憲法答案の書き方〜令和3年予備試験憲法を題材として〜

こんにちは、たまっち先生です。

今回は、令和3年予備試験を題材に憲法答案の書き方をご説明したいと思います。

本問では予備試験では珍しく2つの自由が問われており、論じるべきことが多いです。2つの自由が問われた際には、その2つの自由の差を意識しながら論じることが重要です。

また、広告物掲示の自由、印刷物配布の自由に関連する判例に言及しつつ答案を構成しなければなりません。

本講座では、憲法答案の「型」について簡単に解説した上で、令和3年予備試験憲法をどのように解いていけば良いのか、について解説レジュメ、参考答案で解説をしていきます。

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第1 はじめに

本問は予備試験の中では珍しく2つの自由について問われています。

まず、一つ目は「広告物掲示の自由」です。
広告物の掲示に関しては、大阪市屋外広告物条例事件(最大判昭和43年12月18日)などの関連判例を想起することができるため、同判例等を踏まえながら論じることが期待されます(出題趣旨参照)。

次に、二つ目は「印刷物(ビラ)配布の自由」である。印刷物配布の自由に関しては、吉祥寺駅ビラ配布事件(最判昭和59年12月18日)が関連判例として挙げられるでしょう。同判決では、伊藤正巳裁判官の補足意見が付されており、答案を作成する上でこの補足意見が非常に参考となります。

なお、予備試験・司法試験において2つの自由が問われた際には、その差を意識しながら論じることが非常に重要となります。

出題者の気持ちになれば分かるが、わざわざ2つの自由を問うということは、その2つの自由に何からの差があるからであると考えられます。全く同じなのであればいずれか一方を問えば十分ですからね。

以上を踏まえた上で、以下の解説を読んでいただきたく思います。

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第2 憲法答案の「型」とは

憲法答案の型は簡潔にいうと以下のような構造になります。

★★★憲法答案の型★★★

① 権利保障(=当該権利がそもそも憲法上保障されるものであるか否か)

② 権利制約(=権利制約があるか否か)

③ 権利の重要性・制約の強度性(➡︎ここが憲法答案の中で最重要。ここで評価が決まると言っても過言ではない。)

(ⅰ)具体的事実を踏まえて論じる

→例えば、「表現の自由は、自己統治・自己実現に資するから重要である」と書くだけはNG。

採点官になぜ当該事案との関係で当該権利が重要なのかを説得的に説明することを意識!)

(ⅱ)被告の反論を踏まえて論じる

→自分のとりたい結論に有利な事実だけ書くのは説得力を失ってしまう。被告の反論を踏まえつつ、それを打開するような私見を展開します。

(ⅲ)関連判例を意識する

→実務家登用試験である以上、重要判決に関する言及は必須である。本問でいえば、徳島市公安条例事件、大阪市屋外広告物条例事件、吉祥寺ビラ配布事件には言及しておきたいです。

④ 違憲審査基準の設定(基本的に目的手段審査のみ。裁量論などは書かないよう注意)

⑤ あてはめ

(目的のあてはめ)

→立法事実(=条例・法律を制定するに至った事実。)を拾った上で当該自由を制約してでも達成すべき必要性が認められることを説得的に論証する必要があります。

(手段の当てはめ)

→予備試験は特に時間制約が厳しいため、適合性、必要性、相当性の3点から一言ずつ指摘すれば十分でしょう。

第3 広告物掲示の自由

1 権利保障

憲法の条文のどこを見ても、「広告物掲示の自由」というワードは見当たらない。このような場合には、憲法上保障されているどの自由の内容として「広告物掲示の自由」が保障されているかを解釈する必要があります。

本問で考えられるのは、「表現の自由」として読み込むことでしょう。

したがって、答案では、「表現」の意義を解釈し、広告物がこれに該当することを簡潔に指摘する必要があります。

「表現」とは、思想・意見を外部に表明する行為をいうと解されており、広告物は自己の思想や情報を掲示することで外部に伝達するというものであるから、「表現」に当たるということができるでしょう。

したがって、広告物を掲示する自由は「表現」の自由として保障されているといえます。

2 制約

ここでの制約は有無を認定すれば足りる。本件では、特別規制区域における広告物の掲示が原則として禁止されているわけなので、制約があることは明らかです。

3 権利の重要性・制約の強度性
(ここが重要!)

⑴ 権利の重要性

ア 具体論

権利の重要性を論じる際におすすめなのが、一般論と具体論を指摘することです。

一般論とは、「広告物の掲示の自由」一般にいう権利の重要性です。例えば、「広告物は人目の触れやすい場所、物件等に掲示することで半永続的に自己の思想・意見を外部に伝達できるという点で重要な表現手段である。」等の指摘が考えられます。

次に具体論です。なぜ特別規制区域における広告物の掲示が問われているのかを意識することがポイントです。広告というのは、不特定多数人に認識されることによって初めて自己の思想・意見をそれらの者に認識してもらうことのできる表現行為である。そうだとすれば、特別規制区域のような観光地であり、多くの観光客がいる場所で広告物を掲示することにこそ重大な意義が認められるでしょう。

イ 被告の反論

なお、被告の反論も意識しておかなければなりません。被告の反論として、広告物の掲示は営利的表現に過ぎないとして権利の重要性が低いとの反論が考えられます。
もっとも、この反論は強いものではありません。なぜなら、政治的な目的など非営利性の広告物も考えうるからです。したがって、被告の反論は容易に排斥できると考えられます。

ウ 関連判例

冒頭でも挙げたように、本件では大阪屋外広告物条例事件が参考となります(出題趣旨も同旨)。

しかし、同判決は広告物という表現が全面的に規制された事案であるにもかかわらず、「この程度の規制は、公共の福祉のため、表現の自由に対し許された必要且つ合理的な制限と解することができる。」と判断し、「公共の福祉」論を用いて安易に合憲判決を下しています。したがって、現在の最高裁では考えられないような緩やかな審査によって合憲判断を導いているため、先例としての価値は慎重に判断する必要があります。

⑵ 制約の強度性

本件の制約は、①特別規制区域において(場所)、②「歴史的な環境を向上させるものと認められる」もの以外の広告物の掲示を(対象)、③許可制という手段を用いて禁止する(態様)というものである。これら①〜③の規制の態様がどれほど強度なものであるかを指摘すれば足ります。

この点、①については、被告側からは表現行為の時、場所を制限するものに過ぎないとして内容中立規制に過ぎないとの反論が考えられます。
もっとも、3⑴で述べたように広告物の掲示はどこで行っても良いというわけではなく、特別規制区域のような観光客の多い場所で行わないと表現行為の目的は達成できません。
このように考えれば、内容中立規制として制約が軽微であるという反論が直ちに認められるわけではないといえるでしょう。

加えて、②の点を見ると、広告物の内容が「歴史的な環境を向上させるものと認められる」か否かによって規制の有無を分けているのだから、表現行為の内容に着目した規制であるといえ、表現内容規制ということができます。

最後に③の点については、許可制という手段を用いて規制を課しており、行政庁が事前に広告物の内容をチェックして許可するか否かを決しているという点で、事前規制に匹敵するような[1]規制ということができます。この点でも制約は強度と言えるでしょう。

以上からすれば、本件の制約は強度なものといえます。

4 あてはめ

⑴ 目的の重要性

目的の重要性は「立法事実」との関係から判断します。

法律・条例などが制定されるときは、それを制定するに至った事実(立法事実)が存在するのが通常です。
かかる立法事実が国民の権利を制限するほど合理的なものである場合には、目的の重要性を肯定しやすく、そうとは言えない場合には目的の重要性は否定されやすくなります。

本件の立法事実は問題文の1段落目の事実ほぼ全てである。当該事実を踏まえ、広告物掲示を禁止してでも特別規制区域の歴史的環境を維持し、向上させるべきと言えるか否かを論じることが期待されます。

⑵ 手段の適合性

厳格審査、中間審査のいずれで審査してもらっても構いませんが基本的には手段適合性は、

(ⅰ)適合性

(ⅱ)必要性

(ⅲ)相当性

の3点から審理するのが一般的かと思います。
(ⅰ)は基本的に満たすことが多いので、勝負が決まるのは(ⅱ)と(ⅲ)の点です。

第4 印刷物配布の自由

1 権利保障

広告物と同様、憲法の条文のどこを見ても、「印刷物配布の自由」というワードは見当たりません。
このような場合には、憲法上保障されているどの自由の内容として「印刷物配布の自由」が保障されているかを解釈する必要があります。

詳細は、広告物掲示の自由と重複するので割愛するが、ぜひ考えてみてください。

2 制約

特別規制区域内の路上において印刷物を配布することが禁止されているから、制約があることは明らかです。

3 権利の重要性・制約の強度性

⑴ 権利の重要性

広告物掲示の自由と同様に、具体論を論じること、関連判例に言及すること、の2点を意識して権利の重要性を考えてみましょう。

一般論では、吉祥寺駅ビラ配布事件の伊藤正巳裁判官の補足意見が参考になります。

「一般公衆が自由に出入りすることのできる場所においてビラを配布することによって自己の主張や意見を他人に伝達することは、表現の自由の行使のための手段の一つとして決して軽視することのできない意味をもっています。
特に、社会における少数者のもつ意見は、マス・メディアなどを通じてそれが受け手に広く知られるのを期待することは必ずしも容易ではなく、それを他人に伝える最も簡便で有効な手段の一つが、ビラ配布であるといってよい。」と述べています。このことから、ビラ配布は少数者にとって簡便かつ有効に表現な行為として特に重要なものであるということができるでしょう。このように、広告物の掲示との差を意識して論じることが重要です。広告物は事業者等の一定の資金力を有している者が行うことが多いのに対して、ビラ配布は誰でも簡単に行うことができるという、それぞれの表現行為の「差」を意識することがポイントです。

また、同判決の伊藤正巳裁判官の補足意見では続けて、

「道路、公園、広場などの一般公衆が自由に出入りできる場所は、それぞれの本来の利用目的を備えているが、それは同時に、表現のための場として役立つことが少なくなく、これをパブリックフォーラムと呼ぶことができよう。このパブリックフォーラムが表現の場所として用いられるときには、所有権や本来の利用目的のための管理権に基づく制約を受けざるをえないとしても、その機能にかんがみ、表現の自由の保障を可能な限り配慮する必要がある。」と述べています。

このことから、本件のように「路上における」印刷物配布は特に厚く保護される必要があるということがわかります。

管理権が及ぶような場所における表現行為であっても、表現の自由の保障を可能な限り配慮する必要があるのであれば、本件のような管理権の問題とならない、かつ路上というパブリックフォーラムにおける表現行為はより厚く保障されなければならないということができるでしょう。

以上の点を踏まえて、権利の重要性を説得的に論じてほしいと思います。

(※なお、被告の反論についても検討することが望ましいが、印刷物配布は営利的表現と決めつけることができないことから、被告の説得的な反論は考えづらく、言及するとしても簡潔なもので足りると思われる。)

⑵ 制約の強度性

制約については、被告側の反論として、本件における制約は、表現の時、場所を規制した内容中立規制に過ぎないという反論が考えられます。

被告が主張する通り、広告物の掲示に対する制約とは異なり、表現内容に着目したものではありません。また、許可制という規制を課しているわけでもありません。

したがって、印刷物配布に対する制約は一定程度のものに過ぎないと評価することになるでしょう。

4 あてはめ

⑴ 目的の重要性

目的の重要性については、広告物掲示の点検討したように、本件では現実にビラ配布により特別規制区域の歴史的環境が損なわれるという危険が生じていました。したがって、目的の重要性は肯定することになるでしょう。

⑵ 手段適合性

広告物の点でも検討したように(ⅰ)適合性(関連性)、(ⅱ)必要性、(ⅲ)相当性、の3点から検討すれば十分です。