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令和9年(1期)日大ロー参考答案例

2026年9月23日

参考答案, 法科大学院

1 憲法

1 本件取扱いは、労働者災害補償保険法施行規則別表第1の障害等級表において、外ぼうの醜状障害について男女間で等級に大きな差(女性:第7級・第12級、男性:第12級・第14級)を設けるものである。かかる区別は憲法14条1項に反して違憲ではないか。

2 憲法14条1項にいう「平等」とは絶対的平等ではなく、同一の事情・条件の下では均等に取り扱うことを求める相対的平等を意味する。したがって、事情・条件を同じくする者の間に合理的な理由のない差別的取扱いをすることは、14条1項に反し違憲となる。

3 判例では区別の基礎が重要な法的地位に基づくものである場合や自己の努力によっていかんともし難い事項による場合には、審査密度を厳格にしている。そうすると、合理的な理由の有無は、区別事由の性質、区別される権利利益の重要性、規制の態様等を総合的に考慮して決すべきである。

4 本件区別が関わる労災保険の障害補償給付は、業務上の負傷により身体に障害を負った労働者及びその家族の生存・生活の基盤を支える給付であり、憲法25条の趣旨にも関わる重要な権利利益である。また、本件区別は、性別という14条1項後段列挙事由による区別である。性別は、自らの意思や努力によって変更することができない事柄であり、かつ歴史的に不合理な差別が繰り返されてきた事由である。したがって、性別に基づく区別は、それ自体が個人の尊厳を害するおそれの大きい区別として、その合理性は慎重に審査されなければならない。

以上より、本件取扱いについては、①目的が重要なものであり、かつ②目的と手段との間に実質的関連性が認められる場合に限り合憲となる。

5⑴ 本件取扱いの目的は、外ぼうの醜状障害が第三者に与える嫌悪感、障害を負った本人が受ける精神的苦痛、これらに起因する就労機会の制約の程度について、女性の方が男性より大きいという事実的・実質的差異を踏まえ、女性を手厚く保護する点にあると解される。実務的にも交通事故の裁判例上、女性の外見の障害の方が損害賠償額が高くなる傾向があること、国勢調査の結果では就労機会の確保という点でも外見に障害を抱えた女性の方が男性に比して就労が困難になっていること、に鑑みれば、就労機会の制約という不利益を実質的に補填するという目的自体は重要なものといえる。

⑵ 他方、上記国勢調査の結果は、あくまで職業小分類ごとの雇用者数という集団的・統計的傾向を示すものにすぎず、個々の被災労働者が現実に被る不利益の程度を正確に反映するものではない。加えて、採用する職業小分類によって差の程度は区々であるとされており、データの示す差異にはばらつきがある。かかる大まかな統計的知見のみを根拠に、一律に5級もの大きな等級差を設けることは、必要性、相当性を欠く。

5 よって、本件取扱いは実質的関連性を欠くものであるから、憲法14条1項に反して違憲である。

2 民法

第1 設問1

1 小問⑴

⑴ Aは、Cに対し、本件代金債務についての連帯保証契約に基づき1000万円の支払を請求している。

かかる請求は認められるためには①主債務の存在、②AC間の保証契約、③要式性が必要である。AB間で宝飾品甲を1000万円で売買しており(①)、AとCの間で①を連帯保証する旨の合意をした上で、連帯保証契約書が作成されている(②、③)。

したがって、AのCに対する請求が認められるのが原則である。

⑵ これに対し、Cは、保証人が2人いるため、Cが負う保証債務の額は500万円であると主張しているが、かかる反論は認められるか。

数人の保証人がある場合、各保証人は、原則として主たる債務の額をその人数で除した額についてのみ保証債務を負う(456条、427条)。すなわち、共同保証人には分別の利益が認められる。

⑶ もっとも、本件では、C及びDは、Bの委託を受け、本件代金債務についてAとの間で連帯保証する旨を合意している。連帯保証人には分別の利益が認められず、各連帯保証人は主たる債務の全額について保証債務を負う。

したがって、CとDとの内部的な負担部分が各500万円であるとしても、CがAに対して負う保証債務が500万円に限定されるものではない。

⑷ よって、Aは、Cに対し、1000万円全額を請求することができる。

2 小問⑵

⑴ Cは、Aが甲を引き渡すまでは、本件代金債務についての保証債務の履行を拒むことができると主張することが考えられる。

 双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる(533条本文)。

 本件では、AとBとの間で、甲の引渡しは令和8年5月10日に本件代金債務の支払と引換えに行うとの約定がされている。したがって、Aが甲を引き渡していない以上、Bは、533条本文に基づき、本件代金債務の履行を拒むことができる。そして、保証人は、主たる債務者が主張することのできる抗弁をもって債権者に対抗することができる(457条1項)。

したがって、CもBの有する同時履行の抗弁をもってAに対抗することができる。

⑵ よって、CはAの請求に対し、Aが甲の引渡しをするまで1000万円の支払を拒むことができると主張することができる。

第2 設問2

1 小問⑴

Cは、本件代金債務についての保証債務の履行としてAに300万円を支払っている。そこで、CのBに対する求償請求が認められるか(459条の2第1項)。

委託を受けた保証人が弁済その他自己の財産をもって主たる債務を消滅させる行為をした場合、その保証人は、主たる債務者に対して求償権を有する(459条の2第1項)。

本件では、CはBの委託を受けて本件代金債務を保証しており、保証債務の履行としてAに300万円を支払った。その結果、BのAに対する本件代金債務も300万円の限度で消滅している。

したがって、CはBに対し、300万円を求償することができる。

2 小問⑵

次に、CのDに対する求償請求が認められるか。

数人の保証人がある場合に、そのうちの一人の保証人が自己の負担部分を超える額を弁済したときは、他の保証人に対して求償することができる(465条1項、442条)。

本件では、C及びDはいずれも本件代金債務について連帯保証をしており、CとDとの負担割合は1対1である。そのため、本件代金債務1000万円について、C及びDの内部的な負担部分はそれぞれ500万円となる。

しかし、CがAに支払ったのは300万円にとどまるから、Cは自己の負担部分である500万円を超える弁済をしていない。

したがって、CのDに対する求償請求は認められない。

第3 設問3

AのBに対する本件代金債務1000万円の支払請求が認められるか。Bは、Aに対する本件貸金債権800万円を自働債権として相殺する旨の意思表示をしているため、その相殺の成否が問題となる。

1 相殺の主張が認められるためには、①二人が互いに同種の目的を有する債務を負担すること、②双方の債務が弁済期にあること、③相殺の意思表示をしたこと、が必要である(505条1項本文)。

本件では、本件代金債権及び本件貸金債権はいずれも金銭債権である(①)。

また、本件貸金債権の弁済期は令和2年10月31日であるのに対し、本件代金債権の弁済期は令和8年5月10日である(②)。そして、 BはAに対して相殺をする旨の意思表示をしている(③)

したがって、Bの相殺の主張は認められるとも思える。

2 もっとも、本件貸金債権について消滅時効が完成していることから、508条を適用してこれを自働債権として相殺することができるか。

⑴ 同条の趣旨は、当事者の相殺に対する期待の保護にあるところ、この趣旨に照らし同条が適用されるためには、消滅時効が援用された自働債権がその消滅時効期間経過前に受働債権と相殺適状にあったことを要し、そのためには同期間経過前に、受働債権の弁済期が現実に到来していたことを要する(最判平成25・2・28民集67巻2号343頁)

⑵ 債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないときは、時効によって消滅する(166条1項1号)。

本件貸金債権は令和2年8月1日に発生し、その弁済期は同年10月31日であるから、Bは同日には同債権を行使することができることを知っていたといえる。

したがって、令和7年10月31日の経過によって5年間の時効期間が経過している。

他方、本件代金債権の弁済期は令和8年5月10日であり、本件貸金債権について時効期間が経過した時点では、受働債権の弁済期が現実に到来しておらず、両債権はいまだ相殺適状にはなかった。

したがって、508条によって相殺することはできない。

よって、AのBに対する本件代金債務の支払請求は認められる。

3 刑法

第1 Aを突き飛ばした行為

1 甲が、Aの胸を両手で突き飛ばして転倒させた行為について、暴行罪(208条)が成立しないか。

暴行とは、人の身体に対する不法な有形力の行使をいう。甲は、Aの胸を両手で突き飛ばして転倒させているから、「暴行」に当たる。したがって、暴行罪の構成要件に該当する。

2 もっとも、甲は、Aから「土下座しろ。」と言われて首を強くつかまれたことから、これに対抗するため上記行為に及んでいる。そこで、正当防衛(36条1項)が成立し、違法性が阻却されないか。

「急迫不正の侵害」とは、違法な法益侵害が現に存在し又は間近に押し迫っていることをいう。本件では、Aは甲の首を強くつかんでいるから、甲の身体に対する急迫不正の侵害が認められる。

また、「自己又は他人の権利を防衛するため」とは、防衛の意思をもって行為することをいう。甲はAから首を強くつかまれたことに腹を立てているものの、これを振りほどくためにAを突き飛ばしているから、防衛の意思も認められる。

さらに、「やむを得ずにした行為」とは、防衛行為として必要かつ相当な行為をいう。甲は、Aに首を強くつかまれているのを振りほどくため、素手でAの胸を突き飛ばしたにすぎない。侵害の態様と防衛行為の態様を比較すれば、必要性・相当性が認められる。

したがって、甲の行為には正当防衛が成立し、暴行罪は成立しない。

第2 Bの自転車を使用した行為

1 甲が、コンビニエンスストアの出入口前に停められていたB所有の無施錠の自転車に乗って逃げ、その後、自宅近くの公園に放置した行為について、窃盗罪(235条)が成立しないか。

窃盗罪の「窃取」とは、他人の占有する財物を、その占有者の意思に反して自己又は第三者の占有に移転することをいう。

本件自転車はB所有の「他人の財物」である。また、Bは買物中であったにすぎず、自転車は店舗出入口前に停められていたから、Bの占有はいまだ失われていない。

そして、甲は、Bの意思に反して自転車に乗ってその場から離れているから、Bの占有を排除して自己の占有に移転しており、「窃取」が認められる。

2 もっとも、窃盗罪が成立するためには、不法領得の意思を要する。不法領得の意思とは、権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い利用・処分する意思をいう。

本件では、甲はAに追いかけられて刺されると思い、Aから逃げるために自転車を使用したものであり、当初から自転車を自己の所有物として恒久的に取得する意思があったわけではない。

しかし、権利者排除意思は永久的に権利者を排除する意思まで必要とするものではなく、他人の物を相当程度の時間・距離にわたり権利者の支配を排除して利用する意思があれば足りると解する。

甲は、Bに無断で自転車に乗ってコンビニエンスストアから自宅付近まで移動し、その後もBに返還することなく公園に放置している。これは、自転車という財物について、その本来的な経済的用法である移動手段として利用するとともに、相当程度Bの支配を排除する意思に基づくものといえる。

したがって、不法領得の意思も認められる。また、故意に欠けるところはない。

よって、甲にはBの自転車について窃盗罪の構成要件に該当する。

3 もっとも、甲はAから刺されることを避けるために本件自転車を使用しているため、緊急避難(37条1項)が成立しないか。

Aは、刃体約8センチメートルの折り畳みナイフを取り出して甲を追いかけているため、甲の生命・身体に対する「現在の危難」が認められる。また、甲はAから逃げるために本件自転車を使用しており、他に容易な逃走手段があった事情もないから、「やむを得ずにした行為」といえる。

そして、甲が避けようとした生命・身体への侵害に比べ、本件自転車を一時的に使用することによる財産的侵害は小さいため、法益権衡も認められる。

したがって、甲の行為には緊急避難が成立し、違法性が阻却される。

第3 Aを包丁で刺した行為

1 甲がAの左側胸部を包丁で1回強く突き刺した行為について、殺人罪(199条)が成立しないか。

殺人罪の実行行為とは、人の死亡結果を生じさせる現実的危険性を有する行為をいう。

甲は、刃体の長さ約14センチメートルの包丁を用いて、人体の枢要部であるAの左側胸部を1回強く突き刺している。この行為はAを死亡させる現実的危険性を有するから、殺人罪の実行行為に当たる。当該行為によりAは死亡した。

また、甲は「Aが攻撃しようとしてきたら刺してやろう」と考えて包丁を持ち出し、実際に殺意をもってAを刺しているから、殺人罪の故意も認められる。

したがって、甲には殺人罪の構成要件に該当する。

2 もっとも、甲は、折り畳みナイフを刃を開いた状態で右手に持って立っていたAが、同ナイフを持ったまま駆け寄ってきたため、Aを刺している。そこで、正当防衛(36条1項)が成立しないか。

侵害を予期していたというだけで直ちに急迫性が否定されるものではない。もっとも、侵害を予期した上で、その機会を利用して積極的に相手方を加害する意思で侵害状況に臨んだ場合には、もはや急迫不正の侵害から自己を防衛する状況とはいえず、正当防衛を認める前提を欠くと解する(平成29年決定参照)。

本件で甲は、Aから脅迫を受けた後、A宅へ行くことをいったん躊躇していたにもかかわらず、「Aが攻撃しようとしてきたら刺してやろう」と考え、刃体約14センチメートルの包丁を隠し持って自らA宅の外まで赴いている。また、一度Aから攻撃されていることからすれば、もう一度Aと対峙すればAから再度攻撃を受けることは容易に予測できるはずであり、包丁を持ち出してあえてAと対峙する必要性はなかった。さらに、Aは一度自宅に帰っており、Aからの追撃を免れていることからすれば警察に通報したり救助を求めたりする余裕は十分にあったといえる。

このことからすれば、甲はAによる攻撃を予期した上で、これを機会としてAを積極的に加害する意思で侵害状況に臨んだものといえる。

したがって、Aの攻撃について正当防衛における「急迫性」は認められず、正当防衛は成立しない。

よって、甲にはAに対する殺人罪が成立する。

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