令和4年予備試験 民法 参考答案例と若干の解説

be a lawyerでは、令和4年予備試験の参考答案を公開しております!

これは、あくまで参考答案ですので、試験現場でこのレベルの答案を書くことは求められておりません。

予備試験論文式試験で大切なのは、いかに論点を落とさないか、という点です。

本年度の予備試験論文式試験を受験された方もそうでない方もぜひbe a lawyer作成の参考答案を学習の参考にしていただければと思います。

今回は令和4年予備試験民法の参考答案例を掲載させていただきます。

設問1では請負契約における契約不適合責任について、①「品質」に関する「契約に適合しない」といえるか、②追完請求権と追完に代わる損害賠償請求権の優劣、③「所有の意思」と「新たな権原」の解釈、について問われています。

以下に令和4年(2022年)予備試験民法の参考答案例を掲載しております。皆様の学習を支援する趣旨で掲載させていだたいておりますので、無断転載はご遠慮ください。

令和4年予備試験論文式試験 民法 参考答案例

第1 設問1

1 小問(1)

⑴ 本件請負契約(民法(以下略)632条)は「売買以外の有償契約」であるから、売買に関する契約不適合責任の規定が準用される。そこで、Bは、536条2項2号に基づいて本件請負契約に基づく報酬の減額請求をすると考えられる。かかる請求は認められるか。

⑵ 塗料αを使用することが本件請負「契約の内容」(562条1項本文)となっていたか。

ア この点について、契約の内容は当事者の意思の合致により決されるから(522条1項参照)、契約内容は当事者の合理的意思を解釈して実質的に判断すべきである。

イ 本件請負契約の締結にあたり、Bは、Aに対して、外壁の塗装にαを使用することを明示的に申し入れ、Aはこれを了承している。塗料αの使用は、同契約の内容となっていたといえる(522条1項)。

ウ したがって、AがBに無断で塗料αでなく塗料βを使用して甲建物を建築したことは、本件請負の「品質」に関して「契約の内容」に適合しないといえそうである。

⑶ もっとも、塗料βの方が塗料αよりも防汚防水性能に優れており高価であり、塗料βを用いた方が甲建物の客観的価値は高いことから、例外的に「契約の内容」に「適合しない」とはいえないのではないか。

ア この点、旧法下における瑕疵担保責任では、瑕疵は客観的事情から通常有すべき品質を欠いていることをいうとされていた。もっとも、債権法改正により旧法下とは異なり、契約の内容は当事者の意思を解釈して判断すべきこととされている。したがって、客観的な価値よりも当事者の意思の合致から契約内容を判断すべきである。

イ 前記の通り、Bが甲建物の外装塗装には塗料αを使用して欲しいとの申し入れに対して、Aはこれを了承しているから、本件請負契約における甲建物の外装塗装には、塗料αを使用することが「契約の内容」になっていた。そして、Aは周囲からの反発を受けたため、塗料αではなく、塗料βを使用して外装塗装を行っているところ、このことについてAになんら伝えていない。また、Bは塗料αが極めて鮮やかなピンクである点に着目してAに対して同塗料を使用することを求めていると考えられ、Bにとって耐久性の高さや防汚防水機能に優れているという点は重要ではない。これらの事情からすれば、Aは甲建物の外装塗装に塗料βを使用することについて知らず、黙示的な承諾もあったとは言い難いから、塗料βを用いたことによって甲建物の客観的価値が塗料αを用いた場合のそれより高いとしても、「契約の内容」に「適合しない」といえる。

⑷ 請負人Aは、Bのαによる再塗装の求めに対し、これを拒絶しているから、「履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき」に当たる。

⑸ よって、Bの上記請求は認められる。

2 小問⑵

⑴ Bの請求は追完に変わる損害賠償請求と考えられるところ、追完に変わる損害賠償請求権の根拠条文を415条2項3号を根拠条文とする見解がある。しかし、同号を根拠としてしまうと、解除権が発生しないような契約不適合の場合に追完に変わる損害賠償請求をすることができなくなり、注文者にとって酷であるため、415条1項を根拠とすべきと解する。では、Bの請求について、415条1項の要件を充足するか。

⑵ア 上記したとおり、本件請負契約においては塗料αを使用することが「契約の内容」になっていた。にもかかわらず、Aは塗料βを使用して塗装を行っているから、「債務の本旨に従った履行をしないとき」にあたる。

イ 塗料αよりも塗料βの方が高額であるため、「損害」は発生していないようにも思える。しかし、塗料αで塗装し直すために要する費用自体が「損害」と評価できる。また、上記債務不履行によって再塗装が必要となっているから、債務不履行と損害の間の相当因果関係は疑いなく認められる。

ウ Aは建築の専門家であるから、塗料βに変更して塗装を行うかを検討するに際して注文者たるBに事前に確認すべきだったといえる。にもかかわらず、Bに無断で塗料βを使用して塗装を行っているから、Aに帰責性が認められることは明らかである。

エ 以上より、債務不履行に基づく損害賠償請求権の要件を充足するから、Bの請求は認められるようにも思える。

⑶ しかし、請負人が任意に追完の申し入れをしているにもかかわらず、注文者がこれを拒絶し、追完に代わる損害賠償請求をすることは可能か。

ア この点について、代金減額請求権は原則として追完の催告を要求していることから、追完請求権と代金減額請求権では追完請求権が優先する(563条1項、542条1項参照)。また、追完に代わる損害賠償請求権は実質的には代金一部減額請求権の性質を有している。これらのことからすれば、追完請求権と追完に変わる損害賠償請求権との関係では、追完請求権が優先すると考えるのが合理的であって、注文者は請負人に対してまずは追完の請求をし、請負人に対して追完の機会を与えた後請負人が追完しなかった場合にはじめて、追完に代わる損害賠償をすることができると解する(追完請求権の優位性)。

イ 本件では、請負人Aが追完の申し入れを行なっており、請負人Aに追完の機会を保証すべきであるから、注文者Bはこれを拒絶できないというべきである。したがって、BはAに追完の機会を与えていないから追完に代わる損害賠償権を行使することができない。

⑷ よって、Bの上記請求は認められない。

第2 設問2

1 Fは令和2年1月10日を起算点として乙不動産の取得時効を主張することができるか。

⑴ 所有の意思は186条1項の暫定真実によりその存在が推定されることになるが、Eは令和2年1月20日では亡Dに「所有の意思」がない旨の主張をすると考えられる。

ア「所有の意思」は、占有権原の性質を踏まえ、外形的・客観的に判断されるべきである。

イ 乙の取得時効(162条1項項)の起算点として、Dが乙の占有を開始した令和2年1月10日を選択すると考えられるが、Dの乙に対する占有は、CD間の使用貸借契約に基づくものであって、外形的にみて他主占有である。また、固定資産税をDが負担していたという事情があるが、そのような特約が結ばれることは通常想定されているから、そのことのみで使用貸借契約としての性質が失われるわけではない。

ウ よって、令和2年1月10日時点では、Dに「所有の意思」がないので、Eは同日を起算点として取得時効を援用することはできない。

2 次に、Fは、自身が、親Dの乙に対する占有を相続により承継取得(896条)した令和9年3月1日(882条)を起算点として取得時効の主張をすることができるか。

⑴ まず、占有が承継されるか問題となるところ、無占有状態が生じることによる不都合をさけるべく、相続によって当然に占有は相続人に移転するので、FはDの占有を相続により取得する。

ここで、所有の意思は、占有取得原因の客観的性質に基づいて決定されるところ、FはDから使用貸借契約に基づく乙不動産の占有を取得しているから、他主占有であることは明らかであり所有の意思は認められない。そのため、Fは自己の占有のみを主張する必要がある(187条1項項)。しかし、Fは相続によって占有を取得しているところ、F固有の占有も原則としては他主占有に他ならない。そこで、Eとしては、相続が185条の「新たな権原」にあたり、他主占有が自主占有に転換されたと主張することになるが、かかる主張が認められるか。

⑵ この点につき、相続が新権原にあたらないと解すると、相続人が自己所有と信じて長年占有を継続しても時効取得をなしえないとすることは永続した事実状態を尊重するという時効制度の趣旨からして妥当ではない。他方で、貸主たる所有者としては相続があっただけで自主占有への転換があるとすると酷であり、時効中断の機会を保障する必要がある。

したがって、相続人による事実的支配が外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づくものである場合には、相続は「新たな権原」にあたると解すべきである。そして、この場合186条は適用されず、この主張立証責任は取得時効を主張する相続人が負うと考える。

⑶ Dを単独相続したFは、乙不動産について、DがCから贈与を受けたと理解していた。そして、Fが、Cを単独相続したEに対し、乙の登記名義を自己に移すよう依頼し、真相を知らないEもこれを了承し、登記を移転した。その後、Fは、Dが乙で営んでいた本件ラーメン店の営業を引き継ぎ、同年5月1日、従業員から乙の管理を引継ぎ、まもなく営業を開始し、令和29年に至るまで、乙で同店の営業を続けている。さらに、FはDが負担していたのと同様に、乙不動産について固定資産税を負担しているのであって、固定資産税を負担するのは通常当該不動産の所有者であることからすれば、当該事情も所有の意思を基礎付ける客観的事情となると考える。

以上より、Fの乙不動産に対する事実的支配が外形的・客観的にみて独自の所有の意思に基づくものに至っているといえるから、Fに「所有の意思」が認められる。

3 もっとも、Fが新たな権限による自主占有を開始したのは、令和9年5月1日からであるため、令和29年4月15日時点では「二十年間」を経過していない。

4 よって、Fの援用する乙の20年の取得時効は要件を充足していない。以上

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以上が参考答案となりますが、以下では本問の若干解説を行なっていきます。

【総論】

設問1⑴では、債権法改正のメインである契約不適合責任が問われています。契約不適合責任では、契約解釈が重要視されます(これは実務でも非常に重要)。予備試験は司法試験ほど事実は多くはないものの、問題文の事実を丁寧に拾った上でAとBがどのような内容の合意をしているかを確定することがポイントになります。
また、本問では代金減額請求権が問われていますが、代金減額請求権が認められるための要件を漏れなく検討することも重要です。令和2年司法試験民法の採点実感では「代金減額請求を基礎付ける要件や効果について,論述が不足しているものや,知識が不十分であるものが散見された。例えば,買主に帰責事由がないという要件を充足していることについて触れていないものが比較的多く見られたが,このような基本的な要件の充足・不充足については簡潔でもよいから検討する必要がある」と指摘されており、要件を漏れなく検討できているかという点も評価要素になっていることが分かります。
要件が満たされて初めて効果(=代金減額請求権)が発生するという法律の基本中の基本を答案に表現することが重要といえます。

設問1⑵は、やや現場思考的な問題ですが、追完請求と追完に代わる損害賠償請求の優劣が問われています。追完に代わる損害賠償請求権の性質を踏まえて、自分なりの見解を示すことができたかがポイントになったと思われます。設問2は他主占有から自主占有への転換が問われています。前者については、最判平成8年11月12日があるため、同判決に従って論証を展開できれば十分です。また、取得時効の成否については、時効の起算点がポイントになるため、どの時点でFによる占有が開始されたと評価できるかに注意しつつ論じることが要求されています。

設問1⑴について

本件では、請負契約の契約不適合責任が問われているため、まずは、売買契約の不適合責任に関する規定が請負契約について準用されることを指摘する必要があります。
この点については、民法559条が参考になります。

(有償契約への準用)
第五百五十九条 この節の規定は、売買以外の有償契約について準用する。ただし、その有償契約の性質がこれを許さないときは、この限りでない。

ただし書に該当すると想定されているのは、雇用契約のような純粋な役務提供契約であるため、一般に目的物を引き渡すことが予定されている請負契約については、559条本文により売買契約に関する契約不適合責任が準用されると解されています。

請負契約に売買に関する契約不適合責任が準用されるとして、本件で代金減額請求は認められるのでしょうか。

本件では、BはAに対して、催告をすることなく代金減額を請求していると思われるため、催告を要しない代金減額請求の要件を検討する必要があると考えられます。

請負契約における代金減額請求権の要件は下記の通りです。

① 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであること
② 563条2項各号のいずれかに該当すること
③ ①の不適合が注文者の責めに帰すべき事由によらないこと

したがって、本件では上記の要件該当性を検討すれば足りることになります。
いうまでもなく、検討の中心となるのは、①となります。

【要件①について】
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契約の内容に適合しないというからには、まずは契約の内容ってどのように決まるのかを理解する必要があります。
この点については、民法522条1項が参考になります。

(契約の成立と方式)
第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。

つまり、契約の内容は、申し込みと承諾という2つの意思表示によって決定されるため、本問の事実を踏まえ、 Bがどのような申し込みを行い、それに対してAがどのような承諾を行ったいかを分析すれば、「契約の内容」を確定することができるということになります。

本問の問題文の事実のうち、契約内容に関する事実は、事実1、事実2、及び事実5の一部だと思われます。

1.Aは、建築設計工事等を業とする株式会社である。Bは、複合商業施設の経営等を業とする株式会社である。Bは、Aとの間で、令和4年4月1日、Bの所有する土地上にAが鉄筋コンクリ ート造の5階建て店舗用建物(以下「甲建物」という。)を報酬2億円で新築することを内容とする建築請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結した。
2.本件請負契約の締結に当たって、Bは、Aに対して、「外壁の塗装には塗料αを使用してほし い。」と申し入れ、Aはこれを了承した。塗料αは、極めて鮮やかなピンク色の外壁用塗料である。
・・・
5.令和7年10月31日、Bは、Aに対して、「塗料αは、Bの運営する他の店舗でも共通して 用いられており、Bのコーポレートカラーとして特に採用したものである。外壁塗装に塗料βを 使用したことは重大な契約違反である。この件の対処については、社内で検討の上、改めて協議 させてもらう。」と申し入れた。

上記事実を読めばわかる通り、Bは塗料αの品質や防汚性ではなく、色を重視していることが分かります。つまり、Bは塗料αが極めて鮮やかなビンク色だったからこそ塗料αを使うことについて「申し込み」をしたのであり、これに対して、Aは了承しているわけですから、塗料αを使うことについてAは「承諾」をしたといえます。ここで重要なのは、Bが外壁塗料の価値や防汚性等の品質、ランクに拘っているわけではなく、あくまで色にフォーカスして外壁塗料を選んでいるという点です。
ここで、塗料αの方が品質、防汚性に優れているのだから、契約不適合はないし、仮にあるとしても客観的な価値は上がっているから代金減額は認められないのではないか、と感じる受験生もいるかもしれませんが、そもそも契約の内容は塗料βで甲建物の塗装をすることにあったため、客観的価値云々は関係なく塗料αで塗装を行ったこと自体が契約不適合であり、塗料βで塗装をしていない以上は、いくら客観的価値は増加しているとしても、塗料βによる再塗装に要する費用分の損害は生じているわけなので、同損害分の代金減額は少なくとも認められることになると思われます。
したがって、本件請負契約の内容は「塗料αのような極めて鮮やかなピンク色の外壁塗料を使って甲建物を建設すること」であると評価できるでしょう(本件請負契約の内容)。

ところが、

3.Aの担当者が近隣住民に建築計画の概要を説明した際に、地域の美観を損ねるとして多数の住民から反発を受けたため、Aは、周辺の景観に合致する、より明度の低い同系色の外壁用塗料で ある塗料βで甲建物の外壁を塗装することとした。
4.令和7年10月25日、塗料βによる外壁塗装を含む甲建物の工事が完了した。同月30日、 Aは、Bに対して、甲建物を引き渡した。

上記事実にある通り、Aは塗料αではなく、塗料βで甲建物の塗装を行なっており、当該甲建物をBに対して引き渡していることから、甲建物の「品質」が「契約の内容に適合しない」ことは明らかです(契約不適合の認定、要件①充足)。

【要件②について】
また、無催告で代金減額請求請求を行うためには、563条2項各号該当性を満たす必要があります。

この点、設問1⑴を見ると、「Bが塗料αによる再塗装を求めたが、Aがこれを拒絶した場合において」とあるため、Bは履行の追完を拒絶する意思を明確に表示した(民法563条2項2号)と評価できると考えられます(要件②充足)。

【要件③について】
最後に、契約不適合が注文者の帰責事由によって生じたものではないことを検討する必要があります。要件事実的に考えれば、注文者に帰責事由があること、を請負人側が抗弁として主張すると考えられますが、民法の問題では、実体法上の要件を漏れなく検討する必要がある点に注意が必要です。
現に、冒頭でも引用した令和2年司法試験民法の採点実感では、同要件についても検討する必要があることが示唆されています。

本件について考えると、塗料βで外壁を塗装したことに関してBが関与したわけではなく、その他の事情を見てもBに落ち度があったとは言い難いため、Bの「責めに帰すべき事由によるもの」とは認められないでしょう(要件③充足)。

以上からすれば、BのAに対する本件請負代金の減額請求は認められることになると考えられます。

設問1⑵について

Bは再塗装に要する費用を請求しているところ、再塗装は、追完の内容であると考えられるため、かかるBの請求は追完に代わる損害賠償請求を主張するものと考えられます。

もっとも、Aは塗料αによる再塗装(=追完)を申し出ており、ここでの問題は、Aが追完をすると言っているにもかかわらず、BがAに対して追完に代わる損害賠償請求をすることができるかという点にあると考えられます。

そのため、本問では、①追完に代わる損害賠償請求権、の要件充足性を検討した上で、②追完と追完に代わる損害賠償請求権の優劣、について論じていくことになると考えられます。

① 追完に代わる損害賠償請求権の要件充足性

請負目的物が引き渡されたが、本件のように契約の内容に適合していない場合、注文者は追完請求をすることができますが(562条)、415条による損害賠償請求をすることも可能です(564条)。
この点、追完に代わる損害賠償請求権の根拠条文は、564条により一般の債務不履行に基づく損害賠償請求権を規定した415条となりますが、
(ⅰ)415条2項を根拠とする見解(潮見先生他)
(ⅱ)415条1項を根拠規定とする見解(中田先生他)
の2つの見解が対立しています。

(ⅰ)説の根拠は、請負契約において修補に代わる損害賠償請求権を規定していた改正前民法の規定(旧民法634条2項)が削除される際、一般規定である415条2項の適用があることが想定されていることにあります。

他方、(ⅱ)説は、(ⅰ)説の主張に対して、415条2項の文言上、追完に代わる損害賠償請求権を想定していないと批判した上で、追完に代わる損害賠償請求については無理に415条2項の適用または類推適用を認める必要はなく、415条1項を根拠条文とすれば足りる、また、415条2項を根拠条文とした場合、軽微な契約不適合の場合には、解除権が発生しない関係で、追完に代わる損害賠償請求権の要件を充足しないことになり、軽微な契約不適合にはおよそ追完に代わる損害賠償請求が認められないことになってしまい不当である、と主張します。

いずれの見解に立っても構いませんが、追完に代わる損害賠償請求権の根拠条文が415条1項と415条2項のいずれと考えるかについては、答案の中で説明しておくことが望ましいと考えられます。

(ⅰ)説と(ⅱ)説は、いずれも415条1項の債務不履行に基づく損害賠償請求の要件を満たす必要がある点では共通しますから、415条1項該当性を検討していきましょう。

本件では、B は、本件請負契約に基づく仕事完成の「債務」として甲建物の外壁 塗装で塗料αのような極めて鮮やかなピンク色の塗料を使用する義務を負っていたのだから、外壁の塗装に塗料βを使用した塗装を行ったことは、仕事完成債務の不完全履行という点で B が「債務の本旨に従った履行をしないとき」に当たると評価できると考えられます。

また、塗料αで再塗装するために要する費用が「損害」に当たることは明らかでしょう。

Bが塗料βで塗装をした(債務不履行)からこそ、上記損害は生じているため、債務不履行と損害との間の相当因果関係も当然に認められます。

A は、近隣住民に建築計画の概要を説明した際に、地域の美観を損ねるなどとして多数の住民から反発を受けたため、周辺の景観に合致する明度の低い同系色の外壁用塗料である塗料βで甲建物の外壁を塗装しています。しかし、Aはこのことについて一切Bに相談することもなく、無断で塗料βを使って塗装を行っていますから、上記債務不履行について、「債務者の責めに帰することができない事由による」(415 条 1 項但書)とはいえないと思われます。

以上からすれば、415条1項の要件は充足すると考えられます。

したがって、(ⅰ)説に立った場合には、追完に代わる損害賠償請求権が発生していると考えることができます。

他方で、(ⅱ)説に立ったとして、415条2項各号該当性を満たすか検討してみると、同項は、

2 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
一 債務の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。

と規定しており、415条1項の債務不履行に基づく損害賠償請求の要件を充足する場合で、かつ、415条2項各号該当性が満たされる場合には、追完に代わる損害賠償請求権が発生することになります。

もっとも、本件では、追完が可能であるため1号該当性が認められず、かつ、Aは自ら追完を申し出ているため、2号該当性も認められず、かつ、解除権が発生しているとも考えづらいため3号該当性も認められないことになりそうです。
したがって、415条2項各号該当性がいずれも認められないと考えられます。

よって、(ⅱ)説に立った場合には、追完に代わる損害賠償請求権の要件を充足しないと思われます。

② 追完と追完に代わる損害賠償請求権の優劣
この点、仮に、(ⅰ)説に立って追完に代わる損害賠償請求権が発生している場合であっても、直ちに追完に代わる損害賠償請求が認められるわけではない点に注意が必要です。

学説では、追完に代わる損害賠償請求は、追完ができない場合に行うものであるとして、追完が可能な場合は、追完に代わる損害賠償請求は認められないとする見解があります(追完の優位性)。

債権法が改正されてまだ3年程度しか期間が経過しておらず、学者の中でも議論が煮詰まっていない部分であるため、受験生としては、「へぇー、このような論点が存在するんだ」、程度の認識で構わないとは思います。

追完と追完に代わる損害賠償請求権の優劣は、民法の条文をよく読めば導き出すことができます。

すなわち、追完と代金減額請求を比較すると、追完の要件を満たす場合に、催告等の要件が加わることによって、代金減額請求権が発生することに鑑みれば、追完と代金減額請求とでは、追完が優位していることが読み取れます。

そして、追完に代わる損害賠償請求の性質は、代金の一部減額に等しいため、追完に代わる損害賠償請求権は、代金減額請求権と同質であると考えることができます。

以上を踏まえれば、追完と追完に代わる損害賠償請求権とでは、追完が優位すると考えることができます(追完の優位性)。

この立場に立てば、本件のように追完に代わる損害賠償請求の要件を充足する場合であっても、Aが追完を申し出ており追完が可能な場合には、追完を優先すべきであるから、Bの追完に代わる損害賠償請求は認められない、と考えることができます。

他方で、いずれの債権を行使するかは債権者の自由である、という民法の大原則に立てば、追完請求権と追完に代わる損害賠償請求権をいずれも有するBがいずれの債権を行使するかはBの自由であって、Aが追完を申し出ているという事情はBの追完に代わる損害賠償請求権の認否に影響を与えないと考える立場もあり得ると考えられます。

いずれの立場でも構いませんが、自分の立場を明確に説明できるよう答案作成を行うことがポイントになります。

設問2について

設問2は典型論点からの出題になります。

主にポイントになるのは、相続と新たな権原と呼ばれる論点です。

元々のDの占有は、使用貸借契約に基づくものであるため、他主占有であることは明らかです。Dや、Dの占有を相続により承継したFが固定資産税を負担していたという事情はありますが、かかる事情が占有の性質を変更するものとまでは言い難く、他主占有であることは否定できないでしょう。

もっとも、最判平成8年11月12日は、事実的支配が外形的・客観的に見て相続人独自の所有の意思に基づくものと解される場合には、相続は新たな権原にあたり、自主占有への転換が認められると解しています。

本件では、平成は8年判決に従って、当てはめを行っていくことになりますが、唯一問題となる点とすれば、どの時点で事実的支配が外形的・客観的に見てFの独自の意思に基づくものになったと解することができるかでしょう。

考えられるのは、令和9年4月1日か令和9年5月1日かの2つですが、令和9年4月1日の時点では、ラーメン屋が閉鎖されているため、外形的・客観的に見たときにFの独自の所有の意思があるとは評価しづらいように思われます。

従って、令和9年5月1日の時点から「所有の意思」が認められることになりますが、令和29年4月15日の時点では20年の経過が認められないため、Fの時効の主張は認められないことになると考えられます。

最後に

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