憲法

第1 小問1
1 規則違憲
Xは、中央図書館長によるAの著書の閲覧禁止措置(以下「本件措置」という。)が、憲法21条1項の保障する閲覧の自由・知る自由を侵害すると主張する。
情報の受領は、個人の人格形成に資するとともに、民主政における政治的意思形成や、自ら表現活動を行うための前提となる。そこで、21条1項は、表現の自由に加え、情報を受領する自由も保障すると解する。
もっとも、同項から直ちに公立図書館に特定の資料の収集・提供を求める具体的請求権が導かれるわけではない。しかし、公立図書館は、住民に様々な思想・意見・情報を含む資料を提供し、その教養や調査研究に資する公的な場である。その性格上、所蔵資料は原則として公開されるべきであり、その内容に着目した閲覧拒否は、知る自由を制約する。
Xは、地域政治について継続的に情報を発信しており、Aについて文章を執筆するために閲覧を求めている。その閲覧は政治的表現活動の前提であり、調査・発信活動は23条の保障する学問の自由に類する性格も有する。また、本件著書は廃刊・回収によって入手困難である。
したがって、資料の利用制限を認める規則及びこれに基づく本件措置は、Xの知る自由を制約する。
2 ⑴ 形式的正当化(明確性・過度の広範性)
明確性の原則に反するか否かは通常の判断能力を有する一般人の理解において、当該適用場面を読み取ることができるかどうかで判断すべきである。
本件規則は、通常の判断能力を有する一般人の理解において、その文言からして図書館長の主観的な判断で如何様にも利用方法を制限できてしまうと解釈できてしまうため、通常の判断能力を有する一般人の理解において、その適用場面を読み取ることができない。
よって、本件規則は明確性の原則に反して21条1項に反して違憲である。
⑵ 実質的正当化
知る自由は、人格形成及び民主政における意思形成の基礎となる重要な自由である。特にXのような者が政治研究目的でAの著書を閲読することは学問研究の自由とも捉えうるため、非常に重要な自由といえる。
確かに、図書館資料の管理・利用には専門的判断の余地があるが、上記したような漠然不明確した文言で資料の内容を理由とする閲覧禁止を広く認めれば、行政の思想・意見に対する評価によって情報の受領が妨げられるため、上記自由に対する制約は強度であると言わざるを得ない。
以上から、重要な自由が強度に制約されているため、当該規則の合憲性は、その目的が重要であり、制限を認める手段と目的との間に実質的関連性があるかによって判断すべきである。
規則には、資料を適切に管理するとともに、その利用による他者の権利・利益の侵害を防ぐ目的があると考えられ、これらの目的は重要である。
しかし、「特に必要」という理由だけで広く閲覧禁止を認めるなら、具体的な権利侵害のおそれがない資料や、利用方法の調整によって弊害を防げる資料についても、内容への個人的な否定的評価のみで閲覧を拒むことができてしまう。このような手段は、上記目的の達成に相当なものとはいえず、実質的関連性を欠く。
したがって、広範な閲覧禁止を許容する規則は、21条1項に反すると主張できる。
3 適用違憲
仮に規則自体を違憲としないとしても、その適用範囲は限定すべきである。
本件規則の適用により重要な権利が強度に制約されているため、その合憲性は慎重に判断すべきである。具体的には、内容を理由とする閲覧禁止について、「特に必要と認めた資料」とは、図書館管理者の主観で判断できる者ではなく、名誉・プライバシー侵害や刑罰法規違反などにより、その利用によって具体的な法益侵害が差し迫って生じるおそれが客観的に認められる資料に限られると解すべきである。
本件では、Aは街宣活動について勧告・氏名公表の対象となったにとどまり、本件著書について名誉・プライバシー侵害や刑罰法規違反が認められた事情はない。公共の場所で差別的言動を行うことと、その言動を調査するために過去の著書を閲覧することは異なる。また、Xは地域政治の調査・執筆という目的を有し、差別を助長するために利用する事情はない。館内閲覧への限定や複写制限などでは弊害を防げない事情も示されていない。さらに、研究者等には閲覧を認めているところ、Xの調査・発信活動も、その実質から「研究者に類する者」による研究目的の利用と評価できる。大学等への所属のみを重視してXを区別する合理性は乏しい。
したがって、本件著書は名誉・プライバシー侵害や刑罰法規違反などその利用によって具体的な法益侵害が差し迫って生じるおそれがあるとはいえず、「特に必要と認めた資料」には当たらない。
以上より、本件著書は上記要件に該当せず、本件措置は21条1項に反すると主張できる。
ご提示の小問1に続く形で、小問2を修正しました。規則自体は合憲限定解釈によって合憲と解し得るものの、本件措置は限定された要件を満たさず違憲である。
第2 小問2
1 規則違憲について
⑴ 形式的正当化
Y市は、図書館資料の管理・利用には専門的判断が必要であり、規則が制限事由をすべて列挙することは困難であると反論する。また、「特に必要と認めた資料」という文言も、図書館の設置目的や、名誉・プライバシー侵害、刑罰法規違反を理由として閲覧を制限してきた先例を踏まえれば、その適用場面を理解でき、不明確ではないと主張する。
知る自由の重要性と所蔵資料の原則公開を踏まえ、内容を理由とする閲覧禁止については、「特に必要と認めた資料」を、その利用によって具体的な法益侵害が差し迫って生じるおそれが客観的に認められる資料に限定して解釈すべきである。
名誉・プライバシー侵害や刑罰法規違反を理由とする従前の事例も、この解釈の手掛かりとなる。このように解すれば、通常の判断能力を有する一般人において、具体的な法益侵害の危険を防止するために制限されることを理解でき、図書館長の個人的な否定的評価のみでは制限できないことも明らかとなる。
したがって、規則は明確性の原則に反せず、その適用範囲も過度に広範とはいえない。
⑵ 実質的正当化
Y市は、規則の目的は資料の適切な管理と、その利用による他者の権利・利益の侵害の防止にあり、いずれも重要であると反論する。また、資料の性質に応じて専門的判断に基づく利用制限を認めることは、これらの目的と実質的に関連すると主張する。
しかし、知る自由は人格形成及び民主政における意思形成の基礎となり、政治的表現や研究活動の前提にもなる重要な自由である。内容に着目した閲覧禁止を広く認めれば、行政の思想・意見に対する評価によって情報へのアクセスが妨げられ、その制約は強度となる。
そこで、規則の合憲性は、目的が重要であり、制限を認める手段と目的との間に実質的関連性があるかによって判断する。
資料の適切な管理と他者の権利・利益の侵害防止という目的は重要である。
他方、図書館長が必要と判断しただけで広く閲覧禁止を認めるなら、具体的な弊害のない資料まで制限でき、手段と目的との実質的関連性を欠くようにも思える。もっとも、前述のとおり、内容を理由とする閲覧禁止の対象を、利用によって具体的な法益侵害が差し迫って生じるおそれが客観的に認められる資料に限定すれば、制限は単なる思想・意見への否定的評価ではなく、具体的な権利・利益の保護に結び付く。また、規則は「利用方法」の制限を認めるものであるから、制限の内容も、その危険を防止するために必要な範囲にとどめるべきである。したがって、当該規則は目的との間で相当性を有する。
したがって、規則は実質的関連性を有するため、21条1項に反せず合憲である。
2 適用違憲について
⑴ Y市側の反論
Y市は、本件著書に、合憲である条例に基づく勧告対象の発言とほぼ同様の記述が含まれることから、閲覧やそれに基づく発信を認めれば、差別的表現の流布を図書館が助長するおそれがあると反論する。特に、Xには多数のフォロワーがいるため、閲覧後にその内容が広く拡散し、外国にルーツを有する住民の人格的利益が害される危険があり、「特に必要と認めた資料」にあたると主張する。
⑵ 限定解釈後の要件への該当性
本件措置については、本件著書が、合憲限定解釈後の「特に必要と認めた資料」に該当するかを判断する。
確かに、本件著書には勧告対象の発言と同趣旨の記述があり、その内容が広く流布する可能性は否定できない。しかし、条例が禁止する公共の場所での差別的言動と、その言動を調査するために過去の資料を閲覧することとは異なる。条例の合憲性から、同趣旨の記述を含む著書の閲覧禁止まで当然に正当化されるものではない。
また、Aは街宣活動について勧告・氏名公表の対象となったにとどまる。本件著書について、名誉・プライバシー侵害や刑罰法規違反が認められた事情はなく、従前の閲覧制限事例と同様の危険が存在するとは直ちにいえない。
さらに、Xは地域政治について継続的に調査・発信しており、Aについて文章を執筆するために閲覧を求めている。その内容を批判的に検討するための利用も考えられ、差別を助長する目的で利用する事情は示されていない。多数のフォロワーがいることだけでは、閲覧によって具体的な法益侵害が差し迫って生じるおそれが客観的に認められるとはいえない。
研究者等には閲覧を認めていることも重要である。Xの活動は、資料を調査して成果を公表する点で研究者の活動と共通し、学問の自由に類する性格を有する。大学等への所属の有無だけで区別せず、「研究者に類する者」による研究目的の利用として、その実質を評価すべきである。
加えて、本件著書は入手困難であり、閲覧禁止によるXの調査・発信への支障は大きい。他方、仮に流布による弊害が懸念されるとしても、館内閲覧への限定や複写制限などでは対応できず、閲覧そのものの禁止を必要とする事情は示されていない。
以上から、本件著書の利用によって、具体的な法益侵害が差し迫って生じるおそれが客観的に認められるとはいえず、限定解釈後の「特に必要と認めた資料」には該当しない。
(3) 以上より、本件措置は21条1項に反して違憲である。
民法
第1 民法第1問
1 設問⑴
⑴ 請求の根拠
Cは、自己の抵当権に基づく妨害排除請求として、Aに対し、本件登記の抹消登記手続を請求する。
登記された先順位抵当権が存在しない場合、その登記は後順位抵当権者の優先弁済権の実現を妨げるため、後順位抵当権者はその抹消を請求できる。そこで、AのBに対する貸付けが目的外の行為として無効となり、被担保債権及び抵当権が存在しないといえるかが問題となる。
⑵ Aの権利能力の範囲
法人は、定款等に定められた目的の範囲内で権利を有し、義務を負う(民法34条。以下法令名略。)。したがって、目的の範囲外の行為は、法人の権利能力を欠き無効となる。
もっとも、目的の範囲を厳格に解すると、法人の活動や取引の安全を害する。そこで、「目的の範囲内」には、定款等に明示された目的そのものだけでなく、その目的を遂行するために直接又は間接に必要な行為も含まれる。その必要性は、行為者の具体的な意図ではなく、行為の性質から客観的・抽象的に判断すべきである。特に、株式会社という営利法人については、その活動の多様性を踏まえ、目的の範囲を広く解すべきである。
Aの目的は書籍の出版及び販売であり、貸金業そのものは明示された目的ではない。しかし、BはAの取引先である印刷会社であり、Bへの事業資金の貸付けは、その事業の維持を通じて、Aの出版事業に必要な印刷業務や取引関係を確保する行為と評価できる。
Aの代表者がBの代表者から懇願されたという事情があっても、必要性は客観的・抽象的に判断されるため、それだけで目的外の行為とはならない。
したがって、本件貸付けはAの目的の範囲内の行為であり、有効である。
⑶ 無効を主張できる者と結論
仮に目的外の行為であれば、その無効は権利能力の欠如によるものであり、契約当事者以外の者も主張できる。Cも、後順位抵当権者として、先順位抵当権の存否について法律上の利害関係を有するため、その無効を主張すること自体は可能である。
しかし、本件貸付けは有効であり、Cの主張によって本件債権及びこれを担保する抵当権の不存在を認めることはできない。
よって、本件請求は認められない。
2 設問⑵
⑴ 消滅時効の期間
本件債権が時効により消滅するには、時効期間が経過し、援用がされることを要する(166条1項、145条)。
本件貸付けの弁済期は、2021年1月17日の1年後である2022年1月17日である。期限到来前は権利を行使できないため、貸付時から時効が進行するものではない。
166条1項1号の「権利を行使することができることを知った時」とは、債権者が権利行使可能な状態にあることを認識した時をいう。弁済期が暦日によって確定している場合、債権者は原則として、その到来時に権利を行使できることを知る。
Aは弁済期を認識しているから、その到来時から5年の期間が進行する。本件請求がされた2030年4月2日には、既に5年が経過している。
したがって、時効の完成猶予・更新等の事情がない限り、166条1項1号の時効期間は満了している。
⑵ C自身による援用
では、Cは145条の「権利の消滅について正当な利益を有する者」に当たるか。
この点、「権利の消滅について正当な利益を有する者」とは時効によって直接的な利益を受ける者に限定すべきと解する。
本件において、Cは後順位抵当権者にあたるところ、先順位抵当権の被担保債権が消滅すると、後順位抵当権者の順位が上昇し、配当額が増加する可能性がある。しかし、その利益は順位上昇による反射的な利益にすぎない。時効を援用できなくても、従前の順位に従って優先弁済を受ける地位自体が害されるわけではない。
したがって、Cは、正当な利益を有する者に当たらず、自ら本件債権の消滅時効を援用できない。
⑶ Bの援用権の代位行使
もっとも、CはBに対する1000万円の貸金債権を有するため、423条に基づき、Bの時効援用権を代位行使できないか。
債権者代位権の行使には、被保全債権の存在、保全の必要性、債務者の権利不行使等を要する。金銭債権を保全する場合、保全の必要性は、原則として債務者の無資力によって判断される。また、被保全債権の期限到来前には、保存行為を除き代位行使できない(423条2項)。
時効援用権は、債務者の負担を消滅させて責任財産を保全するために代位行使できる権利であり、一身専属権には当たらない。
本件では、Cの貸金債権は存在するが、弁済期やBの資力は明らかでない。また、甲土地に抵当権が設定されているというだけでは、Cの債権が十分に担保されているかも不明である。
そこで、Cの債権が弁済期にあり、担保によっても十分な回収が確保されず、Bが無資力であるにもかかわらず時効を援用しない場合には、Cは自己の債権を保全するため、Bの援用権を代位行使できる。
これに対し、Bに十分な資力がある場合や、Cの債権が十分に担保されている場合には、保全の必要性を欠く。また、Cの債権が弁済期に達していない場合も、本件の援用権行使は単なる保存行為とはいえず、原則として代位行使できない。
⑷ 抹消登記請求
代位援用が認められる場合、本件債権は時効により消滅し、抵当権も付従性によって消滅する。
Cは、Bの所有権に基づく本件登記の抹消請求権を代位行使することができ、また、自己の抵当権に基づく妨害排除請求としても本件登記の抹消を求められる。
したがって、上記の代位行使の要件を満たす場合には本件請求は認められ、これを満たさない場合には認められない。
第2 民法第2問
1 設問⑴
⑴ 防音室の所有権
防音室の所有権がBに帰属するか、242条の付合が問題となる。
不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。ただし、権原によってその物を附属させた他人の権利は妨げられない(同条ただし書)。
付合の成否は、分離による損傷や分離に要する費用などの物理的・経済的な結合の程度に加え、附属部分が独立した所有権の客体となり得るかを考慮して判断する。権原に基づいて附属させた場合でも、附属部分が不動産の構成部分となり、独立性を失ったときは、ただし書によって別個の所有権を維持することはできない。
Aは、賃借権とBの承諾に基づいて防音室を設置しており、附属させる権原を有する。しかし、防音室は甲建物のリビング内に設置された3畳の部屋であり、直接屋外に出られず、撤去には過大な費用がかかる。その構造と分離の困難さから、独立した物ではなく、甲建物の構成部分となったと評価できる。
したがって、防音室は甲建物に付合し、その所有権はBに帰属する。
⑵ 費用償還請求
AはBに対し、608条2項に基づく有益費償還請求をすることが考えられる。
有益費とは、賃借物の客観的価値を増加させるために支出された費用をいう。賃借人が有益費を支出した場合、賃貸人は、賃貸借終了時に、196条2項に従って償還しなければならない。
防音室の設置はAの楽器演奏のためであり、甲建物の保存に必要な費用とはいえない。他方、その設置によって甲建物の資産価値が50万円増加しているから、設置費用100万円は有益費に当たる。
賃貸借は期間満了によって終了し、価値の増加も現存するため、償還請求の要件を満たす。
もっとも、償還額は、Bの選択に従い、支出額100万円又は増価額50万円となる(196条2項)。Bの設置承諾だけで、100万円全額を負担する合意があったとはいえない。
したがって、Aには有益費償還請求権が認められるが、100万円全額の支払が当然に認められるわけではない。Bが増価額を選択した場合、請求は50万円の限度で認められる。
2 設問⑵
⑴ 相続開始後の賃料債権の帰属
Dは、遺産分割によって甲建物を取得したことから、909条本文の遡及効により、相続開始後の賃料180万円も自己に帰属すると主張する。
しかし、相続によって承継される遺産は、原則として相続開始時に被相続人に帰属していた財産である。相続開始後に発生する賃料債権は、被相続人が有していた財産そのものではない。
相続人が数人ある場合、相続開始から遺産分割までの間、遺産は共同相続人の共有に属する(898条1項)。この間に遺産中の不動産から発生する賃料債権は、共有財産から生じた法定果実であり、遺産とは別個の財産として、各共同相続人が相続分に応じた分割単独債権として確定的に取得する。
本件では、特段の事情がない限り、Bの子であるD・Eの相続分は各2分の1である(900条4号)。したがって、賃料180万円のうち、D・Eが取得する額は各90万円となる。
⑵ 遺産分割の遡及効
909条本文は、遺産分割が相続開始時に遡って効力を生ずると定める。しかし、この遡及効によって、各共同相続人が既に分割単独債権として確定的に取得した、遺産とは別個の賃料債権の帰属まで変更されるものではない。
したがって、Dが甲建物を取得したことにより、Eに帰属する賃料90万円までDに帰属することにはならない。
⑶ Eに対する支払請求
Eは賃料180万円全額を受領しているが、そのうち自己に帰属するのは90万円である。Dに帰属する90万円をEが保持する法律上の原因はない。
本件では、Eが共同相続人の賃料をまとめて受領・管理したものと解され、Dは、自己に帰属する90万円について精算を求めることができる。また、Eがこれを自己の利益として保持する場合には、703条に基づく不当利得返還請求が認められる。現金は金庫に保管されているから、利益も現存する。
よって、Dの請求は180万円全額については認められず、90万円の限度で認められる。
民事訴訟法
第1 設問⑴
1 問題の所在
裁判所は、Y1に占有権原がなく、甲土地の不法占有を継続していると判断している。したがって、口頭弁論終結時までに発生した賃料相当額の損害賠償請求は認容される。
他方、口頭弁論終結後から明渡しまでの損害金は、将来発生する債権である。そこで、この部分について、将来の給付の訴えの請求適格及び訴えの利益が認められるかが問題となる。
2 将来の給付の訴えの請求適格
⑴ 判断枠組み
将来の給付を求める訴えは、あらかじめ請求する必要がある場合に限り提起できる(民事訴訟法135条。以下、法律名を省略する。)。
もっとも、将来発生する債権は、その発生や内容が不確定であるため、あらかじめ請求する必要があるだけでなく、将来給付を求める請求としての適格を有することを要する。
大阪国際空港事件判決(最大判昭和56年12月16日)の法理によれば、①請求権の基礎となる事実関係及び法律関係が既に存在し、その継続が予測され、②請求権の発生・消滅及び内容について、被告に有利な将来の事情変更が、あらかじめ明確に予測できる事由に限られ、③その事情変更を請求異議の訴えによって主張立証して強制執行を阻止する負担を被告に課しても、格別不当でない場合に、請求適格が認められる。
⑵ 本件では、Y1が甲土地を不法に占有しており、賃料相当額の損害を発生させる事実関係及び法律関係が既に存在する。また、Y1は契約更新による占有権原を主張して明渡しを拒んでいるから、不法占有と損害の継続が予測される。
将来、損害賠償義務を消滅させる事情としては、甲土地の明渡しなどが考えられる。これはあらかじめ明確に予測でき、Y1自身が把握して容易に立証できる事由である。また、損害額も甲土地の賃料相当額を基礎として定まるものであり、明渡しまでの継続的な損害を予測して判断することができる。
そのため、Y1に有利な事情変更について、請求異議の訴えによる主張立証の負担を課しても、格別不当とはいえない。
したがって、明渡しまでの賃料相当額の損害賠償請求は、将来給付の請求適格を有する。
3 あらかじめ請求する必要性
「あらかじめその請求をする必要がある場合」とは、履行期が到来しても任意の履行が期待できないなど、将来の給付についてあらかじめ債務名義を取得する必要がある場合をいう。
Y1は、契約更新による占有権原を主張し、損害賠償請求も争っている。そのため、将来発生する損害金について任意の履行は期待できない。また、Xに損害が発生するたびに訴えを提起させることは、紛争の効率的な解決に反する。
したがって、あらかじめ請求する必要も認められる。
4 よって、裁判所は、口頭弁論終結時までの既発生の損害金に加え、その後の甲土地の明渡済みまで、認定した賃料相当額の割合による金員の支払を命ずる請求認容判決を出すことになる。
第2 設問⑵
1 共同訴訟の性質
XのY1に対する請求とY2に対する請求は、甲土地の所有権及びその占有関係という共通の事実関係に基づき、併合して提起できる(38条)。しかし、各請求は個別に判断でき、全員について合一に確定する必要はない。したがって、本件は通常共同訴訟であり、共同訴訟人独立の原則が適用される(39条)。
2 主張共通の原則
通常共同訴訟では、共同訴訟人の一人の訴訟行為は、他の共同訴訟人に影響を及ぼさない。各共同訴訟人の手続上の独立性を保障するため、一人の主張を当然に他の共同訴訟人の主張として扱うことはできず、主張共通は認められない。
したがって、Y1が本件土地賃貸借契約の更新を主張しても、その主張は当然にはY2とXとの訴訟関係に及ばない。
Y2がY1の土地賃借権を基礎とする占有権原を主張するには、自ら更新の事実を主張し、又はY1の主張を援用する必要がある。しかし、Y2は答弁書を提出せず、口頭弁論にも出頭しておらず、そのような主張をしていない。
3 証拠共通の原則
他方、証拠調べの結果は、提出者の意思にかかわらず裁判所の心証形成の資料となる。同一手続で取り調べられた証拠について共同訴訟人ごとに評価を分断する必要はないため、通常共同訴訟でも証拠共通は認められる。したがって、Y1が提出した証拠書類は、Y2とXとの関係でも認定資料として利用できる。
もっとも、証拠共通原則は、主張されていない主要事実まで判決の基礎にできることを意味しない。弁論主義により、裁判所は当該訴訟関係で主張されていない主要事実を判決の基礎にすることができないという制限がある。
本件では、契約更新の事実は、Y2の占有権原を基礎付けるという法的効果を発生させるものであり、抗弁にあたる。したがって、これを証拠上認定できるという心証を裁判所が抱いたとしても、これを判決の基礎とするためには当事者であるY2からの主張が必要である。しかし、Y2はこれを主張していない。
したがって、裁判所がY1の提出した証拠から契約更新の存在を認識していても、証拠共通の原則を理由として、Y2との関係で更新の抗弁を認めることはできない。
4 当事者が口頭弁論に出頭せず、相手方の主張した事実を争わない場合には、公示送達による呼出し等の例外がない限り、その事実を自白したものとみなされる(擬制自白。159条3項・1項)。
本件では例外を認める事情はなく、Xが主張する所有権取得原因事実及びY2の占有など、請求原因を構成する事実について擬制自白が成立する。Y1が争っていることも、共同訴訟人独立の原則により、Y2による争いとして扱うことはできない。
よって、本件では請求原因事実が認められ、Y2の占有権原を基礎付ける更新の抗弁は提出されていないため、請求(c)は認められる。
5 結論
よって、裁判所は、XのY1に対する請求(a)(b)を棄却する一方、Y2に対する請求(c)については、乙建物からの退去及び甲土地の明渡しを命ずる請求認容判決を出すことになる。
このように共同被告間で判断が異なることは、通常共同訴訟における共同訴訟人独立の原則の結果として許容される。
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