日本大ロー令和8年度(第3期)入試解答例
2026年7月30日
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憲法
第1 Aの行動は、裁判所法52条1号に該当するか
1 寺西判事補事件判決によると、裁判所法52条1号の趣旨は、裁判官の独立及び中立・公正を確保し、裁判に対する国民の信頼を維持するとともに、三権分立主義の下における司法と立法、行政とのあるべき関係を規律することにある。また、上記趣旨の重要性及び裁判官は単独で又は合議体の一員として司法権を行使する主体であることにかんがみれば、裁判官に対する政治運動禁止の要請は、一般職の国家公務員に対する政治的行為禁止の要請より強いものというべきである。以上を踏まえると、「積極的に政治運動をすること」とは、組織的、計画的又は継続的な政治上の運動を能動的に行う行為であって、裁判官の独立及び中立・公正を害するおそれがあるものが、これに該当すると解され、具体的行為の該当性を判断するに当たっては、その行為の内容、その行為の行われるに至った経緯、行われた場所等の客観的事情のほか、その行為をした裁判官の意図等の主観的な事情をも総合的に考慮して決すのが相当である。
2 本件では、司会は、市民活動家の団体代表の元新聞記者が務めているものの、寺西判事補事件とは異なり、自らが裁判官の肩書でパネリストとして登壇し、政府提出の法案の法的問題を指摘し、法律案には改善されるべき点がいくつか含まれている旨の発言を行うなど、より積極的な立場で集会に参加している。また、同団体は、同法律案の閣議決定前から結成された団体であり、新聞広告を掲載したり、全国各地で市民向け集会を開催したりするなどして、法律案を廃案に追い込むためのキャンペーンを展開していた。そうすると、上記集会は、単なる討論集会ではなく、初めから上記法案を悪法と決め付け、これを廃案に追い込むことを目的とするという党派的な運動の一環として開催されたものであるから、そのような場でパネリストとして集会の趣旨に賛同するような言動をすることは、国会に対し立法行為を断念するよう圧力を掛ける行為であって、単なる個人の意見の表明の域を超えることは明らかである。このように、Aの行動は、上記法案を廃案に追い込むことを目的として共同して行動している諸団体の組織的、計画的、継続的な反対運動を拡大、発展させ、右目的を達成させることを積極的に支援しこれを推進するものであり、裁判官の職にある者として厳に避けなければならない行為というべきである。
3 以上より、Aの行動は、裁判所法52条1号に該当する。
第2 裁判所法52条1号は、憲法21条1項に反しないか
1 憲法21条1項の表現の自由は基本的人権のうちでもとりわけ重要なものであり、その保障は裁判官にも及び、裁判官も一市民として表現の自由を有している。
2 裁判所法52条1号は、裁判官が表現の自由の一種である、政治活動をすることを制約している。
3 それでは、裁判所法52条1号は正当化されるか。
裁判官の表現の自由も、絶対的なものではなく、憲法上の他の要請により制約を受けることがあるのであって、憲法上の特別な地位である裁判官の職にある者の言動については、おのずから一定の制約を免れないというべきである。そのため、同制約が合理的で必要やむを得ない限度にとどまるものである限り、憲法の許容するところであるといわなければならず、禁止の目的が正当であって、その目的と禁止との間に合理的関連性があり、禁止により得られる利益と失われる利益との均衡を失するものでない場合には、憲法21条1項に違反しないというべきである。
4 本件において、禁止の目的は、裁判官の独立及び中立・公正を確保し、裁判に対する国民の信頼を維持するとともに、三権分立主義の下における司法と立法、行政とのあるべき関係を規律することにあり、この立法目的は、正当である。また、裁判官が積極的に政治運動をすることは、裁判官の独立及び中立・公正を害し、裁判に対する国民の信頼を損なうおそれが大きいから、積極的に政治運動をすることを禁止することと禁止目的との間に合理的な関連性があることは明らかである。さらに、裁判官が積極的に政治運動をすることを、これに内包される意見表明そのものの制約をねらいとしてではなく、その行動のもたらす弊害の防止をねらいとして禁止するときは、同時にそれにより意見表明の自由が制約されることにはなるが、それは単に行動の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約にすぎず、かつ、積極的に政治運動をすること以外の行為により意見を表明する自由までをも制約するものではない。他面、禁止により得られる利益は、裁判官の独立及び中立・公正を確保し、裁判に対する国民の信頼を維持するものであるから、得られる利益は失われる利益に比して更に重要なものというべきであり、その禁止は利益の均衡を失するものではない。
5 以上より、裁判所法52条1号は、憲法21条1項に反しない。
民法
第1 設問1
1 AのCに対する請求の訴訟物は、所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記抹消登記手続請求権であるところ、その要件は、Aの甲土地所有及び甲土地上のC名義の所有権移転登記である。甲土地上のC名義の所有権移転登記は問題なく認められ、B名義の所有権移転登記も不実であることから、無効であり、甲土地の所有権は依然としてAにあり、Aの請求は認められると思える。
2 それに対し、Cは、自己が「善意の第三者」(94条2項)であると反論すると思われるが、AB間に通謀はないことから、同項を直接適用することはできない。そこで、同項を類推適用し、Cが、「善意の第三者」といえるか。
(1) 94条2項の趣旨は、虚偽の外観を信頼し、不動産取引に入った者を本人の犠牲の下、保護することにある。そこで、①虚偽の外観、②本人の帰責性、③第三者の信頼がある場合には、同項を類推適用することができると解する。なお、③について、本人以外の者が作出した虚偽の外観について本人が承認を与えていた場合には、本人の帰責性は大きいといえるから、無過失までは不要であり、善意で足りると解する。
(2) 本件では、Bが、2019年5月20日、Aに無断でAの実印などを利用して甲土地の売買契約書を偽造し、AからBへの甲土地の所有権移転登記手続を行っていることから、虚偽の外観が存在する(①充足)。次に、Aは、虚偽の外観の存在について認識したものの、抹消登記手続にかかる手間と費用を惜しみ、Bと同棲していることもあって、甲土地の登記名義の回復を求めることもなく5年間もの間、放置している。また、その間、Aは銀行から金員を借り入れる際、B所有名義のままで甲土地を同銀行からの借入金の担保に供し、同銀行に対する抵当権設定登記を経由しており、虚偽の外観について黙示的に承認を与えているといえる(②充足)。次に、Cは、Bから甲土地を買い受けた際、Bが甲土地の所有者であると信じており、善意であるところ、Aの帰責性が大きいから、それで足りる(③充足)。
(3) 以上より、94条2項の類推適用が認められ、Cは「善意の第三者」にあたる。
3 したがって、AのCに対する請求は認められない。
第2 設問2
1 CのDに対する請求の訴訟物は、所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権であるところ、その要件は、Cの甲土地所有及びDの甲土地占有である。Cは甲土地の所有権を有しており、Dは甲土地を占有していることから、Cの請求は認められると思える。
2 それに対し、Dは、自己が「第三者」(177条)であるとして、対抗要件の抗弁を主張する。
(1) 「第三者」とは、当事者及びその包括承継人以外の者であって、不動産の登記の欠缺について主張する正当な権利利益を有する者をいう。
(2) 本件では、Dは、BC売買が行われた2024年7月10日以前である、同年1月20日に、Aとの間で売買契約を締結し、甲土地を取得している。Bの所有権移転登記は不実であることから、同時点においては、甲土地の所有権者はAであり、Dは、甲土地の所有権を有効に取得したこととなる。
(3) 以上より、Dは、当事者及びその包括承継人以外の者であって、不動産の登記の欠缺について主張する正当な権利利益を有する者であるから、「第三者」にあたる。
3 したがって、対抗要件の抗弁が認められるから、CのDに対する請求は認められない。
第3 設問3
1 CのEに対する請求の訴訟物は、所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権であるところ、その要件は、Cの甲土地所有及びEの甲土地占有である。Cは甲土地の所有権を有しており、Eは甲土地を占有していることから、Cの請求は認められると思える。
2 それに対し、Eは、甲土地を時効取得したとして、所有権喪失の抗弁を主張する。Eは、占有開始時点において、甲土地がA所有であることを認識していたことから、162条1項の要件を充足するか、以下、検討する。
(1) Eは、甲土地を資材置場として、2003年3月3日から2025年6月3日に至るまでと「二十年間」以上、甲土地を「占有」した。
また、「所有の意思」、「平穏」、「公然」は186条1項によって推定されるところ、それを覆す事情もない。
(2) 以上より、Eが時効援用(145条)をすれば、Eは、甲土地を時効取得する。
3 したがって、所有権喪失の抗弁が認められるから、CのEに対する請求は認められない。
刑法
第1 甲の罪責
1 甲は、A店舗内の棚に展示してあったフィギュア2個を持ち去り、その逃走過程においてBに傷害を負わせた行為について、事後強盗致傷罪(240条前段、238条)の罪責を負わないか。
2(1) まず、甲が、「強盗」(240条前段)といえるか、238条所定の要件を検討する。
ア 甲は、「他人の財物」(235条)であるフィギュア2個を、着ていたジャケットのポケットに入れて、代金を支払わずに店外の駐車場に向かっており、占有者の意思に反して財物の占有を自己に移転したといえるから、「窃取した」(同条)といえる。
また、構成要件的故意(38条1項本文)及び不法領得の意思も問題なく認められる。
以上より、甲は、「窃盗」にあたる。
イ 次に、事後強盗罪は、強盗罪として論じるから、窃盗の機会中に行われる必要がある。窃盗の機会中であるかは、被害者等から容易に発見され、財物を取り返され、あるいは逮捕され得る状況が継続しているかによって、決する。
本件では、Bは、甲を追跡しており、甲は、依然として安全圏に脱したとはいえないから、窃盗の機会中である。
ウ 次に、「暴行」とは、客観的に相手方の反抗を抑圧するに足りる程度である必要があるところ、甲は、走行中の車に20メートル引きずられているBを、車外に突き落としている。かかる行為はアスファルトに頭部を強打する等して大怪我を負うリスクもあり、危険性は高く、客観的に相手方の反抗を抑圧するに足りるものであるから、「暴行」といえる。
エ 次に、甲は、車で待っていた乙に対して、「万引きがばれて追われている。早く逃げたいから急いで発進してくれ。」と告げており、「逮捕を免れ」る意図がある。
オ 構成要件的故意及び不法領得の意思も問題なく認められる。
カ 以上より、事後強盗罪の構成要件を満たすから、甲は、「強盗」といえる。
(2) 次に、Bは、上記暴行によって、加療7日間を要する傷害を負っているから、「強盗」である甲が、「人を負傷させた」といえる。
3 以上より、甲は、事後強盗致傷罪の罪責を負い、後述のとおり、乙と共同正犯(60条)となる。
第2 乙の罪責
1 乙は、事後強盗致傷罪の共同正犯の罪責を負わないか。乙は、甲から万引きをした旨の報告を受けて初めて甲が万引きを犯したことを知り、甲の依頼に基づき車を発進させ、Bを振り落とそうとした時点で初めて甲乙間で共謀が成立しているところ、乙は、窃盗後に初めて犯行に加担していることになるから、窃盗部分も含めて罪責を負うか、事後強盗罪の法的性質も併せて問題となる。
2 たしかに、事後強盗罪の実行の着手時期が暴行・脅迫の開始時点に求められることを根拠に、同罪の実行行為は、暴行・脅迫のみであって、「窃盗」は身分と解すべきという立場も存在する(身分犯説)。もっとも、事後強盗罪の既遂・未遂は、窃盗の既遂・未遂によって決するところ、身分によって既遂・未遂を決するというのは不自然である上、財産犯である以上、窃盗行為を同罪の実行行為から排除するべきではないから、事後強盗罪の実行行為は、窃盗行為及び暴行・脅迫行為の双方であると解すべきである(統合犯説)。この見解からは、窃盗後に反抗に加担した者は、事後強盗罪の途中から加担したことになるから、承継的共同正犯の成立が認められなければならない。
3(1) 共同正犯の処罰根拠は、結果に対して因果性を与えたことにあるから、実行行為に途中から加担した者であっても、結果に対して因果性を有する限り、承継的共同正犯が成立すると解する。
(2) 本件において、上述のとおり、甲乙間で逃走することについて共謀が成立し、Bが車にしがみついている状況であるにもかかわらず、乙が車を発進し振り落とそうとしたことによって、上述の甲の「暴行」が容易になったのであり、ひいては、Bが傷害を負っている。
(3) したがって、乙は、Bの傷害結果に因果性を有しており、承継的共同正犯が成立する。
4 以上より、乙は、事後強盗致傷罪の共同正犯の罪責を負う。
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