかかる資格を取得すれば、技術系の管理職となれる。これは、Y社にとっても利益がある。そのため、X3が資格試験の受験資格獲得にB社又はC社での実務経験が必要があることを考慮する必要があった。しかし、Y社は、経験年数のみで判断している。したがって、かかる人選は考慮するべきことを考慮しておらず、合理性は認められない。
ウ 出向期間は、3年間である。X3が、A社に出向すると、Y社で就業していれば受験することができる資格試験を受験することが3年間も受験することができず、資格取得が3年分も遅れる。さらに、かかる資格を取得しなければ技術系の管理職にも就職することができず、X3のキャリアアップが3年も遅れる。そのため、X3がA社に出向する不利益は大きい。
エ 手続きにおいては、X3に対して、A社の出向の理由を悦明している。そのため、手続きの相当性は認められる。
⑶ 以上より、手続きの相当性は認められるものの、X3をA社に出向させる必要性は低く、X3への不利益は極めて大きく、X3を選定した理由からも他の経験年数が高いものを出向させることで抱いたできるため、合理性が認められない。そのため、Y社の出向命令は、権利濫用といえ無効である。
第2 設問2
1 X1の解雇は、解雇権濫用として無効か(労契法16条)。
2 「客観的に合理的な理由」の有無について検討する。
X1への出向命令は、権利濫用とならないか(労契法14条)。権利濫用となる場合は、X1のC者への出社拒否には、「正当な理由」が認められるため、客観的合理的理由は認められない。上記の判断基準より判断する。前提として、X1への出向命令の権限は、
⑴ 上記と同様にX1に対するC社への出向命令には、経営判断としての合理性が認められる。また、本件では、X1は、A社においての労務の提供を拒否しており、A社との関係悪化を防止するため、A社以外の場所に出向させる必要性は極めて高かった。もっとも、C社への出向させる者はX1以外の者でも代替可能であった。そのため、X1をC社に出向させる必要性は低い。
⑵ 人選の合理性について、X1は、電気電子部門技師としての資格を取得するために、電気電子部門への出向を希望していた。そのため、
⑶ X1は、共働きで保育所に通う子供を2人抱えている。また、C社は、X1の自宅から通勤することは通勤困難所にあり単身赴任となる。加えて、配偶者には仕事の継続が困難になるほどの過大な負担がかかる。そのため、出向命令によるX1の不利益は極めて大きい。また、Y社は、X1の家庭養育の環境について、配慮する義務を負っているため、かかる事情も考慮する必要がある(育児介護休業法26条)。
他方で、出向手当を講じているものの、X1の状況では、経済的補填を行ったとしても、養育への不利益は変わらない。そのため、X1への不利益は極めて大きい。
⑷ Y社は、X1に対して説明を行っており、手続きの相当性は認められる。
⑸ 以上より、X1をC社へ出向させる必要性も低く、X1への不利益も極めて大きい。そのため、X1へのC社への出向命令は、権利濫用として無効であり、規則55条6号の「正当な理由」にあたるため、解雇事由には該当せず、客観的合理的理由も認められない。
3 よって、X1の解雇は、解雇権濫用といえ、無効となる。
第1 設問1
1 Xらは、Y社とZ組合との労働協約に基づく賞与支払請求を主張することが考えられる。かかる請求は認められるか。
2⑴ 賞与請求権の根拠は、合意である。そして、賞与の支給基準は組合と協議して決定される(基本労働協約30条)。そこで、労働協約の規範的効力(労組法16条)によって、賞与の発生根拠を基礎づけることができるか。本件では、Z組合は、本件会社の回答に承諾する旨の意思を書面によって伝えているがZ組合の行員と執行委員長Xの署名しかなく、Y社の署名・押印がない。条文上「両当事者」の署名押印が求められている(労組法14条)ことから、かかる署名・押印の要件を満たしていなくとも規範的効力は認められるか問題となる。
⑵ 労働協約において書面の作成と署名押印が求められる趣旨は、労働協約は複雑な団体交渉を得て締結されるという特徴から、書面を作成し署名又は押印を求めることで、協約の内容を正確に記録し紛争を防止する点にある。そこで、書面の作成及び署名・押印がなければ労働協約は、規範的効力を有しないといえる。
⑶ 本件においては、Z組合の署名押印は認められる者の、Y社の署名押印は認められない。確かに、本件回答は、Y社からZ組合になされているものであるが、Y社の署名押印がなされていなければ締結権限を有するY社の代表が意思表示をしたか不明であり、紛争が生じる危険を残すことになる。そのため、かかる書面では、規範的効力は生じない。
3 よって、Xらの令和8年度夏季賞与の支払いを求める請求は、認められない。
第2 設問2
1 令和8年夏季賞与に関する団体交渉について
⑴ Y社は、本件回答において、「制度導入についてご了解いただくまで、令和8年度夏季賞与に関する交渉は行わない」旨付記している。そこでかかる行為は、団交拒絶(労組法7条2号)にあたるとして、団体交渉命令を労働委員会に求めることが考えられる。かかる請求は認められるか。
⑵ Y社は、義務的団交事項に該当しない団体交渉については、応じる義務がない。そこで、令和8年夏季賞与に関する事項は義務的断行時効に該当するか。義務的団交事項の定義が問題となるも、労働所請又はその他処遇に関する事項であって、使用者の権限によって処分可能な事項をいうと解される。そして、賞与は、処遇に関する事項に該当する。そのため、本件会社回答により賞与に関する団体交渉を拒絶したことは、同条における団交拒絶に該当する。
⑶ Y社が団体交渉を拒絶した理由は、本件労働時間問題についての制度導入が必須であり、同制度の導入をZ組合が承認しないこと」と本件会社回答で主張しているが、本件労働時間と賞与については独立して交渉することが可能であり、かかる主張は「正当な理由」とは言えない。
⑷ したがって、Z組合のかかる主張は認められ、上記救済を求める。
3 Xらへの賞与不払いについて
⑴ かかる賞与不払いは、不利益取扱(労組法7条2号)に該当するとして、不利益取扱禁止し組合員にも賞与を支払う命令を求めることができるか。また、支配介入(労組法7条3号)に該当するとして支配介入禁止命令としての賞与の支払いを命ずることを求めれることができるか。
⑵ 本件賞与に関する団体交渉は、義務的団交事項であり組合活動の目的として正当である。また、主体もZ組合が行っており、態様も不当とする事情はない。そのため、「労働組合の正当な行為」に該当する。
そして、Z組合以外の未組織組合員は個別の同意を受け賞与を受け取っているがZ組合員は賞与を受けていない。そのため、不利益な取り扱いといえる。
それでは、当該不利益取は、Z組合の団体交渉の「故をもって」なされているといえるか。あえてZ組合員には同意書を取り付けていない。そのため、Y社のかかる行為は、Z組合の団体交渉を理由に不利益取り扱いを行ったものといえ、不当労働意思が認められる。
以上より、Y社の行為は不当労働行為といえ、救済を求めることができる。
⑵ 同様に、未組織組合員のみに賞与を支給することは、Z組合にいることでデメリットを生じさせ、組織の弱体を導く。そのため、支配介入行為といえ、不当労働意思も認められるため、請求が認められる。
4 レターケースの使用禁止及び組合ニュースの回収について
⑴ かかる行為は、支配介入に該当し、支配介入禁止命令を求めることができるか。
⑵ レターケースは、個人宛の指導文書等業務上必要な資料を従業員に配布するために使用されている。しかし、従前Z組合が組合員への連絡文書の配布などに利用することをY社は黙認していた。そのため、この団体交渉後に使用禁止とすることは、Z組合の団体交渉力を低下させる行為である。同様にニュースの回収も弱体化につながる行為である。組合の弱体化意思が認められ、支配介入といえる。そして、支配介入意思も認められる。
⑶ したがって、上記救済の申し立てが認められる。
5 掲示板の使用禁止について
⑴ 掲示板は会社の管理物であるため、会社の承諾がなければ使用できないのが原則である。そこで、権利濫用といえる場合には、支配介入といえる。
⑵ 本件では、非組合員のケースに対し右手ニュースを入れたが、掲示板についてはなんら関係のない事項である。そのため、かかる禁止は権利濫用といえ、支配介入行為といえる。また支配介入しいも認められる。
⑶ したがって、かかる不当労働行為に該当することを理由にポストノーティスによる救済を求める。
6 懲戒処分について
ケースに臨時ニュースを投函したことをもって懲戒処分とするのは、組合の弱体化につながる。そのため、支配介入行為に該当する。また、Z組合の上記行為に対する懲戒処分は過剰であり不当労働意思も認められ、ポストノーティスを求めることができる。
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